透き通る青春の片隅に。   作:ぱぶしぃ

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対策委員会編【暁と昏暮】
アビドス自治区へ


 

 

 

「ふう...」

 

 

先生は目の前にある大量の書類を横目に見ながら溜息をついた。

 

超法規的機関、独立連邦捜査部S.C.H.A.L.E。

通称「シャーレ」と呼ばれる機関の担当顧問(先生)になり、早2週間が過ぎようとしていた。

 

その始まりはとても忙しなく、先生となった当日からシャーレのオフィスが占拠されたり、サンクトゥムタワーの移管処理だったりと、

かなり立て込んだスケジュールが続き、2週間経った現在も変わらず忙しく、請求書や各所との書類等が山のようにして先生を襲っている。

 

...いや請求書に関しては彼女がやってくれるからまだましと言えるだろう。

 

「先生、ぼーっとしてないで手を動かしてください!まだまだ処理できてない書類がこんなにあるんですから!」

 

鬼の形相でこちらを問い詰める彼女。

ミレニアム・サイエンススクール2年生、セミナー所属会計担当の早瀬ユウカだ。

本来の仕事であるセミナーの仕事も掛け合いながら、今はシャーレの請求書の管理や支出調整等、実質シャーレの会計担当とも言える程にサポートしてくれている。

その点、彼女には本当に感謝しているのだが...

「ごめんねユウカ、先生こういうの苦手で」

「知りません。」

 

少し言葉が強い。

 

いや、本当にありがたいのだけれど、すこーしだけ言葉を優しくしてくれたらもっと嬉しいんだけどね。

女の子なんだし、こう...かわいい感じでね?

 

...いや、これはこれでアリか...(?)

 

と、またもや手を止めていると鋭い視線がこちらを覗いてきたので先生は慌てて書類に手をつけた。

前を見るとため息の出るような書類の量。

今日だけで捌き切れれば良いのだが...

 

「...これは?」

 

ふと他の書類とは様子が違う、手紙の封筒が目に付いた。

手紙とは今の時代にしては随分珍しい。メールでは送れないような内容なのだろうか?

 

 

 ピロン

 

 

『これは...どうやらアビドス高等学校からですね。先生はアビドスをご存じですか?』

 

先生の傍にあったタブレット《シッテムの箱》に光が灯り、先生へ元気な声で語りかける少女。

 

彼女の名前は《アロナ》、シッテムの箱内に存在する高性能AIでありOS。

正直先生もどういう仕組みなのか全くもって理解できないが、まあ...こういうのもあるよねぇ、世の中不思議だなぁ程度に思うと気が楽になる。

 

「...書類上はね、あんまり詳しいことは知らないよ。」

先生は手紙を開けながら呟く。

 

一応先生という立場である為、全ての学園...とまではいかないが、多くは把握している。

流石に先生という立場で相手の学校の事情を知らないとなると、流石に大人としての示しがつかない。

 

『昔はかなり大きな自治区だったそうですよ?噂では自治区内で遭難することもあると言われるほどです。』

『ですが今は気候変動が激しく街全体が苦しい状況が続いているみたいです。』

 

「...改めて聴くと、本当に奇抜な学校だね?」

自治区内での遭難、気候変動も激しい。それに自治区の大半は砂漠という...正直耳を疑うような内容だ。

そんなアビドス高等学校からの手紙...

一体何が書かれているのだろうか。

 

 

 

――――連邦捜査部の先生へ

 

 

 

こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。

 

今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、

 

こうしてお手紙を書きました。

 

単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。

 

それも、地域の暴力組織によってです。

 

 

 

...学校を追い詰める?地域の暴力組織が...?

疲弊していると言っても1つの学校であるアビドスを追い詰めるほどの戦力が、そんな何の変哲もない地域の暴力組織にあるのだろうか?

 

疑問が頭に浮かぶが、先生は2枚目の手紙に目を向ける。

 

 

 

こうなってしまった事情は複雑ですが......。

 

どうやら、私たちの学校の校舎が狙われているようです。

 

今はどうにか食い止めていますが、

 

そろそろ弾薬などの補給が底を突いてしまいます......。

 

このままでは、暴力組織に学校を占拠されてしまいそうな状況です。

 

 

 

先生は静かに三枚目に目を通す。

 

 

 

それで、今回先生にお願いできればと思いました。

 

先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?

 

 

 

 

「...ふむ。」

 

つまり救難要請...というところだろうか。

要点をまとめると、どうやらアビドス高等学校に暴力組織が学校を占拠しようとしてきたので、力になってほしい。

ということだろう。

 

『学校が暴力組織に攻撃されているなんて...ただ事ではなさそうですが...何があったんでしょうか?』

 

色んな疑問はあるが、これは現地に行って直接見れば分かる事だろう。いや、それ以前に生徒が危ない状況にあるのなら、助けるのが先生の義務だ。

 

「アビドスに出張しようか。」

『すぐに出発ですか!?流石、大人の行動力!』

 

そう告げた先生は絶賛仕事中のユウカの方を向き申し訳なさそうな笑みを送る。

 

「ごめんねユウカ。先生少し出張してくるよ。」

 

先生は立ち上ってシッテムの箱を持ち、少し崩れたスーツとネクタイを正す。

 

「い、今からですか!?」

 

いきなりの出来事に慌てる彼女。

まあ...何の拍子も無く出張へ行くと言ったのだ、無理もない。

 

「今作業してる仕事で今日はもう大丈夫だから、ありがとうユウカ。」

「え?...あ、はい...?」

 

イマイチ状況が読めないと言わんばかりの顔をする彼女。

先生はユウカに軽く手を振って、シャーレの執務室を出る。

 

 

「...はい?」

 

 

そして執務室には、呆然と虚空を眺める、彼女だけが残ったのだった。

 

 

 

 

 

 

――――何処なんだココは。

 

シャーレを出発してから何日が経っただろうか。

朦朧とする意識の中、先生はアビドス自治区内を彷徨っていた。

地図ではこの先にアビドス高等学校があるはずなのだ。

...だが、何処を見ても同じ景色。学校らしい学校は見えないし、案内看板すらもない。

 

何なんだここは、新手の異世界か何かに私は彷徨ってしまったのか?

そう錯覚するほどに、想像より遥かにアビドス自治区は広大だった。

 

...何を隠そう、私はアビドス自治区にて遭難したのだ。

あのアロナが言っていた噂は本当だったのか...

先生は空になったペットボトルを握りしめる。

 

これが最後の水だった。

 

喉も乾いた、空腹も長い間続いている。

だが、それよりも暑い。

暑すぎる。

流石自治区の大半が砂漠であるアビドスの気候。

シャーレ近くのコンビニにて買っておいた予防策である2Lの水3本をすぐに溶かす猛暑であった。

 

因みに、今歩いている近くに、スーパーは無い。

つまり何を意味するか。

 

そう、死である。

 

そして先生は体力の限界か脱水症状か、視界が暗転し先生は道路に倒れる。もう歩く力すら先生にはなかった。

 

ああ...私はこのまま干からびて死ぬのだろうか。

なんて無様で情けない死に方なんだ...

 

「...ん。」

 

先生の耳に、自転車の止める音が聞こえる。

 

「...あの......」

 

銀色に輝く艶やかな髪、特徴的な水色のマフラー。

どこまでも澄んでいるかのような水色の瞳に見つめられた先生は、彼女の姿を見るや固まってしまった。

 

「...大丈夫?」

 

困惑の顔を浮かべる彼女に、正気を取り戻した先生は苦笑いをしながら頷く。

 

「いやぁ...大丈夫なんだけど、ちょっともう歩けそうになくてね。助けてくれない?」

「...あ、生きてたんだ。道路のど真ん中で倒れてるから死んでるのかと...」

 

死ッ...!?

いやまあ確かに水分不足と餓死で死にかけてはいたけども...。と言うか先生もさっきまで死を覚悟してたけど

 

「...喉が渇いてお腹も空いて倒れてたって事?」

「うん、もう歩けないぐらいにはね。」

 

謎に誇らしげに言った先生に困惑が深まる彼女。

一体この得体の知らない大人に関わっていいのかと、もはや後悔すら少し感じてきてしまった。

 

「それでね...良かったら助けて欲しいんだけど。」

 

溜息をつく彼女。まあ様子から見て悪い大人の類ではないだろう。

...まあ、声を掛けてしまったし話ぐらいなら...

彼女は得体の知れない大人(先生)の話を聞くことにした。

 

 

――――――――――――

 

 

「用事があって、数日前にアビドスへ来たけど店が無くて水と食料不足になって倒れた...」

「...なんだ、遭難者の人だったんだね。」

 

そう言って少し安心したように、表情が和らぐ。

 

「...というか、本当にこの辺りには店が無いんだね、少ないとは聞いていたけどこれ程とは...」

 

アビドス自治区へ入った初めの方は店は少ない数ではあるが営業しているが、少し自治区の中の方に入るとかなり数が少なくなって、この辺りになると店があることが異常であるかのように感じる始末である。

 

「ああ。ここは元々そういう所だから。食べ物があるお店なんか、とっくに無くなってるよ。」

 

そう少し寂しげに語る彼女。

アビドスには何かそういった事情があるのだろうか、そんな彼女の寂しげな顔を見ると何処か先生は心が痛んだ。

 

「...それで、地図は持っているようだけど...どうして迷ったの?」

「いやぁ...土地勘が無くてね、所謂方向音痴って奴だよ。自分で言うのもなんだけどね...」

 

方向音痴。いやまあ、漫画のような気が付いたら別の国へ行ってましたーというレベルではないのだが、例を上げると地下鉄が難解過ぎて使えないレベル。

キヴォトス中心部であるD.U.シラトリ区のシャーレオフィスに住む身であるが、未だに都市部の地下鉄の構造を理解できない。

平地や密室内の空間把握能力には自信はあるのだが、どうもああいう複雑な建物は物心ついたころから苦手だった。

 

「...なるほど、この辺は初めてなんだね。...あ」

 

彼女は何か思いついたように肩に下げている鞄を音を立てながら探る。

時折金属音が聞こえるが、一体何が入っているのだろうか...?

 

「はい、これ。エナジードリンク。」

 

清涼飲料水...シャーレオフィスからアビドスへ向かって以来全く飲んでいない代物。

しかもエナジードリンクときた。先生の大好物...いや、何なら先生の血液同様。

目の前に出された思ってもみなかった褒美に先生は思考がエナジードリンク一色に染まる。

 

「ライディング用の奴なんだけど、でもお腹の足しにはなると思う。...えっと、コップは」

 

コグッ

 

勢い良く喉を鳴らしながら飲み込む先生。

強い炭酸と強烈な甘み。全身がその感覚を待ち望んでいたかのように震える。

喉の渇きが一瞬にして無くなった。

 

そして、先生が一口で全て飲み干した後の空のペットボトルを呆然と彼女は見つめる。

 

「...あ...え?......そんなに喉乾いてたんだ...。」

 

ほんのりと赤くなった彼女の顔に少し疑問に思いながら、先生は満面の笑顔を見せる。

 

「いやぁ!助かったよ!!...本当に一時期は死ぬかと思ってたからさぁ...」

「う、うん。良かったね。」

 

やはりエナジードリンクは正義だ。先程まで朦朧としていた意識が今では平常...いや、それ以上にはっきりとしている。

...そういえば、少し量がいつもより少なった気がする...いや、まず開けるときに

 

「見た感じ、連邦生徒会から来た人みたいだけど...何か学校に用があってきたの?」

「この近くはうちの学校しかないけど...もしかしてアビドスに?」

「ああ、うんそうだよ。」

 

思考を止め、彼女の質問に答える先生。

うちの学校...そういえば、この制服はアビドスの...。

すると、彼女は少し驚いた顔をした。

 

「そっか。久しぶりのお客様だ。」

「私が案内してあげる。すぐそこだから。」

 

...すぐそこなの?

あんなに地図では離れてるのに...?

いやこれは私の見当違いなのか?ということは私のこれまでの苦労は一体...。

...いや、そんなことはどうでもいい。

今考えるべきことは。

 

「...ごめん、お腹が空いて動けそうにないや。」

「あ、そうだよね。うーん...どうしよう」

 

彼女は目を閉じ、顔に手を当て考える。

大人を歩かずに案内する方法、そんなものあるのだろうか。

そんな様子に、先生は彼女が乗っていたロードバイクに目を向ける。

 

「良かったら、乗せてくれないかな?」

「え?...いや、これ一人用だから...」

「じゃあ申し訳ないんだけど、背負ってくれるかな...?」

 

自分でも何を言っているのか分からないが、状況的に今はこれしかない。

そう考えた先生は常識という物を捨てる。

 

「まあ、そのほうがいいか」

 

断られることを覚悟していた反面、すんなりと返す彼女に驚く先生。

だが、これはかなり助かる。

彼女はロードバイクを先生の近くへ移動させ、先生に近付く。

 

「あ」

 

が、先生から少し距離を取った。

...え?嫌がられてる?

いや確かに数日はシャワーすら浴びていないので、多少匂いはあると思うが...こう、露骨に距離を取られると

 

「えっと...さっきまでロードバイク乗ってたから...そこまで汗だくじゃないんだけど...その。」

 

どうやら私の匂いではなく、自分の汗を気にしていたらしい。

なんて素晴らしい生徒なんだ。先生は感激のあまり心の中で涙を浮かべる。

 

「大丈夫、むしろ良い匂いするから。」

「...うーん、ちょっとよくわかんないけど、気にならないなら、まあいいか。」

 

少し引き気味にそう答えた彼女は、再度先生に近付き、標準体型である成人男性の先生を背中に軽々と背負った。

...まあ、キヴォトスの生徒と外の世界の人間である先生の力の差は雲泥の差であることをもちろん分かってはいるが...。

自分より小さい少女にこうも簡単に持ち上げられるとは、不思議な感覚だ。

 

 

「それじゃあ、しっかりと掴まってて。」

 

彼女はロードバイクのペダルをこぎ始める。

心地よい風が...

いや、思っていたより早いな。

いや早すぎないだろうか?

ちょ、ちょっと!!??

 

彼女は緊張のあまり、先生が慌てふためいているのに気付かない。

 

例え気にしてないと言われても、年頃なのでそれなりに恥ずかしい。

その影響か、無意識に彼女はいつもより3倍ほど早くアビドスへ続く道路を駆け抜けた。

 

 

 

しばらくして、先生は目的地であったアビドス高等学校に辿り着いたのだった。

 

 

 




という事で後書きです。
本編どうでしたでしょうか?楽しんでいただければ幸いです!
いやあアビドスの最初って曇らせることがあんまり出来ないんですよね、早く曇らせて先生に泣きついて、先生は自分の無力さに苦しんで欲しいですねぇ!!(?)
そういえばアビドス対策委員会3章出ましたね!もう何が何だか新要素が多過ぎて頭がオーバーヒートしそうになりましたが、皆様はどうでしたでしょうか?
自分的にはノノミの秘密であるネフティス系の話が出た時は興奮しましたね。勿論水着シーンも興奮しましたが。
いや案外全部興奮してたかもしれない。

ブルアカぁ...最高ゥ!!!
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