フブキとみこの2人は一緒に電車を待っていた。
空は既にネイビーブルーに似た色に染まり、星が見れるかもしれないと言った時間帯。波が水平線からのびる僅かな陽の残りを追うように消えていく。
制服姿の学生たちが行き交う中、彼女たちは到着した地電へと乗り込んだ。
床が木製で珍しい。
車窓から流れる海岸線はどこまでも続いており、走る車や灯りのついている建物を見るたびにその主人たちはどこに向かっていくのか不思議に思う。
自分たちの人生だってわからないのだ。
自分たちを見て一緒に乗り込んだ学生たちはどう思うか、紺色の制服を着崩したフブキは疑問に思った。
「不思議なお姉さんだと思ってくれてたらいいなあ」とみこは自分の願望を口にするとフブキは弾くように返答する。
「ツッコミ待ちですか。」
「え?」
見ると35Pたちも同じよう王に目を天にさせていた。元からか。
2人は目的地の「ドットリーノ」と言うレストランの最寄りからひとつ離れた駅で降りた。少し歩きたいというフブキの要望だった。
潮風を肌に受けつつ、南国と和風の建物の並ぶ住宅街を歩く2人はどこか嬉しそうだ。
「これで白上たち晴れて局員ですね。」
フブキの言葉にみこは自分たちが運が良かったと実感する。
見てくれる人たちがいて、受け入れてくれる存在がいる。移籍時に推薦書を書いてくれるのは非常に珍しいことだった。
結局、森本遥香の行方はわからなかった。
「みこさんはどう思います?」
「どーかな。」
みこが道端の石を蹴る。
「あの水、嫌だけど懐かしい感じがしたんだよね。」
「ウォーターサーバーのですか?」
「そー。」
その頃、「ドットリーノ」では新人2人を迎えるために志村班の面々が歓迎会の準備をしていた。日原は遅れて参加するそうだ。
「しかしアレですね。」と伊東は待ち切れないのか既に開けたビールを半分飲み、志村に話しかける。
「面談思ったよりスムーズに終わりましたね。」
「支部の奴らも相当渋ってたみたいだな。」
「退屈しないし、惜しいでしょうよ。」
「大切にしたいんだったら放置しすぎだよ。」
ポン、とコルクを開ける音がした。アリスが白ワインを開けて自分のグラスに注ぎ出した。
「ウォーターサーバーはどうなったんですか。」彼女が2人に聞いてきた。
志村は顎でクイッと伊東に答えるように促す。
「タンクの液体は人間の体液に近いものだったって。今財団で調査中。浮かんでたのは本物の脳みそかもね。」
アリスはグラスに一口、口をつけるとそれが誰のものかを予想した。
「もしかして指導役の?」
そう答えられた伊東はチラリと志村の方に視線を送る。視線を送られた彼は眉を大きく促し伊東に続けるよう合図を送った。
「みこちが懐かしい香りがしたって。それ以上のことは拒んだし、フブキングに限っては最初から生理的に受け付けなかったって。だから2人に悪い印象がある人物が関係していると思うんだけど、それ以上は結果を待たなきゃいけないね。」
そこから先は志村が続きを話し出した。
「日記にはヘッドになりたいって書いてたしな。」
志村は続ける。
「仮にあの脳が彼女のものだとして、今や本部より上の財団に在籍しているんだ。願った通りのことじゃないか。」
アリスは喉から空気が込み上げてくるのを抑えた。
「ずいぶん悪趣味な考察ですね。」
「要注意団体に接触したかもしれないんだ。湾曲した考察を向こうが出してきても不思議じゃないさ。」
カラン、と扉が開く音がした。
「にゃっはろー。」とみこがフブキと共に入店してくる。
彼は「主役のお出ましだ。」と言って会話を切り上げた。