財団調査隊   作:茶漬四郎

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過去を振り返るみこち

 面談室へと向かう途中、みこは森本という人物について思い出していた。あの連日連夜、顔を合わせては小馬鹿にしてくる性悪女、思い出補正がなければ美しくもない。その補正だけが、彼女の味方だったのだ。

試験期間の間、みこは身内によく「10円剥げができちまうよ!」と自身をネタにしていた。

暗さも辛さも一筋の光のありがたさも、一通り経験したが何よりも印象深く残っているのは森本の指導内容だった。

「嘘でも事実と言い続け、結果を作り、事実を変える。」彼女の教えは一貫性を持っていたように思われる。

 

そんな彼女も実は苦労人だった。

一流大学を卒業した帰国子女であり、在学中学費を免除されて留学までいった才女である。当初彼女は純粋な正義感と自慢の分析力、そして国を超えて人を守るという志を持っていた。

しかし採用されたのは財団の力が薄い、中央から離れた支部だったのだ。これでは普通の労働者と変わらない。だからキャリアアップをするために、必死になって実績を上げようと躍起になっていたのだった。どんな理不尽もいつかは武器になると信じ、上司の考えを尊重し、真似た。

その結果はどうであったろうか。

毎年実施される移籍試験に落ち続けてしまった。同期で成功した者もいるのに、なぜ自分が枠に入れないのか。

岩崎は森本を車で送る際に、泣きじゃくる彼女を宥めたことがあったという。

「自分はもう支部になりつつある。もう本部に行けるような人材じゃないんだ。」

2人の指導役になったのはそのあとすぐだった。

理想に向かって走り続けても、森本の場合は目標まで辿り着けなかった。だから少しでも成果を残そうと、フブキとみこに十分とはいえない指導をしたのかもしれない。

余裕のある今、みこはそのように考える。

改めて彼女のことを思い出したが、共感こそすれ、同情はできない。

20回目の小論文をダメ出しされた深夜、涙を浮かべ憔悴しきったフブキが「一緒に辞めちゃいましょうか。」と冗談のようなそうじゃないようなノリで弱音を吐いたことがある。平日の深夜、誰もいなくなった事務所でなぜ友人の消えそうな声を聞かなければならないのか。それが怒りの矛を収められない理由であった。

決して面接で落ちたからではない。断じて。

そういえば、みこは面接を落ちてから森本は姿を見せなくなったことを思い出した。

 

 面談室に入ると部長とその部下、そして人事部長の3人がみこを待っていた。懐かしい顔ぶれだ。みこの表情が自然と引き攣る。いつも何処かで見守っている35Pも今回はこの場にはいない。

彼女は1人で過去と決別しなければならないのだ。

先に口を開いたのは部長だった。

朗らかな表情の彼は「急に呼び出してごめんね。」と言った。

それから移籍とはどういう意味か、既にわかっていることだったが改めて丁寧に説明を受けた。支部から籍を抜くということであり、彼らとは仕事上の縁を切るということだ。

そしてみこがそれを決断したということは、管理職にとって寝耳に水だったのである。

「本当はもっと落ち着いて話がしたかったんだけど、日原さんからやんわり断られてね。なんでも現場研修中だから、と。志村くんの班にいるそうじゃないか。彼も元はここにいたんだよ。」

「そーなんですか。」

言葉の節々から引き留めたいという意志がなんとなく伝わってくる。

「籍は残して出向という形にしてみたらどうかな。支部としても君に色々と投資してきたつもりなんだ。」

「出向なら日当もついてお金も貯まるしね。」と部下の女性が付け加える。

気の優しいみこでも、ここは自分の意志を告げねばならないと直感している。

アリスからの言葉を思い出し、自分は1人じゃないことを言い聞かせながら、みこは口を開いた。

「もう残るつもりはありません。」

部長たちは顔色を変えない。人事部の人間に至っては下を向いたままだ。

しばし気まずい空気が両陣営の間に流れた。

今思えば面接で厳しい評価を下した彼らも、支部なりの考えを持ってみこと向き合おうとしたのかもしれない。

 

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