小説書くって難しい……。
「ゲホッ、ゲホッ、……せ、せんぱ~い、生きてます~?」
「ゴホッ、な、なんとか……」
ちせと暦は体を起こす。辺りは衝撃で舞った塵や砂塵でよく見えない。
「何が起きて……、え?」
「ん? どうした、ち、せ……」
ちせの視線の先。そこには巨大な岩があった。
いや、岩じゃない。足がある。その足に鳥の怪獣は踏み潰されていた。
足が動き、一歩前へ動く。足が着くと同時に振動と風が起き、辺りの砂塵を晴らす。それによって、その足の主の姿も露わにする。
「なんすか、これ……」
ちせの言葉に返事する余裕もない。
二人の前には、大きな亀のような怪獣が立っていた。岩のような皮膚に、巨大な岩山のような甲羅。手足には鋭い爪がある。
体高60mにもなりそうな巨大な怪獣は、その翡翠の色をした瞳で二人を捉える。
「ヒッ!?」
咄嗟に暦はちせを庇うように動くが、怪獣は何も仕掛けてこない。
「……? 攻撃、してこない……?」
暦がそう呟くと、それを肯定するように少女が口を開く。
「ええ。彼は、ガメラは私たちの味方です。だから、安心していいですよ」
すると、ガメラと呼ばれた怪獣は少女に向かって短く鳴く。
「え? 大きいのが? てことは、こっちのギャオスは囮でそっちが本命か……。よし、じゃあここを片付けてすぐに向かおう。私も手伝うよ」
少女の言葉にガメラは頷くと、駅の方から飛び立った鳥型怪獣、ギャオスの群れを見る。
一方、少女のほうは、精神を落ち着けるように大きく深呼吸すると、目をカッと開いて、ガメラに左手を向ける。そして、中指と薬指の間を開き、Vの字を作るように構える。
その構えにちせと暦は見覚えがあった。
「インスタンス……」
「え、マジ?」
「嘘っしょ…」
「サブジェクション!!」
そのかけ声と同時に、少女の瞳が、ガメラと同じ翡翠の色の光に輝いた。
ガタンゴトン、と電車に揺られながら、蓬と夢芽は今日一日のデートについて話していた。
今回のデートは特に事件に巻き込まれる事も無く、平穏に過ごせたと思う。むしろ今までが色々あり過ぎただけな気もするが。
そうして話していると、夢芽が思い出したように話題を変える。
「そういえば、私この前さ、水門のところで変な人にあったんだよね」
「え、変な人? ていうか水門って、夢芽まさか……」
「え、いや違うって。水門にはもう登ってないよ。ただ、通学路で水門のところ歩いてたってだけ」
「なんだびっくりした……」
「蓬は心配性だなー。まあ嬉しいけど。……ってそうじゃなくて。あれは三日前くらいかな。あそこ通った時に、土手に女の子が一人座ってて。何をするでもなく、遠く見つめてんの」
「ええ~? でも、気分転換でそうしてたって可能性もあんじゃない?」
「いやそれがさ、一人でなんかブツブツ呟いてるんだよ。雨の中、しかも一人で。さすがに何か変じゃない?」
「ん~」
「それに、あそこって蓬がガウマさんに会った場所の近くだし、もしかしたら……」
「いやいや、さすがに場所が同じってだけで、ガウマさんと同じとかはないでしょ。……ないよね?」
自分で言っていて自信が無くなる。あそこはダイナゼノン始まりの場所。蓬とガウマが初めて会った場所だ。確かに、そこにいる不思議な少女と聞くと、何か関連を考えてしまう。
とはいえ、あんな出来事が何回もあっても困るのだが。出来れば宇宙の危機を救うとかは、裕太たちとの件で終わりにしてほしい。
そんなことを考えていると、駅近くでもないのに電車の速度が落ち、線路の途中で止まってしまう。続いて流れるアナウンス。
「駅で不審物が発見されたため、一時電車の運行を停止します。お客様には……」
アナウンスが続く中、蓬は夢芽と顔を見合わせる。
「不審物ってなんだろう」
「さあ? でも、参ったな。これじゃしばらく動かないかも」
駅まであと少しだったのに、これとは。自分も中々運が無い。不審物が爆弾や薬品といったものだったら、最悪数時間は電車が動かなくなる。
(そしたら、バスかなー。まあこの距離なら、歩いて帰れなくもないけど、夢芽は大丈夫かな)
すると、頭を巡らせる蓬の肩を夢芽がつつく。
「ん? 何」
「いや、さっきの不審物ってさ、もしかして怪獣だったり……?」
「……いやいやいや、ガウマさんの話題が出たからって、さすがにそれは無いって……」
そんな蓬の言葉を遮ったのは、一つの咆哮だった。
「ギャオオオオオオオ!!!」
その声に、二人とも固まる。
「おい、アレなんだ!?」
その言葉と共に、一人の乗客が窓の外を指指す。その方向には、翼長が100mを優に超える巨大な鳥型怪獣が空を飛んでいた。血を全身に被ったような赤い体表が、直下の炎に照らされている。
「か、怪獣!? なんで!?」
「どうしてまた怪獣が!? もう現れないんじゃ……」
夢芽の冗談は当たってしまったようだ。
しかし、おかしい。以前の怪獣優性思想との戦いで、怪獣はもう現れないんじゃなかったのか。なぜ、またこの世界に怪獣が現れたのか。分からないことが多すぎるが、一つだけ分かることがある。今、この場にいるのは非常にマズいということだ。
「夢芽、電車を降りよう。ここは危ない気がする」
「うん!」
他の乗客も同じことを考えたのだろう。ドアを開けようとする者。窓を開けようとする者。それぞれがこの鉄の棺桶から脱出しようとしていた。
一方、怪獣『ギャオス』の方は、マゼンタ色のレーザー、超音波メスでエサの入っている建物を切り裂いては、その中のエサを貪っていた。
もちろん、食事を楽しむ事だけが捕食の目的ではない。食べれば食べる程、力が増していくのが分かる。そうして、ヤツに対抗出来る力を蓄えるのがギャオスの目的だった。
そうして、近くのエサを平らげ、新鮮なエサを探そうとギャオスが首をもたげた時だった。ギャオスの目に一つの反応が目に留まる。その波長は、ヤツの巫候補を示す波長だった。
それに気づいたギャオスは食事を止め、そちらに向かうことにした。ヤツらは先に排除しておかないと、いずれ自分たちの邪魔をするだろう。どうやら標的は鉄の箱の中にいるらしい。逃げられないうちに食べるべきだ。
そう考え、ギャオスは大きな翼を広げ、飛翔した。
蓬と夢芽は、人の波に飲まれながらも何とか電車の外に出る。幸い、しっかりと手を繋いでいたため、人混みではぐれることはなかった。
「よし、外に出られた。このまま駅まで走って、そこから下に降りよう!」
蓬の言葉に夢芽は無言で頷く。お互いがお互いの手を強く握りしめる。
一応、蓬には怪獣への対抗手段が無いわけではない。ドミネーションを使えば、いくらか足止めは出来るかもしれない。
(でも、あくまで最終手段だ。夢芽との約束もあるし、第一アイツにこれが効くとも限らない)
蓬はもしものことを考えながら、今は出来るだけ距離を離すことに専念しようと思った。
「よし、それじゃあ行こう!」
そして、蓬が走り出した瞬間だった。前方100mくらいを走っていた人たちが、大きな口に潰されて消える。
「「っ!?」」
二人が足を止めて、目線を少し上に上げれば、そこには先ほどの怪獣がいた。
血走った目が二人を捉える。
「っ!?」
その凄まじい殺気に蓬は気圧される。夢芽は足に力が入らないのか、必死に蓬に掴まって震えている。
ダメだ。この怪獣は違う。今までとは比べものにならない。
蓬の脳内を支配したのは、そんな考えだった。
今まで戦ってきた怪獣とは明らかに違う。今までの怪獣も街を壊してきたし、その中で人もたくさん殺してきただろう。しかし、そこに感じるのは、文明を壊そうとする破壊衝動だけで、人間一人一人を気にはしてなかった。
だが、目の前の怪獣はどうだ。明らかに殺気の質が違う。確実に人間を殺そうという意思、そして、殺戮に愉悦する歪んだ感情。ドミネーションをしても伝わってくるような、濃い殺気を感じた。
怪獣は蓬を見つけると、下卑た笑いを浮かべ、大口を開けて襲いかかる。
(ヤバ!? 一手遅れた! これじゃ、ドミネーションも……)
せめて、少しでも守ろうと夢芽を抱きかかえ、怪獣から庇う。
しかし、衝撃はいつまでも襲ってこない。
恐る恐る振り返ってみると、そこに怪獣の顔はなく、巨大な岩があった。
「……え?」
いや、岩じゃない。手だ。巨大な手が蓬たちと怪獣を隔てていた。
その手は怪獣の顔を掴むと、遠くへ投げ飛ばす。
その手の主は、怪獣だった。二足で歩く亀のような怪獣が高架線の横に立っていた。
怪獣はギャオスから、蓬たちの方へ首を向ける。蓬は咄嗟に身構えたが、怪獣は別段何かをするつもりはないらしい。蓬たちを見る翡翠の瞳は、口から覗く鋭く大きな牙とは対照的に、慈愛の目に満ちていた……、ように見えた。
すると、投げ飛ばされたギャオスが起き上がる。それに気づいた亀怪獣もギャオスに向き直る。
そうして、二大怪獣の大決戦は、お互いの咆哮をゴングに始まった。
先に仕掛けたのは、機動力で勝るギャオスだ。その爪で亀怪獣、もといガメラの皮膚を切り裂こうとする。しかし、爪が食い込んだのは薄皮まで。全く深く刺さらない。ならば、と放った超音波メスも皮膚に弾かれ、逆にガメラの拳をモロに顔面にくらう。
大きくのけぞったギャオスは態勢を立て直すために、ガメラから距離を取る。もちろんガメラも黙って見ているつもりはなく、喉にプラズマを迸らせ、口から巨大な火球、『火焔弾』を放つ。
ギャオスは何とか、火焔弾の連射を掻い潜り、先ほどより出力を上げて超音波メスを放つ。しかし、ガメラは即座に甲羅の面を向けて、超音波メスを防ぎきる。二度、三度と放つも、甲羅の防御は硬く、傷一つつけられない。
そんな時だった。ギャオスががむしゃらに撃った超音波メスの一発が蓬たちの方へと飛んでいった。すると、ガメラは防御姿勢を止め、蓬たちを手で庇う。庇った手から吹き出す緑色の鮮血。
好機と捉えたギャオスは近接戦に切り替える。ガメラが怯んだ隙を突き、飛行の運動エネルギーを乗せた蹴りをガメラにお見舞いする。今度は爪も刺さる。
そして、ギャオスの睨んだとおり、ガメラの動きが先ほどより悪い。怪我のせい、というより、足下の人間を庇って上手く動けないのだろう。この機を逃す手は無い。ギャオスは爪だけでなく、嘴での攻撃も加え、ガメラに攻撃を繰り返す。
「この怪獣、俺たちを庇ってるのか……? だとしたら!」
目の前で繰り広げられている戦いに動けずにいた蓬だったが、亀の怪獣が自分たちを庇うような行動をしだしてから、明らかに劣勢になったことに気づき、何とか足を動かす。
「夢芽、立てそう?」
「ご、ごめん、足、力、入んな、い」
「分かった、じゃあ背負うから乗って!」
そう言って蓬は夢芽を背負うと、戦域から離脱するため走りだす。
蓬が逃げる様子を見ていたガメラは、蓬たちが十分離れたことを確認すると、未だそのことに気づかず攻撃してくるギャオスの尻尾を掴む。
突然の反撃に面食らっているギャオスを地面に叩き付けると、そのまま喉を踏みつける。鈍い音がして、ギャオスは吐血する。超音波メスで反撃しようとするも、さっき潰されたのがその発射器官だったようで、掠れた音しか出なかった。
ガメラはそのままギャオスの顔を掴むと、爪を目に突き刺し、両目を潰す。絶叫を上げるギャオスを背負い投げの要領で地面に叩き付けるガメラ。
ギャオスは分が悪いことを今になって自覚し、撤退をしようとする。しかし、その選択はあまりにも遅すぎた。火焔弾で片方の翼を打ち抜かれ、すぐに地面に落ちる。
ガメラはギャオスにトドメを刺すために、大きく息を吸う。喉のプラズマがスパークし、口からはオレンジの光が溢れ出す。そして、狙いを定めたガメラは大口を開け、溜まった熱を勢いよく吐き出す。
先ほどより威力の上がった火焔弾は、ギャオスへ真っ直ぐ飛んでいく。ギャオスはその熱を感じながら、しかし最後まで負けを認めることはなく、リベンジを誓いながら、その体を灼熱に吹き飛ばされた。
ギャオスが火焔弾によって、消し炭になったことを確認すると、ガメラは勝利の咆哮を上げる。そうして、周りを見渡して脅威の殲滅を確認すると、足を折りたたむ。そして、手を伸ばして飛行に適した態勢を取ると、足のところからプラズマエネルギーを使ったジェット噴射で飛び立ち、夜の空へと消えていった。
その様子を見ていた蓬と夢芽。
その戦いはかつての自分たちと重なって見えて。
「蓬」
「うん」
この日、二人はまたしても日常が崩れだしたのだと確信した。
とりあえず1話分。
投稿頻度には期待しないでください。