俺の心がドレスを着ろと告げている   作:三白めめ

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A:仕立屋を利用し、生地からこだわります。


Q:長く使える服を手に入れる方法

 協会の正装は、生半可な攻撃を通さない。例えばツヴァイ協会の3課のコートであれば、一般的な弾丸程度なら貫けないようになっている。

 俺の場合、寄生体が生成する鱗で防御と再生能力を得ることが可能だが。施術ですらない馬鹿な真似でキメラになって幻想体を取り込むようなことをしなくても、金や地位があれば同じようなことができるわけだ。

 それに、上等な服は頑丈さ以外にも多彩な効果を発揮する。弾力を増強させる素材のおかげで、武器や体を扱う動きがより機敏かつ強力になるだとか。他にも、生地によっては身体を軽くして速い動きができるようになったり、重い武器を軽々と持てるようになったりする。リウ協会のコートにあしらわれている月光石の刺繍もそうか。

 

 だからこそ、フィクサーにとっては協会に加入することが目指すべき道の一つとなっている。安定した給料に加えて、品質の確かな装備とそれを扱う訓練を受けることができるからだ。宣伝や口コミから自分にあった工房を探して、懐具合に合うものを見繕う。そんなことに時間を費やさずとも、同じ武器を使う先輩から効率的に教えを受けることができるのは大きな強みだ。

 ピアニスト(音楽)にトチ狂って、セブン協会3課から殺人組織(ブレーメンの音楽隊)に身を落したやつは例外とする。

 

 そんなわけで、服選びだ。L社の倒産後はE.G.Oスーツが選択肢に増えるが、あれを普段着に使うのは憚られる。粘液塗れの服とか、正気の沙汰じゃない。

 とはいえ、高い品質の生地を作る仕立屋はだいたいが組織に属している。T社の巣にある工房や仕立屋であれば、博覧会の時にいくつかコネを作っておいた。そっちを利用してもいいが、ちょっとばかし面倒だ。メンバーに加入するための諸々だとか。

 とはいえまさか、高品質な生地を織るのにフリーな仕立屋がいるわけ……

 


 

 いた。図書館で出てきた相手だったので、記憶に残っている。

 

「お客さんですか? ご機嫌いかがですか」

 

「食べてもいいです? 綺麗な糸が出ます」

 

 謝肉祭。特徴的な喋り方が印象深いが、重要なのは仕事の方だ。彼らはどの勢力にも属さずに生地を作っている。南部にいるのは分かっていたが、どの裏路地にいるかは不明だったのだけど。そこはセブン協会に依頼して場所を調べた。人を食べて糸を紡ぎ出すのもあって、陰で動いているから宣伝しているわけでもないし。

 

「そう。依頼をしたい。……いくつもの上等な味を保証する」

 

 さて、素材となる人間をどうするかだが。

 俺はフィクサーの資格を取得している。どうせだからと上級フィクサーの資格も取っておいたそれが役に立つ時が来たのだ。……なんか、最近ちょくちょく役立つ機会が来てる気がする。

 それはさておき、都市疾病や都市悪夢級の組織をいくつかピックアップする。協会から討伐依頼の公示が出ているところならなおいい。なにせ──

 

 

 

──貴方達に言った通り、命は残してあるわ。さあ、たんと召し上がれ

 

「新しい味が沢山です? 満足できます」

 

 そうした強い悪党なら、生地にしても心が痛まない。それに、強い分だけ生地の質がよくなるだろう点も好ましく思う。少なくとも、強そうに見えるだけで役に立たない布ができるなんてことはないだろうから。

 

「な、やめ……ッ!」

 

 謝肉祭の白い仮面や胴体が左右に開き、牙のように鋭く巨大な口が露出する。目や鼻もなく、ただ捕食するための捕食器官。それが肉を食み骨を砕く音と、組織が拠点としていたビルに響く悲鳴を横目に書類を書いていた。ビルの一角にちょうど座り心地のいい椅子があったので、今のうちにハナ協会への報告書を纏めておく。

 

 この二日間で、都市疾病級の組織をいくつも平らげたのに加えて都市悪夢に区分される組織も二つは壊滅させることができた。謝肉祭の三人の食事中に休憩ができるので、基本的にスペックは万全だったのもある。

 アラス工房の施術や武器を使うにあたって、速さを活かした攻勢と回避で傷を受けないようにするのが理想的な戦闘スタイルだ。そのため、位置取りや見切りといったミスをしないようにする精神力が最も重要になってくるわけだが。以前に買った現状保存包装で、美味しい料理を作り立ての状態で持ち運んでいるおかげでメンタルの回復もできていた。やっぱり次元鞄とこの包装はとても便利だ。

 最後は謝肉祭に構成員を食べさせる都合上、制圧は俺だけですることになったが。マルチェロ(第二眷属)やラ・マンチャランドといった都市でも上澄みの連中は別として、平均的な都市悪夢事件ならソロでもなんとかなるものだ。周囲の被害を考えなくていいこともあって、鯨の方で酸性霧を撒きながら戦ったら思ったより楽に終わった。

 ……都市の星を単騎で解決する一級フィクサードンファン、やっぱりとんでもない実力じゃないか? 一人で依頼を処理するってことは、事前の準備とかもしっかりしてるんだろう。パッシブになるくらいにはしたたかだし。図書館はよーいドンで戦闘開始だからそういう準備がほとんど消えるの、あまりにもたちが悪い。なんなら殴り合い最強の"赤い霧"が待ち構えてることもあるの、ズルでしょ。

 

「味わい深いです? 素敵な布が紡げます」

 

 組織である謝肉祭が絡むことによる多少の面倒はあれど、報告書のフォーマットはさして変わらない。討伐した組織の数が多くて、書くべき報告書の量が多くなっているくらいだ。休憩時間にちまちまと書いているが、謝肉祭のベータが獲物をあるだけ食べ尽くすので空き時間が少ない。

 金を積んで依頼者となって、良質な素材を提供し高品質の生地を手に入れる。即物的で、分かりやすい信頼だ。

 

「新しい味です? 幸せでした」

 

それは重畳ね。素敵な生地を期待しているわ

 

 

 こうして服のために奔走した二日間の休日が終わり、布地の完成待ちだ。今のうちに、北部で服を縫製している工房を見繕っておこう。巣の高校や大学に通っていたことで、ブランド系の店には詳しくなった。なんなら、それなりに話す知り合いの父親がそこのオーナーだとかもあったりする。

 都市悪夢級二つに、都市疾病級事件が複数件。そうした組織の討伐依頼を数多くこなしたことで、報酬金額は結構な額になった。シ協会2課の過労スケジュールほどではないが、それなりの過密スケジュールを組んだ甲斐はあったと実感できる。

 そうして布地を受け取って、工房に持ち込んだのだが……

 

「……確かに、取引先に着ていく服かつ相手は高貴な家とは言ったけど」

 

 フリルの多くあしらわれた紅色のドレスは、足元に向かって大きく広がっている。フィクサーとしての服とも言っておいたので、機動性は一切損なわれていない。流石に薬指のマエストロが着るほどじゃないが、弾性を増幅する素材を組み込んでいるのだろう。激しく動いてみても、以前と変わらないどころかより動きやすくなっていた。

 下半身とは逆に、上半身はすっきりとしたデザインで纏められている。袖はスペースに余裕を持たせていて、寄生体を扱うのに問題は無さそうだ。コルセットのリボンは服全体と別の生地になっており、複数の生地の性質を上手く調和させていた。コルセット自体には、自身の受ける温度を調節する技術が施されている。どの地方でも着られるようにという心遣いらしい。……請求額が思ったより多いの、これのためか? フィクサーとしての服という要求を満たすにあたっては必須ともいえる機能ではあるが。一人で着ることができるよう、構造の複雑さに反して脱いだり着たりするのは楽なのもメリットではある。

 都市悪夢解決報酬である多額の金銭を支払って依頼しただけあり、確かに素晴らしい。ただ、このフリルドレスを俺が着なきゃいけないって一点を除いては。セブン協会への依頼や南部への交通費、布地の代金などでけっこうな額を費やしたこと、なんか今までの中で一番の自信作ですとばかりに工房の筆頭裁縫師が見せてきたこともあって、受け取るほかなかった。

 

 謝肉祭の面々に会えたこともあり、結果としては満足している。今週も、有意義な休日を過ごせた。




ネロ
E.G.Oどころか、普段着もフリルドレスになりそう。上級フィクサー資格の取得に加え、今回解決した討伐依頼の数と質から、4級か3級あたりまでランクが昇格するのではないかと目されている。第二眷属の血鬼討伐や複数の都市疾病及び都市悪夢級組織討伐と、着実に(暴の)実績を積み重ねている。薬指の保護代への助力(アデリの件)は、巣の出身ということもあってちゃんとした教養を持ち合わせている証明になっている。
討伐対象の組織を無力化後に構成員を謝肉祭に食わせたことや、そもそも翼の5級職員がフィクサーや一級発明家をやっていることなどから、相当な変人だと思われている。

謝肉祭
沢山食べました? 鮮やかな模様を紡ぎます。

南部ツヴァイ協会3課
来月に護衛の依頼をしてきた南部出身じゃないフィクサーが、何を考えたのか単独で南部の都市悪夢及び都市疾病討伐リレーを始めてびっくりしている。
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