俺の心がドレスを着ろと告げている   作:三白めめ

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A:都市らしい芸術の組み上げられゆく様を直に見れるのだから、そもそも退屈しないです。


Q:ワープ列車で退屈を紛らわせる方法

 ワープ列車のチケット受け取りや大湖の規則の都合もあり、一日だけマカジキ港船に滞在することになった。

 せっかくなので、今いる港船の名前を冠するマカジキ鯨味のアイスクリームや、鯨の海鮮鉄板焼きだったりとご当地料理と呼べるそれらを堪能しておく。特に海鮮鉄板焼きは、マカジキ港に名店があると観光パンフレットに書いていてオススメされていたのを覚えている。

 最高級港であるダイオウエイ港にも興味があった、というよりかの有名なヘアクーポンが使えるプライベート美容室も気になったが、流石に時間がないのでやめておいた。行くつもりもなかったし。

 

 そんなこともあり、U社のワープ列車乗り場に俺はいる。とはいえ、まだワープ列車に乗るわけじゃない。搭乗手続きまで、あと30分ほど時間を確保している。

 というのも、ワープ列車の乗り場はそれぞれの巣ごとに建築様式が違う。それは停留所で販売されている特選弁当もそうであり、このU社では鯨料理の弁当が売ってあるのだ。列車から降りれば精神的な疲労はそれなりになるだろうと、特選弁当を一つ買っておきたかった。……お土産にいくつか買っておくか。現状復旧で元に戻るとはいえ、地獄絵図の中に置いたものを渡すのは、気が進まないが。

 シンカンセンスゴイカタイアイスのように、マカジキ鯨味のアイスクリームも売っていたが、お土産には向かないのでやめておく。

 

 搭乗手続き終了10分前。軽い手荷物検査を含む諸々の手続きを終わらせる。フィクサーの持つ武器が持ち込めるように、EGOスーツの入ったスーツケースもまたすんなりと持ち込めた。

 

「この時期が、最盛期だったか」

 

 煙戦争以前のL社と違い、現L社からの潤沢なエネルギー提供によってチケット代は安価になった。運行数も増え、1等席の利用者には記念品を配る余裕もある。

 まあ、L社が折れてからは散々だが。一般席利用者(奥歯事務所)3名の行方不明に、"人形師"による1等席の利用者失踪(加工)。更にはカセッティ(血鬼)による乗客揮発まで起きる始末だ。

 

「まあ、現在は関係ないか」

 

 手続き終了5分前。さて、どうしようか。小さなレバーで開く職員用小型冬眠ポートを探し出し、用いるという手もあるが。……バレれば怒られてしまうやもしれない。いや、見つかる方が悪いというべきかもしれないが。そもそも、あれ使って大丈夫なのか? カセッティの事件であれ使った職員、その後出てこなかったし。本当に冬眠ポートなのか? あれ。

 

『UW-212 ワープ列車、まもなく搭乗手続きを終了させていただきます』

 

 思索に耽っていると、アナウンスが聞こえた。

 

『皆様、シートベルトのご着用をお願いいたします』

 

 言われた通り、シートベルトは着けておこう。これが無いと面倒なことになる。具体的には現状復旧で。

 

『当機は10分後、ワープいたします』

『ワープ中には決して列車の扉をお開けにならないようお願いいたします』

 

 さて、そろそろスキャンが始まっただろうか。目を閉じておく。当惑の声が聞こえてきたら、目を開ければいい。不謹慎だが、ワープ列車初体験だ。どういうものが見れるのか、心が躍る側面もある。

 

『UW-212 ワープ列車、発車いたします』

 

 そんなアナウンスが聞こえてから10秒後に、俺は意識を落した。

 

 

 困惑の声で目を覚ます。ざわめきは止むことなく続いている。満腹かつ喉を潤した状態で搭乗しておいて正解だった。精神状態は八分目で満たされた状態を維持している。

 まずここが重要だ。空腹の状態でワープ列車に乗れば、目も当てられないことになる。コンディションは万全の状態でこれからの時間に臨むべきだ。

 さて、ここから起きる逐一を脳裏に焼き付けるには時間がありすぎるが故に、大きな出来事までは簡単に見ていく。

 

 24時間経過。喉の渇きがないことが全体に周知される。この時点では確定事項と見做されていなかったが。

36時間経過時点でフィクサーが武器を取り出し、シートベルトを切って自由に動くように。一部の乗客も同調。48時間が過ぎるまでには、俺の観測範囲である8両目の全乗客が自由になる。

 そして15日目。乗客の一人が自傷行為を実行。首を切るが、死亡しない状態のままになる。あれは時間をほとんど流れていないまでに引き延ばしているだけであって、時間が止まっているわけではない。

自傷──面倒なので自殺者と呼称しようか。自殺者を隔離するため、乗客の移動が始まる。

 注目に値するのはここだ。いくつかのフィクサー事務所が遠征の帰りや道中でこの列車に乗り込んでいたため、緊急保護代狙いもあって乗客に移動する指示を出し始めた。これは、俺の知る限りで典型的な『自殺者タイプ』の事例にはならさそうだ。

 

 さて、ここから一気に30日まで飛ぶ。30両中の5両が自殺者で埋まる。このあたりは、だいたいトマリーのパターンと同じだったはずだ。そこまで詳しく覚えていないから適当だが。

 ちなみに俺は、ルーチンを作って暇をつぶしている。起きて、トレーニングをしたら、目を瞑って自分の輪郭を掴む。その後はまたトレーニングをして、寝る。瞑想は大事だ。最悪、鯨側の本能にスイッチして時間を飛ばす作戦を考えているから。

 

 そんな繰り返しでおよそ90日目。他者を襲って殺し合う集団が出現する。ある程度の被害が出たが、前述のフィクサーたちが制圧。皮肉なことに、彼らが英雄視され始める。一応は俺も手伝ったが、やはり事務所で固まってるメンバーの方が頼りがいがあるんだろう。幸運にも、こちらにはあまり注目が集まらなかった。この後を考えると、頼られない方がいいだろうから。

 

 124日。先の集団との小競り合いは続いている。英雄扱いに乗せられたのか、精神の均衡が崩れてきたのか。フィクサーたちも、英雄のような振る舞いをし始めた。ここで注視すべきは俺のいる8両目の西部フィクサーだろう。保護下にある乗客に安心感を与えるためか、騎士団と名乗り始めている。それぞれの事務所がいくつかの車両を担当する、いわば領地だろうか。この時点で、どういった類型になるかは読めてきた。

 

 180日が経過した。西部フィクサーたちは"騎士"を自称し、事務所の代表は王を名乗り始めている。他でも、"狩人"や"同盟"などを自称するフィクサーや事務所がそれぞれの保護している車両を領地としていた。

 狩人の方は、禁忌の狩人や血鬼の狩人といった役職から取った名称だろう。

 

 自分でも驚いたのだが、意外と退屈しない。W社の特異点やワープ列車の原理を知っている以上、精神的な余裕は相当に残っていた。何が起きるかの観察は、芸術作品を見ているようで心に彩りが溢れてくる。良秀ではないが、作品の製作過程を見ているようで有意義な時間だ。

 アデリにアドバイスしていて思ったが、他者の芸術を観覧する機会はさほどなかった。資格勉強とL社の仕事で忙しかったし。その機会を考えると、これはいいインプットの機会じゃないか。

 あの時はアイデアをぱっと出して作ってみたが、もっとよい作品ができるんじゃないかという考えもある。そうした思いをなかったことにするのは……やはり心に瑕疵が残るだろう。

 そんなわけで、思ったよりも飽きが来ないまま時間は過ぎていった。

 

 体感で何年か過ぎた頃、領地の飾り付けが始まった。もちろん、素材は襲撃者たちの内臓だ。俺は芸術鑑賞が目的なので手伝わないが。なんか姫とかそんな感じの役回りを押し付けられた。適当に戦っていたら、周りのフィクサーたちが役割を当てがったらしく、玉座と称した一車両が私室として与えられた。いや、あって困る物じゃないが。ちなみに6両目で、1~5両目は1等席だ。

 

 まあ、独自の文明と規則を作れど退屈は毒のように染み込むわけで。他の領地との"戦争"が始まった。なんか戦場に引っ張り出されたので見ていたが、あからさまにヤバい動きをするような人物はいない。残念ながら、一般席に乗り込んだ特色によるブートキャンプは今回じゃなかったようだ。

 日々欠かさずに繰り返していたトレーニングのおかげか、俺の動きがだいぶ良くなっていると感じる。自分の意志とEGOの意志が合致するような感覚。

 

 フランスの百年戦争というのがある。黒死病でグダグダになったり、そもそもずっと戦争をしているわけじゃないので散発的に続いて百年くらいかかったあれだ。ジャンヌ・ダルクが有名だろう。なんでこんな話をし出したかと言うと、マジでくだくだと"戦争"が続いているからだ。

 すぐ終わらせてしまえばまた退屈が訪れるのだと互いが理解しているからか、倒した何人かの相手を攫っては皮を剥いで服を作り、骨を王冠にといった悪趣味な戦いが続いている。ちなみに、俺にもそんな人皮の服が贈られそうになったが断った。着たくない。

 

 さて、マジで暇な時期が来た。文明の安定期ともいう。なので、現在の情勢を整理してみよう。

 6~8両目を保護対象と定めた西部フィクサーの事務所代表は騎士王を名乗り、9両目以降の車両(領地)を治める"猟主"や"求道者"と争っている。"猟主"は"狩人"と自らを呼称するフィクサー事務所の代表であり、"求道者"は"同盟"と名乗るフィクサー集団のトップだ。

 概要だけだと、"求道者"が一番面白い。義体だから痛みを感じないのを、周りから神聖視されてトップに祭り上げられたのだから。苦痛を求めて襲ってくる自殺者連中を嫌悪するあまり、苦痛を排除することに躍起になっているらしい。というより、あれは生身への嫌悪じゃないか?

 "狩人"は、自殺者が詰め込まれた17両以降に積極的に遠征を行っている。遠征の間に攻め込まれれば、こっちの"騎士団"に救援要請を出すが。それはそれとしてこっちの6~8両目に攻めてくることもある。

 

 ここから千と数百年。文明の終わりまで見届けると考えれば、なんか普通に楽しめるような気がしてきた。




"騎士団"
西部を拠点とするフィクサー事務所の成れの果て。U社には遠征で来ていた。戦闘事務所であり、その経験から護衛を請け負うことが多い。代表はツヴァイ協会でフィクサー免許を取得したことから、大剣を使った戦闘術を用いる。代表こと"騎士王"は4級フィクサーであり、他は7~5級。マントや兜、王冠を誂えるため、他の領地から人を攫って加工している。保護しているのは6~8両目。

"狩人"
北部にあるフィクサー事務所の内の一つ。血鬼の狩人であり、U社には血鬼といくつかの類似性が見られる(と彼らは考えている)鯨の研究をしに来ていた。トップは"猟主"を名乗っている。武器は片手斧。
現在は彼らが嫌悪する血鬼のように、退屈を満たすために自殺者たちへの遠征や他の領地への侵攻を繰り返している。保護しているのは9~11両目。

"同盟"
事務所に所属していないフィクサーの集まり。自他の苦痛を目的に襲ってくる連中への嫌悪から、義体で痛みを感じない一人のフィクサーを"求道者"として神聖視している。また、生身への嫌悪から他の勢力へ襲撃を行う。保護しているのは12~15両目。
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