面談が終わったみこが待合室に戻ると、入れ替わりでフブキが出ていった。ドヤりと口元をハムスターのようにさせ、お互いに指2本を立てる。
しばらくするとウォーターサーバーを抱き抱えるようにみていた日腹がみこに向き返った。
「どうだった。」と彼は心配を表情に出さないように尋ねる。
みこはへにゃりと肩から力が抜けて「疲れましたあ。」と返した。
「脇汗やばいぜ。」そう言って近くにいた35Pを抱き抱え、頬擦りする。
日原はそれをみて小さく笑った。
「いい仕事をした証拠さ。」
「今日は凛ちゃんとこ行ってチュパチュパ癒されに行こ。」
「みこちゃん、それはちょっと難しいかもな。」
「なんでですか。」みこはムッと少し不機嫌になった。
日原は疑問を投げかける彼女を近くに呼び、一緒にサーバーの上部に設置されてあるタンクを眺めた。
「これ飲めたか?」
みこはフルフルと首を横に振る。喉が飲むのを拒んだのだ。
「狐っ子は飲もうとしたが、生理的に受け付けなかった。匂いもだめだ。苦々しい顔して戻したよ。」
そう言うと彼はゆらゆらとタンクを揺らす。強めに波立つ液面の中央からは、輪になって波が徐々に広がっていくのが見てとれた。
「上長、遊んでるの?」とみこの子供を見るような目線も気にせずじっと見つめていた。
やがてピンク色の球体のようなものが顔を出し、次第に皺のようなものが見え出した。
「ゲ」とみこが声を上げる。
「脳みそ!」
「これはたまげた。」
「本物ですかね。」
35Pを抱き抱える腕に力が入った。彼は嬉しそうだ。
「森本遥香という人物に覚えはあるか。」
「みことフブさんの指導役でした。」
日原は何かを確信したようにうなづき、彼女にスマホを手渡した。
そこには志村から送ってきた森本の日記の一部が写っている。
「昨日の収穫物の中に森本の名前があってな。てっきりテロ紛いなことでもしているのかと思ったが、現実はもっと不気味みたいだぞ。」
日記には入所時の希望と絶望、後半には自身と支部への失望が書き綴られていた。気になるのはカウンセラーやらセミナーという単語だった。
「転職を考えるんだったら、現状を知るためにカウンセリングを受けることは確かにあるさ。もちろんセミナーにも参加して士気を高めたり、視野を広げたりする。」
「森本さん転職考えてたの?」
「そう思わなかったのか。」
「だって鬱陶しかったし。てっきりここが好きなのかもって思ってさー。」
みこはピコピコと考え始める。
「ってことは森本さん転職して敵対組織に移ったってこと?」
「そうだとしたらウォーターサーバーをここまで設置できたのも理解できる。何年も勤めた場所だから、来客含めみんな恨みの対象だったのかもしれん。」
オブジェクトを収容する側から製造する側に回ったという仮説がみこの頭の中でぐるぐる駆け巡る。もしそうなら重大インシデントに発展するかもしれない。最悪は消される対象として財団のリストに載ってしまう可能性もある。
日原はショート寸前の彼女に考えるのをやめさせた。
「そうなるとそれも不自然さ。住所が変わっていないし、退職届も出されてない。ましてや敵に寝返りますって証拠を残して消えるか?」