人を〇すと処刑されるデスゲームから、謎の超生物を暗殺する学園コメディに転生した件 作:暦月
私がE組を落ちこぼれのクラスに仕立て上げたのは、そうした方が私の理想とする集団へと近付くからだ。
働き蟻の法則を知っているかね? どの蟻もよく働いているように見えて、実は2割しか必死になっていないんだ。
働かない個体……つまりは怠け蟻がそれと同じ数だけいて、残りの6割が平均的になるというこの法則。
その蟻の社会構築と同じことが人間社会のあらゆる所に存在し、私は常々これを変えたいと思っていた。
私が目指すのは「5%の怠け者と、95%の働き者がいる集団」だ。
そのためにE組には
E組の制度は言わば大人社会の縮図そのもの。悲しいかな人間は差別し軽蔑する対象があった方が伸びるものだ。
成績も待遇も最底辺にあるE組を見て
だけど近頃、そんな私の意向に沿わない報告が数件寄せられているのを知っているかい?
「D組の担任から苦情が来てね。『うちの生徒がE組の生徒からすごい目で睨まれた』と。中には殺すと脅された子も居たらしいんだ」
「それは…」
「暗殺をしてるのだからそんな目つきも身に付くだろう。それはそれで結構。暗殺も、学校経営さえも……理に適っていればそれでいい」
そう、理に適っていればね。
エンドのE組が普通の生徒を押しのけて歩いていく。多くの生徒が見る前で本校を軽んじるような言動を繰り返す、それを黙って横で見ている。
どれも私の学校では合理的ではない。成績底辺の生徒が一般生徒に逆らうことは私の方針では許されない。
「なので以後は厳しく慎むように言っておいたのだが、諸君らの担任はそれを了承しかねるようだったのでね。なので少しだけ手を加えた結果が“アレ”という訳だ」
「……」
「君はE組に所属しているのを何とも思っていないようだが、果たしてこの学校で落ちこぼれのレッテルを貼られた者を世間がどう扱うかくらいは考えても良いのではないかね、平良空さん」
面倒なことをしてくれましたと思いました。
浅野理事長――集会の時に勧誘してきた浅野さんの父親――が目的のためなら如何なる手段も講じる人なのは分かっていましたが、まさかあそこまでするとは。
(情報統制が敷かれているのは分かっていました。それでも本校舎の生徒を通じて学校側の策略を読み取れたはずなのに、まさか
恐らく私がE組への妨害を阻止するだろうというのはこの人も分かっていた筈です。その上で教員から情報を抜いてしまうとカンニング扱いになるからそこには触れられないという、メイドである前に学生に籍を置いてる以上はどうしようもない障害を利用したのは一周回って関心すら寄せました。
(殺せんせーはE組の学力向上の方に注力していた…となると完全に私への対策ですよね。光栄と思えばいいのか何というか)
直前の詰め込み詰め込みに対応する力を付けるため、なんて言っておいて
この人以外なら本校舎にいなくても出し抜ける自信があるのですが、それを許すほど相手も甘くないという事だろう。
「失礼ですが、理事長の方こそ危機感が足りてないのではないのでしょうか。今回ので
「君如きが私に意見するか。心配せずとも逃げたりしませんよ彼は。E組の担任を名乗る限りは…ね」
いけない、つい本音が漏れてしまった。自分では気にしてないつもりでしたが、業務を妨害された上に出し抜かれた事で存外苛立っていたみたいです。
「実際に彼が辞表を提出する事はなかった。今頃は本校舎への打倒を掲げているんじゃないかね」
それは正しくその通りだ。今回の試験、第二の刃を示す目的として殺せんせーからクラス全員に中間テストで50番以内を取ることを義務付けられました。
そもそもこの条件というのが学校から植え付けられた劣等感、諦めの気持ちを払拭するのが目的でした。
俺達には暗殺があるからそれでいい、勉強なんてしなくても百億円あればその後の人生お釣りがくるなどと甘い考えを持つのはしょうがないように思えます。
でもそれは単なる希望的観測でしかない逃げの思考だ。
もし殺せんせーが契約すら無視して教室を去ったら? それでなくても他の殺し屋に先を越される可能性だってあるのに。
私なんかはメイドであるという自負があるけど、全員が全員私みたいに考えれる訳じゃない。暗殺という拠り所を失った彼等には、E組の劣等感しか残らないだろう。
殺せんせーはそれを危惧して皆に第二の刃を研ぐ心構えを説いたのだ。
優れた殺し屋が複数のプランを用意するように…。
初撃を外しても第二、三撃を高い精度で繰り出すのと同じように、失敗しても次の手に自信を持てるような強者になることを私達の担任は望んだ。
それを教えるためにテストで50位以内という目標を提示し、それを見事果たして自信を……と思った矢先に妨害を受けたのだ。
当然約束を違えた私たちは先生含めて意気消沈した。
結局カルマさんが機転を利かして殺せんせーが担任を辞めるという最悪の事態は回避できましたが、一歩間違ったら地球がヤバかったことに変わりはありません。
危うく『超高校級の絶望』関係なく文明が終わっていた可能性すらありました。
そんな一大事を引き起こした割に飄々とした態度を崩さない大人を見て、私は懐疑的な目を向けました。
「それは結果論に過ぎないのであってリスクを犯すのとは全くの別物です。私が知る理事長なら相手を囲う策の一つや二つ用意してると思ったのですが」
「これは可笑しなことを。君が、私の何を知っているというのかね」
「
「……」
何でしょう。どうして何も言い返してこないのか。
まさか……地球の命運が懸かる中、本当に殺せんせーの教師としての矜持を信じたといういうのですか。あの浅野學峯が?
「申し訳ありません。少々意外だったもので。理事長がそれほどあの方を買っていたとは存じませんでした」
「妙なことを言うね。私が自分の学園に相応しくない教師を就かせると思うのかい」
本校舎ならともかくE組ならやりかねないですよね。な~んて言葉を呑み、彼の真意を探ろうとした正にその瞬間でした。
突如として聞き馴染みのあるbgmが流れ出し、私の耳がそれをキャッチします。また、立て続けに今度は青白い掲示板みたいなものが空中に映し出されると、素早くウィンドに視線を滑らせました。
(え、ここで…? よく分かりませんね【主人公の力】というのは)
突然の展開に戸惑いつつも、一問目の『選択肢』が表示されると意識を切り替えました。
問1.浅野學峯が殺せんせーは逃げないと確信している理由はなぜ?
A.物理的に拘束する手段を持っているため
B.ターゲットの教師としての在り方を信頼したから
C.実は地球がどうなろうと知ったこっちゃない
(これはB……まさか本当に正解とは。というかCだと色々ヤバい人じゃないですか。次)
問2.殺せんせーのどんな所が浅野學峯の信頼につながった?
A.彼の掲げる教育理想が自分と似通っていたため
B.エロで貧乏で巨乳好きなところが
C.秘かにマッハ20の超生物に憧れていたのだ…!
(A以外ありえないでしょう。ふざけてるんですか。次、最後)
問3.いつの頃の自分と似ていた?
A.過去
B.現在
C.未来
(Bの現在…違う。まさかA.過去…? そういう事でしたか)
(1問外しましたが
まとめると、殺せんせーの教育者としての在り方が嘗ての自分と似ていて、それを無意識かそうでないかは定かでないけど信頼した故に今回の妨害に踏み切ったと。
(想像していたよりも理由に悪意がなくて下手に責めづらい…)
いやE組からしたらいい迷惑なことに変わりはないんですけど、一体この人の過去に何があったのかそっちの方が気になっちゃって非難する気も失せてしまいました。
取り敢えず沈黙の時間があったことについては適当に場を繋いでお茶を濁しておきましょう。
「それで、わざわざ此処に招き入れたのは私がクラス復帰を希望するか確かめるためですよね。それなら用件はもう済んだんじゃないですか」
「そのようだね。君のことは気に入っていたが、
酷い言い草ですね。自分の意志に沿わないと見做すや落ちこぼれ扱いですか。
まあ、斯く言う私も“全員分のスキルを取得した”A組より殺せんせーのいるE組の方が才能を伸ばせると思ってある意味浅野さん達を切り捨てたので、所詮は同じ穴の狢ですけど。
「今回のテストで3人もの生徒がクラス復帰の権利を掴んだというのに。まさか全員が学校の慈悲を無碍にするとは信じ難い愚行だよ」
赤羽業:合計点数494点、4/188位
歌舞谷夜子:合計点数447点、28/188位
そして私、平良空:合計点数486点、9/188位
以上3名が定期テスト50以内に入り、E組から抜け出せる救済措置の権利を掴んだ。
しかし誰も本校舎復帰の意を示さず、自分よりも殺せんせーを選んだことは例え認めている相手だとしても彼のプライドを刺激したでしょう。
【
「浅野理事長。率直かつ客観的に申し上げるなら、貴方は『良い』教育者ではあっても決して『善い』先生とは言えません」
「何だね急に。私を怒らせたいのか」
「最後まで聞いてください。ですが、教育について真剣なところは殺せんせーと同じだと思います。E組を差別こそしても、絶対に越えてはいけないラインを跨ぐような真似はしないでしょう?」
違うのはやり方だけ。かつての自分と同じ理想を抱いた
それだけの事をしているとはいえ、真実を知った今となっては胸にもやが掛かる。
「けど私が知る中で最悪の連中はそれを簡単に踏み越えるんですよ。彼等はそもそも教育者ですらない、ただの妄執に取り付かれた研究者かぶれでした」
原作で明かされた希望ヶ峰学園誕生の秘話。
希望ヶ峰学園は元々、あらゆる才能を持つ【超高校級の希望】を人工的に生み出すことを目的に建てられた研究機関の一面を持つ。
全国から超高校級の才能を持った学生を集めるのも、全ては悲願を成就するための一環に過ぎない。
しかし研究は年々行き詰まりを見せ、成果を出せない学園に政府が支援金の縮小を打ち出したのだ。
そうなると当然資金に限りが出てくるため、そこで学園は『予備学科』という制度を設け超高校級の才能を持たない一般人でも入学できるようにした。
長年門出を開かなかった希望ヶ峰学園が遂に一般生を受け入れるとだけあって、多くの学生が希望の門を叩いた。
しかしそこで彼らを待っていたのは、希望とは似ても似つかぬ才能至上主義の構造だった。
希望ヶ峰学園のブランド力に惹かれた彼ら予備学科生は、あらゆる名目で金を毟り取られ、搾取された。
集められた資金は超高校級の生徒がいる『本学科』へと流れ、更に才能を伸ばすための投資へと充てられる。
予備学科に集められた生徒は何かに秀でている者でも、成績が優秀な者でもない。ただ金がある、その一点に尽きる。
おまけにこれだけ学園へと貢献しながら、予備学科の人間が本学科の生徒と関われる機会はそうなく、校舎も担任も授業料も、全てが区別されている。
それはまるでE組と本校舎の関係に似ているが、あくまで生徒を育てる理想を掲げた椚ヶ丘と違って、希望ヶ峰の研究者たちはどこまでも才能本位だ。
予備学科が金を落とす賽銭箱とすれば、本学科も所詮は研究を進めるための研究材料に過ぎない。
そこに教育者たる者の自負はなく、ただ己が目的を果たすために教育機関の体をしているだけなのだ。
その行き過ぎた才能崇拝が『超高校級の絶望』の目に留まり、それが後に予備学科生2357人の集団自殺から端を発し、希望ヶ峰学園最大最悪の事件、そして人類史上最大最悪の絶望的事件へと繋がっていくのだ。
「どうか、道を見失わないでください。この学園にはまだ理事長の力が必要なんです」
「面白いことを言う。私がE組を追い詰めても君はそんな台詞を吐けるかね」
「それを何とかするのが私の役目です。
「……生意気な。もういい、下がりたまえ」
「失礼します」
一礼し、理事長室を後にした。
そうだ。クラスメイトにとっては浅野理事長は
E組を妨害してきたら対処しないといけないけど、それも暗殺と同じスキルアップを果たす場だと思えばいい。
学園に敵はいない。なら、私が挑むべき相手は――
「それではこれにて契約を完了とさせていただきます。お世話になりました」
「いやいや此方こそ。噂に違わぬ働きぶり、この目で見れて良かった」
「ふふ。ありがとうございます」
都内某所。そこにワンピース型のメイド服に身を包んだ少女が男性と楽しげに話していた。
「どうだろう。この後仕事とか抜きに食事でもどうかな」
「申し訳ありませんがすぐに学園へ戻らないと。妹にも早く会いたいですし」
やんわり誘いを断りながら、急いでる旨を手短に伝えた。
「そうか、それなら仕方ないね。確か空くん…だったか。彼女も優秀だと聞くからね。しかし、それにしたってあんな依頼を受けるとはね」
「あんな依頼、ですか…?」
「おや知らなかったのかい? 実は……」
空が挑むべき相手――超えるべき目標は、もうすぐそこまで来ている。