財団調査隊   作:茶漬四郎

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2人の悪夢

 速度を落としつつあるとはいえ、走行中の地下鉄からホームに向かって飛び降りる時、伊東は自分ながらにその行動を称賛した。日頃勢いが足りないだのと言われ続けていたが、こと肉弾特攻に関しては誰もが眼を見張る勇気がある。

怖さは一瞬、痛みは気合で乗り越えるのだ。

この時の彼の行動源は二つあった。

一つは一寸先の恐怖である。

後輩のみこに乗客の避難を任せ、腐りきった人影と一騎打ちを挑むまでは良かった。しかし数分と経たないうちに、ちょうど45口径の弾丸を2マガジン分、20発消費したとき、伊東は初めてケテルクラスの恐ろしさを間近で見た。

銃弾は全て当たっているのに奴は歩みを止めない。弾は全て当たったと同時に溶かされていたのだ。

「やるじゃない。」汗で支配された顔面を袖で拭くと、彼は負け惜しみともとれる言葉を相手に向かって放つ。10発入りの弾倉を愛銃に込めると一時的にアドレナリンが鳴りを潜めた。脳裏には苦痛とともに消えて行ったキースの状況が浮かぶ。

血流と呼吸のペースが大きく変わり、ぐにゃりと視界がゆがんだ。

「最悪だ。占いがこんな感じで当たるなんて。」

もう一つの行動源は、みこから借りた今日のラッキーアイテムである、思い出のキーホルダーだった。彼女には似つかわしくない、テトリスを模した縦長のものだ。聞けば友人から預かったものらしく、無事に返さなければボコボコにされるという。

胸元のポケットから取り出したそれを見つめると、構内の明かりにチラチラと照らされて不思議な水色に光りだした。

「てめぇなんかにつかまってたまるか!」

そう叫ぶと伊東は全ての弾を一番近くて大きな窓に向けて撃ち込み、アキレス腱いっぱいにその身を外へと投げつけるように飛び出した。

 数時間前のその日の朝、さくらみこは滝のように流れる寝汗と共に目を覚ました。

眠りが浅かったせいか嫌にリアルな夢を見て目覚めが悪い。

夢の中で彼女は黒い人影に追われていた。不思議とその中ではみこは早く走れるようで逃げ切れるのではないかと言う希望があった。

夢なのに現実とシンクロするように息遣いが激しくなる。声こそ出さなかったが、吐く息の匂いが鼻へ入り込んでいく。しかしこういう夢では定番でどんなに早く走っても追手に捕まってしまうのだ。

追手に飛び掛かられた時、視点が反転して相手の姿を間近で見る事ができた。全身真っ黒な男だ。死んだ魚の目のような生々しい眼球が二つ彼女をとらえている。

不気味で気持ちが悪い。

奴は物を定めるようにゆっくりと首を傾げ、表情がわからないはずなのに口角が挙がっているのがわかる。

万事休す!早く目が覚めてくれ!

そう懇願すると、視界の端から男が一人、走りながら奴に向かって角材を振りかざした。のろけた奴はみこを開放したものの、次は男に襲い掛かった。

 みこはそこで目が覚める。

追われる夢は「トラブルに巻き込まれる。」と言われている。そして誰かが助けてくれるのは、その人物がトラブルから助け出してくれるという意味になる。

つまり夢占いの結果を自分なりに考察すると「トラブルに巻き込まれるも、誰かによって救われる。」ということになる。

しかし問題は、みこを助けてくれた人物が代わりに巻き込まれてしまうということだ。

その人物は伊東に似ていた。

「みこのせいで迷惑がかかるのかな。」

ボソリとつぶやく。

そんな彼女の内心はよそに、35Pは朝のテレビをつけた。

画面には今日の占い結果の一覧が映されている。

 

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