時を同じくして白上フブキは志村とアリスに連れられてあるサイトへと来ていた。彼らを出迎えたのは竹ノ内と言う研究員で、髪を微妙に整え、枠の太い眼鏡をかけている。運動不足なのか小太りで、肌の手入れは悪くカサカサとしており、二昔前の研究員を思わせる容姿をしていた。
志村とは面識があるらしく、軽くあいさつを済ませると彼女たちを別室へ行くように案内した。フブキが現場ではなくここに来たのは、週末神父の経験を買われ、罪人の話を聞くことになったからである。
陽の光が当たる室内には、机を隔てて一人の少年がオレンジ色の服装に身を包んで座っていた。その少年は宮田と呼ばれ、入室した二人をチラリと視界に取られるとすぐさま視線を下に戻した。
先輩であるアリスが先陣を切って質疑応答を始める。最初は形式的な事であり、氏名や経歴など当り障りのない話を行う。まだまだ新人のフブキにとってはこの空間そのものに緊張しており、思わず今日来た理由を失念してしまった。まして宮田と言う少年が何をしたのかすら覚えていない。ただ一つ思い出したこと、それは自分たちがDクラス職員の選抜を行っているということだ。
であれば、目の前の少年は何か重罪を犯したことになる。
「自分がしたことは反省していますか?」
アリスが宮田に問いかける。日常的な会話であれば、深読みされずにその場を収拾するために使われる一文であるが、このサイトでは違う。回答次第ではまだギリギリ人権が守られるのだ。
宮田は「ハイ」と小さく答える。
「どうやって償っていこうと考えていますか?」
「…社会貢献していこうと考えています。」
「具体的に教えて下さい。」
「………」
少年は固まった。厳しいようだが、ここで彼の命運は尽きたのだ。
「社会貢献の内容はこちらで用意するので、多少前後しても大丈夫ですか?」
「前後ってことは出所前になるかもしれないってことですか?」
「まあ、そうなりますね。」
すると宮田は初めて顔を上げ、ニヤリと笑みを見せた。
「刑期が短くなるのなら。」
次に対面した牧野と言う少年は宮田と対照的に社交的な少年だった。油断をすれば懐に入りこまれそうになる。あまりにも関係のないことを話し出すので、アリスが注意した。
「こちらからの質問にだけ答えて下さい。」
「はぁい」
「被害者とその遺族に対して思うことはありますか?」
牧野はブラブラと足を揺らしてつまらなそうに答えた。
「アイツには多少思うことはあるけど、家族にはなあ。だって直接関係ないし。」
彼は「そんなことより」と身を乗り出した。
「聞いたんだけど、少年が出所するときって新しい身分が用意されるって本当?戸籍?を新しくしてもらって人生再スタートしたいんだ。今までの人生が嫌でさ。」
「え」とフブキは思わず声に出した。
「もしかしてそれが目的で人を死なせたの?」
彼女の言葉に少年はただただ意地悪な笑みを浮かべた。
インタビューが終わるとフブキはどっと疲れたのを感じた。志村は彼女に労いの言葉をかける。
神父としての経験を全く活かせなかった。
改めて少年二人の資料に目を通す。
彼らはいじめの延長戦で、同級生の命を奪ってしまった。二人にとっては遊びのつもりでも、最終的にはリンチと言う形で最悪の結果を招いてしまったのだ。事故ではないはずなのに、供述には「故意ではなかった。」と記されている。
フブキにとって牧野の最後の言葉は明らかに目的があって行ったとしか思えなかった。
竹ノ内が彼女に歩み寄ってくる。彼は志村と共に隣室のマジックミラー越しに様子を見ていたという。
「疲れたかね。」
「…白上、今日は諭せないかと思ってここに来ました。でも無理でした。根本的に他の人達とは違います。」
「君は法律が完璧だと思うかね?」
急な質問に思わず目を点にする。
「とある海上事故では二人の人生が変わってしまったにもかかわらず、現行法では禁固数年が限界だという判決になった。これが路上の危険運転ならもっと重い判決が下されていてもおかしくないんだ。」
「…」
「私は、法律は完璧ではないと思っている。現行法に則り最大限の成果を出すのが法に従う人間の仕事だが、その結果は必ずしも納得のいく事ではない。そこに施行当時と現代とで矛盾が生じてしまうのさ。」
「確かに事が起こってから人って動き出しますもんね。」
「その通り、人は他者の血によってようやく変化していく、つまり悪いことは早くやったもん勝ちってことさ。私はそれが許せなくてね。彼らのおかげで社会は動き出したけど、だからと言って二人はそのままにすべきじゃない。罰は必要だよ。」
話を聞いていた志村は神妙な面持ちで2人に対して言った。
「確かにそうかもしれませんね。自分は、イジメが嫌いです。舐め腐った奴らもです。」
アラートが施設内に響き渡る。アナウンスによると重大収容違反が発生したのだという。