今回はとある人物が大活躍です。
フジヨキ台。その中央に佇む二体の怪獣を、自衛隊の一部隊は観測をしていた。
1時間前のあの行動から、ヤツらは動いていないが、いつまた動き出すか分からない。そうした緊張感が、隊員たちを包んでいた。
遡ること3時間前。
グリッドマン、ダイナゼノンを蹴散らした二体の怪獣に対し、国は自衛隊の出動を決定。総力を挙げて、この二体を撃滅するために作戦を始めた。
しかし、結果は惨憺たるものだった。自衛隊の持つ火力では、ザノンたちの体表にあるエネルギーシールドを破ることはできず、二体とも戦闘終了までかすり傷を負うことすらなかった。
それに対し、向こうの火力は圧倒的だった。放たれる超音波メスに荷電重粒子ビーム、マイクロ波シェルなどの高火力技で、地上部隊は10分と持たずに壊滅。航空戦力も、戦闘ヘリはザノンAが胸部から放った液状弾と鱗弾で撃墜され、空爆機はザノンBが背中の触手から放った超音波メスに撃墜された。
それにより、自衛隊は作戦開始から30分で撤退を余儀なくされた。
自衛隊の作戦失敗を受け、世界の動きは速かった。水面下で進められていた、多国籍軍による弾道ミサイルでの集中砲火作戦。
民間人の犠牲に配慮しない作戦ではあったが、被害拡大を防ぐためとして、自衛隊の作戦失敗の報告を受けた各国はすぐさまミサイル発射に踏み切った。
しかし、ここでザノンは、各国が全く想定していなかった行動に出た。
ミサイルが発射される数分前。ザノン二体は空を見上げたかと思うと、全身に強力なプラズマを走らせた。そのエネルギーを、ザノンAは翼に、ザノンBは背中の背びれに集中させた。
そして、エネルギーの集まった箇所が辺りを照らすほど眩く光ったと思った、次の瞬間。
ザノンAは翼から、ザノンBは背部から、虹色の光線を空に放ったのだ。
虹色の光線は成層圏を越えた後、まるで本物の虹のようにアーチを描いて地上へと降り注いだ。今まさにミサイルが発射されようとしていた、その場所へ。
その光線は世界各地に飛び散り、ミサイルに発射場所を的確に消し飛ばした。
いや、それだけではない。世界中の軍事施設を正確に狙い撃ち、たったの5分で、世界中の軍は瓦解してしまった。
そうして世界をわずか2時間で制圧したザノンたちは、フジヨキ台の中心を占拠し、活動を停止したのだった。
その様子を、アヤメとゴルドバーンも、もちろん見ていた。
特に落胆などなかった。あのレベルの怪獣に勝てるのなら、ガメラが戦う必要などない。
むしろ、無駄に命を散らせてしまったことへの罪悪感がある。
もっと自分が戦えていれば……。
アヤメの頭がそんな思考に沈みだしたときだった。
ふと、視線をお見舞い品が置いてあるテーブルに向けたとき、昨日起きたときにはなかった封筒が置いてあった。
さっき起きたときは、外で怪獣とダイナゼノンたちが戦っていため、そちらに意識をとられて気づかなかった。だが、眠る前にこんなものはなかったはずだ。
アヤメはその封筒を手に取る。封筒の差出人には、夢芽。
「夢芽?」
アヤメへ、と書かれた封筒を開けてみれば、そこにはいくつかの便せんが入っていた。
「手紙、かな? でも、なんで……」
疑問はあったが、自分宛ということは読んでも問題ないだろう。アヤメは、とりあえず夢芽からの手紙を読んでみることにした。
一方、フジヨキ台上空。
バリアの中で、蓬たちは未だ動けずにいた。
「クソ! 怪獣が暴れてるってのに、何も出来ねえなんて! もどかしいにも程があるぜ!」
ガウマが忌々しそうに言う。
「しょうがないですよ、ガウマさん。今の俺たちじゃバリア割れません。逃げ切ったナイトさんとグリッドマンを信じましょう」
蓬は、ガウマを落ち着かせるために声をかける。ダイナゼノンの中にいたおかげか、中にいる皆とは普通に会話が出来た。
さすがに会話も遮られてしまえば心細かっただろうが、このバリアにそこまでの効果はなくて助かった。
「あとはガメラっすね。きっと助けに来てくれるっすよ!」
蓬に賛同するように、ちせがそう言う。
しかし、それに否定的な見方を示したのは夢芽だった。
「でもさ……、ガメラ来ちゃったら、アヤメも戦っちゃうよ……。そしたら、アヤメは今度こそ……」
「あー……」
夢芽の言葉で、ちせも大体の想像がついたのか、申し訳なさそうに声を出す。
「すいません、夢芽さんの気持ちも考えずに……」
「ううん。ちせちゃんは悪くないよ」
そう言う夢芽の声は暗かった。
そうなる夢芽の気持ちも、蓬は何となく理解できた。せっかく自分たちが、アヤメの代わりに戦えると思ったら、敵に捕まってこのザマだ。アヤメを戦わせないように、と人一倍意気込んでいた夢芽に、この結果はかなり堪えるものだろう。
だが、落ち込んでいるだけでは、状況は好転しない。蓬は夢芽を励ますために声をかける。
「大丈夫だよ、夢芽。ちゃんと手紙書いてきたじゃん。あれ読んでくれれば、きっと踏みとどまってくれるって」
「本当に……? 私から提案しておいてなんだけど、あれでアヤメ止まるかな……? 私たちの言葉、届くかな?」
「届くよ、きっと! アヤメさんだって、そんなにヒドい人じゃないって。だから信じよう? アヤメさんのこと。そんなに悩まなくても、アヤメさんなら、夢芽を悲しませる決断はしないよ」
蓬の言葉に、うん、と小さな声で頷く夢芽。未だ表情は晴れないが、それでも先ほどよりはマシになっただろう。
すると、それを聞いていたガウマが口を開いた。
「おい、夢芽」
「……なんですか?」
「俺はアヤメのことはよく知らねえ。だから、安易に大丈夫だっては言えねえけどよ。少なくともガメラのほうは、心配しなくても良いと思うぞ」
「どうしてですか?」
「んなもん簡単だ。ガメラって怪獣は、人のこと、ちゃんと見てる怪獣だろうからな」
ガウマは自信満々に、そう言った。
その言葉は、ガウマ隊全員に心当たりがあったようで、皆がゆっくりと頷く。
「そうっすね……。ガメラならきっと……。とりあえず、今は皆さんの救出を待ちましょう!」
ちせの言葉で、全員はガメラたちが助けてくれることを信じて待つことにした。
時間は少し遡り、一時間前。
フジヨキ台とは別の宇宙にあるツツジ台。その一角にある、ジャンクショップ『絢』には、三人の人影があった。
少女、宝田六花と、少年、内海将、そして二代目と呼ばれる女性は、そのジャンクショップにある古いコンピュータの画面を見ていた。
すると、その画面が光り、直後、二人の人間が吐き出されるように、画面から飛び出して地面を転がる。
その内の一人はナイト。そして、もう一人が……。
「「裕太!!」」
六花と内海にそう呼ばれた赤髪の少年は、イテテ、と言いながら立ち上がる。
「六花……、内海……」
「大丈夫か、裕太!」
「ケガとかしてない!?」
「ああ、うん。それは大丈夫」
心配してくる親友と彼女に無事だと示すため、笑ってケガがないことを見せる。
「ナイトくん! 大丈夫ですか!?」
一方のナイトには、二代目が駆け寄る。裕太とは違い、ナイトはかなり息を上がっており、未だ立てずにいた。
「ナイトくん!」
「だ、大丈夫です、二代目……。先ほど、無理に再変身をした、反動が、来ているだけです……」
「それを大丈夫とはいいません!」
「す、すみません……」
二代目に怒られたナイトは、申し訳なさそうに頭を下げる。
「でも、よかった。二人は無事で……」
少し安心したように息を吐く六花に、内海は険しい顔で呟く。
「確かに、裕太たちは無事だったけどさ……。今の状況って、結構ヤバくね?」
「内海さんの言うとおりです。私たちの状況は、かなり追い詰められてしまいました」
二代目のその言葉に、裕太は先ほどのことを思い出して、コンピュータの中にいるグリッドマンに話しかける。
「そうだよ! 蓬たちを助けないと! グリッドマン、もう一度アクセスフラッシュしよう! 早く助けてあげないと……」
早口で喋る裕太を、グリッドマンは諫める。
『待て、裕太。今、もう一度行っても危険なだけだ。残念だが、今の私たちに、あの怪獣に勝てるだけの力はない』
「でも!」
「グリッドマンの言うとおりだ、響裕太。俺も、今の戦いでエネルギーを使い切ってしまった。次に変身出来るようになるまで、かなり時間がかかる。その状況で、お前とグリッドマンだけで戦うつもりか?」
「それは……」
ナイトの言葉に言葉を詰まらせる裕太。確かに、フルパワーグリッドマンでも互角か、少し劣勢気味だったあの怪獣に、グリッドマンだけで太刀打ち出来るとは、裕太でも思えなかった。
「……すみません。ちょっと冷静じゃありませんでした」
「いえ、焦る気持ちも分かります。仲間のほとんどを捕らえられてしまいましたからね」
二代目が俯きながら言う。暗い雰囲気が店を支配する。
「ガウマたちも捕らえられた以上、戦えるのは俺、グリッドマン、あとは……、ガメラか」
「ですね。でもナイトくん、ガメラって確か……」
「ええ。今は所在不明です。正直、あまりアテには出来ないかと」
こうして残存戦力を数えると、より勝ちが遠くなったように感じる。せめて、蓬たちだけでも解放できれば……。
裕太がそんなことを考えていると、内海が恐る恐るといった感じで手を挙げる。
「ん? どうした?」
ナイトがそれに気づき、内海に声をかける。
「あ、いや~、その気になった単語がありまして……」
「気になる単語?」
「はい。その、ガメラって何のことですか?」
「ああ、お二人にはナイトくんが向こうに行ってからのこと、まだちゃんと説明していませんでしたね。ガメラというのは……」
「亀の怪獣のことだ~、なんて」
二代目が説明しようとするところへ、内海はふざけた調子で言葉を被らせる。
それに対し、目つきの変わるナイトと二代目。内海は自分がやらかしたことを確信した。
「あ、すいません。冗談で……」
「……内海さん、今の情報、どこで?」
「え?」
「ガメラのこと、どうして知っているんですか?」
二代目が有無を言わせない雰囲気で詰め寄ってきたことで、内海は後ろに下がりながら答える。
「え、えっと、特撮好きとしては知ってて当然というか、一般教養というか……」
「はっきり答えろ、お前は知っているんだな?」
二代目だけでなくナイトも加わり、二人で内海に詰め寄る。
「は、はい! 知ってる! 知ってます!」
もう限界、という感じで答える内海。裕太も気になって、内海に質問する。
「よく知ってるね。すごい内海」
「いやいや、裕太さん。ガメラシリーズは特撮好きには一般教養よ。知らないほうが少数派だって」
「シリーズ?」
裕太が聞き返すと、内海は興奮したように表情を変える。
「そう! 第一作の『大怪獣ガメラ』から始まった、怪獣映画シリーズ! 昭和、平成とシリーズがあって、特に平成のは、平成三部作として今も語り継がれる名作で……」
「ちょっと待て。ガメラは映画なのか?」
ナイトは内海の話を遮り、確認するように尋ねる。
「あ、はい。知りません? ガメラ」
さも当然のように答える内海。それに対し、他の四人は驚愕といった顔で、内海を見つめる。
「じゃあ、さっきまで戦ってた怪獣も分かるのか?」
「ああ~、あのギロンとかギャオスっぽい怪獣ですか? 確かにギロンやギャオスの面影はあるけど、デザインがちょっと違うんだよな~。特にギロンなんか、あんなスタイリッシュじゃなかったし。いやでも、あの頭の包丁はどうみても……」
ブツブツと一人で喋りはじめた内海。だが、ナイトと二代目は驚愕で開いた口が塞がらない。それはそうだろう。怪獣の名前も伝えていないのに、先ほどまで戦っていた怪獣たちの名前を正確に答えたのだから。
相手の情報が欲しいとは思っていたが、まさかこんな身近に転がっているとは、二人とも夢にも思っていなかった。
「内海さん!」
「だからあれはやっぱり、って、はい?」
「力を貸してください! あなたのその知識に、全てがかかっています!」
「……え? ええーーーーーー!!?」
二代目のその言葉に、ここ数年で一番であろう大声を出した内海だった。
「なるほど。まさか、映画になっていたとはな……」
内海のオタク講義を聴き終えたナイトは、そう呟く。
「でも、これならなんとかなりそうですね! あとは相手の怪獣の弱点が分かれば、戦いようがあります!」
二代目も嬉しそうに声を上げる。
「というわけだ。さっさと相手の怪獣の弱点を教えろ」
ナイトは内海にそう言うが、その内海は気まずそうな顔をする。
「ん? どうしたの、内海」
裕太が尋ねると、内海はとても言いづらそうに口を開く。
「ああー……、えっと、あの合体怪獣は俺も知らないっていうか……」
「なんだと?」
すごむナイトにビビりながら、内海は答える。
「だ、だって、あんな怪獣、ガメラシリーズにはいなかったんだよ! それに今回の怪獣たちのなかじゃ、明確に弱点用意されてるの、ギャオスの日光に弱いってヤツだけだし……」
「あれ? でも、その怪獣、普通に日が出てる中、活動してなかった?」
疑問を口にする六花に、内海は頷く。
「そうなんだよ! もうあのギャオス、『大怪獣空中決戦』のときみたいに日の光を克服してんだよ!」
「つまり、明確な弱点はない、ということなんだな?」
「はい……」
「チッ。期待させておいて……」
「すみません……」
ナイトにそう言われ、へこむ内海。まあまあ、と二代目が宥めるも、その二代目の顔も晴れない。
「しかし困りましたね。弱点がないとなると、もう打てる手が……」
その言葉に、誰も何も言えない。さすがに、もう作戦が思いつかない。
二代目が唸っていると、内海が手を挙げる。
「あの~、ガメラに任せるってのはどうでしょう? 俺の知ってるガメラなら、あんな怪獣絶対に許さないだろうし」
その提案に、ナイトは厳しい顔を向ける。
「麻中蓬たちの話が本当なら、厳しいだろうな。戦いには来るかもしれないが、ガメラは以前の戦いで右腕を失っていて、俺たちが向かった時点でかなり重傷を負っていた。あれからまだ、1日と少ししか経っていない。いくらヤツが怪獣でも、そんなにすぐに傷も体力も回復はしない」
「そう、ですか……」
良い案だと思ったんだけどな、と呟きながら、内海はソファに腰を下ろす。
しかし、そこで二代目が顔を上げる。
「そうだ……。そうですよ! ガメラです! 内海さん、ありがとうございます!」
「え?」
「二代目、どういう意味ですか?」
困惑する内海を尻目に、ナイトは二代目に尋ねる。
「向こうの怪獣を弱体化できないなら、こちらの戦力を強化すればいいんですよ! ガメラの傷を癒やして、体力を回復させることができれば、十分に勝機はあります!」
その言葉に、全員がハッとする。今まで相手の怪獣を倒すことに躍起になっていて、こちらの戦力を強化するという視点がすっかり抜け落ちていた。
「なるほど、確かにその考えはありませんでした。さすがです二代目」
ナイトの言葉に、いやいや、と謙遜しながらも、嬉しそうにする二代目。
「じゃあ早速、ガメラの傷を癒やす方法ですが……」
「グリッドマンのフィクサービームはどうです? あれなら、ガメラの傷も癒やせるんじゃ……」
裕太がそう提案するも、グリッドマンは、厳しいな、と答える。
「どうして?」
『私のフィクサービームは、あくまで修復光線だ。失った右腕を元に戻すことは出来るだろうが、生物の傷を癒やしたり、体力を回復させる効果まではないんだ』
「そうなんだ……」
『すまない』
謝るグリッドマンに、グリッドマンは悪くないよ、とフォローする裕太。
「う~ん、確かにフィクサービームでは、体力回復は出来ませんからね~……。さて、どうしたものか……」
顎に手を当て、考え込む二代目。そこに、今度は六花が手を挙げる。
「それじゃあ、好物を食べさせるとかはどうですか? 好きなものいっぱい食べれば、元気になったりしません?」
六花の提案に、ナイトは内海に目を向ける。
「どうなんだ? ガメラの好物を知っているか?」
「え? えっと、作品によってマチマチですけど……。あ、火! 火、食べてました。初代だと。それ以降でも、熱とか火をエネルギーにしてる描写はちらほらあって……」
「火か……。どれくらい必要なんだ?」
ナイトの質問に、内海は自身の記憶をたぐり寄せる。
「えっと、劇中だと地熱発電所襲ってたような……」
内海の話が長くなる前に、ナイトは話を切り上げる。
「現実的ではないな。専用の施設もないところでそれだけの熱エネルギーを作るとしたら、作り出す前にあの街が火の海だ」
「これもダメか~……」
浮かしかけた腰を再びソファに落として、内海は天井を仰ぐ。
「他にはないのか?」
「他って言われても、そもそもガメラはほとんど何も食べないんですよ。一応、緋色真珠を食って強化はあったけど、あれはガメラが自爆しないと取れないし……」
難しい顔で唸る内海。
この中で一番ガメラに詳しいであろう彼が思いつかないのなら、作戦は暗礁に乗り上げたと言っていいだろう。
「良い案だと思ったんですけどね……」
残念がる二代目。だが、落ち込んでもいられない。残された時間は少ない。有効に使わないと。
そんな考えをナイトがしたところで、内海が、あっ、と声を上げる。
「内海?」
「声援だ……」
内海の言葉に、裕太と六花は首をかしげる。
「内海くん、どういうこと?」
「ガメラを復活させる方法! 声援があった! レギオン戦の時、ガメラは一回仮死状態まで追い込まれたことがあったんだ。でも、その時、ガメラの復活を信じる子どもたちが集まったんだよ。そしたら、その想いに応えるように、仮死状態から蘇ったんだ! それ以外にも、ガメラが人々の声に応える描写は、色んな場面でされてる。だから、俺たちの声を届けられれば、きっとガメラもまた立ち上がってくれるはずだ!」
そう熱く語る内海。その目は生き生きとしていて、疑うことなど知らぬ目だった。一方の六花は呆れたように言う。
「いや、声援って……。漫画やアニメじゃないんだから、そんなことある?」
六花のその言葉に、内海はムッとして言い返そうとした。
しかし、その言葉に内海より先に反論したのは、裕太だった。
「いや、そんあことあるよ六花。俺とグリッドマンがここまで勝ててきたのは、二人の応援があったからだ。そうだろ? グリッドマン」
『ああ。二人が私たちを信じてくれたからこそ、私たちはこれまで戦ってこれた。勝つことができた。二人の気持ちはいつだって私たちにパワーを与えてくれた』
グリッドマンが語るのは、これまでの戦いの記憶。アレクシス・ケリヴとの戦いだって、皆の心が集まったからこそ、勝てたのだ。
「誰かが信じて応援してくれるって、時には理屈を超えたパワーになるんだ。だからきっと、ガメラにだって届くはずだよ」
裕太はそう言い切る。その顔は、いつもの柔らかい雰囲気ではなく、グリッドマンとともに戦ってきた、戦士の顔だった。
「しかし、どうする? 声を届けるとは言っても、手段が用意出来なければ……」
そこまで言ったナイトに、裕太はリストバンドを外して、腕に装着されたものをナイトに見せる。
「アクセプター? ……そうか!」
裕太の腕に装着されたもの、グリッドマンと繋がるためのアクセプターを見て、ナイトは納得したように頷く。
「うん。アクセプターは皆の心を繋げて一つにする。だったよね、グリッドマン」
『ああ、その通りだ!』
裕太の声に、グリッドマンは拳を作り、強く頷く。
「アクセプターを通して、皆の声をガメラに届ける」
『同時に私のフィクサービームで、ガメラの腕も元に戻そう』
「そうすれば、きっと……」
皆まで言わなくとも、裕太たちの言いたいことは分かった。
きっと、また立ち上がってくれる。この場にいる全員がその思いだった。
皆の意見をまとめるように、二代目が口を開く。
「決まりですね。この作戦に賭けましょう。あと、不安があるとすれば……」
「ガメラと、どうタイミングを合わせるか、ですね」
ナイトが確認するように、二代目を見る。二代目もナイトの言葉に頷く。
「ええ。作戦の性質上、ガメラが現れたタイミングでこちらも動かないと、この作戦は成功しません。グリッドマンにも活動限界がある以上、早すぎても、遅すぎてもダメですから」
二代目の言葉に、頷くグリッドマン。
しかし、そこで六花が疑問を口にする。
「でも、ガメラとは意思疎通できないんですよね? それなのに、どうやって……」
六花の疑問も最もだろう。意思疎通できるのなら、連絡を取ればいいだけなのだが、ガメラが今現在、どこにいるのか誰も把握していない。となると、合わせるのは至難の業だ。
「そもそも、来てくれるんですか? 一週間以上動かない可能性だって……」
「いーや、六花さん。それはないね、間違いなく」
内海はそう言って、六花の挙げた可能性を否定する。その顔と声は、自信に満ち溢れていた。
「なんで内海くんにそんなこと分かるの?」
「簡単さ。ガメラはいつだって、俺たちの、子どもの味方なんだぜ?」
そう言い切る内海。好きなものを語る、いつもの内海だが、今回は普段と違い、裕太には頼もしく思えた。
「とにかく、ガメラとタイミングを合わせることについてだが、それは俺がどうにかする」
ナイトはグリッドマンたちにそう伝える。
「でも、ナイトくん。どうにかって、どうするつもりですか?」
「簡単なことです。俺がもう一度向こうの世界に行きます。幸い、二代目とは連絡が出来る状態です。向こうでガメラの出現を確認したら、すぐさま伝えます。そうしたら、グリッドマンが移動するパサルートを開いてください」
ナイトの作戦を聞き、二代目は頷く。
「分かりました。ただ、無茶だけはしないでくださいね」
「分かってます」
「では、ジャンクの調整が終わったら、パサルートを開きますね」
ジャンクの調整という言葉に引っかかり、裕太は二代目に尋ねる。
「ジャンクの調整? もうキャリバーさんたちがやってくれましたけど……。それに俺もグリッドマンも普通に戦えてましたし……」
そう言う裕太に、二代目はジャンクをいじりながら答える。
「いえ、この調整ではまだ不完全なんです。ザノンが展開している結界によって、別宇宙からの干渉はかなり不安手な状況でした。そのため、グリッドマンの力を安定させるために、あえてパワーを抑える調整をしていたんです」
ですが、と言ったところで、グリッドマンの姿に変化が訪れる。
『これは……!』
「ザノンの結界の波長は解析できました。これで、パワーを抑えなくても、グリッドマンは戦えます。裕太さんと、皆さんの力を集結させたこの姿で!」
ジャンクの中のグリッドマンは、青や金色が増えた姿となる。その姿はかつて、この世界に迫った脅威、マッドオリジンを倒し、世界を救ったグリッドマン・ユニバースファイターの姿だった。
「この姿って……」
「前に変身した最強形態じゃん! これなら勝ったも同然だな、裕太!」
六花も内海も驚くと同時に、声に喜びが滲み出る。
それもそうだろう。グリッドマンのこの姿は、最強の敵を打ち破り、この宇宙を消滅の危機から救ったのだから。
はしゃぐ二人に、ナイトは忠告のように言う。
「喜ぶのはまだ早い。この姿のグリッドマンでも、あの怪獣たちに勝つのは厳しいだろう。予定通り、ガメラの力も復活させて、全員で戦うぞ」
ナイトがそう言ったとき、ツツジ台の空にパサルートが開く。
「もうパサルートを開けられたんですか。早いですね、二代目。さすがです」
ナイトはそんな褒め言葉を二代目にかける。
しかし、二代目のほうは、信じられない、といった顔で空を見ていた。
「違います……! 私、まだ開けてません!」
「え?」
二代目の言葉に困惑する裕太。この中でパサルートを開けられるのは二代目だけだ。その二代目じゃなければ、誰が開けたというのだ。
その裕太の疑問は、すぐさま解消された。
空に開いたパサルート。そこから、フジヨキ台にいたはずの、ザノンAが降ってきたからだ。
ドォン!!
ザノンAが着地した衝撃が、街を駆け抜ける。
「グアアアアアア!!!」
立ち上がったザノンAは巨大な咆哮を上げ、音が窓ガラスを揺らす。
「ウソ……! あの怪獣、なんで……!」
六花も訳が分からない、という顔で、ザノンAを見る。
一方の二代目は、何かを思いついたのか、ハッと顔を上げる。
「そうか……! 恐らく、逆探知です! 先ほどナイトくんたちが撤退したときのパサルートから、こちらの宇宙を見つけたんです!」
「そんなこと可能なんですか!?」
裕太の質問に、二代目は頷きながら答える。
「敵は別宇宙からの干渉を遮る結界を張れる存在です。出来てもおかしくはないかと……。迂闊でした。私がもっと注意していれば……」
すると、ザノンAの両手にプラズマが走り、直後、マイクロ波シェルが放たれた。マイクロ波シェルはビル群を灰燼へと変えていき、空は一瞬で紅蓮に染まりだす。
その様子を見ていた裕太は踵を返し、リストバンドを外して、ジャンクの前に立つ。
そして腕を掲げたところで、ナイトが声で制止する。
「何をしている、響裕太! 作戦を忘れたのか!」
「忘れてません! でも、今俺たちが戦わなかったら、この街はどんどん破壊されます! 大事な人だって殺させるかもしれない! そんなことをさせるわけにはいきません!」
「相手だってそれくらい分かってる。それでも勝算があるから、こっちに干渉してきたんだ。ここでお前たちが力を使い尽くせば、ヤツらには勝てなくなるぞ!」
「それでも! 今、命の危機に晒されている人がいるんです! その人たちを見捨てるわけにはいきません!」
裕太は強い目と意思で、ナイトを見つめ返す。
その様子に、ナイトは諦めたように言う。
「……分かった。そこまで言うなら、お前たちを信じよう。だが、忘れるな。お前とグリッドマンが負ければ、この世界は終わりだ」
「分かりました」
裕太は頷き、ジャンクへ向き直る。と、その直前に、六花が声をかける。
「裕太……」
「六花?」
「……無茶するなって言っても、どうせ無茶するだろうから、それは今更言わない。けど、これだけは約束して。絶対無事に帰ってくるって……!」
「もちろん! 六花を悲しませることは、俺だってしたくないし!」
「……あーもう。待たせたら承知しないからね」
「うん!」
そう返事して、今度こそグリッドマンと向き合う裕太。
「じゃあ、行こう! グリッドマン!」
『ああ!』
そうして、裕太はアクセプターを掲げる。
「アクセス、フラーッシュ!」
裕太の右腕がアクセプターと重なる。すると、裕太は光に包まれ、ジャンクの中へと吸い込まれる。
その直後、空に光が現れ、そこから巨人が地上に降り立つ。
怪獣と対峙する形で、グリッドマン・ユニバースファイターが再びこの地上に舞い降りた。
手紙の最後の文に目を通し、アヤメは顔を上げる。
(夢芽……。皆……)
アヤメは手紙を封筒に戻しながら、夢芽たちの顔を思い出す。
だが、ゴルドバーンの騒ぐ声が聞こえたことで、アヤメの思考は現実に引き戻される。
どうやら、感傷に浸っている時間は無さそうだ。
窓の外を見れば、今まで動いていなかった、ザノンA、Bが動き出していた。
ザノンAが背中の翼にプラズマを纏わせ震わせると、空間に穴が出来る。それは、先ほどグリッドマンたちが離脱したときの穴と似ている。アヤメが勾玉で解析すれば、それは別次元へと繋がるワームホールだった。
(ワームホール? 一体どこへ……? まさか!)
アヤメが一つの可能性を思いついたと、ほぼ同時。ザノンAはワームホールに飛び込んだ。
(マズい! まさか、グリッドマンたちの追撃に!? いや、そうとしか考えられない!)
すると、ザノンAがワームホールを通ったことを確認したザノンBも、行動を開始する。
地面にエネルギーを送り込み始め、ザノンBを中心に地面が光りだす。
アヤメがそちらに勾玉を向けて解析をすれば、星の力場が僅かに歪んでいた。
(これは……、星が歪んでいる? まさか、あの怪獣のエネルギー源に、この星を使うつもり!?)
確かに、ザノンの使う重力操作を世界規模で展開すれば、星は圧縮され、その際に膨大なエネルギーを発生させるだろう。その瞬間を狙って自身の体内に取り込めば、オリリウムなど霞むほどの、半永久機関のような器官を備え、無限のエネルギーを得られるようになるだろう。
そんなことをされれば、この星が滅びるだけでなく、もうザノンを止められる存在もいなくなってしまうだろう。
(そんなことさせるわけには……! でも、どうすれば……)
世界滅亡のカウントダウンが始まったが、今のアヤメにはどうしようもない。
このまま指をくわえて見ているしかできないかと思った、その時。
勾玉が、強く光った。
「……きた!」
アヤメがそう呟くと同時に、ザノンBも地面へのエネルギー供給を止め、ある一点を凝視する。
そこに見える青白い光。
「ゴアアアアアアア!!」
「ガメラ!!」
アヤメは思わず叫んだ。
空には、プラズマジェットで飛ぶ、ガメラの姿があった。
・ザノンA
体高:85メートル 体重:8万5千トン
殺戮融合怪獣ザノンの切り裂かれた上半身が、二つの足と尻尾を生やして蘇った怪獣。ジグラの液状弾、ギロンの鱗弾を撃ち出す機構がある他、Sギャオス譲りの超音波メスは健在。また、背中の翼は飛行だけでなく、バリアを張ることも出来る。極めつけは、翼にプラズマエネルギーを集中させ放つ、『虹光線』である。
・ザノンB
全長:160メートル 体重:10万5千トン
殺戮融合怪獣ザノンの切り裂かれた下半身が、頭と背中に触手を生やして蘇った怪獣。背中の触手は、荷電重粒子ビームを撃つのに使うだけでなく、触手の間に膜を張ることで、重力操作と併せて飛行が可能。尻尾も、ジグラとジャイガーのものが合わさっているため、追尾式の槍のように伸ばせる。必殺技は、背ビレにプラズマエネルギーを集めて放つ『虹光線』。
オリジナル怪獣、二、三体目です。といっても分裂しただけですが。
さて、今回のお話でツツジ台側のキャラも書かれましたが、これがツツジ台を舞台にしなかった理由です。ツツジ台が舞台だと、内海が無双して終わってしまうので。ちなみに内海の言っていることは、あくまで一個人のオタクの見解なので、絶対ではありません。