人を〇すと処刑されるデスゲームから、謎の超生物を暗殺する学園コメディに転生した件 作:暦月
――身体が重い。
指先が鈍い。肩に力が入らない。声が遠い。
思考が纏まらない……気持ちが上がらない。
メイドとして最高のおもてなしを提供できるよう、いつ如何なる時も万全の状態を徹底していた彼女がこれほど不調を抱える理由――それは迷いだ。
前を見れば、体の半分を白と黒で色分けしたクマのロボットが、人など簡単に殺せそうな鋭利な爪を立てて同級生に振り下ろそうとしていた。
嘗て16人いたクラスメイトは、その内11人が死亡。2人が裏切り、残る3人の命も風前の灯火だ。
これで良い。この結末はご主人様が望まれたものなんだから、それに異を唱える必要などない。
彼等とは1年間を共にしたが、別に仲間でも何でもなく“彼”がそう命じたから付き合ってただけの偽りの関係に過ぎない。だからそこに友情や同情などある筈がない、あってはならない。
――本当に?
それならどうして……こんなに心が苦しいのか。
常にベストなコンディションで満たされていないといけないこの身体が悲鳴を上げているの何故だ。叫びたいのは自分の方ではないのか。
(何を考えているんですか平良茜。何も間違ってなどいない。これこそあの方が願い、所望された筋書きに他ならないのです。ならば受け入れなさい)
“……ね、”
拳を固く握り、胸の奥底から湧き上がってくるものを懸命に抑え込む。
「……動きたくないなら勝手にしろ。どうせこの後には何の支障もないからな」
“や…め……あか…!”
考えるな、疑問に思うなっ。私はただ、与えられた命令に従ってさえいれば良い。
「………モノクマ、
「イエッサー! 最後は絶望を彩る虐殺ショーにて
“やめるんだ、茜っ!!”
今の声は、■■様の……
「――駄目ッ!」
その瞬間、無意識に足が動いた。あれだけ重く圧し掛かっていた重圧がまるで嘘のように軽くなり、気付けば
「……は?」
「あ、れ…? 私、何を…」
自分が漏らした疑問に答える暇もなかった。爪で引き裂こうとしているモノクマの姿が再び視界に入ると、またもや【超高校級のメイド】の才能を使用して一瞬で詰め寄り、モノクマの誇る装甲ごと蹴り上げて壁のオブジェにしてやった。
「ちょっ、平良さん!? 何やって!」
「……うるさい」
最後はアイツだ。もはや脊髄反射も斯く言う速度で視認してから破壊するまでの工程を省略・最適化し、如何に護りながら
(破壊する)
そして選んだのは起爆する回路を断つ一撃だった。これで万が一にも自爆という手は取れず、クラスメイトが巻き添えを食うこともない。
華奢な細腕のどこから量産兵器を葬る威力の攻撃を繰り出しているのか、そんな疑問は些事として話に挙げられることもなかった。
その後にまた一波乱、そして二波乱もあったが、結果としてこの行動がコロシアイ学園生活の終焉へと繋がり、物語は一旦の完結を見せたのだ。
そして今、前世を跨いで再びその力が発揮された。
特別な訓練など受けていないと言いながら作中の誰よりも身体能力に秀でたメイドは、先日まで軍の精鋭部隊にいた男にたやすく一撃を入れ、あろう事か殴り飛ばしてしまった。
「……へえ、今のを食らって立ち上がりますか。流石は100億の賞金首といったところですね」
「待てっ、何か誤解している! 俺は国から派遣された彼等の指導係だ」
しかし攻撃を受けた方も只者じゃない。
彼――烏間惟臣はその精鋭部隊の中でも最重要ターゲットの一番近いところに配属され、生徒達を立派な暗殺者に育て上げる大任を仰せつかったエリート中のエリートだ。
超高校級の才能を持つとはいえ、戦闘とは無縁の生活を送ってきた女子生徒を相手に一撃で沈められるほど、彼は弱くない。
「どっちでもいいです。空を危険に晒しているのには変わりないですし」
「ッ――! (不味い、左腕をやられた。片手でどうにかなる相手じゃないぞ)」
それでも硬い装甲を両断する平良茜の一撃が効かない訳ない。スーツの下は青く腫れ上がり、骨には到達しないまでも暫くは使い物にならない程度には破壊されていた。
……冷静に考えて、不意打ちとはいえ通常兵器をも凌ぐモノクマを一撃で沈めるメイドと、それをまともに食らって骨折にも至らない教師って人間としてどうなんだろう。どっちも化け物では?
(今の感触からして相当な手練れなのは間違いない。国から派遣されたというのも嘘ではないようですね。許しませんけど)
とは言え平良茜にはまだ余裕があり、頭に血が上りながらも冷静に相手を分析するといった矛盾した行動も取れる。
(あまり人前で見せたくはなかったし、
「万全を期して、全力でお姉ちゃんを遂行します」
「何かどっかで聞いたことある台詞ー!」
「うおっ、急にどうした不破!?」
横の喧騒を尻目に、
「ちょっ、空!?」
「馬鹿ですか貴女は! 違うって言ってるでしょう!? なに衝動に任せて国家を敵に回そうとしてるんですかっ!」
いきなり襲い掛かった時点で傷害罪は確定とし、更には公務執行妨害、威力業務妨害と、果てには国家反逆罪まで付きそうな姉を全力で無力化した。
冗談ではない。黒幕落ちを回避するため色々頑張っているのに、こんな全く関係無いところで…しかも当の
「放して空! アイツ殺せない!」
「尚更放すわけないでしょう!? 何で部外者の貴女が一番
直前までリアルファイトを覚悟していた面々だったが、蓋を開けてみれば突然のキャットファイト展開に皆呆然となる。
しかもそれを常に冷静沈着なクラスメイトと、完璧メイドとして知られる姉妹が繰り広げているのだから然もありなん。きっと配信でもしたら幾つもの財閥が動いて金の流れがエラい事になっただろう。
「…成程、ここが天国か」
「え? その台詞ってお前が言うの竹林」
その後は遅れてきたイリーナ達と合流したり、初めて見る殺せんせーに平良茜の料理スキルが疼き出したりなど多少のゴタゴタはあったが、何とか生徒達を説得して帰らせた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
生徒が帰った教室は異様な空気が立ち込めていた。そこに居合わせた者達全員が、多かれ少なかれメイド衣装に身を包んだ少女相手に警戒の色を強めていた。
「要するに。事情を知る者からこの教室の事を教えられ、居ても立ってもいられず乗り込んできたと。そういう訳だな」
「ええ。なので私は謝りません。人違いだったとはいえ空を巻き込んだことに変わりはないのですから」
「それは……そうだな。保護者にも秘密にしている以上、バレて乗り込んできたとしても我々が咎める権利などない。こうなっても仕方無いことをしている自覚はある」
平良茜に負傷させられた左腕を掲げ、彼女に非が無いことを烏間自ら認めた。骨に異常がないと言ってもあれだけの衝撃だ。現場に向かっていた私達の耳にも届くくらいの攻撃を食らって無傷で済む筈がない。
濡れたタオルの上からでも分かる、左腕の大きな腫れ。暫く業務や日常生活にも支障が出ることは間違いない。
「いい加減にしてください。話も聞かずに傷を負わせておいて謝らないとはどういう了見ですか。第一私がいつ姉さんに助けてくれなんて頼みました」
「空……でも私、空が心配で」
「またそうやって子ども扱いをッ! 姉さんとは一年しか違わないのに。それとも才能の差がそれだけ重要ですか」
「違う、違うよっ! お願い私の話を聞いて!」
「私の方は何度忠告しても聞き入れてくれませんでしたけどね」
何というか意外だった。空の事だから姉を前にしても平時と変わらないと思ってたけど、今のあの子は年相応だ。
年齢に違わない、姉に反抗する何処にでもいる普通の妹。
彼女の口から才能という言葉が出たのも私の関心を引いた。特別気にしているようには見えなかったけど、家族を前にして素が出たのか将又努めて見せていなかっただけなのか。
とにかく唯一の肉親を前にした空は、普段知る彼女とは全く別の姿を私達に見せてくれた。
「その辺にするんだ。仲間割れを起こしたところで我々が対峙している
「我々…? 失礼ですが私と空を勝手に入れないでもらえませんか。暗殺なんて野蛮なことを今後この子にさせるつもりはないので」
(ハアアァッ!?
意外といえばあの平良茜とかいう子、普段は表に出さないだけで性格は悪いと思う。多分私と同じで仕事の時は猫を被るタイプだわ。
妹を心配する気持ちは本物だし、空と接している時の平良茜――名付けて姉茜――である内は無害も無害。でもその顔を向ける対象が一人しかいないから、一度素の性格が出れば空以外の人間に対して攻撃的になる。
そう言えば…、二人は元いた孤児院で虐待を受けていたって烏間が話してたっけ。ならその時から大人の特に男性を嫌っている可能性もあるのね。私は烏間や師匠ほど敵視されてないみたいだし。
「ね、ねえその辺にしとかないかしらお嬢さん」
「外野は黙っていてください」
いややっぱシンプルに性格が悪いだけかも…。
「だからっ、何で姉さんが勝手に決めるんですか!」
「……私だって意地悪したいわけじゃないよ。空がE組に落ちるって言われた時も、空には空の考えがあると思った。だから私も何も言わなかったの」
「ッ…!」
でも
「技術を磨くのは他でも出来るでしょ? でも殺したら一生取り返しがつかなくなる。命を奪うのってそれだけ重いことなの」
「ッ~~、よりによって貴女がそれを…!」
「落ち着くんだ空さん。彼女の主張は尤もだ。この暗殺が成功すれば、俺は君含めた生徒たち全員に殺しを経験させることになる。……保護者の同意も無くな」
保護者の同意か…。私は自分で選んでこの世界に入ったっけ。内戦が絶えない国で両親諸共住んでいた村を襲われ、その際に民兵を殺して私一人が生き延びた。
私は結局殺しの道を選んだが、空達にはそもそも選択肢がなかった。あのタコが
日本は私のいた国よりもずっと豊かだけど、この子達だけが巻き込まれて世界の命運を左右する手綱を握らせられている。
いっそのこと、全部投げ出した方が楽なのではないか。そう思うイリーナだったが、しかし空は毅然と返した。
「それでも私はここに残ります。誰が何と言おうと殺せんせーを殺し、依頼を達成して見せます」
「殺すなんて、そんな物騒なこと…!」
また話が堂々巡りになる。誰もがそう予感する中、再び殺し屋ロブロが口を開いた。
「ならば
師匠? 暗殺で決めるってどういう……
「殺せんせー、さっきの模擬暗殺の件だがルールの変更を要求する」
「ルールの変更、ですか」
そうかッ、平良茜が来る前にあのタコが提案した模擬暗殺の事を言ってるのね。
「ああ。事前のルールではそこの
「……そうですね」
「だが肝心のターゲットがこの怪我では勝負になるまい。そこでどうだろう。この教室に残りたい二人と、立ち退かせたい私達でペアを組むというのは」
これで私達に負けるようなら、イリーナ達もこの
本来、ここの流れは当初殺せんせーが提案した通りのルールになる筈だった。そしてこの教室に来てから挑戦と克服を繰り返してきたイリーナが見事烏間に一撃を入れ、その仕事ぶりをロブロに認めてもらう展開だったのだ。
しかしその筋書きはたった今、異なる世界線の少女達によって塗り替えられた。
「先に全滅させた方が勝ちの、2vs2の模擬チーム暗殺を提案する」
希望ヶ峰学園第79期生 『超高級のメイド』平良茜
〇誕生日……8月15日
〇身長………166㎝
〇体重………48㎏
〇趣味特技…掃除、骨董品収集
〇好きな物…ケーキ、紅茶
〇嫌いな物…生臭いもの、大人の男性
〇得意科目…家庭科、他は成長次第
〇苦手科目…知識を要するもの全般