俺の心がドレスを着ろと告げている   作:三白めめ

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A:最後まで油断しないようにします。


Q:暗殺の危機から身を守る方法

『ねぇ、私たちが幼い子供だった頃の地震を覚えていますか?』

『最初の衝撃の驚きは、二回目の衝撃を待つ間の恐怖や恐ろしさに比べて、どれほど重要だったでしょうか?』

『私は永遠だと思っていた岩の上に立っていましたが、何の前触れもなく、岩は私の下で揺れ動き、崩れていきました』

『私は、無限の智慧に見守られて安全であり、私と一緒に救いに向かって行進する軍隊を持っていましたが』

『一瞬にして、あなたが小切手帳にペンで書いた一筆で、私は一人になり、天は空になりました』

 

 


 

「状況が、大きく変わったんですよ~」

 

 ワープ列車プラットフォーム、チケット売り場に並ぶ列を横目に一等席へと足を進める。

 エルフさんのその言葉は、T社にあるアンダーシャフト邸へ赴く俺たちを取り巻く環境を端的に述べていた。

 発明品に関する大口の取引にせよ、後継者会議にせよ、L社が墜ちた翼となったことで事態は大きく動かざるを得ない。

 もちろんH社の家主審査の如き規模には及ばないが、それでも普段起きうる喧騒とは一線を画す諍いとなるだろう。

 

「L社が折れたのが最近だったのが幸い。どの候補も、十分な手勢を集められたとは言い難い」

 

 後継者会議と銘打ってこそいるが、その日が正式な後継者決定の機会となることは間違いない。

 アンダーシャフト家の現当主、アンドリュー・アンダーシャフト。彼はT社の理事を務める一人である。そして、T社がL社とどれだけ繋がりがあったかは今更語るまでもないだろう。エンケファリンというエネルギーの恩恵を安定して受けられなくなった現状、権力と莫大な財を有する彼の後継者には大きな意味が伴ってくる。

 

「事前に話した通り、T社のプラットフォームでツヴァイ3課のフィクサーと合流する。オーダー通り、後継者会議が終了するまでが契約期間」

 

 経費は、わざわざ思い返して考えたくない程度には。一応、俺たちで支部から持ち出した大量のエンケファリンがあるが……あれの価値高騰を見越して換金は慎重であるべきだ。

 改めて情報を確認し終えれば、一等席のカプセルに入って目を閉じる。眠りから覚めれば、T社の巣へと到着していた。

 

「いきましょうか。気楽に~、とはいかなさそうですけど」

 

 色褪せた景色。その人混みの中に、ふたりの人影がいた。外套の下には、くすんでいるとはいえ藍青色のコートが見える。近付いてくる彼らが、目的の待ち人だ。

 

「ネロ様に、バーバラ様ですね。ご依頼いただいた、ツヴァイ3課直属のフィクサー、ロイドです。彼は同じく3課のケイン」

 

 彼らはコートの内ポケットから取り出したフィクサー登録証を見せる。確かに依頼したフィクサーたちで間違いない。

 

「よろしくお願いしますね~」

 

 以降の移動は徒歩になる。街路を移動するのであれば自動車を使えばいいのではないかと思うかもしれないが……

 

「いたぞ、聞いてた通りの人相だ! アンダーシャフトのお嬢様とあらば、どんだけ時間持ってらっしゃるんだろうなぁ?」

 

 道を塞いで立ちふさがってくるギャングやフィクサー相手に何度も止まる方が時間のロスが大きい。それどころか、降車タイミングなんて隙を作るリスクすらある。

 

「敵対勢力を確認した。時間の窃盗を目的とした言動から、ギャングであると推定する。ケイン、お二方の護衛を」

 

「了解しました、ロイドさん」

 

 ツヴァイの二人は手早く意思疎通と状況把握を終わらせ、ロイドと呼ばれた方がツヴァイヘンダーを手に前へ出る。

 

「ローマックスの手勢……っていうほどでもなさそうですね。適当に雇った組織でしょうか~」

 

「開戦の合図はない。デッドラビッツのような伝統はない新興と推測できる」

 

「えぇ。連携しての暗殺はないでしょう。あるとしても、機を伺っての実行。であれば、僕単独でも対処可能です」

 

 俺たちの会話に参加するケイン。会話中も周囲をさりげなく警戒している。そうして一分も経っていない間に、3課直属の実力を示すには十分な働きを示していた。

 

「状況終了。進みましょう」

 

 これがギャングだろうが殺人組織だろうが、あるいはフィクサー事務所だろうと変わらない。程度の低い連中であれば、ロイド一人でどうとでもできる。組織が徒党を組んで数で囲むことはあれど、ケインが対象の無力化を済ませていく。……こうも襲撃が相次ぐと、ここが東部じゃないのが悔やまれるな。あっちは所属やらを名乗ることが多いから、色んな事務所が知れたのに。

 

 消耗と言えるほどの消耗もなく進めているわけだが。

 

「……そろそろ、暗殺が来そう」

 

 ツヴァイの直属フィクサーということは分かれど、どの程度の力量を有するかまでは実際に見てみないと把握しにくいだろう。ちょうど有象無象が差し向けられたことで、おおよその戦力評価は済まされたと見ていいはずだ。

 

「──狙撃!」

 

 火薬の爆発音。同時にツヴァイヘンダーを構え、俺たちより前にケインが出ようとする。ただ、ここで防御に出られるのはあんまりよろしくないかもしれない。なので。

 

「不要。私が受ける」

 

 懐から"桜"のE.G.Oウェポンを取り出せば、扇面が広がるのに合わせて桜が舞い散り、無数の花弁が弾丸を迎えるように押し寄せていく。弾丸は桜吹雪に削られて、その軌道をエルフさんから逸らした。

 

「位置は特定しました。現在、ロイドが……」

 

 直後、金属同士がぶつかる音が響く。銃声からして拳銃だな。次いで、これは短剣くらいの重さの武器。次いで、援護に放たれただろう……音からして衝撃弾か? コートを貫けないことは分かっているから、衝撃を蓄積させるのを選んだってところだろうな。ツヴァイの3課を前に、微細弾で的確に狙撃を通せるとは思えない。それに、そもそも弾薬を使い分けるにも金がかかる。ただでさえ銃器を用いる事務所だ。一発ごとにどれほどの弾薬費がかかるか、頭を痛めているだろう。正直、さっさと退いてほしい。推測できる特徴からして、終止符事務所だろう。死なれると困る。

 

「銃器を用いる事務所です。人数はそう多くないはず。これ以上の狙撃は──ないようですね。戦闘音も止みました。撤退したようです」

 

「ッ、私の援護はいらない」

 

 刹那、首元にまで迫る刃に扇を添える。二振りの刀が交差する点を弾き、肩口や腕への斬撃は寄生体の鱗で受けた。桜を操作するには間に合わず、仮に間に合っても自傷する圏内まで入り込んでの閃撃。そしてそれを繰り出した人物は、次の手を繰り出すべく既に影へと潜んでいた。背丈も同じくらいだからか、低身長故に攻撃を避けやすいという利点も発揮されない。

 

「"不調和"」

 

 "桜"では対処しきれないと、次元鞄から"不調和"を取り出す。巨大な鯨包丁だが、取り回しの良さは遜色ない。

 暗殺を防ぎきった直後、道中で最も隙ができるであろう瞬間を的確に狙ってくるのは道理だ。それに、攻撃に移った瞬間すら気配を悟らせない技量と迅速な動き。閃撃の最後のダイスが回避なのはこういうことだったのか。

 

「下がってくださ……ッ、ぐぁ!」

 

 声の方を見れば、ケインがコートごと斬られていた。エルフさんを辛うじて庇えはしたけど、防御は間に合わなかったってところか。戦闘自体は続行可能。強化施術と服装のおかげかな。ただ、大きく体勢を崩されている。武器を握る手に力が入っていないことからも、万全な防御とはいかないのが見て取れた。

 

 他のシ協会直属フィクサーが仕掛けてこないことから、この場にいるのは二人だけ。あるいは他の候補者へ差し向けられているのかもしれないが。ともかく、ここを切り抜けなければならない。

 ()()()()()()()はツヴァイのふたりが引き受けているとはいえ、俺の方もたかだか初撃を退けただけだ。一手でも仕損じた時点で致命傷を負うことは想像に難くない。

 

「シ協会、2課……!」

 

 万全のシ協会2課。実際に見られるのは嬉しいが、その実力を味わう側になると光栄とばかりは言ってられないな。




ネロ
ユジン部長が来ていたら手も足も出ずに死んでいたと思っている。そもそもシ協会2課の有力フィクサーが仕掛けた一撃に対処できているのがおかしい。

終止符事務所
相手が弾丸の速度に反応できる強者だった。相手が悪い。

テンマ
疲労がない万全な状態。閃撃の3ダイス目が回避なので、攻撃した次の瞬間には姿を消している。
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