ケッセルがこの世界に来てから1年と半年が経過し、この僅かな時間でコロニーは大きく変化していた
エネルギー等もそうだが、一番は精神性である
学生達の間で流行りだしている解放主義
娯楽が少ないコロニーの中で快楽という行為を娯楽にするための言い訳が最初であったが、試験管ベイビーである自身が意思を持つときに主軸とした考え方を欲したのだろう
この世界で現代の様な自由を求めることはコロニーの社会性を崩すため決して許容できるものではない
娯楽とは人の心を仕事から解放して自由に楽しませ慰めるものという意味であるように仕事で縛られている彼ら、彼女らは上から与えられた娯楽ではなく、自然発生した主義を娯楽に組み込んだ
元の世界で趣味が革命であったり闘争であったり、様々な活動を趣味にしている者もいた···
押し付けられた趣味ではなく、自発的な趣味
それが解放主義なのだろう
後々にはその思想は快楽主義に向かうのか、仕事からの解放を言い出すのかはわからないが、ケッセルはその動きに寛容な姿勢を取っていた
ケッセルは歴史で文化や技術が発達するのは自由な時と相場が決まっているからだ
追い込まれれば確かに一時的には技術は向上するが、それは兵器等であって豊かさに繋がることはない
物質的な豊かさがあって始めて精神的豊かさに繋がる
「思考に自由が生まれ始めたってことだな。色んな意見があって良い。それが文化レベルを引き上げる」
文豪とか言われている人なんかがそうだ
文字は特にその人の思考を反映させやすい
それが時に傑作として社会に影響を与えるのだ
映像、歌、芸術品なんかもそうである
その人の思いや考えが作品を作る
大衆向けなのか、特定の層を狙っているのか、それとも自己顕示欲を満たしたいだけなのか、お金の為なのか···
「統治者がそれを制限するのは悪手だ。外部ならまだしも内側から発生した思考ならなおさらそれが民意の思考なのだろう。統治と支配は違う···まぁウイルスの影響で人が減って余計に過激な思考がはやりやすいんだろうな···」
各々の思考が集まり主義が生まれ、それが宗教になるのか哲学になるのか···それはわからない
わからないが、それが文化の土壌を作る
「文化は金になる、俺は金になる動きを統治者として流れの向きを整えれば良い」
保護では無く都合の良い方向に誘導する
それこそが統治者の役割であり、そして不満を最小限にすることも統治者として欠かせないことである
「まぁまさか裸族が流行るとは思わなかったがな」
子供というのは皆がやっていたら真似をする生き物である
解放主義も最初から裸族というわけではない
最初は半袖、短パンから始まり、スカートを短く改造し、パンツとスカートの模様で個性を出したりお洒落をし、下着の視える薄い服にし、上着は着るが下着を無くし、ビキニになり、最終的に裸に落ち着いていった?
この流れを作ったのはアノー・ゲルン・ヒーリットという少女である
「裸を晒すということは体を綺麗にする必要があるでしょ! 結果的に体を洗うという行為や肌のケア、体調の予防に力をいれるから健康状態を維持して綺麗かつ健康的な体になることに繋がるし、その状態こそが元気ってことなんじゃないかな?」
頭に小さな翼が生えた少女の持論である
彼女は裏マーケットに流れてきたとある本を参考に持論を組み立て、それを実践したに過ぎない
勿論気温が調整されているコロニー内部であり、安全を考慮すると仕事中に服を着ないという選択肢が無いことはわかっているが、ウイルスの克服は健康的な親の子供の方が生きられる確率が僅かに高いとその本には書かれていた
「ゲルンコーポレーションの新人類のすゝめ···何度読んでも参考になるなぁ!」
新人類の定義がこの本はあやふやだが、ウイルスを克服した人類こそ新人類であり、ウイルスの免疫を持たない人は淘汰される運命
ウイルスは神より与えられし試練であり、課題である
とされていた
彼女は5年生で睡眠学習装置を使用しても来年まで学生が確定している為、長い間この本について色々と考える時間があった
そして新人類の定義を満たしたウイルスの耐性を持つ子供の出現により、新人類のすゝめの内容に感銘を受け、本の内容に心酔するようになる
アノーは決して優秀なタイプではないが、声が通るタイプだったし、行動力があった
だから段階を踏んで自身の思考を広めることができた
アノーが目指したのはただ健康体になるために裸族を推奨したのではない
集団免疫を広めるための行為でもある
集団免疫とはウイルスの免疫を持つ者が一定数いれば免疫を持たない人もウイルスに感染しにくくなるというものだ
アノーは付属して乾布摩擦や栄養価が高いが不味い液体の摂取も推奨したが、これは流行らなかった
「新人類のすゝめの考えを広める為には···免疫を持つ子供を増えれば良いのか、そしたら必要なのは子供が産みやすい環境と飢えない食糧供給かな?」
アノーはそれを快楽主義へと繋げていく
アノー自身はもう一つの課題である農業問題にも力を入れ指揮官であるケッセルが膨大な電力を背景にした水耕栽培を行おうとしていることを知り、チャットグループの仲間に加わった料理と栄養と味について異常な執着を見せるハンリィという1年生を仲間に加え、水耕栽培の試験栽培をしている施設によく通い、学習をした
「ゲルンコーポレーションの本は私に多くの発見を与えてくれる!」
すっかりゲルンのシンパとなってしまったアノーは学校の生徒に快楽主義を広めるだけ広めて卒業し、完成した水耕栽培施設の管理を任された
彼女が任された施設だけでも300人の人口を1年食べさせるだけの作物を作ることができる施設で、彼女は様々な食材をハンリィに流した
ハンリィを通じて学校に影響力を残したのだ
後々アノーは教師の再教育を受けて農業系の教師となり、教鞭を取りながら、自身の主義を広めるために活動するのだった
ハンリィは全裸主義には個人的には賛成であるが、2年生に上がると給食部という部活を有志と始め、アノーから送られてくる食料や廃棄される食料を融通してもらい、生活の苦しい学生達の為に給食を提供する活動を始めた
給食は大量に同じ料理を提供する事と毎日違うメニューを用意する必要、限られた予算をやりくりして安価で栄養のあり、腹持ちする食事を用意するという難しい事であったが、その難問を彼女は楽しんだ
ケッセルが次々に作り出す新しい野菜や果実の調理方法や保存方法を考案し、新種の活用法を広めるのにも貢献する
アノーには思想を広めて欲しいと要望されたが、ハンリィは新人類よりも1人でも腹の虫を宥める事のほうが大切だと判断していた
ハンリィの作った給食部は後々料理部へと成長し、そこからAJ社コロニーには居なかった料理人という職人が出てくるようになる
彼ら、彼女達は創意工夫で年々増えていく食材に適応し、多くの人々に安価な食事を提供し続けた
食事を娯楽とする文化の目覚めである
ハンリィの栄養学はアノーの健康思想とも相性が良く、肉付きが良い人が増えていくこととなる
仕事の効率も上がったのは言うまでもない
「第1回主力携帯兵器開発会議〜」
ギフトの間の抜けた挨拶で会議が始まった
メンバーは兵器に詳しいモモカ、個人的に武器を作っていたロッサとアンペア、学生ながら有り余る才能を買われ参加させられたレイ・ウリバタケ、試験を行う為に連れてこられたロッサの妹テッサであった
「レイ以外はほぼモノポール発電に関わったメンバーじゃねぇか」
「姉さん、口調が悪いよ〜」
「テッサ! 俺の口調が悪いのは今に始まったことじゃね〜だろ!」
「ロッサの口調が悪いのは置いておいて、ギフトさん、携帯兵器というとどんな物が良いのかしら? 何を破壊するかで作る物が変わってくるわよ」
「そうよね〜、モモエの言う通り、何を対象にするのかしら?」
「歩兵で戦車や大型ロボットを破壊できる携帯兵器の開発だ」
「んな無茶な! どんだけ火薬使う気だよ」
「無茶とは私も言ったけど、指揮官から面白い青写真をもらって、研究の余地はあると思ったんだ」
「青写真だぁ? 出たよ指揮官のどこからか出てくる青写真シリーズ」
ロッサが悪態をつく
「ギフト室長、どんなものですか?」
ギフトは3枚の青写真を出した
「まずはロケットランチャーだけど特殊弾を使う」
「特殊弾?」
「超音速拡散弾···発射したミサイルを空中で再度分離爆発し、分離した小型の弾頭をぶつける兵器だね」
「開発コストは安そうだな」
「既存のロケランも使えるしな」
「ただ威力不足に陥りそうですね」
「まぁ繋ぎの兵器にしかならないだろうね。次に対物ライフルだね。粘着爆発弾丸やライフル本体の改良で貫通力や射程距離を上げるタイプだ」
「却下、ライフル弾で戦車の破壊ができるほど大型化したらそれこそ体が持たねーよ」
「でも実現は可能そうじゃない?」
「最後はレールガンですね。これが一番実用難易度は難しいと思います」
なお光線銃がこの会議で出ないのは質量兵器でないと空気による減衰によりビームの威力が大幅に低下してしまうからだ
だから初めから光線兵器は除外されている
「エネルギーどうすんだよ。配線で繋ぐのかよ」
「まぁロッサの言うように無茶だとはわかっているけど皆の意見が聞きたくて3つのプランを出したが」
「あら? ロッサ、エネルギー問題は大丈夫よ」
「あん? アンペア?」
「だってこんな物開発したから」
とアンペアは机にボタン電池を置いた
「このボタン電池がどうした?」
「これ蓄電池なのよ、高性能の···このボタン電池でレールガン5発分のエネルギーを蓄えているわよ」
「まじかよ」
「まじまじ〜」
「エネルギー問題が無いならレールガンの方が良いね」
「「「異議無し」」」
「携帯可能のレールガンとかロマンの塊ですね!」
「空気のある惑星を飛行できる宇宙艦にはレールガンが取り付けられていたから、それを参考にするといいかとね」
「レールガン作る流れになってるじゃねぇか!」
「姉さんは作らないの?」
「誰も作らねぇとは言ってねぇよ」
ということでレールガンの開発が始まり、基地防衛用レールガン、大型ロボット携帯用レールガン、戦車搭載レールガンとどんどん小型化していき、半年後に携帯できるレールガンが開発され、量産が始まるのだった
大きさはロケランと同じ程度、5発でリロードと一時冷却、15発で銃身の交換100発でメンテナンスが必要だが、歩兵で戦車を倒せるというのはとんでもなく魅力的かつロマン兵器が完成するのだった