「師匠、なんて呼ばれることもあるからねぇ。それらしく鍛えてやろうじゃないか」
特色から薫陶を受ける機会なんて、普段の俺ならとても喜んだだろう。それが白夜二日目、E.G.Oを持ち帰っている最中でなければ。
「たとえデュエル教本を求めてセンク協会のフィクサーに決闘を挑もうが、私は構わないんだけどね。全てを識ろうとすることだけは、容認できないんだよ」
だから、
一応補足しておくと、A社にいるのが全員調律者というわけでもないし、他の二社に関しても同様だ。他の翼と同様に、一般的な就職活動の対象となっている。そのうえで、紫の涙がそう言うってことは。……心当たりがないわけではないが。
とはいえ、ここは巣の中だ。流石に戦闘はできないだろう。ほんの少し、考えを巡らせた瞬間。視界が揺らいだ。正確には、空間そのものがと表した方が適切だろうか。
緑青の空、錆銀の星。砂漠のような地面から十数メートルは離れて、巨大な植物が立ち並んでいる。足場と呼ぶには十分すぎるほどに広い花には水が張っていて、水盆のようになっている。俺たちが立っているのは、そうした花弁の上だ。俺の知る限り、都市のどこにも該当せず。しかし類似するものを知らないわけではない光景。
「ここは……」
遺跡。雷砂漠といった異境や怪鳥、遺物といった未知の溢れる地下だ。胸の高鳴りを覚えるが、今はそれより集中しなきゃいけない事がある。
足元の水面を滑るような加速で、"紫の涙"が刀を抜き放つ。斬撃体勢の居合──紫の剣。回避できる速度の一閃ではない。
「"不調和"」
次元鞄から取り出した"不調和"で防御するが、辛うじて間に合ったといったところだ。流れるように背後へ回り込んだ紫の涙は、俺の体に刃先を添えるような位置取りで刀を引き切ろうとする。飛び退くとともに、寄生体の鱗を使って防御するが、半ばまで引き裂かれている。
「それじゃ、もう一回」
一息つく程度の休息は、鍛えるという体裁もあるのだろう。紫の涙は納刀した状態に。
傍から見れば、手が一瞬ブレただけに思えるだろうけれど。正対している俺には、刀を抜き放つ様がはっきりと見えている。
今回は迎撃を選択。さきほどの攻防で、より鋭い攻撃のための動きは覚えた。足元が水場だったので動きが分かりやすいことに加え、紫の涙がそもそもそれを目的としてやっているのもあるだろう。"不調和"と紫の剣が激突し、鍔競り合いの様相を呈する。問題があるとすれば──
「まあ、全く同じってわけじゃないさ」
これが足場の花弁や、そもそもの茎ごと切り裂く斬撃だったってことくらいだ。
「……っ!」
足元が傾き、巨大な花弁が落下を始める。重力に加えて、激流となった水が宙へと俺を押し流そうとしていた。
咄嗟に跳躍し、裸の蛇を尾骶骨から放つ。他の茎へ絡みついて自由落下を防ぎ、体ごと一気に引き寄せる。こんな事態にした元凶の方を見れば、今にも落下している花弁を蹴っては宙を駆けている。瀑布の如き勢いの水を剣で分けて道を作るなど、超人染みた所業だ。
「ほら、次といこうか」
背負った大剣に手をかける姿が見える。打撃体勢。ゲーム的には混乱ダメージだが……
「重……っ!」
一撃が重い。振り下ろす動きだと、思い切り弾かれるせいで斬り合いで乱れた体幹だとかを整えるだけの時間が発生するし。一気呵成に畳みかけてこられる場合、こっちは吹き飛ばされている最中だから余計に体勢が崩される。
寄生体を使って立体機動装置みたいに動く俺と、茎を蹴ったり花弁を走ったりするだけで普通に追いついてくる紫の涙。俺が花弁の方に上がって攻撃を仕掛けたり、逆に紫の涙がそこから飛び降りて空中戦を仕掛けてくる。"ハーロット"を発現できるほどの感情が溜まったのもあって、粘液を飛ばしたり寄生体を差し向けたりといった半ば射撃戦の様相で挑んでみたが。粘液の方は躱され、寄生体の方は大剣で受け流された。位置取りが上手い。普通に参考になるの、癪だな。
そうして戦っていると、俺たちが戦っている向こうから何かが飛んできた。灰……を纏った鳥? なんか異様に大きいけど。
「おっと。もう来たんだねぇ」
なんか鳥もこっちに飛んできて……灰っぽいのが翼付近に集まって、剣になったんだけど。電気纏ってて……砂鉄みたいな感じか?
灰のブレードが振るわれ、乗っている花の茎ごと花弁が切断される。足場にしたりと利用していた俺たちも巻き込んで。
厄介なのが、帯電の副次的被害だ。ゲーム的に例えれば麻痺。花が崩れると、そこに溜まっていた水が一気に流れ落ちてくる。そこに電流が流れるので、躱すには大振りな動きにならざるを得ない。
"紫の涙"はガードした衝撃を足元に逃がして、水を吹き飛ばしていた。そのおかげで感電もせずに戦闘を続行している。……防御体勢の状態異常無効、やっぱり対応力に重点を置いているってことか。
とはいえ、脅威は把握できた。そう思っていた直後。水に混ざって落ちたはずの灰が昇ってきた。電気を纏っているわけではない。……蟲か!
灰や砂鉄だと思っていたのは、小さな虫の群れだ。甲殻が金属製であり、それによって流された電気を纏うことができていたということだろう。おそらくは、あの怪鳥との共生。
「突きは使わないだろうし、こんなところか。それじゃ、実戦だ」
何度も攻撃してきていた紫の涙は、今や傍観の構えだ。斬撃と打撃、防御体勢での戦闘は実戦で見ることができた。あらかた覚えたので、あとは実践ということだろう。
とはいえ、打撃はあまり使わない。刀身が大きいとはいえ鯨包丁なのだから、斬撃と防御くらいだ。粘液で防御し、蟲を散らさせつつ電撃を防ぐ。
……正直なところ、寄生体を侵入させられるだけの隙が作れれば勝ちだ。傷口から侵入させて、脳に到達するまでの時間を稼げればいい。さっきから空中戦をしているので、相手が飛んでいようとアドバンテージにはならないし。あとは、俺以外を攻撃するようになった鳥が周囲の蟲を食い散らして終わりだ。金属製の甲殻を易々と噛み砕くあたり、普通に脅威だったな。
「お疲れ様。まあまあじゃないかい?」
そんなわけで、最後は首を落して戦闘終了。斬撃と防御体勢っぽいのは習得できたと思う。……覚えるまでに死の危険性が襲い掛かってきていたのは必要経費なのか。遺跡に潜ることになったのは初めてなので、時間感覚がよく分かっていないが。このあと就職活動できるだけの気力はそれほど残っていない。あるいは時間もそうだろう。
「……それで、次は?」
「そうさねぇ」
そうして紫の涙はいくつも花を伝って進む。水中から現れる七尾の捕食者だとか、そもそも花弁に擬態していた巨大な虫だったり。
だいたいは俺が対処出来た。尾がいきなり水面から出てきたし、そこが怪物の狩場兼コロニーだと聞かされて連戦になったりした。七尾の方は、尾を切ったり爪を弾いたりして撃退。人間以外は人魚にできないので、眷属にして戦闘終了ってわけにはいかないが。面白い特徴を持っていれば武器やアクセサリーなどの素材になり得るだけの価値がある。場所によっては、遺跡探査の先駆者が命を落したりしていて、彼らが遺した遺物が落ちていたりすることもあったり。
花の直下が水面だったりしたことから分かる通り、遺跡でも浸水区域と呼ばれる場所に俺たちはいる。関連する幻想体といえば、"肉の偶像"だろうか。あれは浸水区域で見つかった遺物だったと記憶している。"肉の偶像"が肉と鉄の混合物の塊だったことから分かる通り、この場所のもう一つの特徴が鉄だ。錆銀の星と形容したのは、色合いの表現だけでなく。真の意味で、錆銀が降ってくるのだ。
紫の涙曰く、浸水区域深層に起きる事象。これのせいで、落ち着いて留まるという選択肢が省かれることになる。水面下から出現する化物の脅威に対処しつつ、流星に当たらないよう速やかな探索が要求されるのがここだ。金属が直撃する以外にも、星の落ちた場所によってはそこにいる生物が一斉に目覚めることもあり得る。そうなれば、近くにいる俺たちが獲物となるわけだ。俺や紫の涙を相手にして、捕食者の立場でいられるかどうかは別として。
そうして遺跡を探索したり、遺物を集めたり。
「色々と目的はあるけどね。今はあえてこう言おうか。
……否定はできない。実際、スカウトを受けた翼に話を聞きに行く何十倍も楽しいだろうことは確実だった。冒険が、楽しかったんだ。
それから。遺跡まで移動したのと同じように、視界がブレたと思ったら巣の中に戻っていた。時刻は22時。結局、貴重な一日を使って遺跡に潜っていたわけで、南部や西部の翼からのスカウトを受けるのは少し難しくなった。なにせ明日一日しか白夜は残っていない。それは、俺の持つ原作知識の大半が消えたことと同義でもあった。それでも変わらず、光は都市を照らし続けていて。
──それ以上に、遺跡で見た光景の一つ一つが目に焼き付いていた。
ネロ
遺跡に拉致され、"紫の涙"と冒険をした。A社には親類の一人が勤めている。
イオリ
特色"紫の涙"。ネロがA社とかに行くルートはあまりよろしくないので、遺跡に連れ去って一日を使わせたうえでフィクサーとして夢を与えた。
遺跡(浸水区域)
現時点(2025/1/3)ではほとんど情報がない。エイト協会人格が実装されてほしい。外郭とか遺跡絡みの協会だろうから。