戦闘シーン書くの楽しすぎる。
入道雲が巨木のようにそびえ立つ、夏の午後。
夢芽とちせはアヤメを引き連れ、ショッピングに勤しんでいた。
「あの、なんで私? 誘ってくれたのは嬉しいけど、他にもいい人がいたんじゃないの?」
遊ぶ気満々の二人にアヤメは尋ねた。
尋ねた理由は単純明快。なぜ自分が誘われたか分からないからだ。
ガメラをガウマ隊に紹介した翌々日。夢芽から買い物に一緒に行かないか、と誘いがあった。どうしようか迷ったが、怪獣の気配を感じられないので、調査ついでに良いかもしれないと思って了承したのだ。元々誘われていたちせも加わり、ガウマ隊の女子会のようになって、今に至る。
ただ、アヤメはこんなにいきなり遊びに誘われると思ってなかったのだ。まだ会って数日。それに、悪い怪獣ではないとはいえ、怪獣と交信できる存在なんてもっと距離を置かれても仕方ないと思っていた。
すると、夢芽が振り返って答える。
「だって、私、アヤメのことまだよく知らないし。だから、色々話してみたいなって思ったから」
と、そう言うのだ。
それが遊びに誘う理由になるのか、とアヤメは思った。普通は怪獣と交信出来る人間なんて、距離を置きたいものだと思ったのだが、どうやら違ったらしい。それとも、夢芽たちのほうが珍しいのか。
ともかく、約束してしまった以上、楽しまないのは失礼だろう。
それにしても、友達と遊ぶなんていつ以来だろうか。思っていたより、自分は人との生活を忘れてきているらしい。
(いや、それでいいんだ。あの日、そう誓ったんだ。皆にも、ガメラにも)
そう気を引き締め直し、夢芽たちとの会話をしながら、怪獣の反応を探った。
一方、フジヨキ台のファストフード店。
こちらには、蓬と暦、ガウマ隊の男性陣が集まっていた。
「ちせちゃんが変?」
暦に蓬は聞き返す。それに無言で頷く暦。
「変って、どういう……」
「いや、変っていうか、いやに積極的っていうか……。アヤメちゃんとガメラにすごい関わろうとするんだ。今日もアヤメちゃんと遊びに行ってくる、って言って出かけていったし」
「あ~……。それ、夢芽も同じかもです」
「え? 南さんも?」
「はい……。あまり友達作りたがらない夢芽とは考えられないくらい、アヤメさんに積極的に関わっていくっていうか。思えば、最初から積極的だったような気がするな……」
蓬がアヤメとのやり取りを思い出すと、夢芽がいつもより積極的だった気がする。
「まあ、ちせが危ない真似しなければ俺としては問題ないんだけど。どっか出かけようって言われなくなったし」
「確かに、俺も夢芽が危ないことしてないなら、言うこともないですしね。それに、夢芽が自分から友達作ろうとしてくれるなら、俺も嬉しいですし」
(暦さん。絶対出かけなくて済む方に喜んでるな)
そんなことを考えながら、ポテトをつまんでいると、暦が口を開く。
「実は蓬くんを呼んだのは、この相談をするためだけじゃないんだ」
「というと?」
「俺たちでもさ、怪獣を探さない?」
「……え?」
蓬は一瞬反応が遅れる。
今、暦はなんて言った? 怪獣を探す?
「ほら、この前集まったとき、今回の怪獣がどうやって生まれたか聞いたでしょ。今回の怪獣は、幼体で地上に投下され、徐々に成長していく。つまり、幼体のうちに倒せちゃえば、簡単に倒せるってことだよ」
「いや、でも」
「もちろん俺たちで倒せるとは思ってないよ。でも、異変を探るくらいは俺たちでも出来そうじゃん。だからさ、蓬くんにも協力してほしいなって」
「ええ……」
蓬は悩む。確かにアヤメのために何かしたいと思ったのは嘘ではない。ただ、暦の案はちょっと危険な気もする。
もし、怪獣を探る過程で怪獣に遭遇してしまったら、自分たちだけではどうにも出来ない。例えば、今回の怪獣たちがギャオスのような殺意を持った怪獣なら、小さくても十分殺される可能性はある。以前自分たちが遭遇した色塗り怪獣とは訳が違うのだ。アヤメが常にすぐ側にいるなんてことはないだろうし、対処できないだろう。
「……やっぱり危ないんじゃないですか? 俺たちにはもうダイナゼノンもないですし。今回の敵は、怪獣優性思想の人たちとはまるで違います。出会ったら殺されてもおかしくないですよ」
蓬は視線を落とし、手元にあるフライドポテトを見ながら言う。
「そりゃ、俺もアヤメさん手伝いたいなって思ってます。でも、やり方はもっと別にあるんじゃないかって思うんです。俺に何かあったら夢芽は悲しむし、暦さんに何かあったらちせちゃんも悲しみますよ」
しばしの沈黙。お互い言葉を発さない時間が続く。1分か2分経ったころ、暦が口を開く。
「……そう、だよね。さすがに危なすぎたな。俺も力になりたいって気持ちが先行しすぎたかも。やっぱ止めるよ」
「あはは……。でも、暦さんがそう思ってくれてたのは嬉しいです。俺だけじゃないんだって思えました」
「まあね。年下が頑張ってるのに俺が何もしないのは、ね? それに、久しぶりに出来たちせの友達だし。何とかしてあげたいよね」
「それなら、俺たちで何か考えましょ。二人ですけど、文殊の知恵になるかもですよ」
そこまで言ったところで、店にある時計が蓬の目に入る。その時間を見て、蓬は思い出す。
「あ、しまった! もうバイトの時間だ。すいません、暦さん。お会計は……」
「いいよいいよ。呼び出したの俺だし、俺が払っておくよ」
「すいません! 後で払いますから!」
そう言って、自分の荷物をまとめる蓬。
「ごめんね、今日は呼び出して」
「いえ! それじゃ、また!」
慌ただしく店を出て行く蓬。暦はその背中を見えなくなるまで追った。
蓬が見えなくなって、暦はため息をつく。
その手に握られたスマホには、下水道での異音騒ぎの記事が表示されていた。
「よっしゃ、勝ったー!」
「ぐわああ、負けた~」
夢芽の嬉しそうな声とアヤメの落胆の声が同時に響く。買い物の途中で寄ったゲームセンター。そこで、三人で対戦ゲームをしたのだが……。
「いやー、これでアヤメさん二連敗っすね」
「うう……」
「もしかして、アヤメって、ゲーム下手?」
「多分。同級生に勝てた試しないし」
落ち込んだ様子で答えるアヤメ。その落ち込みようは、本当に勝てたことないのだろうと想像するに難くなかった。
「ま、ゲームは勝ち負けじゃないっすから。結果より楽しかったかどうかっすよ!」
「ちせちゃんが全勝してなければ、納得できたんだけどなぁ……」
そう。こんなことを言っているが、ちせは全勝である。
「確かに。ちせちゃん、ゲーム強いね。私も勝てなかったし。そんな人に、ゲームの楽しみは勝ち負けじゃないって言われても……」
「わー! アヤメさんも南さんも拗ねないでくださいよ~! つ、次は協力できるやつ、紹介しますから!」
「う~ん、これとかアヤメに合うんじゃない?」
所変わって、洋服コーナー。夢芽は色々な服を持ってきては、アヤメを着せ替え人形のようにその服を着せていた。
「これとか、明るい感じになりそうじゃない?」
「これ? 私にはちょっと可愛すぎない?」
「そう? すごい似合ってると思うけど」
着せ替え人形にされているアヤメのほうは恥ずかしいのか、さっきから若干耳が赤い。
「これとかどうっすか? 白ワンピース。アヤメさんなら合うと思うんすよねぇ」
それに加え、ちせも乗り気なため、この着せ替えショーを止める人物はこの場にいなかった。
「ん~……。スカートが良いかと思ったけど、パンツもありか……?」
「あ、南さん! あれとか良いんじゃないっすか?」
「あ、いいかも。ちせちゃん、ナイス!」
「うええ~……。も、もう勘弁して~……」
アヤメの声は、これどう? という、夢芽の声にかき消された。
「それで、その時、ゴルドバーンが来てくれて……」
それからしばらくした後、夢芽たちはフードコートに来ていた。色々と巡ったので、休憩しようということになった。
話題はダイナゼノンでの戦いについて。アヤメが夢芽たちとダイナゼノンの戦いについて知りたいと言ってきたのだ。そのため、二人で覚えている限りを話していた。
「こんな感じかなぁ。……あー、私たちも六花さんたちみたいに纏めたほうがいいかな? ダイナゼノンの話」
「あー。いいっすね、それ。面白そうじゃないっすか?」
「六花さん?」
アヤメの質問に、夢芽は、まだ六花たちとの出会いとそこで起きた戦いの話をしてなかったと思い出す。
「六花さんってのはね、私の友達で……」
そうして、夢芽はあの一連の騒動を話した。途中、自分でも言っててよく分からなくなるところはあったが、アヤメが楽しそうに聞いていたので良しとした。
こうやって、誰かに語る形で自分たちの思い出を振り返ると、中々すごい出来事に遭遇したんだな、と改めて思わされる。
「へぇ~。そんなことが……。夢芽たちには悪いかもけど、なんか楽しそうだね」
「いいよ、気にしなくて。実際、私も楽しかったって思ってるし」
「私もっすね。大変だったっすけど、中々貴重な経験だったんじゃないっすか」
「それに私は、ダイナゼノンとガウマさんに会えたから、蓬とも会えて、今も幸せだし。そういう意味でも、本当に大切な思い出だよ」
「あ~、惚気っすか~?」
「んふふ~、そうで~す」
「あ、開き直った」
その様子に笑うアヤメ。多少強引に連れ回してしまったが、楽しそうにしてくれたのなら、目論見は成功だったかもしれない。そう思い、次に遊ぶ予定も考えだした夢芽だった。
もちろん、男性陣は抜きで、である。暦は暦だし、蓬とはもう少し様子を見てからだ。蓬はすぐ女子とも仲良くなるので、万が一にもないと思うが、もしアヤメと仲良くされたら、せっかくの友達を攻撃してしまわない自信が、夢芽には全くなかった。
「暦さんが変?」
アヤメがトイレに行ったタイミング。そこで、ちせは夢芽に近づいてきた。
そしてちせに、相談したいことがあると言われ、夢芽が了承すれば、暦の様子が変だと言われたのだった。
「変って、どこが?」
「何か、怪獣騒動にすごい熱心なんすよ。今までは何だかんだ言って就活してたんすけど、それもやんなくなっちゃって。昨日なんか一日中怪獣についての情報調べてましたし」
「う~ん……。ぶっちゃけ暦さんが就活に飽きたってだけの可能性もあるけど……。もしくは、暦さんも暦さんなりに、アヤメの力になりたくてやってるとか、じゃない?」
「そっすかね~……。それだけなら、まあ、いいっすけど。何か、変な熱が入ってるっていうか。先輩、変なこと考えてないといいけど」
「暦さんがどうしたの?」
「うわっ。ビックリした。トイレ、早いっすね」
「ごめん、驚かせるつもりじゃなかったんだけど。それで、暦さんがどうかしたの?」
予想以上に早いアヤメの戻りに驚くちせと、謝罪するアヤメ。
「えっ…と、いや、アヤメさんには関係ないっすよ。ただ、先輩の様子が変ってだけなんで」
「え、でも、変ってことは、何か問題があるんじゃ……」
「ああー、ま、先輩が挙動不審なのは今に始まったことじゃないんで。今回もその類いっすよ」
「そう。なら、いいんだけど」
その後、次の店に行くタイミングで夢芽がちせに声をかける。
「ねえ、なんで暦さんの話、誤魔化したの?」
その言葉にちせはアヤメを見ながら言う。
「だって、先輩のこと伝えたら、アヤメさん余計な心配しちゃいそうじゃないですか。それで、やっぱり無理に協力しなくてもいいなんて言われたら、私たち、ホントに出来ることなくなっちゃいますよ。アヤメさんに協力するって、ヨモさん言ってたんでしょ? 今は特に変なこともしてないし、伝えなくてもいいかなって」
そうやって話していると、前を歩いていたアヤメが突然足を止める。
「? どうしたんすか?」
ちせの言葉に、アヤメは振り返って答える。
「多分だけど、近くに怪獣がいる」
「「……ええ!?」」
夢芽とちせの言葉が重なって響いた。
夢芽とちせはアヤメの後をついていきながら、質問する。
「怪獣がいるって、本当なの?」
「うん。正確な場所までは分からないけど、微弱な反応がある。ほら」
そう言って、アヤメは勾玉を二人に見せる。見せられた勾玉は、光をゆっくりと明滅させていた。
「この点滅が速ければ速いほど、近くにいるって証拠。明るさのほうは、明るいほど怪獣が強いってことなんだけど……」
勾玉はそこそこの強さで発光している。
「これは、どれくらいなんすか?」
「多分だけど、この前のギャオスよりは強い。ジーダスなんかとは倍くらい違う」
その顔の真剣さから、相手の脅威は何となく理解できた。夢芽とちせの間にも緊張が走る。
「う~ん……。この感じだと、地下かな? でも、地面のどこにも異変はないし……」
どうやら、怪獣の位置が特定しきれないようだ。確かに、地下を掘り進んでいるのなら、どこか隆起してもおかしくはない。だが、そんな隆起はどこにもない。かといって、この辺りに隠れられる地下空間あっただろうか。
夢芽が考えていると、ふと視界に街の再開発工事の看板が目に入る。
「……これだ。アヤメ、分かったかも。怪獣が隠れられそうな場所、あるよ!」
「ほんとに!? どこ?」
「地下貯水槽。ここら辺、この前まで大雨が降ったときのための巨大な地下貯水槽作ってたの」
「そういえば、そんな話聞いたことあるっすね。確かに、あの広さなら怪獣も入れるかも……」
「多分それだ。どこにあるか分かる?」
「ええっと……」
夢芽はスマホで地図を開いて、自分たちがいるところを拡大する。
「確か、この辺りの空間に作るって話だった気がする。でも、どうやって行くかまでは……」
「あ、あれじゃないっすか? 入り口」
ちせの指指す方に、貯水槽入り口、という看板がある。三人が近くまで行ってみると、扉のところには看板が立てられており、『異変調査のため点検作業中』と書かれていた。
「マズい……」
アヤメはそう呟くと、夢芽たちに言う。
「二人は少し離れたところで待ってて。もし何か異変を感じたら、特に怪獣が出たら私が戻ってなくてもすぐに逃げて! いい?」
「う、うん」
夢芽の返事を聞くと、アヤメはカギがかかった扉を蹴破って中に入っていった。
「……どうします?」
「とりあえず、私は蓬に連絡して警戒するよう言っておく」
「じゃあ、私は先輩に」
二人はそれぞれの相手に連絡しながら、アヤメが無事に戻ってくることを祈った。
アヤメが通路に沿って階段を降りてしばらくすると、開けた空間に出る。
スマホのライトを向ければ、その空間には巨大な柱がいくつもあり、これが夢芽の言っていた地下貯水槽だろう。
早速アヤメが調査を始めようとしたときだった。
「うわああああああああ!!」
奥のほうから人の悲鳴が聞こえた。
(遅かった!)
アヤメが声のした方に走っていってみると、そこには作業員のものと思われるヘルメットや服の切れ端がいくつか落ちていた。それらに付いている赤。恐らくだが、もう怪獣にやられてしまっているだろう。
後悔の気持ちがせり上がってくるが、無理やり気持ちを切り替えて探索を続ける。
(反応もかなり近い。悲鳴が聞こえた距離からして近くにはいるはずだけど……)
そうして、辺りを見渡すと、一カ所違和感を感じた。
壁があるところにも柱があるのだ。他の壁には柱がないのに、どうしてそこだけ……。
(いや、違う! 壁じゃない! これは)
そう言って、スマホのライトを少し上に向ければ、血のように赤い瞳と目が合う。
「……!? ガメラ!!」
アヤメがそう叫ぶのと、壁だと思っていた巨体がアヤメに飛びかかるのは同時だった。
夢芽とちせがアヤメを待っていると、いきなり下から突き上げるような振動が一回起きる。
「うわぁ!」
「な、なに? 地震?」
夢芽がそう言った直後だった。
夢芽たちから数百m先の地面が、噴火したかのように爆発する。
そして、巻き上がった砂塵から飛び出す二つの影。
一つは葡萄染色の体表にイボ状の突起がある、ヤモリのような姿の四足歩行の怪獣。背中には背びれのような突起があり、顔に大きなツノが3本生えている。そいつがうなり声を上げながら、空を見る。
その視線の先にいるのは、もう一つの影の正体であり、飛行形態へと変化したガメラだった。
ガメラは空中でジェット噴射を止め、同時に足を出して地上形態に変わると、瓦礫と砂塵を巻き上げながら地面に着地する。
両者はにらみ合いながら、間合いを見極めるよう、円を描きながら移動する。
そして、お互いの足が止まった、その刹那。
「ゴアアアアアア!!!」
「グルルアアァァ!!!」
互いに咆哮を上げながら、両者は同時に駆け出した。
一方、夢芽とちせは突如地面から出てきて交戦を始めた二体の怪獣を見て、どうするべきか迷っていた。
アヤメに言われた通り、ここから避難するべきか。しかし、ガメラの姿が見えるのに、アヤメの姿が見えない。もし、アヤメに何か起こっていたら、それを置いて逃げることは出来ない。
夢芽がどうするべきか決断できないでいると、逃げる人の群れに探していたシルエットを発見する。
「アヤメ!」
夢芽は急いでアヤメに駆け寄る。見たところ、土と埃で汚れているが、怪我はしていなさそうだ。そのことに安堵して、胸をなで下ろしていると、アヤメは不満げな声を出す。
「夢芽……。ちせちゃんも、なんで逃げなかったの。怪獣が出たら逃げてって言ったよね」
「言われたけど……。やっぱ、アヤメ置いて逃げられるわけないじゃん!」
「なんで!?」
「友達だからだよ!」
うっ、と言葉を詰まらせるアヤメ。
「……分かった。私を心配してくれてありがとう。もうこうなったら逃げさせる方が危険だし、二人とも絶対に私から離れないでね!」
「「うん!(はい!)」」
その返事を聞いたアヤメは、ガメラに向かって手をかざす。
「インスタンス・サブジェクション!」
ぶつかり合う巨獣たち。その振動が周りの空気を震わせる。
先手を取ったのはガメラ。突進してきたヤモリのような怪獣、『ジャイガー』のツノを上手く掴み、突進の勢いを利用してジャイガーを転倒させる。
地面を転がり、腹を見せたジャイガーへの追撃として、その鋭利な爪で何度も斬撃を入れる。ガメラの爪がジャイガーの皮膚を引き裂き、確実にダメージを与えていく。
しかし、何かに気づいたのか、ガメラは攻撃の手を止め、ジャイガーの身体を持ち上げるのだった。
そうして、ガメラはジャイガーを持ち上げたまま動かなくなってしまった。投げ飛ばすわけでもなく、ただ上に持ち上げているのだ。その動きに首をかしげるアヤメたち。一応、力を込めてジャイガーの身体を捻るという攻撃を行ってはいるが、それならあの態勢でなくとも出来る攻撃だ。
そうしている間にダメージから回復したジャイガーが反撃を開始する。まるで鞭のようによくしなる尻尾を使い、尻尾の先端にある大きな棘でガメラの脇腹を突き刺す。
その棘はガメラの体表を易々と突き破り、穴の開いた箇所からは緑色の鮮血が吹き出す。
「うっ……」
そして、異変はアヤメにも起こっていた。ガメラがジャイガーに刺されたと同時に、脇腹を押さえて苦しそうに呻く。
その間にも、ジャイガーはその尾棘で何度もガメラが突き刺す。その度に、アヤメからも呻き声が響く。
そしてついに、突き刺しのダメージと出血でジャイガーを持ち上げていられなくなったガメラが地面に倒れ込む。
ようやく拘束から解放されたジャイガーは、オマケと言わんばかりにガメラをもう一度突き刺すと、ガメラとは別の方向へ進み始めた。
その頃、アヤメは脇腹を押さえながら片膝をついていた。
「アヤメ!」
夢芽が駆け寄ると、アヤメはかなりの脂汗をかいていた。
「だ、大丈夫……。これくらいなら、まだ……」
「大丈夫に見えないって! やっぱどっか怪我してた!? そこが痛むの!?」
心配する二人に、アヤメは思い出したように言う。
「ああ、そっか……。夢芽たちにはサブジェクションの仕組み、ちゃんと説明してなかったっけ……」
「え?」
「私がガメラにやってるサブジェクションはね。私の心をガメラに同調させて、ガメラの力を引き出す効果があるんだけど、それ以外にもう一個効果があってね。ガメラのダメージを引き受けて、軽減させるって効果もあるの。といっても、私が引き受けてるのはほとんど痛みだけなんだけど」
痛みが引いてきたのか、そう言いながらアヤメは立ち上がる。
「だから、ガメラがダメージを負うと、その三割くらいかな? 私に痛みが分譲されて、私にフィードバックされるの。今のは、その痛みがきてただけだから、どこも怪我してないよ」
その点は安心して、とアヤメは笑うが、夢芽たちからしたらどこも安心できない。むしろ心配になった。
「じゃ、じゃあ、ガメラが怪我すればするほど、アヤメさんも傷つくってことっすか?」
ちせが心配そうに尋ねるが、アヤメは気にしていないように答える。
「まあ、痛みだけだけどね。よっぽど深い傷だと、私にもその傷がフィードバックされるけど、ガメラの硬さじゃ、そんなことには滅多にならないし。私も怪獣使いだから、それくらい平気。むしろ、もっと引き受けるダメージの割合増やすつもりだったんだけど、ガメラに止められちゃって。だから、このくらいへーきへーき。それより……」
アヤメは言葉を切って、ガメラの方を見る。
「ガメラの方が良くないかも」
「何かあったの?」
「どうやら、まだガメラたちの近くに逃げ遅れた市民が多くいるみたいなんだ。さっきガメラが動けなかったのもそれのせいみたい。それに、人を食べられると、怪獣の傷も治っちゃうし…。何とか人気のないところを見つけたいんだけど…」
向こうでは立ち上がったガメラが火焔弾でジャイガーの気を引くが、ジャイガーの体表が炎を弾く粘膜に覆われているせいでダメージの通りが悪い。人を気にしながら戦うガメラとただ攻めればいいだけのジャイガーでは、圧倒的にジャイガーが有利だった。
アヤメにもダメージのフィードバックがきたのか、再び呻くことが増え始める。
まるで、その声を上げる度に命がこぼれ落ちるようで、夢芽は見ていられなかった。何とか現状の打破を考える夢芽。
さっきと同じだ。何か、何か思いつけ。
そう焦っても、良い考えは出てくるはずもなく、夢芽の頭はむしろどんどん真っ白になっていく。
(このままじゃ、アヤメが、ガメラが……)
そんな時だった。
「公園、とか、どうっすか?」
ちせが口を開いた。
「公園なら開けてるし、建物もないから戦いやすいんじゃ……」
その言葉を聞いて、夢芽は今朝のニュースを思い出す。
「でも、そんな広い公園……、むしろ避難場所に使われちゃってるんじゃ」
「あるよ、公園! 人がいない公園!」
アヤメの言葉を遮り、夢芽が地図をアヤメに見せる。
「この公園、私たちがダイナゼノンで戦ってたときに壊れた公園で、修理ついでに改修工事して大分広くなったの。そして、この公園が再開されるのは来週! だから、まだ今日は誰も使ってないよ!」
その言葉を聞いて、アヤメは笑顔で頷いて、ガメラに呼びかける。
「ガメラ!」
アヤメたちの会話を聞いていたガメラは、アヤメたちのほうを向いて頷くと即座に行動に移る。
傷の回復をするため、近くの人間を貪っていたジャイガーの尻尾を掴み、自分の方へ引っ張るガメラ。そして、夢芽の言っていた公園を視界に捉え、その方向へジャイガーを背負い投げの要領で投げ飛ばす。
突然の反撃に驚いたジャイガーはろくに受け身も取れず、公園のモニュメントに突っ込む。
その好機を逃すガメラではない。二歩、三歩と助走をつけて、ひとっ飛びで公園のジャイガーに追いつくと、一気に畳みかける。
爪でジャイガーの身体に傷をつけていく。そして、ついにガメラの右ストレートがジャイガーの左目を潰した。
もちろん、ジャイガーもやられっぱなしではない。尻尾の殴打と刺突でガメラの攻撃を受け流し、反撃を入れる。しかし、その程度でガメラは止まらなかった。噛みついてくるジャイガーの顎を蹴り抜いて、後ろへ大きく後退させる。
後ろへ下げられたジャイガーの目に入ったのは、喉元がスパークし、口から灼熱が溢れているガメラの姿。もちろん、普段の自分なら火焔弾は通用しない。現に先ほどもガメラの火焔弾は防ぎ切れた。しかし、それは特殊な皮膚あってこそ。最初と先ほどの攻撃で右半身の皮膚はかなりの箇所を裂かれてしまった。
そうなれば、取るべき行動は一つ。ジャイガーは自身の左半身が前になるように体を斜めにして、ガメラへタックルを仕掛ける。それを真正面から火焔弾で迎撃するガメラ。
ガメラの放った火焔弾はジャイガーに直撃する。しかし、油がついた物体の上を水が滑るように、ジャイガーの皮膚を炎が拡散していく。最小限のダメージで火焔弾を受けきったジャイガーはそのまま自分の射程まで滑り込む。そして、そのまま迎撃の手段を失ったガメラを噛み砕こうと、大口を開けてガメラを正面に捉える。
が、その時になってジャイガーは気づいた。
左目が潰れていて今まで見えていなかったが、ガメラの右手が赤く熱を発している。
それが超高温となった腕で、ガメラの隠し球であるとジャイガーが気づいたのと、その腕、『燼滅手』がバカ正直に開かれたジャイガーの口に突っ込まれたのはほぼ同時だった。
ジャイガーはその高熱に悶え、何とか脱出しようとするが、ガメラにしっかり押さえられてしまい、脱出できない。ならばと振った尻尾は、左手に止められてしまい、とうとう反撃の手段も失う。
ガメラは更に熱の温度を上げ、そのまま片手でジャイガーを持ち上げる。ついに地上からも引き離されてしまったジャイガーに出来ることは、もはや断末魔を上げることだけだった。もっとも、それもガメラの手で満足に上げられないのだが。
そして、ジャイガーの体は限界に達したのだろう。全身が燃え上がる。
ジャイガーが抵抗しなくなったことを確認したガメラは、ジャイガーの死骸を地面に下ろし、ゼロ距離で火焔弾を発射する。粘膜もなくなったジャイガーの死骸がそれを拒むことはなく、ジャイガーの死骸は木っ端微塵に消し飛んだ。
「ゴアアアア!!」
敵を殲滅したことを確認したガメラは、咆哮を一つ上げると、飛行形態へと変化し、雲の上へと消えていった。
その戦いを見守っていた夢芽たち。ガメラが飛び去ったのを確認し、大きな息を吐いて、地面に座り込む。
「……おわったぁ~~…」
「し、心臓にわるいっす、これ……」
そう呟く二人に、アヤメが声をかける。
「ごめんね。でも、二人のおかげで勝てたよ。ありがとう」
そう言って、夢芽とちせの手を引っ張って、立つのを助ける。
「実は、ちょっと不安だったんだ。あの強さの怪獣に勝てるか」
独り言のように、アヤメはそんな言葉を言う。
「でも、もう大丈夫。夢芽たちがいれば戦える。そう思えたから」
「ありがとね」
アヤメは夢芽の目を真っ直ぐ見て言う。こんな真正面からお礼を言われること自体、久しぶりで夢芽はちょっと目をそらして答える。
「……まあ、どういたしまして」
何とか気持ちを紛らわそうとスマホを開く。すると、さっきは気づかなかったが、蓬から心配するメッセージがいくつも届いていた。
「あ、ヤバ、蓬に連絡してたの忘れてた」
「あーあ、彼氏さんに連絡しておいて無視するなんて、夢芽さんも中々エグいことしますねぇ」
「うーわ、やっちゃった。怒ってないかな?」
「え、それなら私も一緒に謝るよ」
「あー、いいんすいいんす。夫婦間の問題は夫婦間で解決しないと」
「ちょっと、ちせちゃん」
「わー、冗談っす、冗談っす!」
「私と蓬、どこが夫婦に見えた?」
「いや、そっちかい」
そんなやり取りで三人とも笑い出す。夏の夕焼けはそんな三人を照らしていた。
・インスタンス・サブジェクション
アヤメが使う、怪獣と繋がる技。これで繋がることで怪獣の力を大幅に引き出し、怪獣が受けるダメージをいくらか請け負うことが出来る。ただし、インスタンス・ドミネーションと違い、行動の主導権は怪獣にある。そのため、通常の怪獣に使うと、精神が怪獣に捕らえられてしまい、一生解除出来なくなってしまう。まさに怪獣への隷属化。なので、ガメラ以外にはほとんど使えない。
サブジェクションの設定を書いてなかったので、ここに書いておきます。まあ、大したことは書いてないので読み飛ばしてもらって構いません。
そろそろ更新が詰まりそうです。タスケテ……。