人を〇すと処刑されるデスゲームから、謎の超生物を暗殺する学園コメディに転生した件   作:暦月

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 こんにちは暦月です。

 以前投稿していた『暗殺メイドと希望の教室』ですが、意外とダンガンロンパ本編を知らない人が多かったり、主人公周りのキャラがややこしかったので――平良空と【空】とか――色々工夫して原作を知らなくても読めるように編集してみました。

 ※これからシリーズを見る人は重大なネタバレを含みますので自己責任でお願いします。




(元)電脳少女はエンドのE組に希望の夢を見るか
暗殺の時間


 

 

 

 それは突然だった。

 

 ある日、月の七割が消し飛んだ。

 

 

 その日は本当に何でもない一日で、今日も今日とて代わり映えのない生活を送るのだと誰しもが思っていた。

 それが突如として崩れ去り、テレビを中心に『もう三日月しか見られない』なんて文言が世界各地で飛び交い大混乱に陥った。

 

 だけど僕等が真の意味で事件に遭ったのは、それから程無くしてだった。

 

 

「初めまして。私が月を()った犯人です。君達の担任になったのでどうぞよろしく」

 

 

 先ず5,6か所ツッコませろ!! クラス全員がそう思った。

 

 政府の人間に銃を突き付けられながら教室に入ってきたのは、全身黄色で触手を何本も生やしたタコのような宇宙人だった。

 

 

「失礼な! 生まれも育ちも地球ですよ!」

 

 

 とは本人の弁だ。どこまでが真実かは分からないけど、その担任を名乗る不審者は来年には地球も()る予定だと言った。ふざけんな。

 

「防衛省の烏間だ。先ずはここからの話は国家機密だと理解頂きたい」

 

 色々と混乱に陥った僕等だったけど、謎生物の隣にいた男性がそう前置きしたことでクラスの大半が大事に巻き込まれたことを察した。

 

 

「単刀直入に言う。この生物を君たちに殺して欲しい!」

 

 

 そこから語られるのは嘘としか思えない荒唐無稽な話の数々。

 

 曰く、その触手から繰り出される最高速度は実にマッハ20。本気で逃げられたら世界各国の力を募ろうが何しようが、文字通り手も足も出ない。

 おまけに満月を三日月にしたパワーも健在らしく、その力を行使されたら地球と一緒に破滅の運命を辿るのだという。

 

 

「この事が知られたら世界中がパニックになる。そうなる前に秘密裏にコイツを殺さなければならない」

 

 

 つまりは――暗殺だ。

 

 

「だがコイツはとにかく速い。殺すどころか眉毛の手入れをされてる始末だ! 丁寧にな!」

 

 

 その言葉と共にナイフで斬り掛かるが、ターゲットは焦るどころか自前のエチケットセットまで使って烏間先生を軽くあしらった。

 その動きを誰一人として捉えられず、偶に残像が通り過ぎるのを眼で追うのもやっと。僕らはそこで漸く事の重大さと真実味を実感したんだ。

 

 

「ま、それでは面白くないのでね。私から国にある提案をしたのです」

「殺されるのはゴメンですが、椚ヶ丘(くぬぎがおか)中学校3年E組の担任ならやっていいと」

 

 何で!?

 

 またしてもクラス全員の声が揃ったのを横目に、烏間先生が流れに乗っかる形でそのまま話を引き継いだ。

 

 

「こいつの狙いは正直分からん。だが政府は君たち生徒に絶対危害を加えないことを条件にやむなく承諾した」

 

「理由は2つ。教師として毎日教室に来るのなら監視が出来るし、何より30人もの人間が至近距離からコイツを殺すチャンスを得られるのだ。これを利用しない手はない」

 

 

 こうして僕ら3ーEを巻き込んだ壮大な暗殺計画は、先生(ターゲット)生徒(殺し屋)という歪な二重関係を構築してのスタートとなった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの、未だ攻略(暗殺)の糸口すら掴めないんだもんな~。いい加減何かあっても良いと思うんだけど」

 

「ま、そう簡単に行くわけ無いよね。そんなのあったら俺らが知るより先に国のトップが独占してるはずだもん。あ、でも渚君のノートなら一見の余地はあるかもね」

 

「あ、カルマ君」

 

 

 

 赤羽業。暴力事件を起こしこのE組へと落とされた生徒で、停学処分が明けて最近この暗殺教室へと加わってきた。

 僕とは3年間同じクラスで他の皆より一緒にいる時間こそ長かったが、何やかんやあり今では普通のクラスメイトという関係に落ち着いている。

 

 そんな彼が赤い髪を弾ませて僕と杉野の横から話に入り込んできた。

 

 

「カルマぁ、お前もBB弾集めるの手伝えよ。これ一時限目始まるまでに掃除しないといけないんだからな」

「ん~~良いよ。足の踏み場が出来たらね」

「それ片付け終わってるやつじゃん!」

 

 

 文句を垂れながら教室を片していくが、如何せん量が多くて進まない。

 床に散らばった対殺せんせー用の特殊弾の回収もそうだけど、それ以外にも予め避難させておいた物品を元の位置に戻したり、それでも被害を免れなかった掲示板のポスターや窓ガラスの修繕なんかを行わないといけない。

 

 

 

「大体今更クラスでの一斉射撃が通じるかっての。それ前にもやって失敗したじゃん」

 

「悪かったわねその時居なくて。でも本当に生物があんな速度で避けると思わないじゃない」

 

「それに今ので分かったこともあります。なので無駄にはしません、絶対に」

 

「おわッ、聞いてたのかよ歌舞谷! それに空…さん」

 

 

 

 予期せぬ返答に後ろを振り返ると、そこには腰に手を当てて呆れる眼鏡の少女と、大量の玉が入った袋を持つ白髪のクラスメイトがいた。

 

 

「へえ…具体的に何がどう分かったの?」

 

「殺せんせーはマッハ20を謳っていますが、先程のは精々が500~600㎞と本来の1/10にも達していません。私達や校舎が壊れないように敢えて抑えているのでしょうけど、であれば教室内での暗殺の成功率は外に比べてずっと高いように思われます」

 

 

 懐からスマホを取り出し、皆に見せる。画面には570㎞と表示されており、それが殺せんせーの叩き出した速度であることは前の台詞から何となく察した。

 

 

「ふ~ん。ちなみにその数値って正確なの? まさか無料アプリとかじゃないよね」

「それは間違いなく。確かな腕を持つ人に依頼しましたから」

「それも『バイト』とやらで得た人脈? まあ信用できるなら何でも良いけど」

 

 

 凄いなあ。これがあの浅野君も重宝したっていうメイド仕込みの行動力か。僕等とは見ている世界が違い過ぎる。

 

 

「私はこの結果を烏間先生に報告してきます。行きましょう、歌舞谷さん」

「もう待って空。半分持つよ」

「あっ、掃除……って全部終わってるか」

 

 

 気付けばここ以外の掃除は綺麗さっぱり終わっていた。僕らE組の校舎は本校舎と比ぶべくもない程ボロボロなのに、教室の角には塵一つ落ちてない。

 それが目を離した数秒の内に出来てしまうのだから、実は殺せんせーの関係者じゃないかとクラスの間で実しやかに囁かれているとか、いないとか。

 

 

「ねえ渚。あの空って子、もしかして今年希望ヶ峰学園に入学した平良茜さんの…」

「うん…妹だよ。多分茅野以外は皆知ってるんじゃないかな。本校舎にいる時から有名だったしね、彼女」

「やっぱり! 私ファンなんだよね!」

 

 

 茅野が一人盛り上がるが、実は僕も……いやクラスの殆どが同じ気持ちではないだろうか。

 

 希望ヶ峰学園。それは全国からあらゆる分野の超一流高校生を集めた政府公認の超特権的な学園で、各界――いや国の将来を担う〝希望〟を育て上げることを目的に創られた。

 この椚ヶ丘(くぬぎがおか)も中高一貫の学園の中では全国的な知名度を誇るが、希望ヶ峰学園はその比でなく、一部では希望ヶ峰学園を卒業すれば人生において成功したも同然…と語られるほど高いブランド力を持つ。

 

 

「料理、家事、掃除、経営に始まりあらゆるメイド業務で最高の域に達しているのは有名な話だよね。一度でいいからお世話されてみたいな~!」

 

 

 平良茜は、そこに『超高校級のメイド』として入学した新入生の一人だ。人好きする容姿と明るい性格も相まって、財閥間では神格化されているとの噂もある。

 そんなビッグネームの入学もあり、今年の希望ヶ峰学園新入生を紹介する特集では『超高校級のサッカー選手』と並んで他の入学生の倍近い反応が寄せられていた。

 

 

「あ、でも本人にその話はしない方がいいかも。2年の後半から度々電話で言い争ってる所を見たって人もいるし」

 

「そうなの? もしかしてE組(ここ)に落ちたのもそれが関係してるんじゃ」

 

 

 確かに。姉が優秀なのは勿論だけど、空さんも十分持っている(・・・・)側だ。

 

 僕らE組は、学校から差別を受けている。本校舎から離れた教室に隔離され、食堂も冷房すらない劣悪な環境がそれを物語っている。

 

 そんな差別を象徴するような旧校舎は、彼女が来てから変わった。

 

 元々殺せんせーが手入れしてたのを更に改良し、時代遅れの木造廊下は古臭い雰囲気を一変。木の温かさを残したままレトロな内装に仕上げ、照明すらなかった教室の天井にはLEDライトが取り付けられた。

 他にもトイレが和式から洋式に代わっていたり、何もなかった空き部屋が売店として利用され、彼女手製の――プロも顔負け――パンなんかが普通に売られていたりする。

 

 そんな大それたことをやってのける生徒が、特別な理由も無く落ちこぼれ扱いされるとは思えない。

 

 

「いや、多分歌舞谷さんを追って来ただけでしょ。あの二人、よく百合の花を咲かせてたとかで有名だったし」

「そうなのかカルマ!?」

「うわっ! 岡島君聞いてたの!?」

「アハハ、凄い喰いつきだったね」

 

 

 でも凄いなあ。友達を追ってE組(ここ)まで来ちゃうんだもん。

 

『エンドのE組』に落とされるのは、学校側から矯正が必要だと判断された生徒が大半を占める。そして、この進学校で落ちこぼれ(E組)認定を受けるとはつまり差別を受けるという事。

 それは次第に落ちた者の自己肯定感を薄れさせ、中にはカルマ君みたいに成績が優秀でも素行不良が問題で落とされた人が救済措置を掴めずE組に留まってた辺り、復帰条件を満たすのは容易なんてものじゃない。まあ彼の場合は戻らないだけだけど…。

 

 そして彼女もカルマ君同様、自分に向けられる差別や不利益を何とも思っていないんだろう。だって救済の手すら掴めない負い目を彼女からは感じない。

 

 しかし何故だろう。僕らが感じているものとは異なる負の感情……負い目とは別に、切羽詰まった様子が時々彼女から感じるのは。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ空。私達、本当にこんな所にいて良いのかな。もし万が一暗殺に成功したら人殺しになっちゃうんだよ?」

 

「それがここの流儀みたいですから。郷に入っては郷に傅けが私たち姉妹のモットーです。それに歌舞谷さんだって地球が無くなるのは嫌でしょう」

 

「それはそうだけど…」

 

「大丈夫、最後のとどめは私がやります。依頼には最良の結果で応えるのがメイドの務めですから」

 

 

 それには暗殺によって生じる精神的苦痛や罪悪感を和らげる事も項目には含まれている。

 

 私ですか? 私は実質2回分のコロシアイと、最初の黒幕も経験しているので今更それで臆したりはしません。

 

 歌舞谷さんも私と同じダンガンロンパに出てくるキャラですが、彼女は別に殺人を犯したわけでもないですし、そもそも前世の記憶がないので耐性もありません。……あんなこと、慣れない方が良いに決まってます。

 

 そうして渋る歌舞谷さんを宥めながら、先程回収した大袋と紅茶が乗ったトレーを持って職員室に入室します。

 

 中にはパソコンのキーボードを叩く烏間先生と、お菓子にティースタンドまで用意して出迎える殺せんせーがいました。

 

 

「殺せんせー。何度も言いましたように私の仕事を取るのは止めて下さい。生徒の自主性を重んじるのが貴方の教育モットーではなかったのですか」

 

「にゅや。そう言われましても、手入れとおもてなしは先生のアイデンティティと言うか…」

 

「はあ、分かりましたから席についてください」

 

 

 何故かお世話しようとする商売敵(ターゲット)に再三の苦言を呈しますが、相変わらずの煮え切らない返答に言っても無駄だなと自然と溜息が漏れます。

 それを見て殺せんせーがあたふたしますが、努めて無視を決め込みます。私の仕事を奪っているのは紛れもない事実なので精々反省してください。

 

 

「殺せんせーも大変ねぇ。この子こう見えて意外と頑固だから大変でしょう」

 

「いえいえ。ここまで自分の仕事に誇りを持てるのは大人でもそういません。空さんのような生徒を持てるのは教師として幸せな事です。勿論、歌舞谷さんも」

 

「そ、ありがと。社交辞令として受け取っておくわ」

 

「ヌルフフフフ。君もその年で達観してますねぇ」

 

 

 テーブルクロスを敷き、カップに紅茶を注ぎます。時間、温度、角度……うん、誤差は無しです。全員分を淹れ終わってからそれぞれにお出しし、それから壁まで下がって皆さんが飲み終わるのを待ちます。

 

 

「う~~ん」

 

「どうしたそんなに唸って」

 

「いえね、生徒にお茶を頂くのは未だしも、空さんが立っていて私だけ座っている状況がどうにも落ち着かないと言うか。こういうのに慣れてなくて」

 

「慣れろ。俺だって同じ気持ちなのを我慢してるんだ」

 

 

 これは困りました。経験が浅い故、こういった不満に対する模範的な対応というが分かりません。今までお仕えしてきた方々はそれを当然と受け止めていたので、その辺の配慮にまで頭が回りませんでした。

 

 どうしましょう。こういう時姉さんなら…

 

 

「おや。そんなことを言ってたら全部飲み干してしまいました。空さん、お代わりを頂けますか」

 

「…――あ、はい。少々お待ちを」

 

「その割にはこの状況を楽しんでるよね」

 

「全くだ」

 

 

 煩くない程度に行動を急ぎ、ティーポットを持って標的に近付きます。

 右手でお茶を淹れ、左手に持ったトレーの下から銃口を覗かせて、撃つ。至近距離から発射された弾丸はフォークの先端部分に突き刺さり、殺せんせーを暗殺から守ります。………え?

 

 

「おやおや、反応が鈍いですねぇ。先生の言葉に一瞬迷ったでしょう。再び声を掛けた時、咄嗟とはいえ銃に目線をやったのは悪手でした」

 

「くっ…!」

 

「しかしそれ以外はパーフェクト! 殺気の消し方から音の出ない取り出し方までその殆どが高水準。たった数日でここまで来れたのは貴女が初めてです」

 

 

 気付かれ(バレ)た、失敗した! つまらないミスで暗殺の機会を逃した。メイドとして恥ずべき失態、姉さんなら絶対に間違えなかったのに。姉さんなら……

 

 

「まだだよ空! こうなったら私も覚悟決めるんだからね!」

「まだ君が残してくれた仕掛けがある。気は抜くな!」

 

「歌舞谷さん、烏間先生……」

 

 

 歌舞谷さんが椅子の横に置いていた大袋の中身をひっくり返し、対先生用の特殊弾を床にばら撒きます。

 烏間先生も懐からスイッチを取り出すと、それを勢いよく押しました。すると窓の上からシャッターが下りてくるのと同時に、入り口の扉がガチャリと音を立てて閉まります。

 

 

「成る程、逃げ道を絶たれましたか。校舎を手入れしながら暗殺の舞台まで作ってしまうとは先生驚きです」

 

「……この程度は当然です。何時いかなる時も最高のおもてなしを提供するのが、私の理想とするメイドそのもの」

 

「素晴らしい! 自分の得意な分野で勝負する。暗殺者にとって基本中の基本です」

 

 

 抱きついて身動きを制限しようと試みますが、その前にテーブルの上に逃げられてしまいました。……ちゃっかりスタンドやテーブルクロスを片付けてから避難しているのを見るにまだ余裕があるのでしょう。

 

 

「それで…ここからどうしますか? 行儀は悪いですがテーブルの上でも先生は逃げきれちゃいます。もたもたしてたら授業に遅れてしまうので多少強引な手も厭いませんよ」

 

「ええ分かっています。ここはHRの反省も踏まえ、私と歌舞谷さんで更に逃げ道を塞ぎます」

 

 

 殺せんせーは先程、自分に向けられた弾幕の隙間を通って避けました。

 

 これで全員が先生を狙っていたのでは狙いが一点に絞られてしまい逆に避けやすくなると気付いた私は、お茶を淹れて下がったタイミングで烏間先生にメールを送り、急遽撃ち方の変更を通達したのです。

 

 

「君たちは奴の両サイドを狙ってくれ。後は俺がナイフで仕留める」

「成程、実に合理的だ。でもそれで私を追い込んだつもりですか烏間先生」

「……戯言に付き合うつもりは無い。いくぞ二人とも」

 

 

 

 烏間先生から作戦を伝えられた、正にその瞬間でした。突如として聞き馴染みのあるbgmが流れ始めると、私の耳が待ってましたとばかりに()くそれをキャッチします。

 

 

(来た…! 【空】の持つ主人公の力が!)

 

 

 いきなりですが、私には【超高校級のメイド】と【主人公力】という二つの才能――殺せんせーが付けてくれた個別能力値では【固有スキル】という名称――があります。

 

 ダンガンロンパでは仲間内でコロシアイが起きると、その後に学級裁判を開いて誰がクロかを議論しあう場が設けられるのですが、そこをゲームのシステムに則って謎をクリアしていくのが大まかな流れになります。

 

 そこには様々なアクションやミニゲーム等もあり、【主人公力】はそんなゲーム中のアクションを現実に反映させた能力となっています。

 

 突拍子もなくゲームの設定を持ってくるなって? そんな事言ったらゲームの登場人物が現実に存在している時点でお察しでしょう。

 何より力はゲーム由来かもしれないですが、間違いなく現実で起こっていることに口を出しされても正直困ります。大体この【主人公力】も何故突然発現したのか私にも分からないんですよ。

 

 

 と、そんな事を考えてたら目の前に文字が浮かびます。

 

 因みにこれらの現象は他の人には一切知覚できません。なので同意を求めたり“回答”が長引けば周りから挙動不審に思われるので注意しましょう。

 

 

 

ノンストップ議論射撃 START

 

 

 

 その表示が出たと同時に殺せんせーを注意深く観察します。黄色と緑の横縞模様。あれは確かナメている時の顔……でしたっけ。一体どうやったらそんな風に顔の模様を変えられるのか凄く気になりますが、今は目の前のターゲットに集中します。

 

 すると間もなくしてネクタイの下――人間でいう所の心臓部分に光が集まり始めました。

 

 そして其処こそが殺せんせーのweak point. つまりは弱点と分かります。

 

 

 

「烏間先生。一撃を狙うならネクタイの下です。あそこにナイフを突き立てれば高い確率で殺せます」

 

「にゅやっ!? そ、空さん! どこでその情報を!?」

 

「どうやら反応からして間違いないらしいな。しかし、本当に一体いつそんな情報を。それもメイドの才能なのか」

 

「………」

 

「いや、詮索は無しだったな。それより今は奴を仕留める方が重要だ。気を抜くなよ二人とも」

 

 

 

 沈黙は無言の肯定……ではないですが結果的に納得していただけたようです。 

 とは言え助かりました。問い詰められたらどのみち誤魔化したでしょうが、余計な不信感は与えたくなかったですからね。

 

 

 

「さあ、大詰めですよ」

「う、うん…」

 

「俺のタイミングに合わせてくれ。1,2の……さんッ!」

 

 

パン! パン!パン!

 パン!

 

 

(――ッ、発射ズレた)

(ヤバっ、ミスった!)

 

「上出来だ。後は任せろ」

 

 

 

 殺せんせーの右側を塞ぐ歌舞谷さんの銃弾が遅れて発射された。ですが烏間先生は音でそれをキャッチすると、0.1秒にも満たない時間の中微妙な進路変更を重ね、遂にターゲットの懐まで潜ることに成功します。

 後は手に持ったナイフを振り上げればいいだけ。私ですら眼で追うのもやっとの一撃を繰り出し、殺せんせーの注意を烏間先生一人に集めることに成功します。

 

 ようやくだ。ようやくここまで来た。

 

 

(後は頼みましたよ殺し屋さん(マスター))

 

 パシュッ

 

 接触の直前、乾いた音が天井(・・)から発せられた。今回の依頼主様は完璧なお膳立てを所望されたため、それに応えるべくこのようなシチュエーションをセッティングしました。

 

 ターゲットを机に乗せ天上との距離を限りなく近くし、尚且つ簡単には地面に戻れない環境を整えた上で前方に注意を引き付ける。

 部屋を密室にしたのは逃げられなくする他に、私達以外の第三者による奇襲から思考を遠ざける心理誘導を掛けたかったから。

 

 

 そして現に今、私は依頼通りの環境を作り殺せんせー暗殺の任を見事果たしたn「残念惜しかったですねぇ」……え?

 

 

「これだけ密室の状況を作れば先生だけでなく皆さんにも制限は課される。例えば生徒を巻き込まないために平面上からの射撃は出来ない、とかね」

 

「あ――ッ、私のトレー。いつの間に」

 

「素敵なお盆ですね。君のプロとしてのこだわりが十分感じられます」

 

 

 そんな、まさか自前の道具で防がれるなんて。それよりも今の口ぶりからだと天井からの奇襲が分かっていたように聞こえる。一体どこで見抜かれたッ

 

 

「お前気付いていたのか…!」

 

「ヌルフフフフ。正面から挑んできた時点でナイフ以外(・・・・・)のあらゆる暗殺を警戒してましたよ。空さんが私にも聞こえる声で弱点を公表したのも、本当は裏に隠れている殺し屋に伝える為だったのでしょう」

 

 

 流石に暴かれるとは思いませんでしたが…と言いながら触手に捕まった烏間先生を解放し、目の前の教師は今回の暗殺を合格と評しました。よく言いますね。何もかもお見通しだったくせに。

 

 

「ささ、歌舞谷さんは早く戻って授業の準備を。空さんも上の方と話したらすぐ授業に参加してください」

「は、はい。ほら行こ、空」

「……分かりました」

 

 

 結局のところ依頼(暗殺)は達成できず、私のE組での初仕事は苦い結果に終わりました。

 ですがマスターは私を責めることなく、逆に此方を労ってくれました。……なぜ?

 

 

「嬢ちゃん、アンタこの仕事(暗殺)初めてだろ」

 

「そうですが」

 

「それでこんだけ出来たら完璧だ。素人のサポートを雇った時は自分でも血迷ったと思ったが、あそこまでお膳立てされて対象を殺せないんじゃ自分の腕を疑うしかねえ」

 

 

 結構……いやかなりショックだったぜ。暗殺稼業を始めて八年、培ってきたプライドがズタズタだ。

 

 

「私も……」

 

「おっと勘違いするなよ? 確かに仕事を失敗したのもそうだが、俺がショックを受けたのはアンタにだぜ。嫉妬してると言ってもいい」

 

「え…?」

 

 

 なぜ自分に…。彼は殺し屋で私はメイド。そもそも立っている場所が違う。

 

 

「これまでの暗殺人数(スコア)は35人。それも全員一撃でだ。自慢じゃねえが俺のスコープに標的に血が映らなかったことはねえ」

 

 いや…ここでそれを持ち出すあたり無意識に驕ってたのかもな。

 

「とにかく、そんな俺が仕事のクオリティで負けたんだ。一回りも年下の嬢ちゃんにだぞ。暗殺者として未熟なのを痛感させられちまった」

 

 

 そんな事はない。未熟なのは私だ。【超高校級のメイド】の才能を有していながら、それを十全に発揮できない我が身をどうして非才だと思えるのでしょうか。

 

 

「あまり思い悩むなよ。仕事も良いが青春を疎かにしちゃいけねえ。今が一番楽しい時期だろうしな」

 

 

 焦るなと言われたって無理です。ここがダンガンロンパの世界である以上、殺せんせーを暗殺できたとしても物語は終わらない。

 

 黒幕が、『超高校級の絶望』が世界を終わりへと導くでしょう。その中には唯一の肉親である姉も加担している。

 あの人を絶望に落とす訳には行かない。コロシアイの首謀者なんかにさせてなるものか。

 

 だから、そうなる前に私が――平良茜を殺さないと

 

 

「それじゃあな。近いうちにまた会おうぜ」

 

 

 そう言ってマスターは私との契約を終え、ただの殺し屋と学生の関係に戻った。力無くも何か吹っ切れたような背中を見送った後、私は頭を整理しながらゆっくり時間をかけて教室へと向かう。

 

 

「トータルリザルトは良。加算されたSP(スキルポイント)は8点。新たに得たスキルは無しと。やはり最初の暗殺でもたついたのが大きいのか。でも一回のサポートでここまでSPが上がる事なんて今までなかった。という事はこれもイベント扱いということですか…」

 

「こらこら。考えながら歩いてると危ないですよ」

 

「……殺せんせー、授業はもう始まってますよね。サボりですか」

 

「お迎えに上がりました。烏間先生が雇ったとは言え、彼も暗殺者ですからねぇ。それと…教室に分身を置いてあるのでサボりではありません」

 

 

 それにしてもE組(うち)の先生はよく分からない。見た目宇宙人ですし、そのくせ教師をやっているとか意味が分かりません。何より存在が規格外です。

 原作にこんなのはいなかった筈ですが、もしや前世での死後に続編でも出たのでしょうか。それにしてもジャンルが変わり過ぎてるような……

 

 

「それと空さん、最後に一つだけ」

 

「……何でしょうか」

 

「君の仕事は素晴らしいものでした。先生は今後この校舎には一切手を加えませんので、思う存分腕を振る(改造しちゃ)ってください。勿論、壊れない範囲でね」

 

「……それが依頼とあらば、謹んでお受けします」

 

 

 でもまあ、嫌な感じはしないので暫くは様子見ですね。この謎生物こと殺せんせーは、どうやら殺意さえも受け止めてくれるようですし。

 

 

「殺せんせー、いずれ【超高校級のメイド(この才能)】を使いこなせるようになって貴方を殺しますから。それまで待っててくださいね」

 

「ヌルフフフフ。出来ると良いですねぇ、卒業までに」

 

 

 私はメイド…兼暗殺者。標的(ターゲット)は先生。

 

 日常を告げる始業のベルが、今日も鳴る。

 

 

 

 






 殺せんせー

 椚ヶ丘(くぬぎがおか)中学校3年E組の担任。
最高速度マッハ20を誇る超生物で、来年には地球を破壊すると宣言しているが、その割には給料暮らしで貧乏だったりエロかったりで隙が多い。
 心臓が弱点であるという情報は本来、堀部イトナが正式に3-Eに迎え入れられたタイミングで彼の口から告げられる筈だったが、空が一瞬で見抜いてしまったことで今後全員から狙われる羽目になった。割と本気で驚いたし焦ってる。

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