やはり俺のSAOはまちがっている。 作:あすなっち
~ アインクラッド中層 side 比企谷八幡 ~
「ふふふ・・・お久しぶりです、はちまん君。実に23時間と15分ぶりですね」
丁寧な口調で挨拶しつつ、愛らしい微笑を見せる銀髪少女。なんか回りくどい言い方してるけど、それって単に昨夜以来ってことだよね?
「そして明日はいよいよ第75層。頑張りましょう」
「お、おう・・・
「・・・」
いや、だからいまのは別にネタとかじゃないんでそんな目で見ないで下さい恥ずかしくて爆発してしまいますごめんなさい。(息継ぎなし)
ふぅ・・・俺の中のいろはすが暴走する一方、目の前で微笑む幼女・・・ならぬ小柄な銀髪プレイヤー。まるでお人形さんのような、文句無しの美少女だ。実際、ここアインクラッドではアスナたちと並び立つほどの人気を誇っているらしい。だが正直、俺はこいつが苦手である。なぜなら・・・
「いま何か、とてつもなく失礼なことを考えていませんか?」
上品な笑顔で凄まじい圧力をかけてくる幼女。あ、また言っちまったぜ。(汗)
「はて?何のコトヤラ・・・お前に対して苦手意識なんて全然無いぞ?それより、今日は
「え?ええ、彼には別のミッション・・・クエストをお願いしています」
「そうか。じゃあ、また明日な」
巧みに話題をすり替え、あとはフェードアウトするだけ・・・あらやだ、いまのやり取り、はちまん的に
「あの・・・確かパパは、こちらのロリっ娘さんが苦手だと言っていませんでしたか?」
「は?」ピキッ
ぐはっ?!この子、なに言ってくれてんの?!自分でも忘れてた何気ない独り言をぶちまけられて、俺のライフはもうゼロよ?!突然炸裂した爆弾発言に、笑顔のまま危険な空気を纏う銀髪ロリ。投下したのは他でもない、俺の娘・・・じゃなくて、例のラストアタックボーナスでゲットした不思議美少女、ユイである。なぜか彼女はストレージに格納できず、ログインすると必ず現れるのだ。なにこの子、俺のこと好きなの?スタントなの?てか、メンタルケアプログラムが俺のメンタル破壊してどうすんだよ?!
「どういうことでしょう、はちまん君?」
さらに笑みを深め、距離を詰めてくるロリっ娘さん。てか怖い。いわゆる
~ 2週間前 ~
サービスのリスタートから早くも半年。アインクラッドの攻略は順調に進み、現在の最前線は第74層にまで達していた。次はいよいよ、最後のクォーターポイントである。SAOの人気はいまだとどまるところを知らず、プレイヤー数も右肩上がりで、その経済効果は大谷翔平にも匹敵するらしい。(ネットニュースより抜粋)てか、そんなに大人数が日々ネトゲにフルダイブしてるなんて、大丈夫か日本?みんなちゃんと、リアルにお友達とか居る?(自爆)あとこの半年、俺の周りでも色々あったけど、まぁその辺りはおおむね原作通りの展開だったと思ってくれ。ん?原作??
「キャー?!?」
そんなある日の深夜。いつものように中層フィールドでレベリングをしていたら、不意に聞こえた悲鳴。はぁ、またかよ・・・ここまで来るとお決まりの展開と言うより、もはやルーティンワークなまである。手持ちの回復ポーションを確かめてから、俺はため息混じりに走り出した。まさか、また小町じゃあるまいな・・・
ちなみにあいつ、前回の模試ではとうとう総武高校E判定を叩き出しやがった。あんな判定、初めて見たわ。さすがは閃光の四姉妹・・・(;´д`)トホホ え?いやいや、E判定って
「あぁ・・・!あっ?!い、いやっ!あん♥️」
「マジか・・・」
駆け付けた先では、お約束通り小柄な美少女プレイヤーが大ピンチに陥っていた。むろん、初めて見る顔だ。まだ幼さの残るその表情が次第に上気し、追い詰められたものになってゆく。そして彼女がもがけばもがくほど、さらに捲れ上がってゆくスカート・・・ふぅ、いつもご馳走さまです。m(_ _)m 下手人はもちろん、あのお茶目なGIRS ONLY触手ちゃんである。毎度毎度、お盛んなことで・・・
・・・つかちょっと待って!あの子、まだ小学生じゃね?!?こんなシーン、よい子は見ちゃダメ!絶対!(BPO案件)早く画面を熊さんのぬいぐるみに差し替えて!(手遅れ)
にわかに放送倫理と番組向上の精神に目覚めた俺は、神速のソードスキルを放って懲りない変態モンスターを爆散させた。てか、いまのはハーメルン的にもギリギリセーフ、だよね?ね?
ぺたんと座り込んだ幼い見た目の少女は、臙脂色の制服にベレー帽姿。オンラインゲームのプレイヤーと言うより、どこぞのお嬢様学校の生徒って感じである。シリカぐらいの年齢か・・・特に胸部装甲あたりが。(ド変態)乱れた着衣もそのままに、いまだ茫然自失状態・・・しかしまあ、女の子座りがこれ程似合うやつも珍しいな。
取り敢えずメインメニューから着替えさせ、彼女が落ち着くのを待つ。途中でお決まりのインナー姿が丸見えになったが、グンゼの子供用下着なんて小町で散々見飽きているからな。何とも思わないさ。(ガン見)はちまん、ウソツカナイヨ?
「大丈夫か?」
「は、はい・・・助けて頂き、有り難うございます・・・ひゃん?!」
気付けば俺は、ベレー帽の上から彼女の頭を撫でていた。安定のお兄ちゃんスキルが、いつものようにオートで発動したらしい。またやっちまったよ・・・むしろ、ここまでがルーティンなまである。
「す、済まん。リアルでも妹が居るんでな。つい・・・」
慌てて謝罪しつつ手を引っ込めると、彼女は残念そうな顔をした。なぜだ?
「SAOは初めてか?」
「はい・・・事前に攻略Wikiはチェックしてきたのですが・・・転移門を街の入り口と間違えてしまい、気付けばここに・・・」
いまだ不安げな表情で答える、いたいけなリトルガール。どうやら
「そうか。だが、こんな中層フィールドに単独で出たのは迂闊だったな・・・」
「ええ、返す言葉もございません。最初は連れと一緒にログインしたのですが、はぐれてしまって・・・ひゃ?!」
彼女の言葉が終わらないうちに、俺は片手剣を抜き放ちつつ振り向いていた。至近距離に誰かの気配を感じ取ったからだ。果たして視線の先には、同い年ぐらいの茶髪イケメン少年が立っていた。やはり見慣れない顔である。だがいつの間に・・・ロリっ娘さんと同じ臙脂色の制服姿ってことは、こいつが彼女の言っていた
改めて観察すれば、驚くほどの自然体に不気味なまでの無表情。全く隙がない。手にしているのは初期装備の片手剣だが、放つ雰囲気がヤバすぎる。こいつ絶対、何人か殺ってるだろ・・・すでに『索敵』スキルをカンストしている俺の背後を取るなんて、まさかこのイケメンが『ラフィン・コフィン』の・・・?(考えすぎ)
「坂柳。こいつは敵か?」
不意に、およそ感情の読めない口調でやつが言った。見えない殺気が膨れ上がる。まずいな。どうやっても、俺が勝てる姿が想像出来ない。はちまん、初めての敗北待ったなし!かも?そう、いままで俺は羞恥心の上限突破による退場は何度も経験してきたが、戦闘で爆散させられたことはまだ一度もないのだ。(ドヤ顔)
「清隆く・・・きよぽん君!この方は味方です!」
その時、後ろで銀髪少女が叫び、同時にラフコフ野郎の殺気が消えた。ふぅ・・・助かったぜ。どうやら、こいつの手綱は彼女が握っているらしい。
「コホン!失礼しました。自己紹介が遅くなりましたね。わたくしは『ありす』と申します」
そう名乗ると優雅に一礼する銀髪改め、スタジオありす。(違う)ほぅ・・・可憐な彼女にぴったりのプレイヤー名だな。
「ひゃ?か、可憐・・・ですか?」
いかん、またまた声に出ていたらしい。
「済まん。気にしないでくれ」
「・・・面と向かってそんなことを言われたら、気にしない女の子は居ませんよ・・・あと彼はわたくしの連れで、プレイヤー名は『最高傑作きよぽん』です」
・・・えーと、もしかしてこれ、笑うとこ?
「・・・いや、そのだな・・・
若干噛み気味に、やつが言う。うん?こいつまさか、
「分かった。宜しくな、
「ぷっ!」
ありすが派手に吹き出し、その弾みでお嬢様の仮面が外れて嗜虐的な笑みが覗く。あ、やっぱこいつ、絶対関わらない方がいいタイプだ。例えるなら、陽乃さんを10年ぐらい若返らせた感じかな?
「それで、あなたのお名前は?」
有無を言わせぬ雰囲気を上品な微笑で包み、さらに自己紹介を強要してくるありすたん。目が笑っていない。
「いや、名乗るほどの者じゃねえよ。単なるモブキャラだ」
このお嬢ちゃん、ヤバいやつや!さっきから俺の中のキバオウが、盛んに警報を発している。ここは、戦略的撤退あるのみ・・・
「ふふふ・・・ご冗談を。初見で清・・・きよぽん君の本質を見抜いたあなたが、モブのはずがありません。あ、この際ですからフレンド登録もしておきませんか?」
もはや隠すことなく、極めて好戦的な笑みを浮かべるありす。しかも、どんどん要求がエスカレートしてる気がするんですけど?完全に目をつけられたっぽい・・・(うんざり)
「もし断ったら?」
「泣きます」
めんどくせぇ・・・
「言う通りにした方がいいと思うぞ。一度こうなった坂柳は、梃子でも動かないからな」
横から援護射撃・・・俺にとってはとどめの一撃だが・・・をしてくる最高傑作。て言うかこのふたり、さっきから互いのリアルネーム垂れ流してません?
「はぁ・・・分かったよ。俺は『はちまん』だ」
「ふふふ・・・わたくし、素直な殿方は好きですよ?」
さいですか・・・手早くメニュー画面を操作すると、フレンド欄に互いのプレイヤー名が表示された・・・ってふたりともレベル1とか、ガチで初心者だったの?!ちなみにリニューアルされたSAOでは、フレンド同士のレベルが丸見えである。(鬼畜仕様)
「ええ、さっきも申し上げましたが、私たちは今日がSAOデビューなのです」
「・・・ちなみに聞くが、他にネトゲの経験は?」
時々居るんだよな。ビギナーのふりして他のゲームから紛れ込んでくる、廃人ガチ勢が。たぶんこのふたりも、そういった輩なんだろう。
「いいえ。全くありません。ですから、わたくしにとってはちまん君は、ネット上における
なん・・・だと?!それでいて最高傑作のあの殺気とか、どゆこと??あと、その言い方は色々と誤解を生むから止めて下さいごめんなさい。
「ところで、ひとつ伺っても?」
「・・・なんだ?」
警戒心マックスで身構えたが、聞かれたのは他愛もないことだった。
「先ほどあなたは、わたくしを見て妹さんを連想されたそうですが、はちまん君はおいくつなのですか?」
リアルの詮索はマナー違反だが・・・まあ、これぐらいはいいか。どうせ今後、現実で関わることなんて無いのだから。(フラグ)
「俺は17歳で高校2年だが」
「・・・は?」ブチッ
素直に答えたら、急にありすが不機嫌になった。あれ?あなた、素直な殿方が好きだったんじゃないの?
~ 回想シーン おわり ~
さて、一夜明けて第75層フロアボス攻略戦当日。すっかりお馴染みになった攻略組の面々が、ボス部屋の前に集結していた。主体となるのは血盟騎士団にアインクラッド解放軍、そして聖竜連合だ。やはりこの辺りは原作準拠だな。いや、だから原作ってなによ?で、当然俺たち月夜のパンさん黒猫風林団もその一翼を担っており、例のふたり組を臨時メンバーとして仲間に迎えていた。え?俺?側面支援という名の雑用係・・・いや遊撃手だけど何か?
「ふふふ・・・本日は宜しくお願いしますね、はちまん君」
微笑むありすと、その傍らに立つ最高傑作。完全装備で固めた攻略組の中で、どこぞの制服を着たふたりは浮きまくっていた。放課後デート中のバカップルかよ。て言うか、初心者が2週間で攻略組に名を連ねるとか有り得んだろ。やっぱこのおふたりさん、中身はどっかのガチゲームオタクなのかな?
はぁ・・・それじゃ、ひと働きしてくるとしますか・・・いや、本当は働きたくないんだけど。ボソッ
CM放映中・・・(紙面の都合により、戦闘シーンは省略)
『Congratulations!!』
空中にでかでかと表示されたポップ文字に、歓喜の雄叫びを上げるプレイヤーたち。何度見ても、この光景は良いものだ。(マ・クベ大佐)フロアボスのスカルリーパーが、ゆっくりとポリゴン片になって消えてゆく・・・稀に見る激戦ではあったけど、こうしてCM中に第75層も無事突破成功。まぁ、結果オーライってことで。(適当)
そしてキリトや閃光四姉妹、それに血盟騎士団トップのヒースクリフなど錚々たるメンバーがひしめく中、映えあるラストアタックボーナスを手にしたのは・・・
「おめでとう!最高傑作君!」
「最高傑作君、すっごい・・・」
「Congratulations!!この勝利はキミのものだよ、最高傑作君!」
「ふふふ・・・やはりさすがです、きよぽ・・・最高傑作君」
「なんでや?!なんでワレみたいなぽっと出の素人が、ラストアタックボーナス貰えるんや?!そもそも、ゲーム始めて2週間のビギナーが最高傑作とか、片腹痛いわ!」
「・・・頼むから、その呼び方は止めてくれ・・・」
多数の称賛とひとつの罵倒を浴びて立ち尽くす、臙脂色の制服を着た無表情なイケメン。そう、SAO歴2週間の
え?あぁ、
やがて馬鹿騒ぎも収まり、ボス部屋にまったりとした空気が流れ始める。戦いは終わったのだ。各々、撤収に移るプレイヤーたち。ふぅ・・・ひとまず俺も
「ねえみんな、ボス戦勝利をお祝いして、次の週末にオフ会しよう!」
「賛成!場所はもちろん、せんぱいのおうちですよね?」
「はぁ・・・仕方ないわね・・・どうしても、というなら予定を空けておくわ」
近くでは由比ヶ浜が音頭を取り、いつものメンバーがまだ何やら盛り上がっている。ま、俺には関係ない・・・え?俺ん家?
「了解であります!小町、ごみぃちゃん共々、全力でおもてなしさせて頂きます!」(*`・ω・)ゞビシッ
いや小町、お前その日は確か模試だろ?
だが、俺の声は誰にも届かない。由比ヶ浜が次々に声をかけ、あれよあれよという間に参加者は膨れ上がり・・・気付けば総武高校関係者に加えてエギルやクライン、果てはシリカまで参加することになっていた。つーかネカマのおふたりさん、カミングアウト待ったなしの状況だけど大丈夫?あとこれ、明らかにうちのリビングじゃ入りきれない人数なんですけど?由比ヶ浜のやつ、絶対そのあたり考えてないだろ。やっぱアホの子なの?
「そうだ!ありすちゃんと最高傑作君も来ない?」
最後に、例のふたりも誘うガハマさん。まだ参加者増やすつもりかよ。もう、どうにでもしてくれ・・・
「あ・・・申し訳ありません。その日はちょっと・・・」
珍しく、歯切れが悪いありすさん。うん、これはイヤだってことですね分かります。しかし・・・
「ええー!!ふたりが来ないと始まらないよー!じゃあ、いつだったら都合が良いのかな?なるべくそれに合わせるから」
「えっと・・・2年後なら、なんとか・・・」
「えっ?!(*゜д゜*) さすがにそれは・・・」
絶句する由比ヶ浜。やはり、リア充の彼女には理解出来ないようだ。要するに、ありすはこう言っているのである。「お前たちに付き合うつもりはない」と。これ以上は不毛だな・・・
「由比ヶ浜、そこまでにしてくれ。さすがにこれ以上は、比企谷家の収容キャパを超えちまう」
「え?ヒッキー・・・うん、分かった。また今度ね、ありすちゃん」
「ええ、いずれまた」
ちらりと視線を交わしたありすの瞳に、感謝の色が見えたのは気のせいだろう。たぶん、メイビー・・・歩き去ってゆく小さな背中を見送っていると、彼女はヒースクリフの傍らで立ち止まった。思えばあの団長さんも、半端ない強さだったよな・・・
「やあ、見事な活躍だったね、ありす君」
「有り難うございます、ヒースクリフ団長。それとも茅場晶彦さんとお呼びした方が宜しいでしょうか?」
ほぅ・・・あのふたりがリアルの知り合いだったとは・・・あとありすさん、いまさらだけどネトゲでプレイヤーの本名を呼ぶのはNGだからね・・・ってWHAT?頭の中でムダなツッコミを入れていた俺は、ここでようやく気付いた。かやば、あきひこ・・・だと?!?
解放されたばかりのボス部屋に、ゆっくりと驚きが広がっていった・・・
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
~ 回想シーン:2週間前 side 坂柳有栖 ~
「茅場晶彦を探し出して下さい」
月城理事長代理の言葉を聞いた時、わたくしは耳を疑いました。この方は、いまなんと??2年生に進級し、新たなクラス間競争の始まりに心躍らせていた矢先、綾小路君共々呼び出されて告げられたのは・・・思いもよらぬミッションの依頼でした。
ソードアート・オンライン。あまりゲームには詳しくないわたくしでも、その名前は知っています。そう、昨年秋に起こったあの事件の舞台として。幸い、犠牲者こそ出なかったようですが、ひとつ間違えば大惨事になっていたことは想像に難くありません。そして、首謀者たる茅場氏が未だに行方不明で捜査が難航していることも報じられてはいましたが・・・正直学外の話ですし、わたくしや綾小路君に直接関係があるとも思えませんでした。そんなことよりも、いまは他にやるべきことが・・・
「この任務を受けて頂けるのでしたら、綾小路君に対する攻撃や妨害工作は全て中止する、と約束しましょう」
なっ?!これはいったい・・・あまりに怪しすぎるお話しです。
「ひとつ宜しいでしょうか?」
「許可しましょう」
「黒幕はどなたですか?」
所詮、月城理事長代理は傀儡。背後でわたくしのお父様を追い落とし、綾小路君の退学を画策する人物となれば、すでに答えは出ているようなものですが・・・
「・・・彼のお父上、綾小路先生からのご命令です」
いかにも不本意だとばかりに、顔をゆがめる理事長代理。やはりそうでしたか・・・現役代議士である彼のお父様は、様々な方面に利権をお持ちの方です。警察へ恩を売るため、迷宮入りしそうな事件の捜査に綾小路君を投入する・・・あながち有り得ない話ではありません。力を持ちながらそれを使わないのは、愚か者のすることだそうですし。
「なるほど・・・それで現状は?」
ひとまず、詳しい話を聞いてみることにしましょう。最終的な判断は、それからでも遅くはないはずです。
「捜査当局は、茅場晶彦がアインクラッド・・・ゲーム内のどこかに潜んでいると見ています。ですので、君たちは一般プレイヤーとしてSAOにログインし、彼のアバターを発見次第、その身柄を確保して下さい。あとはプロの出番です」
ですがここでわたくしは、ある重大な事実に気付きました。確かSAOは、世界初のフルダイブ型RPGだと聞いた覚えがあります。仮想空間に入ったプレイヤーは、現実世界同様に他のプレイヤーたちと交流できるとか・・・となるとこれは、在学中に外部との接触を禁じた我が校の規則に抵触するのでは・・・と
「ええ、ですから今回はあくまで特例措置です。期間は2週間。また、ゲーム内でのやり取りは総務省の仮想課が常にモニタリングしていますので、そのつもりで」
つまり、仮想空間でもわたくしたちは籠の鳥、ということですか・・・ふふふ、いいでしょう。受けて立ちます。
「一応聞くが、オレたちに拒否権は?」
ここではじめて彼が口を開きましたが、時すでに遅し。拒否権どころか選択肢すら無いようです。
「綾小路先生は、いますぐ退学になりたいのなら好きにしろ、とおっしゃっていましたよ」
してやったり、と言う表情の月城理事長代理。ふふふ・・・2週間後にそのドヤ顔がどうなっているか、いまから楽しみです。
「必要な機材は学校で用意します。フルダイブするのは夜間になるかと思いますが、生活リズムは崩さないように。君たちが廃人ゲーマーになったとしても、我々は一切関知しませんからね。あと、
こうして、わたくしと綾小路君の『ゼロから始めるネトゲ生活』が始まったのです。
「さて綾小路君、一応お尋ねしますがVRMMORPGのご経験は?」
「ないな」
即答ですか。まあ、そうでしょう。ホワイトルームのカリキュラムも、案外抜けていますね。残念ながらわたくしも同じです。せめてこれが、オンラインチェスだったなら・・・
そしてお風呂や夕食を終えた夜遅く。全ての予定をキャンセルしたわたくしは、密かに彼のお部屋へお邪魔していました。そうです、これから彼と一緒に初体験へ臨もうとしているのです。ふふふ・・・こうして書くと、何だか淫靡ですね。
「とにかくやってみるか。時間も限られていることだしな」
ひと通り攻略Wikiや実況動画をチェックしたあと、学校側が用意したナーヴギアを手に取る綾小路君。ふふふ・・・ならば先ずは、プレイヤー名とアバターの設定からですね。(≧▽≦)♪ ちなみにわたくしは、すでに自室で設定済みですので悪しからず。
「では仮想空間へ旅立ちましょう。リンクスt・・・」
「ちょっといいか?」
全ての準備を整え、いざ魔法の言葉を口にしようとした時、彼が待ったをかけました。
「どうなさいましたか?」
「いや・・・なぜお前が同じベッドに居る?」
ちっ・・・気付かれてしまいましたか。せっかく、どさくさ紛れで彼のベッドに潜り込んだと言うのに・・・いったんナーヴギアを脱ぎ、綾小路君と向き合います。
「これからわたくしたちが向かう先は、完全アウェーの敵地。待ち受けているのは、逃亡中の身とは言え、このゲームを創造した当人です。どんな恐ろしい隠し球を持っていないとも限りません。万一の事態に備えるためにも、ここは一緒に居た方が好都合かと」
はい、これは半分事実です。多少の個人的願望も含んではいますが。
「なるほど・・・じゃあ、なぜお互い下着姿なんだ?」
「フルダイブ中の没入感と、アバターの操作性を向上させるためです。なるべく素肌に近い状態でログインすると良いそうですよ」
はい、これは全部ウソです。100%の個人的願望を含んでいます。
「マニュアルにそんな説明、あったか・・・?」
まだ抵抗する彼の呟きを半ば無視してその手を握り、わたくしは言葉を続けました。
「人肌のぬくもりも、決して悪いものではありません。どうか覚えておいて下さい」
それだけ言うと、再びナーヴギアを被ってわたくしは横になりました。あとはごり押しでログインするだけです。そうすれば、綾小路君もついてきてくれることでしょう。本当は、わたくしの勝負下着姿を見ても無反応な彼に対して、もっと言いたいことがあるのですが・・・それはまた、別の機会に致しましょうか。
「それでは、リンクスタート」
たちまち意識が暗転し・・・再び目を開けば、そこはもう第1層、はじまりの街でした。
「おぉ・・・」
中世風の街並みに、行き交う多くのプレイヤーたち。さすがの綾小路君も感嘆の声を上げています。現実世界では深夜に差し掛かる頃合いですが、どうやらオンラインゲームの世界では、皆さんこれからが活動時間のようですね。
「ところで坂柳。この制服、どうにかならないのか?」
「はて?何か問題でも?」
いまわたくしは、臙脂色のブレザーにホワイトのスカートとベレー帽を着用しています。彼は同じ配色のブレザーとスラックス、というスタイル。我ながら、なかなかにお洒落なコーデだと思うのですが。
「現在、オレたちは隠密行動中だろう?敢えて身バレの危険を冒してまで、高育の制服を着る必然性は無い」
「考えすぎです。仮想空間でそんなことを気にする方は居ませんよ。それに、これだと放課後デートみたいな気分になりませんか?」
念のため校章は外した状態を再現してありますし、ヘンテコな鎧やヒラヒラドレスだらけのアインクラッドにおいて、万が一にも制服のデザインだけでわたくしたちの素性が露見する可能性など、ゼロに等しいでしょう。
「しかしだな・・・」
まだ納得しない彼へ、わたくしは必殺技を繰り出すことにしました。
「ダメ・・・ですか?」
「・・・分かった」
ふふふ・・・やはり涙目&上目遣いのコンビネーションは最強です。
「あと、仮想空間ではお互いプレイヤー名で呼び合うのがマナーです。そこも宜しくお願いしますね」
「・・・やっぱり、この名前じゃないとダメなのか?」
「当たり前ですよ。それがSAOのデータベースに登録された、あなたの正式な名前なんですから。ね?最高傑作きよぽん君?」
まさかこんな名前のプレイヤーが秘密潜入捜査官だとは、さすがの茅場氏も予想すら出来ないでしょう。(笑)
「だが坂柳、この格好で片手剣や薙刀を持つと、些か間抜けに見える気がするんだが」
くっ?!た、確かに・・・そこは忘れていました。(汗)
「しかし、どうやって茅場を探す?闇雲に動いたところで時間のムダだし、却って警戒されてしまう恐れもあるぞ」
さすが綾小路君。話題の切り替えも早いです。と言いますか、本当はこれが本題なのですが・・・
「ご心配なく。もう目星はつけてありますから」
むろんわたくしとて、抜かりはありません。事前に収集した情報から導かれる答え。それは・・・
「おそらく茅場氏は、ゲームクリアの最前線に立つ攻略組の中に居ると思われます」
「なぜそう思う?司直の手を逃れたいなら、むしろ目立たない後方でおとなしくしているはずだ」
「ええ、ですがこのゲームを作った彼が攻略にも参加せず、ただ後ろから眺めているだけで満足出来ると思いますか?」
「なるほど・・・一理あるな。じゃあ、先ずはその攻略組とやらに入ってみるか」
そんな、チャットグループに入るみたいなノリで言われましても・・・
「そうですね。ただ、いまのわたくしたちのレベルでは相手にもされないでしょう。早急にレベリングを進め、攻略組に相応しい力を身に付けなくてはなりません。ようこそ実力至上主義の攻略組へ」
「なんだそれは・・・新作のラノベタイトルか?まさかとは思うが、略称は『よう実』とか言わないよな」
「清隆君・・・」
その後の展開は、皆様もご存知の通りです。わたくしは彼とはぐれ、転移門を街の入り口と間違えて中層フィールドへ迷い出た挙げ句・・・変態触手モンスターに遭遇して大ピンチのところを、目の腐ったプレイヤーに助けられたのですが・・・
ふぅ・・・♥️あの触手プレイ・・・癖になってしまいそうです。(爆)
あれから2週間。結論から申し上げましょう。やはり仮想空間でも綾小路君は天才でした。本格的なレベリングを開始した彼はこの短期間でユニークスキルを獲得し、攻略組トッププレイヤーの座に躍り出のです。それも無課金で。運営としては、たまったものではありませんね。
「念のためお聞きしますが、どうやってレベリングしたのですか?」
「特別なことはしていない。ただ、まとめサイトの内容を2週間、忠実に再現してみただけだ」
「清隆君・・・それ絶対、他のプレイヤーの前では言わないで下さい」
「は?なぜだ?」
はぁ・・・真面目にレベリングしている廃課金プレイヤーの方々がこれを聞いたら、ショックのあまり引退してしまうかも知れませんね。え?わたくしですか?一応、攻略組に入れるレベルには達しましたが、何か問題でも?(無自覚)
「それで坂柳・・・じゃなくて、ありす。茅場の正体は絞り込めたのか?月城が指定していた期限は今日だぞ?」
ふふふ・・・ご心配なく。綾小路君がレベリングに専念している間、わたくしはわたくしで、茅場氏に関する情報収集を進めていたのですから。そして、すでに答えは出ています。そう、予想通り彼は何食わぬ顔で攻略組主要メンバーの中に混じっていました。そのプレイヤー名は・・・(ムダな引き延ばし)
「ええ、もちろんです。今夜は第75層ボス戦のあとに、ちょっとしたイベントをご用意してありますので、楽しみにしていて下さいね?ふふふ・・・」
「・・・頼むから、ほどほどにしてくれ・・・」
~ 回想シーンおわり ~
次回最終話:ようこそ実力至上主義のSAOへ(後編)
そして全てが白日の下
に・・・
「悪いな。自分が負ける姿は想像できない」(きよぽん)
「ほぅ・・・神聖剣を持つ私に勝てると言うのかね?」(ヒースクリフ)
「ええ、彼は作られた天才ですから」(ありす)
「あの・・・俺の出番、どこ?」(はちまん)