財団調査隊   作:茶漬四郎

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エリートの気遣い

 早朝、マンダリンに出社したフブキは既に伊東が事務所にいたことに驚いた。

泊りでいたのかはたまた終電が無くなったのだろうか。

そんな彼は白いシャツ一枚を羽織り、マグカップに注いだコーヒーを飲んでいる。

「フブちゃんおはよう。早いね。今日何スンの。」

「おはよー。アリス先輩たちとサイトで面談するの!お話聞くんだって」

伊東はへーと返してテレビをつける。

丁度今日の運勢をやっていた。そして伊東の星座は今日最悪なのだという。

「幸先悪いねえ。伊東君。」

「うるせえ。」

アナウンサーはさらに明るい声で続けた。

「特に二日酔いで特定のパートナーのいない人は、今日、最悪の厄日です。」

「…俺じゃん。この前フラれたし。」

フブキはブッと思わず噴いた。

 

四月も中ごろになると満開の桜もところどころ新緑が目立ち始め早くも春の終わりを感じさせるようになる。それとは対照的に川沿いの屋台通りを行きかう人々は未だに新年度を祝っており、屋台をつまみつつ四季を楽しんでいた。

みこはそんな人の流れから離れ、もくもくと買った粉物をほおばっていた。

たい焼きが無いのは不服である。

ちらりと表情を観察する35Pからするとこの時のみこは表情が暗かった。気にせず今川焼を一つくすねる。

その時、伊東がベビーカステラを食べながら彼女のもとにやってきた。

「調子どお」と彼は尋ねると、みこは大きなため息を吐いて写真を取り出した。

依頼はペット探しのはずなのに、唯一の手掛かりが月見団子の写った写真一枚だけなのである。

「何のペットなんだよ。わかんねーよ!」

「ペットにも個人情報が適用される時代なんだろ。」

「みこちゃんの顔写真はすぐに町内に広まりましたけど。みこの人権はいずこへ行っちゃったんですかねえ。」

「それは単にお前とフブちゃんが町内の人達に気に入られているだけだぞ。つかみはバッチリじゃないか。うまい棒食う?」

「うまい棒生活思い出すから今要らない。」

伊東もみこの暗い表情を気にしているようだが、あまり深くは踏み込めなかった。

なので彼は先輩として、彼女より不幸であるということをアピールする他考えが思いつかなかった。

「俺の不幸話聞いてくれるか。」

「ヤダ。」

「今日の占い観た?」

「みこちゃんは聞かないって言ったんだけどなあ。まあ聞いてあげるけど。」

「俺今日死ぬらしい。」

「にぇ?そんな物騒な占い結果ある?」

みこは口にくわえたたこ焼きを、スイカの種のごとく飛ばした。

古今東西、大衆向けの占い結果でそのようにはっきりと物を申すのは聞いた事が無い。あるとすれば「おとめ座」に対する結果のみである。

「伊東、伊東っておとめ座?」

「あ?違うけど、なんで?」

日頃観ない物でもたまたま目にしてしまうと人間何かを感じてしまうものである。故にこの青年は本日少し繊細になっている。彼が見た番組はみこも少し見ていたので必ず救済処置であるラッキーアイテムがあることを知っていた。

「ラッキーアイテム何だった?」

「思い出のキーホルダー。もってねえよ。」

「思い出無いのか。湿気てんにぇお前の人生。」

「うるせえよ。」

「フブさんに聞いたけど、フラれたらしいじゃん。」

「止めろよ。泣いちゃうぞ。」

今日休めばよかったなあ、とぼやく先輩にみこはヒョイっと胸ポケットからキーホルダーを差し出した。テトリスを催した、縦4連の水色である。

「みこちゃんの思い出のキーホルダー、今日一日貸してやる。」

「へー。ありがとう。これお前が買ったやつじゃないだろ。」

「うん。なんで?」

「…青いから?」

みこは不服そうに口をうねる。

「それ無事に返してね。じゃないとみこがボコボコにされちゃうから。」

ボコボコの部分に感情がこもっていて伊東は思わず噴き出した。

「意地でも生きて過ごさなきゃな。」

平穏な桜道に雷のような悲鳴が響いたのは、そのあとすぐ後の事だった。

駆けつけた2人が目にしたものは、黒く陥没した桜並木の道なりだった。

 

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