俺の心がドレスを着ろと告げている   作:三白めめ

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A:予め鯨のキメラになった後、主導権をちょっとだけあちらに譲ります。これで2000年を二人で分割できるので1000年です。引っ張られ過ぎると自我が消えて死にます。


Q:どうにかして2000年を過ごす方法

 事務所のメンバーがイカレて纏まった"騎士団"と"狩人"はともかく、烏合の衆である"同盟"がなんで戦力としてある程度の勝利を収めているか。

 見たところ、何人かは集団戦に長けた位置取りや動きをしている。リウか、西部センクあたりのオリエンテーションを受けてたやつの可能性が高い。一人で多くの敵を相手取るやり方からして、リウか。

 課ごとに詳細な方針は異なるとはいえ、全面戦争で敵の勢力を塞き止めつつ、副将格が敵将を打ち取るという流れはおおよそ変わらない。そうした流れを作り出している連中が何人か混ざっているんだろう。

 

 そんなわけで、だいたい千年が経っただろうか。"狩人"勢力が面白いことになっていた。勢力に所属するうちの一人が、戦場で倒した相手をその場で食べようとしていたのだ。要はカニバリズムなわけだが、面白いのはここからだ。人肉食をしようとしていたフィクサーを、同じ"狩人"フィクサーが殴って無力化していた。ワープ列車内で餓えることはないから、戦うことにも飽いて退屈が致命的になったのだろう。

 狩人を名乗るフィクサーたちが、ずっと血液バーしか食べていない血鬼のように血や肉を喰らおうとする姿は随分とアイロニーに見えてくる。同族にそれを咎められているのも含めて。

 今はまだ理性的な狩人が目立つが、あの陣営の勢力がカニバリズム側に傾くと、なんかこう、虚しさを覚える。ラ・マンチャランドを思い出すというか……

 あと、人皮ドレスを送られることにうんざりしてきたので、戦場や騎士の連中に会うときは、"ハーロット"を形だけだすことにした。あれの形がドレスなの、ここで役に立つとは思わなかったな。ロボトミー社のEGOではないので、感情を記録するカメラなどに撮られても安心だ。

 鯨の本能にスイッチするって言っていたの、こういうことね。侵蝕みたいになっているけれど、私も前世の記憶の実感があるから同一人物でしょうし。

 

 1200年くらいだろうか。ここまでくると日数は勘だが、"狩人"が堕ちた。領民、もといあそこのフィクサーが保護していた乗客を含め、皆がカニバリズムに傾倒したのだ。……やっぱりどこか物悲しい気分になる。頭がおかしくなるのが普通の環境とはいえ、英雄として振舞っていたフィクサーが堕落するというのは。

 加えて地理的に面倒なことになっている。状況としては"騎士団"の6~8両目と、"同盟"の12~15両目の間。9~11両目が"狩人"の保護していた車両だ。16~30両目は、自殺者たちを詰め込んでいる。

 故に、大きく戦況が傾く。人肉食を是とする狩人残党に対して、義体である"求道者"が攻勢を始めると宣言。生身を嫌悪するという彼らのイデオロギー的には、カニバリズムと相性が悪かったのだろう。

 とはいえ統制の取れていない獣に等しい彼らに対してリウから学んだ方法は通じず、"同盟"の戦力が削れていく。もちろん"騎士団"の方にも残党が来るが、二正面となっている"同盟"に比べればこちらの迎撃は楽だ。まあ、マズい状況になれば俺が出るので関係ないが。ここで全勢力が滅ぶと、かなりの時間を退屈して過ごすことになる。それは避けたい。

 そんなわけで、かなりの期間耐えたものの、"同盟"が消滅。鳥葬みたいに群がられ、義体だけが残ったのは凄惨な光景だった。いや、俺は前世の記憶(エヴァ弐号機のあれ)や都市での経験で、実際に見るとこうなんだなーって変な感慨こそあれど動揺はしなかったが。

 

「私は……耐えられません……っ! あのように残虐な怪物を前に、立ち向かうなど……っ」

 

 なんか俺のいる6両目に、一部の"騎士"連中が懺悔だか人生相談だかを話に来る。まあ、トラウマになるわな。本音を言えば、「死なないし無かったことになるから適当にやっとけ」って感じだが、流石にそれはなぁ。この列車の外で生きてきたより長い時間を、こうして狂った状態で過ごしているわけで。それをないがしろにするのは違うだろう。ドンキホーテとサンチョ関連のあれこれも踏まえてそう思うわけだが。

 どう言ったものか。本来なら、代表への盲信で心を保とうとするのだろうけど。私の人魚にするのは、血袋が揮発した例から不安が残るし、ねぇ?

 

「貴方の後ろには、守るべき領民がいるでしょう? それに、あれらの首魁を討伐すればどれほどの功績かは想像に難くない。眼前には栄誉があり、背後には誇りがあるのだから、ね?

 

 なんかこう……正義のフィクサーにでもなってくれ。元々はフィクサーだったし、ちょうどいいだろう。

 

「……栄誉と、誇り」

 

 感銘を受けたみたいに言っているが、ドンキホーテからの受け売りみたいなものだぞ、これ。なんならドンキホーテもバリから聞いて憧れたわけだから、又聞きみたいなものだし。……せっかくだから、一言くらい付け加えておこう。

 

「正義たらんとする()は、永劫に近しい時間と苦痛の中でも残るのだから」

 

 

 そんな感じに言っていたら、なんか"狩人"の成れ果てたちを全員無力化できたらしい。喜び勇んで報告してくるのはいいけど、なんか俺は彼らの戦場に出られなくなった。なんかこう……本格的に姫君扱いされてないか? あと、人体加工洋服はいらないかな。

 

 さて、そろそろ乗ってから2000年経ったんじゃないかなーと思うが、なかなか着かない。ここ200年くらいは戦場に出られないから、日々のルーチンを繰り返すだけになっている。

 外の事情を聞く限り、俺の派閥と"騎士王"の派閥で分かれているらしい。"騎士王"というか代表の派閥は、まあトチ狂ったのが限界に達したのか、領民を服や装飾品に加工しだした。で、俺のところに来ていたフィクサーたちがそれに反発して内乱。今度は6~8両目までの姫派と、9~14両目までの騎士王派に分かれて戦いだしたわけだ。本来なら騎士王派が統一して『王国』の類型が完成していただろうけど。今回は派生形になるのか?

 

 そんなわけで戦っているわけだが、やっぱり数が多い方が強い。というより、フィクサー事務所なんだから代表の等級が一番高いのは当たり前なわけだ。よって、こっちが不利になるわけで。俺が出れば戦況を変えられるだろうが、なんか6両目から出してくれない。

 結局は追い詰められてギリギリの状況で、俺のいるこの場所まで攻め込まれたわけだが。戦端が開かれて少しした頃。

 

 ──列車のドアが開いた。

 

「新入りにはきついよね、今回の現場は。さあ、マニュアル通りに一時間以内で片付けるよ」

 

 青色の制服や帽子の彼らは、当然ながらどちらの味方をすることもなく刃や拳を叩き込んでいく。

 

「次元魔刀」

 

 いや、E式次元短剣や次元屈折刃-Type: Blade Mk7といった名前があるんだろうけど、次・魔・空・切にお世話になりすぎてたから……パッと出てくる名前はこっちだったりする。

 

 現在は、騎士王派vs姫派vsW社整理要員という三つ巴だ。特色フィクサーブートキャンプほどではないといえど、2000年間戦い続けてきた連中を相手にするわけで。聞こえてきた話からして新入りを連れてきてこそいないが、整理要員にも何名か殉職者が出ているらしい。

 死体となった整理要員が取り落とした長柄の次元屈折刃を蹴り上げて手に取る。レスティやW社人格のホンルが持っているやつだ。充電は……ちょっと反則技を使おう。形だけ使っていた"ハーロット"の機能を活性させ、携帯用力場バッテリーと持っている次元屈折刃を取り込む。あとは、バッテリーから電力を抽出して強制的に最大充電に。使い終わったバッテリーはそこらへんに転がしておく。

 これができるようになったのが、ゼペットチーフを助けた報酬だと思っている。"夢貪る濁流"が使ってくる地形変化の、ちょっとした応用だ。

 

「頭を倒せば、後は瓦解するはず」

 

 今生でやることはないと思っていたことへのチャンスに、ここ最近はよく恵まれる。アラス工房の強化施術を起動。筋力への恩恵はそれほどでもないが、速度に特化したそれの加速度で、一気に"騎士王"の元まで駆け抜ける。

 長柄を旋回させ、彼の周囲に次元の裂け目を構築。逃げ場を塞いだ後に、その胴体へ刃を突き入れた。後は身体を大きく捻って横薙ぎに払えば、紫の亀裂が空間にも波及する。

 

「私流の、次・魔・空・切」

 

 なんか、この空間切断エフェクトを自分が作り出したって思うと感慨深い。なんなら、このワープ列車滞在中で一番感動してるかもしれない。

 

「ヒュー! やるね!」

 

 同じように、トップっぽいやつを制圧しようと考えたんだろう。一人の整理要員が来ていた。黒い長髪に、赤色のエクステが目立つ。ガントレットを着けた素手っぽいが……まあ、ローズやW社ウーティスのあれだろう。

 

「君が、姫様ってやつ? 僕はジョバンニ。よろしくね、どうせすぐ忘れるだろうけど」

 

 ジョバンニ。列車で、ジョバンニか……宮沢賢治、銀河鉄道の夜! 強いな。確実に。

 

「さてと、大人しく席に座ってくれる気は?」

 

 眼前のジョバンニは既に戦闘態勢を取っている。これ、どう答えようと殴り掛かって来る気しかしないんだけど。

 

「私は構わないのだけれど

 

 ほら、落胆するような表情をした! これあれだ。戦闘こそ本当の幸いだと思っているタイプのジョバンニだ。

 

「……分かった。やろうか。このパレードを終わらせてしまうには、名残惜しいものね

 

「助かるよ。この武器使えるチャンスは、多い方がいいからね」

 

 軽いフットワークで詰めてくる。脚長いな。対してこっちは武器の射程が長い。身長は低い。バックステップで距離を取るが……

 

「足場が悪い」

 

 やられた連中がごろごろと転がっている。なんなら足を掴まれることもあるし。お互いにその程度で動きに支障がでるわけじゃないが、鬱陶しい。それに。

 

「充電、好調! 力場形成!」

 

 あっちは蹴るだけでも充電を貯めることができる。一方的にリソースを供給しているようなものだ。数度打ち合う(マッチする)が、万全な充電もあって押され気味だ。だが、感情は上がった。

 

「ハーロット」

 

 感情が更に上がり、滴る炎が現出する。粘性の火炎が充電力場に纏わりつき、バリアを剥がしていく。

 力場が溶けた瞬間に、横薙ぎに炎を塗る。咄嗟にジョバンニは空中に避けたが、これなら……!

 

「いいや、ここからさ!」

 

 脚を大きく振り上げた? ……踵落とし! 仕掛けるつもりか!

 空中からの空間切断と横一文字の炎が激突する。十字に重なった軌跡を横目に、着地したジョバンニは血を吐く。……まさか。

 

「そう、二撃目!」

 

 着地した瞬間に放たれる、蹴り上げの空間切断。充電は僅かにしか残っていないが、体力を使って強制的に起動したのだ。

 

「問題ない。対応できる」

 

 だが、まあ。できると知っていれば想定の範囲内だ。血を宿したというのに、動きには一切のブレがなかったのには驚いたが。

 次元の狭間に柄が掠ったけれど、戦闘の継続には問題ない。

 

「実は一級フィクサーとかだったりしない?」

 

「姫。今はそれで十分」

 

 充電も兼ねての、高速の掌底。先ほどまでと違い、ガントレットに紫光は宿っていない。

 打撃を柄で受け流し、石突きを跳ね上げて顎を狙う。ジョバンニはガントレットで弾くが、纏わりつかせた粘液が飛散するのは防げない。攻勢で着実に充電を貯める彼に対し、腐食する炎で着実にダメージを与えていく。

 

 互いに場所を移しながら戦闘する。8両目から、30両目の方へ。蠢く自殺者の山を通り過ぎ、柄の折れた次元屈折刃を短刀や剣へ交換し。そうして30両目、血の臭いに満たされたそこで。

 

「残り20分。そろそろ片付けないとね!」

 

 踵落とし。脚には空間の歪んでいるようなほどの力場が展開されている。

 次元切断。一撃目を、先の手順で充電した次元魔刀の空間切断で迎撃。

 二撃目、蹴り上げ。振り切った刀を逆手に構え、突き刺す形で迎撃。

 

「……っ!?」

 

 ジョバンニが繰り出す、俺の想定していない三撃目。回し蹴り。咄嗟に受けた刀が消し飛び、エネルギーが暴走して爆ぜる。

 

「過充電。しばらくは使い物にならなくなるけどね」

 

 

 ──そして、四撃目。次元の狭間から出てきたエネルギー刃がジョバンニを深々と突き刺した。

 

「そうか……僕はついに、君への道を繋げたのか……」

 

 血を吐きながらも、その目は空間の亀裂から出てくるそれへの期待に満ちていた。

 

「理解した。戦いたかったんじゃない、空間切断を使いたかっただけか。シェイクスピアを猿に書かせるような方法で辿り着くなんて。賞賛に値するわ

 

「カンパネルラ/道を失った乗客」




ネロ(鯨)
一番適性のあるE.G.Oは陰(O-05-102)。鯨としての本能が表出した状態。別に主人格を乗っ取ろうとかは思っていない。あくまで本能であって別人格じゃないので、前世含めた記憶もちゃんと共有している。価値基準が違うだけ。

ジョバンニ
W社整理要員チーフ。同僚で恋仲だった前チーフのカンパネルラが次元の狭間に落ちて失踪。それ以来、彼女を見つけて帰り道を作るために空間切断を好んで使用するようになった。

カンパネルラ/道を失った乗客
幻想体ではない。次元の狭間に落ちた職員であり、偶然にもネロとジョバンニが戦っていたところに出現した。

"騎士王"
整理された。2000年だらだらと戦ったところで所詮は我流。特色のような優れたメンターがいない以上、鍛えた4級フィクサーでしかない。
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