ストーカーと思わしきその男は身長180センチはあろう、筋骨隆々のガタイの良さで黙っているだけで並大抵の人間は黙ってしまうような威圧感を醸し出していた。さらに怖いことに顔面を真っ赤に高揚させ興奮気味「奥さん、奥さん」と連呼している。
発情しているゴリラのようだ。
「言ってたでしょ⁉︎旦那さんの人が変わったみたいって!それきっと何かに憑かれてるんですよ!私に任せてください!自分こう見えてさくら神社の者なんで!茶でもしばいてお話聞かせてくださいよ!」
図体の割に気の抜けたような口説き文句にみこは初めて肩から力が抜けた。
ずいぶん単純でストレートなストーカーである。そして何よりみこはこいつのことを知らない。フブキとみこの2人は辺里夫人に迫る男の背後から近づき、謎の自信に満ちた態度で堂々と胸を張った。
瞬時男が振り返り、つり目が大きく見開かれた。
「ゲッ」と喉から濁った声を出す。まるで胃の中から吐瀉物が出てきそうな音だ。
35Pによってフルボッコにされた男は、茶ではなく自分がしばかれたことを受け入れてその場に正座した。「本当に奥さんが心配で…」と細々と口を開きながら弁明を始める。
「でも私不器用だから、アプローチの仕方が分からなかったんです…。」
誰も同情しない。
男と夫人の出会いは地元のコミュニティセンターでのボランチィア活動からだった。週末に一家で参加し、仲睦まじい様子が印象的だと語る。しかしある日を境に主人が顔を出さなくなった。いつもニコニコと渾身的に参加していたのに、と周りは話し始める。夫人の方も「別人になったみたい。」とぼやくこともしばしばあった。心配になり独自で調査を始めると週末は昼から飲んでいるとのことだった。
ちなみに全て立ち聞きから仕入れた話だそうだ。
みこは悪寒を感じて身震いした。
場の空気がストーカーによって支配されていくような気がしてフブキが割って入った。
「人というものは変わり続けるものでは?結婚生活がある程度あるのなら知らない部分も見えてくると言いますし。」
「小さな変化はいずれ悲惨か結果を招くことになるのでな。注視しているのさ。」
2人とも開いた口が塞がらない。
「ちなみに誰かに相談されたとかではないですよね?」
男はガハハと笑った。
「自分から動いたのだよ。私のモットーは注視、注目、自画自賛なのでね。」
志村は思い出したように笑い出す。
その様子を見て志村が「どうしたんです?」と声をかける。
「いやな。あのエロ雑誌の表紙に何が書かれてたか覚えてるか?」
「えげつない女優がいましたね。」
「その横にさ。書いてあったんだよ。付録に裏DVD収録って。」
伊東が少し引いて続けた。
「そんな単純なものに釣られる人いるんですかね。」
「いるんだな。これが。」
志村は目をすぼめて答えた。
V市内の住宅にて辺里貴道氏が倒れているのが発見され、間も無く死亡が確認される。不審者の目撃情報が複数上がっており、遺書は見つかっていなかったが、状況から見て氏の自殺と捜査関係者は判断した。近隣では連続不審死が発生しており、警察はこれらとの関連性を視野に調査を続けている。