俺の心がドレスを着ろと告げている   作:三白めめ

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A:友達と交流したり、息抜きに芸術作品を作ったりします。


Q:休日に精神力を回復させる方法

 久しぶりに会えないか。そんな連絡を受けた。高校と大学で一緒だった男だ。名前は……アデリだったはず。記憶している限り、文学作品と関係なさそうな名前だったから気にしていなかった。待ち合わせ場所は裏路地の飲食店。……面白そうなので行ってみることにする。まず裏路地を指定する時点でなにかあるだろう。巣の大学に行ってたはずだから、そのまま翼にでも就職してるのかと思ったんだけど。

 そんなわけで、目的地へ行こうとしたんだが。思ったより早めに会えた。それも、何人かと一緒に。

 

「同伴者はネズミ……ではなさそう」

 

 フィクサーではない。割と普通の服装で、手には鉈や鉄パイプ、ナイフといった雑多な武器。

 

「首を寄越せ」

「血が要るわ。臓器は私に貰えるでしょう?」

 

 別に彼から恨み買うようなことはしてないはずだけど……いや、なんか回り回って苦痛の連鎖が発生してるとかなら別だが。会話を聞く限り、臓器を売るのが目的ってわけでもない。

 

「すまない。だが俺だって、命が懸かってるんだ……単位もギリギリで、この再試に受からなきゃ……」

 

 なるほど、把握できた。薬指の保護を受けてるわけだ。就職失敗か、就いた会社が潰れたか。割とよくあるパターンなので、過去を推測するのは無理だが。ともかく、作品の材料に俺を使おうって魂胆だろうな。一緒にいる連中も同じ。

 

「目の色が変わる、というのは比喩だけど。3度目の落第が迫ってるかどうかは分かりやすい」

 

 そして、俺にはトレーニングする時間もあれば、強化施術を受けたり武器を買ったりする金もあるわけだ。メンタルも万全。都市における強さは、だいたいこの3点で決まる。それに、この時期はL社が健在だ。E.G.O.を発現して逆転なんてことも起きない。

 アデリこそ生かしておいたが、それ以外は別にどっちでもよかった。……まあ、意図して殺すこともないだろう。初手で力加減を誤って、一人だけ殺しちゃったが。

 

 

 ──持論だが。完全にオリジナルの作品を作れる人間はいない。文化が未発達な時代なら自然を模写し、現代であれば他者の作品をインプットして。そうして得たものを組み合わせ、自身の解釈でアウトプットするのが芸術だと考える。

 

「視点は芸術において強く意味を持つ」

 

 透視図法といった技法を始めとして、応用なら……咄嗟に例を挙げるなら、ピカソのあれが有名だろう。薬指だと立体派の技法に区分されるんだったか。せっかくだ。今回のテーマはそれでいこう。

 騙されたのに思うところはないといえば嘘になるが、せっかく抱いた親切心をなかったことにするのは不完全燃焼になる。彼は作品作りに困っているようだし、手伝ってみようか。力加減ミスって殺しちゃった死体があるし、あれを使おう。

 

「仮に、私が今ここにある素材で作るなら」

 

 襲撃してきた女の持ち物を漁れば、予想通りにコンパクトミラーがあった。それを叩き割って、一枚ずつ死体の目に刺していく。破片に指紋が付かないよう、注意を払ってだ。反射の計算とか色々しなければいけないが、そのくらいなら割と簡単だったりする。

 

「眼球にガラスを挿して、合せ鏡を作る。自分の片目でそうしてもいいし、他人のものでもいい。あとは、保存液で満ちたケースに入れてそのまま提出するとか、模写して絵として提出するとかで完成」

 

 絵なら、わざわざ血で描いたりする必要はないだろう。むしろ視界を題材とした作品に血が混じるのは、目に血が入って視野を悪くするようなものだ。俺だったら余計なことをするなと評価を下げる。

 

「ま、待ってくれ……俺は課題採点で落第してきた連中を知ってる! 息子の首を切って作った作品が落第だったこともだ!」

 

 アデリはそんなことを言っている。……なんか、勘違いしてないだろうか。人の血を使って絵を描けばいいだろうとか、人体の部位で立体を作ればアートになるだろうとか。彼らはそういう考えでの制作だから落ちたんじゃないかと思う。

 例えば23区の裏路地に代表される人肉料理も、味を追求したら人肉に行きついたのが大半だろう。別に人が材料じゃなくても、美味しいものは美味しい。ただ、彼らにとっては人間が最適だったってだけだ。

 結局は、何を表現したいかに尽きる。だから、薬指においては点描や立体といった派閥が存在しているわけで。描きたいものが定まっているからこそ、どう表現するかの技法を選ぶことができるのだ。

 

「必要なことは作品で語るべき。どういう過程かに意味はなく、作品を提出してからくだくだと述べるのも道理に沿わない」

 

 実際、薬指の課題評価に焦点を絞るのであればこの考え方は重要だろうと推測できる。スチューデントが各作品を評価するのに使う時間は十秒程度。であれば創作すべきは、主題を直感的に理解させる作品だろう。傑作を以て目を引き、足を止めさせるのも手ではあるが。……後者はA+狙いじゃないとやらないだろうし、そんなことができるならそもそも再試なんて受けないだろうから。凝り過ぎて締め切りに間に合わなかったならともかく。

 どのみち、言葉を交わして自作品の解説を~なんてしている暇はない。

 前世で言うところのハルトシュラー主義に近いだろうか。創作者は作品によってのみ語るべきであるという。本来なら作者が顔を出すことすら無粋だが、試験な以上は流石に行くしかない。

 もし薬指に加入するのであれば、団体課題もあるのでコミュニケーション力も必要とされる。そうなれば改めるべき考えかもしれないけど、別に俺はステューデントになりたいわけじゃないのでそのあたりは置いておく。

 社会人に必要なコミュ力と、ポートフォリオの制作と紹介や団体課題といった芸術家として必要なコミュ力は違うのだ。

 ……なんか楽しくなってきたな。誰だって、アーティストなんてものには憧れる時期がある。それを昇華できていると考えれば、この時間も有意義だ。

 

「素材にこだわるなら、先に合わせ鏡を作ってから殺すのもいいかも。古くから、死体の目には最期の光景が残ると言われていた。無数に複製された、最期の光景。題材としては十分」

 

 鏡像の固定は、探せばそういう技術があったりするだろう。これは制作物をそのまま提出する場合に使う手法だな。絵ならその瞬間をデッサンすれば済む。

 

「……なにかある?」

 

 アデリは、釈然としない様子でこっちを見ていた。芸術観で噛み合わないとかではないと思うが……

 

「いや、どうしてそこまでしてくれるのかと思ってな。7年の付き合いといっても、お前は翼に入ってる。薬指の保護を受けて裏路地暮らしの俺とは違うんだ。それなのに、こんな誘いに乗ってまで……」

 

「友達だから。それに、いま手伝ってるのは私自身のため。アイデアがあるなら、世に出さないと後で尾を引く」

 

 後悔や心残り、諦めた夢なんかは、ねじれる要因として十分だ。そして、俺は芸術家に憧れていたこともあった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()に手を伸ばしたなら、一瞬でも届かせなければいつか足を引かれる(クソリプが飛んでくる)。かといって、俺はフィクションを好んでいた人間だ。思いつくアイデアは悪趣味に寄りがちだ。こう、ソシャゲとかに出てくる芸術家キャラってそういう感じじゃない?

 

 その後の話として。アデリは無事に課題評価を突破したらしい。らしい、というのも、採点があった日は普通に仕事が入っていたので直接見に行くことはできなかったからだ。お前のおかげで合格できたって連絡が届いたのでそう判断した。

 俺はアイデアを出しただけで、実際に作ったのは彼である以上、団体作品として俺も行かなければならないなんてことはない。

 

 気楽な立場で外野に口出ししつつ、スチューデントがいい評価を下した作品の原案として参加できた。こういう日常における達成感の貯蓄が、都市で生きるのに重要な精神力の回復につながるわけだ。




ネロ(鏡の世界 薬指人格)
ドーセントまではスムーズに辿り着ける。ある程度の社交性もあり、前世の美術知識から他の派閥の技法にもある程度以上の理解を示せるので。
ただし、本人は自分の作品を「どっかで見た要素のパズルでしかない」と思いながら提出しているので、そのうちねじれる可能性がある。
豊富な知識量と表せば聞こえがいいが、周囲の天才と違ってオリジナリティが欠如している。
──と思い込んでいるのを直せば、よりよい作品が作れるだろう。

芸術家はメンタルを削って傑作を生み出す職業なので、都市で生業にするのは自殺行為だと思って進路の選択肢に入れていない。
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