現場へと直行した若手の伊東率いるフブキとみこは鬼瓦の記憶を頼りに山中へとやってきた。国道を外れて道の整備がなされていない悪路をさらに進むとようやく開けた土地へとやってくる。制服を着ているので汗や汚れを気にする必要はなかったが、腰や胴回りにつけた装備が重く、山道を歩くには女子2人にはキツすぎたようだ。
そして予想外だったのはすでに先客の大学生サークルがいた事である。何らや揉めているらしく、三人が姿を見せると物珍しそうに彼らはこちらをみた。
その中のおとなしそうな女学生がこちらに歩み寄る。
「何かありましたか?」
伊東は不安そうにこちらを伺うみこの視線を感じながら彼女に巡回とだけ答えた。
ケモ耳娘と清楚な巫女が視界に入ったのか、グループの長らしい人物が早足で寄ってきて、チラチラと2人を見ながら挨拶をする。彼らは友財大学の映像研究サークルに属し、ここにロケに来たのだという。
「噂を確かめるために来たんすよ。」とガタイのいい彼は言った。視線の先に捉えられていることに気づいたフブキは少し彼と距離を置くように口を開いた。
「どんな噂ですか?」
サークルのリーダーはニヤリと口を歪めた。
「消えた村ってやつです。」
後輩の小林という学生が近くの麓出身らしく、幼少期にその話を聞いたというのだ。しかしせっかく足を運んでみても人が住んでいた形勢はなく、その苛立ちを先ほど彼にぶつけていたのだという。
周囲をざっと見渡すと確かに人のいた形跡がない。日原の聞いた話が本当であれば、どこかに皿の破片や水路の埋めた後など、片付けられずに残ってしまったものがあってもおかしくないのだ。
「フブさんフブさん」みこが小声でフブキを呼ぶ。
「さっきの人絶対陽キャだよね。」
間の抜けたような話題に彼女は思わず吹き出した。
「大学生だからきっと頭いいんだろうなあ。」
「みこさんは何してたんでしたっけ。」
なんともないはずの質問にみこの心は抉られる。
「コンカフェの店員。」
「そこは巫女じゃないんすか。」
みこは「あ!」とつい本当のことを言ってしまったとこに気がついて野太い笑い声を鼻から出す。
近くで「おーい」と伊東の声がする。何かを見つけたようだ。
彼はガラガラとリアカーを引いてきた。その荷台には渋い顔をしたおじさんがもぐもぐと口を動かして鎮座している。そのインパクトに思わず2人は叫んだ。
フブキは咄嗟に「先住民の方ですか?」と問うと男は「通行料払え!」と雄叫びの如く叫び返した。
もしかしたら人間も人工物ではないのか、という疑問がみこの頭の中をよぎる。
気圧されたフブキが思わず謝ると、気を良くしたおじさんがリアカーから身を乗り出し、しらたま団子を一つ、フブキの手の平にそっとおいた。
「お嬢ちゃん、素直なのが1番だ。ほら、これ食べな。特別だぞ。一個作るのに二時間かかるからな。」
正直いらなかった。
彼は「そろそろ潮時だな」とつぶやいて、リアカーを自分で引いて麓の方へと歩いて行った。その後ろ姿を見た伊東は一般人を危険から遠ざけたことを誇らしく呟いた。
後ろのフブキはまだキョトンとしている。
「このお団子どうしよう。」
フブキは裸で渡された団子を野うさぎを包むようにして保持している。その出来具合は野外で調理したとは思えないほど綺麗だった。
「すこん部か35Pに食べさせな。」
伊東が淡白に答える。
「お前なかなかの鬼だな。」
それに対してみこが珍しく突っ込んだ。