人を〇すと処刑されるデスゲームから、謎の超生物を暗殺する学園コメディに転生した件 作:暦月
なお、転生先は黒幕の妹にして主人公でした
いきなりですが、転生という言葉をご存じでしょうか。
……いえ失礼しました。私の独白を聞いてる皆さんが、そんな当たり前のこと知らない筈ありませんよね。
そう、今やゲームやアニメなど様々な
一昔前ならいざ知らず、今や日本の代表的なカルチャーとして“此方の世界”でも国内外問わず人気を博していますし、アニメや漫画を一度も見たことがない人など今では圧倒的少数に分類されるでしょう。
いきなり何が言いたいのかと思うかもしれませんが、他ならぬ私が転生者です。細かく分類分けするなら転生より憑依が近いかもしれませんが。
「まさかここがダンガンロンパの世界だったなんて。それも二次創作のオリジナルキャラとは」
そして記憶を思い出したことにより、ここが
ダンガンロンパとは、一時期ブームとなったデスゲームの中でも特に高い人気と評価を受けた傑作だ。
『超高校級の才能』を持つ生徒達を学園や無人島に閉じ込めてコロシアイを強要し、犯人となるクロを当てながら卒業――云わば脱出を目指すというもの。
シリーズを超えるごとに殺人のトリックや推理の過程が難しくなっていく中、それに比例するかのようにプレイヤーを絶望させるオチや鬱になる展開を盛り込むことで熱狂的ファンを生み出してきた異色のヒット作である。
ですが生憎前世があったという事と、その時一番好きだった『ダンガンロンパ』シリーズの内容以外は何も覚えておらず、自分が男なのか女だったのかも定かではありません。
なのでこの世界で過ごしてきた記憶が消える訳でもないですし、自分を異物だと認識するような自虐めいた思考も持ち合わせていません。私は正真正銘、この世界の人間です。
「どうですか
「………凄いな。姉が優秀なら妹も優秀という事か。顔や好みだけでなく発現する才能まで一緒とは、同じ血を感じずにはいられないな」
「………どうも」
しかし、それを許容したのと目の前の光景を受け入れるのとでは全くの別問題。
前世の記憶を取り戻した事が重要なのではない。
それより問題は、私が準備したお祝いパーティーに喜ぶ姉と、しきりに此方を観察するような視線を向ける少年の存在だった。
「平良茜、お前の妹は随分と落ち着いた性格なんだな」
「あはは。確かにその通りですが、空ろ様がいらっしゃるので実は緊張しているのかもしれませんよ」
妹の無礼をお許しくださいと姉さんが恭しく一礼するのを苦い気持ちで見やりながら、私は心の内で思い切り悪態を吐くのでした。
(よりにもよって身内とその想い人が黒幕とか、どうすれば良いんですか!?)
声を大にして叫びたい気持ちをグッとこらえて、二人に怪しまれないよう慎重に観察を続けます。
(問題はそれだけじゃありません。何故現実には存在しない筈の
私こと
そして目の前の二人。私を構成するデータの元となったの、姉にして【超高校級のメイド】の才能を持つ平良茜と、最早才能の域を超えた【天運】を有する空ろ。
希望ヶ峰学園第79期生にコロシアイを強要し、最期には自ら命を絶った元凶を前にして、私はどうしてこうなったのかと痛む頭で必死に考えるのでした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あるところに仲のいい姉妹がいました。二人はお互いのことを信頼し合っており、辛い時も、苦しい時も、互いに手を取り支え合ってきました。
姉妹は両親を既に事故で亡くしています。そのため孤児院に引き取られる事になったのですが、そこで大人たちの陰湿な虐待を受け、肉体的にも精神的にも追い詰められていました。
そんな折、姉妹の前に一人の少年が現れたのです。
少年は二人に何か望みはあるか聞き、姉は妹との安全な生活を、妹は姉が好きな家事ができる環境をそれぞれ望みました。
するとどうでしょうか。少年が去った後、二人を苦しめていた孤児院は瞬く間に潰れ、姉妹を虐げてきた悪い大人たちも次々に警察へと連れていかれるのでした。
一連の騒動があの少年のお陰だと知った姉は随喜の涙を流しましたが、突然の事態に事情を呑み込めない妹は少年に猜疑心を抱きました。
しかし感涙に浸っている姉にそんな事は打ち明けられず、互いに真逆の感情を宿したまま二人は孤児院を出ることになります。
再び家無き子になった姉妹ですが、姉がメイドの仕事を始めたことで何とかお金を稼ぐことができました。
元よりメイドとして類い稀なる才能を有していたこと、人好きのする容姿や性格も合わさって決して裕福とは言えないながらも子供二人が何とか生活できる程度の暮らしを得たのです。
そんな嘗て少年に打ち明けたような穏やかな日々が続いたある日の事でした。唐突に姉から学校に興味はないかと聞かれたのです。
「ねえ、空は学校に行ってみたいと思わないの?」
「行きたいけどそんな余裕無いでしょう。何時までも姉さんに頼りきりは悪いですし、私もメイドとして働きます」
「駄目! お金は後からでも何とかなるけど、学校で学べるのは今しかないんだよ? 学費はこっちで出すから空は勉強してみなよ」
「でも……」
「その代わり! 授業でどんな事を学んだか後で私にも教えてよね」
「うん…そういう事なら」
そうした姉さんの全面的なサポートもあり、
そこでできた友達は決して多いとは言えませんが、幸運にも一人親友と呼べる人ができてその喜びを姉さんと分かち合いました。
この頃になると家事以外の依頼も完璧にこなす姉さんの存在は徐々に有名になり、私も負けじとより一層勉学に励むことになります。
「う~ん。これはどういうこと空?」
「それはこの式をこっちに代入して…」
「あぁそっか! 凄いよ空!」
「それはっ、だってもう習ったし。私は姉さんの吸収速度の方が驚きです」
「えへへ、そっかなあ~」
私が選んだ学校はだいぶ特殊ではあるけど、知識を蓄えて姉さんに恩返ししたい私にとってはこれ以上ない場所でした。
おまけに姉さんの名がいよいよ全国的に広まると、なんと学校の方から成績を落とさないことを条件に特例でメイドのバイトをしても良いとの許可を提示してきたのです。
「どうかな。君にとっても悪い話ではないだろう」
希望ヶ峰学園への入学が確実とまで言われる『超高校級のメイド』の妹が在籍している学校となれば、今まで以上に注目を受けるのは間違いないでしょう。
恐らく学校側は私を広告塔に据える狙いがあるのでしょうが、客寄せパンダでもなんでも姉さんと同じ仕事ができるなら私は構わなかった。
子供の時に特撮を見てヒーローに憧れるように。好きなスポーツ選手ができた子がその競技の道に入るのと同じように。
私にとっては姉さんこそがソレで、あんな風になりたいと焦がれるぐらいには働く姉さんの姿に魅了されていた。
「はい。喜んで受けさせていただきます」
そこからはメイドと学生の二足の草鞋だった。
最初は過保護が発動した姉さんが私を自分の横につけて働いてたけど、それも数か月が過ぎたぐらいから一人で依頼を受けることが増えてきた。
その事に一抹の寂しさを覚えなかったと言われたら噓になるが、同時に一人前と認められた誇らしさやら充実感が存在していたのもまた事実だ。
どちらにせよ私がやることに変わりはなく、成績を維持しながらメイドでお金と人脈を得ていった。
そして今日。
私も2年の半ばに差し掛かってきた頃、姉から希望ヶ峰学園の推薦が来たとメールで伝えられた。名目は勿論、『超高校級のメイド』として。
(希望ヶ峰学園本学科は一般入試を受け付けない完全スカウト制だって聞いたことがある。となると姉さんが断わるわけないし、入学はもう確実…!)
そうなったら居ても立っても居られなかった。
姉さんの才能と努力が世間に認められた。この事実をかつて虐げてきた大人達に突き付けた上で言ってやりたい。
貴方達がゴミだの何だのと散々罵倒した姉が、今や財閥間で神格化されるほどの存在になったという事を。結果的に腐った審美眼を証明する形になったことを恥じながら残りの人生過ごしたらいい。
「いけませんね折角のおめでたい日なのに。こんな無駄なことを考えるくらいなら御馳走でも作って盛大に祝福しないと」
努めて仄暗い思考を記憶の隅に追いやると、姉さんが帰ってくるより先にお祝いの準備に取り掛かった。
冷蔵庫の中にあるもので片っ端から料理を創作していき、部屋の内装も買ってきた装飾で豪華に彩る。未だ姉さんの足元にも及ばないとはいえ、着実にメイドとしての技量を高めてきた私にとってこの程度は朝飯前だった。
「そろそろですか」
その言葉通り準備を終えて少し経ってから姉が帰ってきた。部屋の内装が変わっているのを見て一瞬声を詰まらせたかと思えば、すぐに破顔して目に涙を浮かべます。どうやら喜んでくれたみたいでした。
「嬉しい。凄く嬉しいよ空…! こんなに幸せで良いのかな私。ごめんね変なこと言って」
泣きじゃくる姉を宥めながら、これが誰かのために得た喜びなんだとメイドとしての充実感に酔いしれます。それまでは姉さんの真似事でしかなかった仕事に、初めて自分なりの意義を見出せたのです。
顔を上げてからも暫く姉の泪は止まりませんでしたが、漸く息を落ち着かせたタイミングで今度は姉さんの方から逢わせたい人がいると告げられました。
「別に…姉さんが連れてきたいと思うならいいんじゃないですか」
「そう? なら紹介するね」
本音を言うなら二人きりでお祝いしたかった。でも姉さんだって今日が特別な日と分かった上で連れてきたんだから、その気持ちを無碍にしてはいけないと思って頷いてしまった。
それがまさか、あんな事になるとは知らずに。