人を〇すと処刑されるデスゲームから、謎の超生物を暗殺する学園コメディに転生した件 作:暦月
もう少し書き足せるかな~と思い、12話を修正しました。
3年E組の朝は山登りから始まる。
彼等の通う旧校舎は、本校舎隣にある山の頂上にあるため、そこで授業を受けるとなると必然的に山頂アタックを強いられる羽目になる。以前も似たような説明があり詳細は省くが、ようやく身体が出来てきた少年少女にとって朝の通学は苦行以外の何物でもない。
特に女子からはこの行軍に慣れても脚が太くなる逞しくなるばかりだと嘆く声も聞かれ、要するにクラスメイト全員の悩みの種になっていた。
「……なあ渚、この山道って徒歩以外の通学手段とか有ったっけか」
「いや……無かった筈だよ」
杉野が至極当然のことを言ってきた。そもそもE組の差別の一環を台無しにするような真似、学校がするとは思えない。
でも言いたいことは分かる。凄く分かる。だって僕も同じことを考えてると思うから。
「じゃあ何で道の真ん中にこんな立派なバスが置かれてるわけ?」
「……さあ」
そうなのだ。昨日まで何もなかった麓に、今朝来てみたらクラス全員が乗れそうな大型バスが鎮座していた。しかも普通のタイヤより溝が深く、明らか登山仕様にセッティングされた状態で。
これ一台で利便性と女子の太腿問題が一気に解決出来るが、一体誰がこんな物を……とそう思っていたら降車口の扉が開き、中から烏間先生と、見知らぬ二人の男女が下りてきた。
「お早う皆。突然で申し訳ないが、今日一日だけ外部の人間を招き入れることになった」
いや違う。少なくとも女性の方は顔も名前も知ってるし、昨日の時点で声も聞いている。でも何でまだ此処に…?
「私はロブロという者だ。君たちの
「改めまして、平良茜です。昨日は大変お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんでした」
それは鬼気迫る初の遭遇から様相を一変していた。嫋やかに傅く姿からは一流の気品を感じると共にどこか愛くるしさを漂わせ、老若男女問わず生物の根底にある庇護欲が掻き立てられるような錯覚を受ける。
しかし忘れてはならない。錯覚はどこまで行っても錯覚でしかないことを。
「つきましてはお詫びも兼ねて、此方のバスで皆様を送迎させて戴きますね」
まるで白魚のような繊細な手は昨日、防衛省出身の烏間を殴り飛ばしたばかりだ。その気になれば片手間でこの場を制圧できてしまいそうなメイドを前に、しかし誰も……攻撃を受けた烏間ですらメイドたる平良茜に警戒心を抱けずにいた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
時間は遡り、空とイリーナの処遇について前回ロブロが提案したところから話は再開する。
「2vs2の…」
「模擬チーム暗殺?」
イリーナ先生の師匠だというロブロさんの提案に、私たち姉妹は揃って首を傾げました。暗殺を齧って一か月と少しの身ではありますが、殺しに模擬戦があることも、その形式がいわゆるダブルバトル方式だったことにも驚きを隠せません。姉さんに至っては頭の疑問符が乱立しています。
「そうだ。暗殺を続けたいと言うなら証明してもらおうじゃないか。この超生物を仕留めるに足る実力とやらを」
彼の言い分はこうでした。模擬暗殺は元々は自分とイリーナ先生で行う予定だったが、その勝負の行方を決める
そのついでに同じような事で揉めている私達を巻き込めば一気に問題も片付くし、何より烏間先生の埋め合わせを他ならぬ姉さんがするのは至極当然のことだとか。
「お断りします。人の妹に暗殺などと物騒なことを教えている輩を攻撃して何が悪いのです」
しかしその提案を一蹴したのもまた姉さんでした。これからクラスメイトにデスゲームを強要するとは思えないほど真っ当な反論を返してきたのです。
「言ったでしょう、金輪際この子に暗殺なんて野蛮なことはさせないと」
誰が言ってるかは兎も角、保護者の観点からすると尤もな言い分でした。自分の子供がこんな劣悪な環境に押し込まれて差別を黙認するばかりか、殺人まで強要されていると知ったらまともな親であるほど遠ざけたくなります。
「空はすでに希望ヶ峰学園にスカウトされる基準にまで達しています。例え外部に漏れなくても、こんな形で才能を伸ばして心に傷でも負ったらどうするつもりですか」
でもね姉さん、
真に絶望を望んでいるのではなく、主の命令だからと心を押し殺して黒幕になった貴女ならこの教室に嫌悪感を持っても何ら不思議ではない。一度生徒達に人殺しを強要するのがどういう事なのか、被害者側に立って見たらいいんです。
きっとそれは、指を咥えて眺めるしかない自分を呪うほど追い詰めたくなるでしょうから。
「私は希望ヶ峰学園に入りたくて才能を磨いているのではありません。姉さんに負けないためにも、より多くの技術や知識を得る必要があるのです」
故にロブロさんが提示した模擬暗殺ですが……私も断らせていただきます。だってそうでしょう。誰が好き好んで負け戦にノるというのですか。
殺し屋とメイド。現状では経験も能力もそれぞれの師の方が優れていて、尚且つ組んで迎え撃つとなれば勝機は限りなく乏しい。
進退をかけた大事な勝負で選択を見誤るほど、私は自分の能力を過信していません。そもそも私がこの教室に居るのだって姉さんを超えるためですからね。
「ならば何かしらのハンデがあれば問題ないという訳か。それも私ではなく彼女……平良茜の」
「…そうなりますね」
色々状況が変わったとはいえ、元は殺せんせーが提案したルールですからイリーナ先生がロブロさん相手に勝ちを収められる“ナニカ”があるのは間違いないでしょう。
ですが私の方はそうは行きません。引退し体力も技術も落ちているであろう彼とは対照的に、絶賛伸び盛りな姉さんの相手が私に務まるでしょうか。
答えは
……ええ分かっていますとも彼我の実力差ぐらい。悔しいですが、殺せんせーから見ても私と姉さんの間に横たわる差はそれだけ大きいみたいです。
「全ては私次第、と。ではこの話はこれで終わりですね。私はこれから退学の手続きをしてきますから、後はどうぞそちらで存分に話し合ってください」
「待っ――!」
だから他の方法を……と提示する間もなく強引に会話を打ち切られた。最早話すことなど無いとばかりに向けられた背に追い縋ろうとして、咄嗟に手を伸ばす。
「ターゲットに関わる情報を今後君にも流す……といったらどうだね」
「…!」
掴んだその手が、私以外の声によって引き留められた。
「……なんの事でしょうか」
「それだけ妹を大切に想ってる君の事だ。当然、この生物を野放しにしておく事がどれだけ危険かも承知しているだろう」
ロブロさんのこの発言にハッと気づかされました。
言われてみれば確かに。私をこの教室から遠ざけようが、殺せんせーを暗殺しないとどの道地球と一緒に寿命を迎えるという特大の地雷がまだ残っているのです。その事を姉さんが把握してない筈ありません。
「君は暗殺から手を引かせたいようだが、地球を奴の手から護る上でメイドの才能が如何に有益かも理解しているね? ならば考えるだろう。
恐らくこの
例えば姉さんを神聖視する財閥の力を頼ったり、はたまた黒幕が使う独自のルートから辿ってきてたかもしれない。
どちらにせよ、私を退学させたから全部終わり……なんてのは微塵も考えていなかった筈。
「表に出るか、裏で手を回すにせよ現場の情報は是が非でも入手したいだろう。であるならば此処で
「待てっ! 何故そこで俺に振る!?」
烏間先生が抗議の声を上げますが、そうなれば恐らく彼の意志とは関係無しに“上”から今の条件を受け入れる通達が来るでしょう。
自慢じゃないですが、今現在この教室で最も暗殺に貢献している生徒を選べと言われたら私以外有り得ないでしょう。戦闘スキルに限ればカルマさんも良いところまで行きますが、超高校級の才能を持つ私ほどではありません。それに本来の領分であるサポート能力を生かした連携の可能性まで加味した場合、客観的に評価して私以外の選択肢は自動的に消えるでしょう。
ならばチーム暗殺に敗れて私がこの教室から去ったとして、誰がその役割を引き継げるでしょうか。
いえ…
「ロブロさん貴方、最初から姉さんが狙いだったんですね」
「……私はどちらに転んでも良い結果に繋がればと考えたまでだ」
余計なことをッ…これで負けたら仮に地球の破壊を阻止できても、姉さんに人殺しをさせないという当初の目的を果たせないじゃないですか!
「……良いでしょう。私が空を抑え込んでいれば今回だけで済む話です。この子に嫌われないならそれに越したことはないですし」
そう言って姉さんも了承し、細かいルールの設定やハンデの内容を決めた後で改めて両陣営ともチーム暗殺に同意したのでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……という訳だ」
烏間先生から事の顛末を聞いた僕らには困惑と驚きしかなかった。
平良茜さんが昨日押しかけてきた時点でまた何か起こるだろうなとは思っていたが、まさかビッチ先生と平良さん……空さんが一気に居なくなるかもしれないなんて。特に二人と仲のいい歌舞谷さんなんかは目に見えて動揺している。
「そんなっ、空が退学するかもしれないって」
「……納得いかない人もいるだろうが、当人達で決めたことだ。防衛省もそれを許可した。普段通り過ごしてくれとは言わないが、少なくとも直接授業に影響を与えるようなことはしない…そうだな」
「安心しろ。訓練の時間を削るのは私も本望ではない。それは彼女も同じだろう」
まだ朝だというのに車内は重苦しい雰囲気に包まれた。
タイヤだけでなくエンジン駆動まで挿げ替えられたバスは山の斜面を物ともせず、気持ちに整理がつかないまま僕らを二人が待つ旧校舎へと運び込む。
「皆様の心中お察しします。ですがよく考えてください。もし仮に自分ではなく家族が同じ状況になった時、あなた方は果たしてそれを受け入れられるでしょうか」
「人を殺めるのがどういう事なのか、今一度自分の行いを客観的に見直し、正しい選択をされることを願っております」
「おいっ、空さんは未だしも他の生徒達のやる気を削ぐのは看過できんぞ」
正しい選択を、か。前に全校集会で絡まれた時に殺す覚悟が無いことを指摘したけど、実際は僕らもそう変わりないのかもしれない。
だってほら。事情を知る保護者を前にして反論の一つ上がらないのだから。
「さ、着きましたよ」
そう言って運転席から下りた平良茜さんが降車口を開いて僕らを学び舎へと送り出す。
というか運転って平良さんがしてたの? 烏間先生は腕の負傷があるから仕方ないにしても他にロブロさんとか居たでしょ。幾ら私有地とはいえ未成年がバスを運転するのはどうかと思うよ?
微妙な心境をする僕らを、先に来ていた空さんとビッチ先生が迎えてくれた。
「皆さんお早うござ…「お疲れ様ですせんせい! ガキ共のお守りで喉も乾いたでしょう。はい、冷たい飲み物です!」
なんか入ってる。絶対何か入ってる。
ビッチ先生が早々に仕掛けてきたけど、流石にこんな見え見えな罠じゃ僕らだって騙されない。
「バカ弟子め。そもそも受け取る間合いまで入らせると思うか。おおかた筋弛緩剤でも盛ってあるのだろう」
「ギクッ…!」
勝手に暗殺紛いの事を仕掛けて玉砕したビッチ先生に厳しい目が向けられる。師であるロブロさんもだが、そんな彼より凍てつく視線が後方の味方から浴びせられる。
「何やってるんですか貴女は」
「仕方ないでしょ! 師匠に色仕掛けとかどうやったって不自然になるわ! キャバ嬢の相手が学校の先生だった時ぐらいの気まずさなのよこっちは!?」
知らねーよ。じゃあやんなよ。
奇しくも全員の気持ちが一つになった。
「こんな事で
「ご心配なく。流石に今のを暗殺と認めるのは空さんが可哀そうですからねえ。でも次からはカウントしますので気を付けて。
それと……お早うございます皆さん。今日も絶好の暗殺日和ですよ」
そこに殺せんせーも合流し、いつもの
普通の学生生活を送っていたら先ず遭遇し得なかっただろう。暗殺と学業という二つの刃を研ぐ僕らだからこそ見れた光景を前に、
早く、早く始まらないだろうか。殺しとメイドのプロ2組が全力で互いを暗殺しあう、そんな状況を前に期待が膨らむのを止められない。
「プロの殺し屋なら予備のプランを持っているのではなかったのですかイリーナ先生」
「対象にッ! 顔が割れてなければね!? どこに殺し屋と分かっててハニートラップに掛かってくれるターゲットが居るっていうのよ!」
「いるじゃないですか身近に」
「人に限るわよそんなもん!」
止められないんだけど……なんか無理そう。ビッチ先生の腕を疑う訳じゃないんだけど、正直あの4人の中だとタネが割れてて直接戦闘が苦手というだけで可能性が無いように思える。
せめて不意打ちが通じれば。
「……成程ね。とんだ茶番を演じてくれるよビッチ先生」
「茶番って?」
クラス全員が同じ意見だと思ったけど、カルマ君だけは違うみたい。何かに気付いたのか笑みを深めて言い争ってる二人から目を離し、集団全体を見るよう促した。
「見なよ校舎に向かうこの列を。殺せんせーを挟んで彼女達より前には
「あっ…本当だ!」
「バスから降りた時点で誘導してたんだ。勿論バレないようにね」
ビッチ先生が焦って失敗したように見えたのは全部演技。自然と言い争う流れを作り、相手に警戒心を持たせないようにするのが本当の目的だったんだ。
「違うよ。恐らくだけど前の二人は
ガビガビ喚いている――ように振る舞う――ビッチ先生を前にしておけば、わざわざ横を通ってまで追い越そうとは思わない。そんな人間の心理を逆手に取っただけでなく、間に置いた殺せんせーを通じてさりげなく平良茜とロブロに先頭を歩いてもらうよう誘導していた。
空の手には何やらメモ帳が握られており、それを時折殺せんせーに見せびらかすと慌てたように位置を調整するような動きを見せる。……さては弱みでも握られてるな。
「二段式の追い込み漁かな。二人が殺せんせーを急がせ、その殺せんせーが標的二人を前に張り付ける。直接後ろに立たれてる訳じゃないから警戒を理由に逃げることも出来ない。エグイこと考えるねあの二人」
安全を取ってルートから外れてもいいが、その場合は睨み合いで負けたことになる。実害はないが姉と師匠という立場からすると情けない気持ちにはなるだろう。
これが真後ろに立たれたら流石に牽制では済まなくなるため、矜持が警戒を上回るギリギリのラインを見極める必要があった。
「それを言うならさっきの暗殺未遂も事前に大丈夫か確認したうえで決行したってことだよね。殺せんせーって中立の立場じゃないの?」
「人を使うのも暗殺では重要なスキルだ。彼女達は1ヵ月此処にいたアドバンテージを活かしているに過ぎない」
「烏間先生…」
「よく見ておけ。ここから先は俺も踏み込んだことのない世界だ」
僕らの会話が聞こえたのか、茅野と杉野の口が閉じ真剣な面持ちに切り替わる。
その緊張が周囲にも波及していき、気付けば二人の口論は収まりビッチ先生を揶揄う声も聞こえなくなる。
そして校舎へと入り、廊下に足が掛かった―――直後。
「暗殺開始」
空さんが、努めて平坦な声でスタートを宣言した。
「はい了解です。ではこれから一分以内にターゲットを2人、
宣告と同時に天井が開き、そこから機関銃が一丁銃口が向いた状態で降りてきた。
瞬間――。弾かれる様に四者が動き、少し遅れてけたましい音を響かせながら機関銃が火を噴く。
「もうっ! こんな危ない物どこから取り寄せたの!?」
「秘密です。弾は対殺せんせー仕様(BB弾)なので眼以外なら痛いで済みますよ」
「思った以上にクレイジーな少女だ」
「分かりますか
引退して体力が落ちているロブロは狙われたら堪らないとばかりに近くの教室へと逃げ込み、元々身体を張った暗殺が苦手なイリーナも彼を追って“仕掛けを施した”部屋へと入っていった。
だが銃は元よりロブロに向けられたものではなかった。
ソレが狙うのはこれを設置した少女が最も危険だと、早急に対処せねばと真っ先に挙げられた人物。
自動照準機能により弾は正確にターゲットがいた場所を捉えるが、その姉――正真正銘の『超高校級のメイド』平良茜は着弾するより先にっ、最新の技術AIを置き去りにするほど疾くッ、廊下を駆けて回避していた――!
「ウッソぉん!?」
「本当に同じ人間かよ。殺せんせー以外でそれやってるの見たことねえって」
「あはは。でも同じことを出来るのがもう一人いるみたいだよ。ちょうど彼女の横に」
カルマが指した先には、平良茜の横をぴったり並走する空の姿があった。ほぼ全員が唖然とし、彼女をよく知る姉ですら瞠目する中、間髪入れずに振るわれた次手――殺せんせーが言うところの第二の刃――が超人メイドの頸を強襲しようとする。
「あはっ! やるね空…!」
「くッ…、」
しかし結果的に刃が届くことはなかった。首を曲げて最小限の動きでナイフの軌道から外れると、振り上げた拳で柄を強打!
空の手から離れた得物は空中を浮遊した後、それを為した者へと渡った。
(ふふっ…暫く見ない間にうま~く才能を引き出せるようになってる。此処で学んだお陰っていうのが気に食わないけど、頑張ったからには後で褒めてあげないとね)
しかし一連の攻防で分かったことがある。それは今の空を相手取るのに“表向きの顔”では正直分が悪いと。
地の利が向こうにある上に、
それでも平良茜は口元に笑みを浮かべて妹の成長を素直に讃えた。
「っと、廊下はあの無粋なガラクタが邪魔してるんだった。なら私達も教室で
尚も銃弾を浴びせてくる機関銃をつまらなそうに見やると、適当に回避して目についた教室へと足を踏み入れた。
まるで其処がこの第一ラウンドの決着の舞台だとでも言うように。
つい先日にSDRA2の翻訳動画が完結したのを見て感慨に耽りました。
作者がこの二次創作に辿り着いたのはほんの一年前ですが、
レトリックさん。れんごつさん。そしてこんな偉大な作品を生み出してくれたリンユズさん。本当にお疲れさまでした。
個人的には3章のトリックを【
コ〇ン君と金田〇のコンビなら行けると思いたいですが、あいつ証拠残さんしなあ~