サブタイトル考えるのムズすぎ。
蓬のキャラも正解が分からない……。俺は雰囲気で小説を書いている……。
フジヨキ台にある病院。3階の廊下にある長椅子に蓬は座っていた。隣には、疲れてしまったのだろう、夢芽が自分に体を預けて眠っていた。
無理もない。つい数時間前まで、怪獣との戦闘に巻き込まれていたのだ。そして、アヤメがああなってしまったこともあり、彼女の心身への疲労は並大抵のものじゃないだろう。
ギロンとの戦闘後、意識を失ったアヤメは、蓬たちが当初考えていた通り、フジヨキ台の病院に運び込まれた。
ガメラの力を分けてもらっているといった言葉は本当だったのだろう。医者に見せたときは、あれほど血を流していたにも関わらず、アヤメの傷はどれも浅いものだった。
結果、貧血と過労で倒れたという診断を下され、アヤメは点滴を繋がれてベッドの上で寝ている。
夢芽には一度家に帰るよう言ったのだが、「アヤメが起きるまで帰らない」と言い張り、結局病院で一晩過ごすことになった。
親を説得してでも病院に残った夢芽を見て、蓬の中にあった「ある疑惑」は確信に変わった。
夢芽が起きたら聞いてみようと思いながら、蓬も眠りへと落ちていった。
翌日になっても、アヤメは目を覚まさなかった。夢芽はベッドの横にあった丸椅子に座りながら、アヤメの顔を何となしに見つめていた。
どれぐらいそうしていたのか。何かを考えているようで考えていなかった時間は、病室の扉をノックされたことで中断される。
返事をすれば、飲み物を買いに行っていた蓬が戻ってきていた。
「ただいま。ほら、飲み物買ってきたよ」
「ありがとう……」
蓬からジュースの入った小さめのペットボトルをもらいながら、お礼を言う。
蓬は夢芽と同じ丸椅子を夢芽の隣に置き、そこに座る。
しばしの沈黙。お互いに一言も発さない時間がしばらく過ぎる。
何分か経った辺りで、蓬が口を開く。
「……あのさ、夢芽。一つ聞いてもいい?」
「いいよ。なに?」
「アヤメさんのことさ、なんでそんなに気にかけるの?」
「…………」
「あ、いや、別に悪いことだとは思ってないよ。夢芽が自分から新しい友達と関わろうとするのは、すごい良いことだと思う。ただ、今回の夢芽の行動は、友達って理由だけじゃない気がして……。昨日も廃ビルでさ、あそこまで怒るとは思わなかったからさ」
蓬の言葉に、夢芽は答えない。視線も、アヤメを見るばかりで蓬を見ようとしない。
「……言いたくなければいいんだけどさ。もしかして、水門前で何かあった?」
水門前、というのは、夢芽とアヤメが初めて会った時のことだ。蓬から見て、蓬がアヤメと会ってからの夢芽は、アヤメと積極的に関わることはしても、何かが急激に変わった様子はなかった。むしろ、最初から関わろうとしていた気がする。そうなれば、蓬が知らない最初の出会いに、何かあった可能性を考えたのだ。
しばらく待っていると、視線は相変わらずだったが、夢芽は口を開いた。
「……アヤメと初めて会ったとき、アヤメは水門前の土手にいたんだ。あの日は雨が降ってて土手も濡れていたのに、アヤメは傘を差したまま土手に座ってたんだ」
学校帰りの夢芽が目にしたのは、雨の中、土手に座る一人の少女だった。一応、傘は差していたが、座っていたらお尻から濡れてしまうだろう。
そのまま見なかったふりをすることも出来たが、やっぱり寝覚めが悪くなる気がして、夢芽は少女に声をかけた。
「あの、そこ座ってると濡れますよ」
そう声をかけると、少女がゆっくりと夢芽のほうを向く。傘と辺りの暗さで顔は見づらくなっていたが、一目見ただけで整った顔立ちだとわかるほど、キレイな顔だった。長い黒髪は、彼女を美しく見せている一つだろう。ただ、夢芽はそれよりも彼女の目から視線を動かせなかった。
少女はどこか疲れたような、ぼんやりした目を夢芽に向けていた。キレイな翡翠の目は、どことなく濁っているように感じた。
そんな少女は二、三回まばたきを繰り返すと、突如夢芽を認識したように、目が普通に戻る。
「あ、ありがとうございます! そうですよね、濡れちゃいました。アハハ……」
少女はそう言いながら、苦笑い。立ち上がって、そそくさとその場を離れようとする。
「あ、あの!」
夢芽は咄嗟に少女を呼び止める。自分でもちょっと驚いたが、あんな表情をしていた彼女を、このまま行かせたくはなかった。
「その……、何かあったなら話くらい聞きますよ? 話して楽になることもあるかもしれませんし……」
夢芽は自分で喋りながら、彼女に関わろうとする理由がなんとなくわかった。ここは姉が事故死した場所だ。ある時は自殺だったんじゃないかと考えていたこともある。それもあって、彼女が自殺を考えているんじゃないか、という考えが頭をよぎったのだ。だから、ここまで必死になるかもしれないと思った。
少女のほうはポカンとしている。当然だ。今会ったばかりの人に、話を聞く、なんて言われて話したいと思う人はまずいないだろう。
「……って言われても、初対面の人間に話したくないですよね。すみません、忘れてください」
「あ、いえいえいえ。謝らないでください」
しかし、少女は夢芽が謝るのを手で制す。
「驚きはしましたけど、嬉しかったです」
少女は傘をゆっくりと回しながら話す。
「確かに詳しい事情は話せません。でも、あなたが声をかけてくれただけで、ちょっと救われた気分になりました。私にも声をかけて、心配してくれる人がいるってあなたが証明してくれましたから」
だから、ありがとうございます。少女はそう言って、笑う。
「あなたは優しい人ですね」
少女の笑顔に、夢芽はなぜか姉が重なった。姉、香乃と顔も声も似ているわけじゃない。それなのに、その顔はどこか香乃を思い出させる顔だった。
「今にして思えば、あれはお姉ちゃんが妹に向ける顔だったんだと思う。アヤメにも妹いたって言ってたし。アヤメと私の年齢差も、ちょうど香乃と同じくらいだから。そういうところに香乃を感じたんだと思う」
夢芽はアヤメを見ながら言葉を続ける。
「私ね、アヤメが死んじゃうじゃないかって、多分心のどこかで思ってたんだ。アヤメが香乃と重なったってだけじゃない。初めて会ったときのあの目。あれは、多分生きることを諦めてた目だった。きっと、アヤメはいつかこうなることも分かってたんじゃないかな」
夢芽はうつむき、その視界は自分の膝を写すようになる。
「私は止めたかったの。アヤメに生きようと思ってほしくて、私がこの世界に繋ぎ止める存在になれたらって。だから、たくさん遊んで、たくさん話した」
でも、と言う夢芽の声には震えが混じる。
「私じゃダメだった。どれだけ遊んでも、話しても、アヤメは戦うことに対する躊躇いを、一切持ってくれなかった。もちろん、アヤメたちが戦ってくれなきゃ私たちがヤバいのは分かってる。……それでも、アヤメが戦いたくないなら、そう言ってほしかった」
「けど、昨日のビルでの会話でようやく分かったの。私は最初から間違えてた。アヤメは最初から私たちのこと大切に思ってくれていた。だから、昨日私たちを拒絶したんだよ。アヤメは、私たちとは一定の距離を取ろうとしてた。私たちがアヤメの死を悲しむって聞いたら、きっとアヤメは命を削って戦えなくなる。だから、私の言葉を拒絶したんだよ。アヤメは最初から私たちが、死にたくなくなる楔になるって分かってた。だから、そうならないように気持ちをコントロールしてたんじゃないかって思うんだ」
夢芽のスカートに水滴が落ち、暗い色の斑点ができる。
「それくらい、アヤメは優しいんだよ。だから、見ず知らずの人のためにだって命を張れる。家族や友達を救えなかったことを、自分の罪として背負う。こんなの知っちゃったらさ、私もうなにもできないよ……」
そこまで言うと、夢芽は口を閉じ、あとは嗚咽をもらすだけだった。
「そっか。夢芽はそこまで分かったんだ。俺はダメだな。全然分かんなかった」
「仕方ないよ。アヤメ、そういうの隠すの上手かったもん。私も途中まで、自分の勘違いじゃないかって思ってた」
夢芽の言葉には、もはや生気はなかった。どうやって励ますべきか、蓬は考えた後、自分の考えをそのまま伝えることにした。
「……やっぱり、夢芽の思いはちゃんとアヤメさんに伝えるべきだと思う」
「え?」
「アヤメさんのこと、そこまで考えてるのは夢芽だけだし、それを伝えちゃいけないなんてことはないと思う」
「でも、それがアヤメの負担になるかもしれないし……」
「それは違うよ。アヤメさんんが一人で背負い込むことなんてない。もしアヤメさんが、助けられなかった人たちのことを負い目に感じているなら、そうじゃないって言わなきゃ。生きたいって思うことも、友達に生きてほしいって思うことも、俺は絶対悪いことじゃないと思うから」
蓬の目は、真っ直ぐに夢芽を見る。
それだけで、夢芽は彼から勇気をもらった気がした。
「……うん、そうだね。蓬の言うとおりだ。私はアヤメに死んでほしくない。ちゃんと伝えるよ。例えケンカになっても、言いたいことは言葉にしなきゃ伝わんないもんね」
「俺も一緒に言おうか?」
いや、一人で伝えるよ、と言いかけて、思い直す。
「……うん、お願いしようかな。私一人より、蓬もいたほうが説得力でると思うし」
そうだ。アヤメに一人で抱え込まないでと思ったばかりだ。それなのに、私が一人でやろうとしてたら、それこそ説得力皆無だ。
今度こそアヤメの手を掴んで、繋ぎとめたい。
フジヨキ台の怪獣災害復興地域。瓦礫と廃墟のジャングルと化した地域に、いくつもの人影があった。
その人たちが手に持つのは、自衛隊が接収する前に回収した、ギロンの死骸の一部だ。死骸そのものや、戦闘で飛び散った肉片などから採取されたそれらは、彼らの手によって集められていた。そして彼らは皆、一様に同じ場所に向けて進んでいた。
彼らがたどり着いたのは、地面の陥没によって開いた大穴だ。以前、ジャイガーが潜伏しており、ガメラとの戦闘で開いたこの大穴。その穴の深さは、ジャイガー潜伏時よりも確実に深くなっていた。
穴にたどり着いた人たちは、ギロンの死骸を持ったまま、次々と穴に飛び込んでいく。そうして飛び込んだ人たちは、数百メートルの高さを落ちていき、最後は穴の底に自身の臓物をぶちまけた。
穴の上から全員が飛び降りたところで、穴の底に転がる人数分の死体。そこに、影の暗がりから黄金の触手が伸びる。
触手の内側には口と牙があり、それでギロンの死骸片ごと死体を食べていく。ものの数十秒でそれらを食べきると、触手は蛇のような動きで暗がりに戻る。
ギャオス、ジャイガー、ジグラ、そしてギロン。それに、これまで死骸を自らにせっせと運んできた人間たち。これで全て平らげた。
触手の主は満足そうに目を細めると、ゆっくりと動き出す。
他のヤツらはよくやってくれた。特にギロンの働きは大きいだろう。仕掛けるなら、このタイミングしかない。
日が沈み、世界をあかね色に染め上げていく。空に浮かぶ白かった月は、徐々にぼんやりとした月光を放つようになる。
決着をつけるため、黄金色の悪魔は動き出した。
午後6時。連絡を受けて、夢芽がノックもせずに病室に入ると、アヤメは起き上がって、窓の外を見ていた。
「アヤメ!」
「あ、夢芽。無事だったんだね。よかった」
そう言うアヤメに、夢芽はそのままの勢いで抱きつく。
「おっとと、どうしたどうした」
そう言いながら夢芽を受け止めるアヤメ。いきなり病室に入ったことや突然抱きついたこと、謝りたいこともあったが、本人の体温を感じると、それよりも嬉しさと安心が勝ってしまった。
「よか、った。よかった……。もう、起きないかと、思って。すごい、怖かった……」
夢芽の嗚咽混じりの声を聞くと、アヤメは表情を柔らかくして、夢芽の背中を赤ちゃんでもあやすように軽く叩く。
「……そっか。ごめんね、不安にさせて。夢芽を泣かせるなんて、友達失格だね……」
「そんなこと、ない。アヤメは私たち守ってくれたんだから。謝らなきゃいけないのは、私のほう。ごめんね、全部背負わせちゃって」
「それこそ謝る必要ないよ。これは私がやりたくてやってることだし。それより、私どれだけ寝てた?」
「……グスッ。えっと、ほぼ一日。今が午後6時くらいだから」
「そんなに寝ちゃったかぁ~。ごめんね、夢芽の家でお泊まり会する予定だったのにね」
「いいよ。アヤメが生きててくれば、それで十分」
「……生きててくれば、か」
すると、病室の扉がノックされる。アヤメが返事をすれば、蓬の声が返ってくる。
夢芽はいそいで涙を拭って、アヤメから離れる。彼氏といえど、さすがに年甲斐もなく泣いてるのを見られるのは恥ずかしかった。
「お、アヤメさん。良かった、とりあえず元気そうですね」
「うん、おかげで。お医者さんに明日には退院できそうだって」
そうですか、と蓬は心底安心したような顔を浮かべる。蓬のこういうところは本当にスゴいと思う。短い関わりの中でも、その人のことに感情的になれるのだから。夢芽がそんなことを考えていると、蓬が夢芽に聞いてくる。
「夢芽。あのことは……」
「ああ、うん。今から話すとこ」
あのこと?とアヤメが首を傾げると、夢芽は真剣な顔をしてアヤメと向かい合う。
大丈夫。私の思いは伝わるはず。言葉にしなきゃ、伝わんない。
そう覚悟を決め、夢芽は口を開く。
「あのね」
ビッシャーーーン!!
「きゃっ」
「うわっ」
突然の雷鳴に、蓬と夢芽は驚く。雷雲どころか雲すらないのに落雷である。落ちたのはここから離れた場所のようだが、夢芽は何か嫌な予感がした。
そして、それを感じていたのはアヤメも同じらしい。ベッドから飛び降りると、病室を走って出て行く。
「え、ちょ、アヤメ!」
夢芽は声をかけるが、そのときにはもう病室の扉が閉まる寸前だった。
「追いかけよう!」
蓬に言われて、夢芽も立ち上がり、二人でアヤメの後を追った。
アヤメを追って、二人は病院の屋上に来ていた。
「アヤメ!」
夢芽が屋上の扉を開けると、アヤメは屋上の手すりに掴まりながら、遠くを見ていた。
夢芽と蓬もアヤメの隣に立つ。
「……休ませてはくれないか」
「え?」
アヤメの呟きに夢芽が聞き返すと、アヤメはそこから見える景色に指を指す。
「あそこ」
夢芽と蓬がアヤメの指先を辿ると、遠くの住宅街が燃えており、夜空を朱く染めていた。そして、その中心には周りの建物より巨大な、黄金の怪獣が鎮座していた。
落雷が落ちる少し前。
暦がコンビニの駐車場に座って呆けていると、後ろから声をかけられる。
「やっと見つけた。探したっすよ、先輩」
「……ちせ」
暦は振り返らずに答える。
「なにしてんすか、こんなところで。ヨモさんから連絡ありましたよ。アヤメさん、目、覚ましたって」
「そうか。よかった」
暦の薄い反応に若干いらつくちせ。いつもより暦が暗いのは間違いない。が、理由が分からない。
「なにしょげてんすか。そんなに嫌なことあったんすか?」
「しょげてねえよ。……ただ、昨日の戦いで、俺全然役に立ってなかったなぁって思ってさ」
「先輩が役に立たないのはいつものことじゃないすか。何を今更」
「お前なぁ。……まあ、実際その通りなんだけど。だから、就活失敗しまくってるわけだし。でも、今回は違うっていうか」
なんて言うんだろうな、と頭を掻いて続ける。
「俺、やっぱりどこかで怪獣退治したいと思ってたんだ。だから、ここ数週間はすごい満たされてる気がしてたんだよ。でも、実際にアヤメさんが戦ってるとこ見てたら、俺は怪獣と戦うってこと、ちゃんと理解してなかった気がしてさ。あんな辛そうにしてる戦いを、俺は面白がってたのかって思って。昨日の南さんの顔思い出したら、なんか情けなくなっちゃってさ。だから、俺がお見舞いに行く資格なんかないと思って……」
そう言って、持っていたペットボトルの水を一気にあおる。
「ま、確かに不謹慎っすね。アヤメさんとガメラがあんなに命削って戦ってたのに」
「……」
「でも、アヤメさんはそんなこと気にしてないと思うっすよ」
「なんで」
「先輩がどう思っていたかはともかく、情報提供って形でアヤメさんを助けたのは紛れもなく先輩じゃないっすか。私や夢芽さんは遊んでたばっかなんで。そこは、その、ちょっとは誇っていいんじゃないすかね」
ちせはいつも舐めているスティックキャンディを舐めながら言う。
「とにかく、こんなとこでしょげてる暇あったら、アヤメさんのお見舞い行ったほうが良いと思いますよ。そこで、謝るなり、感謝するなりは先輩の好きにしたらいいんじゃないっすか?」
少なくとも、とちせは続ける。
「アヤメさんは、会いに来ないほうがショック受けると思うっすけどね」
「……そうだな。そうする。ありがとな、ちせ」
暦はそう言って立ち上がる。
「……なんか、先輩に素直にお礼言われると気持ち悪いっすね」
「人がせっかく素直に感謝したってのに……」
その時だった。
小さな揺れを二人は感じる。
「地震か?」
「さあ?」
すると、揺れは段々と大きくなり、ついには立っていられなくなる。
「うおわあああ! な、なんだ!?」
「先輩! アレ!」
ちせが指指したほうへ視線を向けると、地面から何かが生えてきていた。
「あっちって、確かジャイガーの被害地域だったとこっすよね!?」
地面から生えてきていたのは、触手のようだった。黄金色のそれは、高層ビルより高く、それがゆらゆらと不気味に動いていた。恐らく触手が生えていると思われる場所からそれなりに離れているため、ここからでは触手の根元がどうなっているかは見えなかったが、マズいことが起きているのは間違いなかった。
「ちせ! 蓬くんに連絡!」
「了解っす……? せ、先輩、あ、あ、あれ…!」
ちせの表情が変わったので暦も触手の方を見ると、落雷とともに触手の主が姿を見せる。
その姿はさしずめ黄金色のイカと言った感じの姿をしていた。
しかし、それよりも暦が驚いたのは、その大きさだ。今までの怪獣は多少の差はあれど、大体はガメラと同じくらいの体の大きさをしていた。
だが、今暦たちが見ている怪獣はそれよりもずっとデカい。本体だけでガメラの二倍はありそうな大きさだ。それに加え、触手は特に長いものは本体の大きさを優に上回る長さをしていた。
この怪獣は今までとは違う。
黄金色の悪魔、『バイラス』の姿は、暦とちせにそう思わせるには十分すぎるほどだった。
バイラスはその触手で近くの建物を薙ぎ払い、押しのけながら移動を開始する。
その様子を見ていたアヤメはすぐさま勾玉を握りしめ、ガメラを呼ぶ。……前に夢芽に手首を掴まれる。
「待ってアヤメ」
「何? 時間がないから手短にお願い」
「時間がって……、戦うつもりなの!?」
「もちろん」
「ダメ。絶対ダメ! アヤメ、今自分の体がどうなってるか分かってるの!? 前回の戦いから、まだ一日しか経ってないんだよ!? そんな状態で戦ったら、アヤメもガメラも殺されちゃう!」
「じゃあ私に指を加えて見てろって?」
「そうだよ! 今戦ったらほんとに死んじゃう!!」
夢芽は必死だった。この手を離したら今度こそアヤメが死んでしまいそうで怖かった。少しでも思いとどまってほしくて、声も自然と大きくなり、怒鳴るようになってしまう。
「夢芽……」
「蓬もなんか言って! 今戦ったら死んじゃうよね!?」
「……うん。危ないと思う」
「ほら! だからアヤメ!」
一方の蓬はというと、複雑な気持ちになっていた。もちろん、アヤメに戦ってほしくないのは同じ気持ちだ。ただ……。
「怪獣はさ、自衛隊とかに任せてさ。アヤメが今戦う必要はないよ……!」
そう言う夢芽に、蓬は昔の自分が重なった。この世界に初めて怪獣が現れたとき、自分は戦う力を与えられながら、ダイナゼノンの操縦訓練に乗り気ではなかった。むしろ、怪獣は自衛隊に任せればいいと思っていた。それを否定して、ダイナゼノンで戦う覚悟を決めさせてくれたのは夢芽だった。その夢芽が、今は反対のことを言って、戦うのを止めさせようとしている。それだけ、夢芽の中でアヤメの存在は大きくなっていたのだろう。
二人のやり取りを見ていて、これは、戦う、戦わない、という簡単な問題なのではないのだろう、と蓬は思った。アヤメはガメラとともに戦うことに使命感だけで戦っているわけではない、という風に見える。ただ使命感で戦うなら、夢芽の言葉を拒絶するだろうか。
(もしかしてアヤメさん、自分の命に頓着してない?)
もし、夢芽の言うとおりの優しさをアヤメが持っているなら、アヤメが自分たちに心配されることを拒む理由。それは、もう死ぬことが分かっている、もしくは戦いで死のうと思っているのではないか。そんな考えが蓬の頭をよぎる。
すると、街を破壊していたバイラスが足を止める。そして、頭部が開き、そこに青い光のエネルギーが集まっていく。
そして、その光が最高潮に達したところで、光は荷電重粒子ビームへと姿を変え、バイラスの頭部から放たれる。
ビームは爆発の轟音とともに街を半円状に薙ぎ払い、たった一射で街の何区画かを瞬時に更地へと変えた。
それを見ていたアヤメが夢芽に言う。
「残念だけど、人類の兵器で何とかなるような相手なら、ガメラも戦ってないよ。このまま戦わなかったら、この街はあっという間に火の海だよ。夢芽の家族や友達が住んでる街がそうなってもいいの?」
アヤメの言葉は正論だと蓬は思った。確かに今のビームがあれば、この街など20分もあれば更地にされてしまうだろう。しかし同時に、アヤメの言葉は残酷だとも思った。
蓬の知る夢芽ならば、きっと。
「……また、それじゃん。卑怯だよ、私が手を離すしかない選択肢突きつけて」
「……ごめん」
夢芽は掴んでいたアヤメの手首から、ゆっくりと手を離す。
「その代わり約束して。絶対生き残って。もう身近な人が死ぬのは、いや」
その言葉を聞いたアヤメは、夢芽の頭を撫でる。
「任せて。絶対勝つから」
そう言って笑うアヤメの目には、いつもの自信はなく、不安が影を覗かせていた。
アヤメは勾玉を掲げ、いつものポーズを取ろうとする。それを見た蓬は、声をかける最後のチャンスのような気がして、急いで口を開いた。
「あの!」
「ん? 蓬くんもなにかあるの?」
アヤメが意外といった顔で尋ねてくる。咄嗟に声をかけてしまったが、まだ言いたいことはちゃんと纏まっていない。恐らく、戦うのを止めてほしいだとか、無茶をしないでほしいだとかでは、先ほどの夢芽と同様、平行線の言い合いになってしまうだろう。
それなら、自分が言うべき言葉は……。
「……その、俺たちは怪獣とは戦えません。この街を守ることは、アヤメさんとガメラに任せるしかない。けど、俺たちだって見ているだけは嫌なんです」
「蓬くん……」
「アヤメさんが辛いなら、俺たちが支えます。大したことは出来ないですけど、俺たちも一緒に背負わせてくださいよ。アヤメさんも、ガウマ隊に、仲間になったじゃないですか!」
アヤメの目が少しだけ見開かれる。
こんな言葉で合っていたかは分からない。けど、蓬は、アヤメが一人になろうとするのだけは放っておけなかった。
すると、アヤメはかすかに微笑む。
「……そっか。仲間、か」
アヤメは噛み締めるように呟く。その時の顔は、今までに見たどんな表情より、穏やかだった気がする。
しかし、それも一瞬のことで、次の瞬間にはいつも通りの、少し作ったような笑顔に戻っていた。
「じゃあ、文字通り支えてもらおうかな。さすがに、まだ立っているのは辛いから」
アヤメはそう言って、冗談っぽく笑う。
また、一歩下がられてしまった。蓬はそう感じたものの、頼ると言ってくれただけでも、自分の言ったことに意味はあったかもしれない。そう思うことにした。
蓬と夢芽で、アヤメの体を支える。
「いくよ、ガメラ」
アヤメが勾玉に声をかければ、勾玉も応えるように強く光る。
「インスタンス・サブジェクション!」
バイラスは燃え盛る街を見渡すも、目当ての存在は未だ現れない。中々出てこない天敵をあぶり出すため、バイラスはもう一度ビームを撃とうとする。
そのとき、月光に影ができ、直後、バイラスに火焔弾が命中する。
「ギィィイイイ!?」
バイラスの赤い目が空を見上げれば、月光を背にして、待ち望んでいた天敵が降下してくる。
ガメラはビームに警戒しながらバイラスの周りを旋回飛行する。
「ゴアアア!」
そして、旋回しながらバイラスに向けて火焔弾を三連射する。
しかし、その全てがバイラスに到達する前に、オーロラのような色をしたバリアで防がれる。
火焔弾を防がれたガメラは、戦法を変え、自身の体をバイラスに向けて最大出力で突っ込む。バリアに物理的なものを防ぐ力はなかったようで、ガメラはバリアの範囲を突破してバイラスに体当たりをする。
倒れ込んだバイラスの上に乗ったガメラは、その鋭い爪での爪撃を繰り出す。
しかし、ギロンとの戦いで失った腕は回復しておらず、実質片腕での戦いだ。それに、今までの怪獣にも通用していたガメラの爪は、バイラスの体表にわずかな筋をつけるだけで、ほとんど効いてはいなかった。片腕で何度もバイラスを引っ掻くガメラだったが、バイラスの体表に散るのは火花だけである。
そして、その攻撃をいつまでもさせるほどバイラスも甘くはなかった。何度目かの爪撃を繰り出そうとするガメラの腕に触手を巻き付け、固定する。その触手を外そうともがくガメラの胴体にもう一本の触手を巻き付け、その二本でガメラを自身から引き剥がす。そのままガメラを持ち上げると、近くのビルに頭から叩き付ける。
「ガッ、ゴアアアア!」
瓦礫と共に地面に倒れるガメラ。バイラスはガメラが立ち上がる前に、ガメラに触手を伸ばす。そして、その全てに高圧電流を纏わせる。
ガメラは力を振り絞って立ち上がろうとするも、それを阻むかのようにバイラスが触手を叩き付ける。単純な打撃の衝撃に加え、高圧電流によるダメージも加算され、ガメラはまたすぐに地面に倒されてしまう。
「うっ! ぐうっ! がはっ!」
そして、そのダメージはもちろんアヤメにも届いていた。触手がガメラに叩き付けられる度、アヤメも地面で悶え苦しむ。とっくに立っていられるダメージは超えており、屋上の床で自分の体を抱きしめながら、耐えるしかできない。夢芽と蓬が何かを言っているのは分かるが、それを聞くほどの余裕はなかった。
ガメラも傷口こそ塞がったが、ギロン戦の怪我は癒えておらず、反撃など夢のまた夢だった。
一方のバイラスは、ガメラの抵抗が弱まってきたのを確認し、全ての触手をガメラに巻き付ける。
そして、そのままガメラを持ち上げると、触手全てに高圧電流を流し、その電流全てをガメラに流し込んだ。
「ゴアアアアアア!!!」
「ギュイイイイ」
そして、そのダメージはもちろんアヤメも貫いた。
「ああああああああああああっ!!!」
全身に強烈な痺れと激痛が走り、自分の体の制御が出来なくなる。視界は火花が散るのとブラックアウトを繰り返す。
それが十秒ほど続いたところで、アヤメの意識は焼き切られるように途切れた。
高圧電流の放電が終わったバイラスはガメラを地面に叩き付ける。ガメラは辛うじて意識は保っている状態だったが、身体は動かせず、地面に仰向けに倒れたままだった。
バイラスは触手でガメラを掴むと、左右に振り回し、何度目かのスイングで投げ飛ばす。ガメラは抵抗も出来ずに地面を転がる。
「うわあああ!!!」
そのとき、ガメラは聞きなじみのある声を聞いた。うっすらと目を開けて、声のしたほうえへ視線を向けると、そこには暦と瓦礫の下にいるちせがいた。
怪獣が現れたの確認した直後、二人して逃げ出した暦とちせだったが、バイラスが薙ぎ払った民家の一つが暦たちの隣にあったビルに直撃したことで、二人に瓦礫の雨として降りかかったのだ。
なんとか暦は無事だったのだが、ちせは瓦礫の下になってしまった。肝を冷やした暦だったが、瓦礫の下からちせの元気(?)な声が聞こえたことで、胸を撫で下ろした。
どうやら、瓦礫の鉄骨が上手い具合にシェルターになって潰されるのは避けられたようだった。
とはいえ、ピンチには変わらないので瓦礫をどかしていたのだが、その間にガメラとバイラスが戦い始め、そして今に至る。
ガメラを追いかけ、バイラスがやって来る。
「せ、先輩! 自分はいいっすから逃げてください!」
「ふざんけんな! 置いていけるか! ここでちせ死なせたら、おばさんに詰められるの俺なんだからな!」
「……そこは嘘でも、私が大事だからとかいってくださいよ~」
とにかく、ちせが出るのに邪魔な瓦礫をどかしていくが、あと二つというところで、動かせない瓦礫が出てきた。
「クソっ! あとちょいってところで!」
そこで視線を感じて、見上げてみればバイラスと目が合う。
「っ!?」
バイラスはこちらを嗤うように目を細めると、触手を振り上げる。
ダメだ、死んだ。
そう思って、咄嗟に腕で身を庇う。が、音はするものの衝撃は来ない。
「……? ガメラ!」
ちせの声を聞いて振り返ってみれば、バイラスから暦とちせを庇うように、ガメラが立っていた。バイラスはガメラをどかそうと連続で触手を叩き付ける。
「ガメラ! 私たちはいいから、逃げて!」
ちせがそう叫ぶが、ガメラは動こうとしない。呆気に取られていた暦だったが、我に返るとちせの瓦礫をどかす作業に戻る。ガメラが時間を稼いでくれている間に、近くの鉄パイプを拾って、てこの原理で瓦礫をどかしていく。
その間にも、ガメラの苦悶の声が聞こえてくる。
「ガメラ! もういい、もういいから! このままだとあなたまで死んじゃう!!」
それでも、ガメラは盾になることを止めない。いい加減、いらついてきたバイラスは触手を巻き付けてガメラを横へ投げる。そして、今度こそ攻撃しようとしたが、小さな火焔弾を顔に喰らい、さらに触手を掴まれ横に引っ張られる。
そのタイミングで、ちせを閉じ込めていた瓦礫が全てどかし終わる。
「よし! ちせ、こっちだ!」
暦はちせの手を掴むと、瓦礫から引っ張り出す。
そして、ガメラが上空に打ち上げられたのは同時だった。数百メートル宙を舞ったガメラは地面に落下する。
「ガメラ!!」
ちせの必死の叫びも虚しく、ガメラは動かない。
そしてその様子を見たバイラスは、頭部にエネルギーを集める。この至近距離で荷電重粒子ビームを当てれば、ガメラといえど致命傷は免れない。既に相手は満身創痍だ。これで確実に息の根を止められる。そう思ったバイラスの顔は愉悦に歪む。
「やめろ……。やめろおおおおお!!」
「ちせ! なにやってんだ! 逃げるぞ!」
暦に押さえられながらちせは叫ぶ。このままじゃ、間違いなくガメラは殺される。そんなちせを嘲笑うように、バイラスはチャージを進める。
誰か、誰かガメラを助けて。
ちせはそう祈るしかなかった。
その時、空の一点が光り輝く。
「ふえ?」
ちせと暦が空を見上げれば、光から一つの影が飛び出し、バイラスにタックルを仕掛ける。
それのおかげでビームの狙いは逸れ、ビームは星空を貫く。
タックルされたバイラスは道路を何百メートルと転がり、ビルに頭から突っ込む。
バイラスにタックルした影は、ぶつかったときに起こった粉塵を払い、その姿を現わす。
その姿は真紅の体をしたメタリックな竜だった。
そう、かつてこの世界で怪獣と戦い、巨人とともに平和を勝ち取った『強竜』が、再びこの世界に降り立った。
その、竜の名は。
「ダイナ、レックス……」
「……ガウマ隊長!!」
合体強竜、ダイナレックスは、月光の下で力強く咆えた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ようやく後半戦に突入です。長かった……。
次回から、ようやくガメラ以外のタグが役立ちますね。