泣きそうです。
――――廊下を歩く彼女とおんぶされている先生。
歩くたびに軋むその廊下は、修理を所々にしてはあるがどれも応急処置のようなもので、改善にまでは至っていない。
校舎の老朽化も所々見え、今のアビドスの状況がそれを通してなんとなくではあるが分かってきた。
そんな事を考えてる内に、教室札に「アビドス廃校対策委員会」と書かれた扉を前に、彼女は立ち止まる。
「着いたよ。ここが私たちの教室。」
静かにそう言うと、彼女は教室のドアを開けた。
大きな机に、何やら財政状況のような物が書かれたホワイトボード。
そしてその教室では、3人の生徒が談笑をしていた。
「ただいま」
「おかえり、シロコせんぱ...」
「うわッ!?何ッ!?そのおんぶしてるの誰!?」
部屋の中にいた3人のうち、1人が叫び声を上げ、もう1人は困惑の顔。そしてもう1人は何故か満面の笑みを見せる。
「わあ☆シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
「拉致!?...いやまさか死体!?シロコ先輩!!」
「皆落ち着いて、今すぐ隠せばバレないわ、体育館に確かシャベルがあった筈だから...」
「...ん、普通に生きてる人間、この学校に用があるんだって。」
少し自分の言われように不満げなのか、彼女は頬を膨らませる、先生はその様子に苦笑しながら彼女の背中から降りた。
まだ足は震えるが、おんぶしてもらった分、先程よりはマシだ。
「や、やあみんな。」
「死体じゃなくて...お客さん?」
「でも、来客の予定なんて...ありましたっけ?」
各々安堵したり、逆に警戒心を高めたりと、慌ただしいが無理もない。
急に得体の知れない大人が連絡もなく学校を訪問したのだ、しかも生徒に"おんぶされた状態"で。
「シャーレから来た先生だよ、皆よろしくね。」
「「「!?」」」」
先生がそう告げた瞬間、その場にいた3人全員が信じられないと言わんばかりに目を見開く。
「えぇっ!?まさか、支援要請が通った...という事ですか!?」
「連邦捜査部「シャーレ」の先生!?」
警戒心が一気に解け、支援を受けられる事が分かった彼女達は安心からなのか、微かに表情にあった陰りが薄くなる。
皆一見元気そうではあるが、衰退が続いているアドビスの現状には苦労しているのだろう。
「とりあえず...まずは弾薬と補給品はどこに送ればいいのかな?」
今の先生は手ぶらだが、アビドスへの補給分はクラフトチェンバーで事前に製造しており、後は指定の場所に"アロナパワー"でシャーレから送り出すのみである。
「ええっと...とりあえず、皆さんで話し合って決めましょう!...ホシノ先輩は今どこに?」
「委員長は隣で寝てるよ。私、起こして...え?」
ガシャンッ!!!
扉を勢い良く開ける音がする。
そこには大量の汗をかいた少女が息を切らして立っていた。
「...せん...せい?」
左手で頭を抑え、今にも泣いてしまいそうな酷い顔で先生を見る。
まるで何かを恐れているような、それでいて何処か安心したかのような不安定な表情。
そしてその瞳には、言葉にしがたいほどの複雑な感情が渦巻いていた。
「...君が、委員長のホシノかな?」
突然の出来事に困惑しながらも、先生は笑顔で答える。
だが、その言葉はホシノにとってあまりにも残酷な言葉であり、無慈悲な現実を突き付けられたかの様な言葉だった。
「え?...あ...いや、そっか...。」
途切れ途切れのホシノの言葉に、先生は更に困惑する。
彼女と私は過去に会った事があっただろうか...。いや、初対面の筈だ。
当然である、先生はアビドスの生徒とはまだ面識を持っていない。
だからこそ、今の状況が分からなかった。
「ホシノ先輩...?」
「先輩...」
その様子に対策委員会の面々がホシノに心配の声を上げる。
その声に気付いたホシノは苦虫を噛み潰したような顔をして、溢れんばかりの感情を呑み込んだ。
そうだ、彼女達に心配を掛ける訳には行かない。いつも通り、いつも通りの私に戻らなければ。
そしてホシノは偽りの表情を作る。
俯きながら、誰にも悟られないように。
「...うへぇ、おじさんちょっと悪い夢見てたみたい...」
俯いた数秒後、そこにはいつもと変わらない雰囲気のホシノがいた。だがその異様な変わりように対策委員会の皆は疑問を浮かべる。
先程のホシノの只事では無い雰囲気は悪い夢のせい?
冗談じゃない。
あんな顔、今まででも1度たりとも見たことがなかった。夢のせいである筈が無い、何かこのシャーレの先生と何かあったのだろうと思うのが妥当...
だが、それを決定付ける証拠が無い。
それに、先生の表情が困惑の色に染まっている事から、きっと先生も身に覚えがないのだろう。だとすれば、本当に悪い夢なのか...?
「...悪い夢なら仕方ないね。私も良く見るから気持ち分からなくもないよ。」
「それで、これでメンバー全員揃ったのかな?」
先生は無理矢理に話を逸らす、今のホシノについてはここで話すような事では無いだろうし、本人もここで話すつもりもないだろう。
まずは逸早く補給品をアビドスへ送らなければ。
「...そ、そうですね。皆集まったことですし、補給品の場所を決めましょう。」
その言葉にほぼ放心状態であった対策委員会メンバーは目を覚ましたかのように、補給品の場所について話し始めた。
先生はその様子に少し安心し、胸を撫で下ろす。
立っていてもあれなので、先生も空いていた椅子に座り、会話に参加する事にした。
話し合いの結果、とりあえずは空いてる教室を一時的に倉庫として扱い、補給品を収納する。という結論になった。
幸いこの校舎には空いている教室が多々あり、特段倉庫として使う分には問題ない。
「よし、取り合えずその手筈で行こう。」
「わかりました!」
赤眼鏡のショートカットの生徒は笑顔で先生の言葉に応える。
...うん。
「それでなんだけど、自己紹介してくれるとありがたいんだけど...」
名前を把握できていない為、今のままだと少々コミュニケーションが取りづらい。
小さなことではあるが、コミュニケーションの問題は指導者としてはかなり重大な問題になるので、出来る事ならすぐにでも把握したいのだ。
まあ、アビドスについての詳細が書かれている連邦生徒会から送られてきた資料集を見れば、すぐに分かるのだが、本人の口から聞くことでより親密度が上がる。
「あ、大変失礼しました!委員会では書記とオペレーターを担当してます、一年のアヤネと申します。」
アヤネ...シャーレ宛ての手紙はこの子が...
ということは、この対策委員会は彼女が先導して活動しているのだろうか。
少なくとも、オペレーターという立場なので、対策委員会の司令塔のような立ち位置なのだろう。
「こちらは同じく一年のセリカです。」
「どうも。」
黒髪ツインテールに猫耳。キヴォトスには色んな種族の生徒がいる為、このような猫耳も対して珍しくも無い。
よって、合法である(?)
最初の先生に対する警戒心が一番高かったことから、恐らくこの対策委員会での制御役のような立場なのだろう。
「そして、こちらは2年のノノミ先輩とシロコ先輩。」
「よろしくお願いします~」
「ん。さっき道端で会ったのが、私。」
何処か自慢げにそう言うシロコ。
先生と最初に会っても特に自慢するようなことも無いような気がするのだが...
ノノミは...
いや、これは先生として思ってはいけない事だろう。
先生はノノミの”ある部位”ついての思考を止める。
「そして委員長である、3年のホシノ先輩です。」
「うへぇ、先生よろしくねぇ~」
机にだらんと溶けるように顔を付ける対策委員会、委員長ホシノ。
先程の緊迫とした表情からは考えられないような、気の抜けたような表情に先生は驚く。
だが、注意深く表情を見てみると少し引き攣っているように感じられた。
予想するに恐らく、これは偽りの顔であり、素の表情はあの緊迫とした重みのある雰囲気なのだろう。
...まあ、今のおっとりとした雰囲気からは到底そうと思えないが...。
「これで以上になります。」
「ありがとう、助かったよ。」
先生は軽く礼をして、次の質問を投げかける。
とりあえず今聞けるようなものは今のうちに全て聞いておきたい。
「因みに対策委員会というのは...?」
「えーとね、アビドスを蘇らせるために集まった人たちの部活だよ~、まあ全校生徒の全員がこの部活だから何とも言えないけど~。」
相変わらずゆったりとした口調でそう答えるホシノ。
そのホシノの言葉にシロコは少し遠い、寂しげな目をして窓の方を向いた。
「他の生徒は転校したり、退学したりして町を出ていった。」
「学校がこの有様だから、手紙へ書いた通り三流チンピラに学校を襲われてるの。」
三流チンピラ...凄い言われ様だな。
アビドスからの転校、退学。
今も尚アビドスに残っている彼女達を見れば、悪い事に思えるかもしれないが
今のアビドスは学校自体の活気が無く、治安も悪ければおまけに環境も変化が激しい。
その状況を考えるとその転校や退学といった選択も正直納得は出来る。その選択した彼女たちを責めることは出来ない。
「それで補給が間に合わなくなって、私に連絡したという事だよね?」
先生の言葉に一同が頷く。
概ね手紙の内容通り、となれば手筈はアビドスに行く道中でもう考えてあるのでそれを実行するのみ。
先生は背筋を伸ばして、少し勢いのある声でこう宣言した。
「それじゃあ、その元k」
ダダダダダダダダダダッ!!!
が、その言葉の大半が、甲高い銃声により生徒たちの耳には届かなかった。
「銃声!?」
「ッ!?武装集団が学校に接近しています!いつも通り、カタカタヘルメット団の連中ですね...」
「あいつらッ...三流チンピラめ...」
カタカタヘルメット団...?
先生は窓から外の状況を見る。
学校を狙っている例の三流チンピラというのはこの集団か。
ヘルメットを被った所属不明の不良生徒。その数、見えているだけでも30名近くはいる。
こちらの戦力を考えると不利な状況だが...。
いや、数は脅威じゃない。うまく立ち回れば必ず勝てる筈だ。
先生はシッテムの箱を取り出し、対策委員会の生徒たちの方を見る。
「...よし、皆。私が指示を出すからその通りに従ってほしい。」
「え?指示ですか...?」
アヤネが少し不安げに答える。
シャーレの先生とは言っても実力は未知数、正直言って先生の指示を信頼できるような証拠がアヤネには無かった。
セリカも同感のようで、訝しげな様子で先生の顔を見る。
「皆、先生に従おう。」
そう答えたのはホシノ。ふわふわとした雰囲気から少し顔つきが変わった彼女の先生を見る瞳には、先生への"絶対的な"信頼と確信を感じられた。
ホシノの意外な発言にホシノ以外の対策委員会メンバー全員が驚く。
だがその確信めいた委員長である彼女の瞳に、その言葉に対する反対の意識が薄くなっていった。
「ん。私は先生を信じる。」
「...まあ、ホシノ先輩が言うのなら...」
「先生の指示、楽しみですね~」
先生はその言葉を聞いて生徒たちに笑顔で答える。
こんな知り合ったばかりの大人に生徒たちが信頼を寄せてくれたという事だけで、先生はとても嬉しかったのだ。
「わ、わかりました。私も先生と一緒にサポートします!」
「うん、頼もしいよ。」
ダダダダダダダダダダッ!!!
銃声が近くなっている、もうあまり喋っている時間は無いようだ。
その事に気付いた対策委員会は先生に無言で合図し、扉を開けるとノノミ、シロコ、セリカの順番で廊下へ駆け出す。
そして、ホシノも皆の後に続き歩き出しながら、ふと先生の方へ振り向く。
「...信じてるよ。」
その言葉には何処か重い深い意味があるように感じられたが、先生にはその意味は分からなかった。
だが、大人として、生徒が身を預けられる先生として私が答えられる言葉は
「任せて、私は先生だからね。」
という何の捻りも無い、だが本心からの言葉だった。
ホシノはその言葉に満足したのか、他のメンバーの背中に向け、駆け出す。
そのいつもとは違うホシノの様子に、不思議な顔をするアヤネ。
「先生、ホシノ先輩と前にお会いしたことがあるんですか...?」
「いや、今日が初対面だよ。」
あの先生に対する絶対的な信頼。
先生自身も彼女が何故そこまでの信頼を寄せているのかよくわからないが、信頼できる何かが彼女にはあるのだろう。
...そして先程の取り乱し方、後で詳しくホシノに聞いてみる必要がある。
だが今はそんな事より目の前の問題、アビドスでの初仕事を成功させるのが重要だ。
「アロナ、初仕事だよ。」
『はい!先生、私も全力でサポートします!』
アロナの言葉の後、シッテムの箱の画面に周りの環境、敵の配置と対策委員会の配置が表示される。
あと必要なのは...
「アヤネ、皆へ指示を送れる端末ってあるかな?」
「はい、確か予備の物が2つ程あります!」
するとアヤネは部室の収納から丁寧に小型端末を取り出し、先生に渡す。
これで、準備は出来た。
「ありがとう、それじゃあアヤネ。よろしくね。」
「はい!先生、一緒に頑張りましょう!」
――――そして、先生含め対策委員会とヘルメット団との戦いの火蓋は切られたのだった。
という事で後書きです。
最近は小説のモチベが高いです。
もうビンビンです(?)
という事で今回は後書きを少なくして次の話を作りたいと思います!!!
それではみなさん次の話でお会いしまsy