財団調査隊   作:茶漬四郎

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研究員の正義

 サイトでは収容違反に関する情報が、現場よりも一足早く伝わった。多くの職員が避難する中、竹ノ内はフブキ達3人を連れてサイトの奥へと進んでいく。

志村はこの選択は危険ではないかと尋ねた。

エレベーターが無限に降下するように感じる中、竹ノ内はその問いに答える。

「何事も経験だよ。いざそのチャンスが目の前に現れた時、のれるかどうかが重要なんだ。もうすぐ収容違反のあった現場に着くよ。」

現場を観れば、Dクラス職員への解像度がより鮮明に映るだろうと彼は語る。人が一人もいない廊下を進んでいくと、観測所のような部屋へとたどり着いた。

そこには一人の職員がまだ残っていた。

「おや、残っているのかね。」

「ハァイ」と気の抜けるような鼻声で答える彼女は赤い瞳をパチクリさせる。

「真面目なインターンなので。」

「寝てたろ。」と上司に図星を突かれると、「ぽえぽえぽえぽえ」とごまかした。

室内にはいくつもの大きなモニターがあり、その他簡素な電子機器が充実していた。とても一人で扱うようなものではないから本当に彼女以外は避難したのだろう。

大きな窓の先には不自然なコンテナが一つあった。

志村が指をさし、その異変に気付く。

「あのコンテナ浮いていませんか?」

通常のフラットラックを複数連結させ、上下左右の壁をいくつもの分厚い鉄板で覆った特注品は、床から足一つ分浮いていた。ここまで手の込んだ収容方法を必要とされているオブジェクトがいかに危険なのか、想像するにたやすい。真面目な考察をよそに、女子3人は高画質なモニターに興味津々だった。

「これで配信観たいなー。」とフブキがつぶやくとインターン生は「できますよ。」と答えた。「なんてたって何回か試しましたからね。」

「働けよ!」とフブキが突っ込む。

不真面目だが優秀でない限りこの財団で働くことなどできないだろう。やはりこのバンダナ娘は優秀なのだ。

アリスはモニターを指さし彼女に尋ねる。

「この床の、器具みたいなのって何?」

「あーそれ、囮用のっすねー。詳しくは教えられてないっす。」

察するにあれがDクラス職員のなれの果てと言う事か。姿形はなく、生死が不明だ。これが人権の失った人間の末路なのだ。

器具の隣にある大きな黒いシミはポケット・ディメンションというもので、一種の瞬間移動装置だという。そして竹ノ内曰く、今回初めてこのディメンションを通じて収容違反が発生したのだ。

 

竹ノ内が新しい考察をしようとしていた所に、彼のケータイが鳴った。

相手はエージェント清水であり、走っているのか息が荒くパニックになっている。

通話を終えると彼はその場の皆に向き直り、たった一言伝えるのだった。

「若松がやられた。」

彼女は竹ノ内の部下であり、愛娘の友人でもあった。

乾いた重い空気が喉を圧迫する。

被害状況は深刻なもので、若松の他にサイト内でもう二名が死亡認定を受け、民間人に関しては20名以上がポケット・ディメンションへ落ちて行ったのが確認されている。しかし、実態はもっと多くの被害が出ているだろう。

生還者のいない実働部隊がもう出ているのかもしれない。

「襲われた人物、生命は全部死亡扱いだ。行方不明にはならない。」

フブキは思わず口を開く。

「白上たちは何ができますか。」

新しいコンテナの準備はできており、問題はどうやって対象をコンテナまで運んでくるかと言う点だった。被害を広げないために時間をかけずにやるなら高確率で人命が失われる。

囮を出すのはどうか?

ふと悪魔のような考えがフブキの頭によぎる。首を振って考えを改めようとするアリスと目が合った。彼女も同じ考えを持っていたような気がした。彼等がいくら人命を軽視してきたとはいえ、自分達の意思で重罪人の生命を危険にさらしてよいものか。まだ二人は冷酷にも残酷にもなれなかった。

班長の志村が間に入り、代わりに考えを口にした。

「今日面接した二人は使えますか。」

竹ノ内の顔が一瞬ニタリと不気味に笑ったのを見逃さなかった。

しかし、今一つ、決定を出すのは躊躇された。喉に引っかかった魚の骨を取るように、無意識なもどかしさがあったのだ。

すると再度、竹ノ内のケータイが鳴る。彼はスピーカーモードにする。通話の相手はみこだった。

呂律のまわらない、鼻から抜けるような軽く、高い声が室内に響く。

「き、キースさんがやられちゃいました。」

これで財団職員4名の損害を出した。出現場所は若松の消えたお化け屋敷からそう遠くない観覧車であり、被害の拡大は時間の問題だ。

もはや一刻を争うのだ。

竹ノ内が一押しするように言い放った。

「いいじゃないか。彼らも社会貢献には興味があったし、積極性があるように感じたが。」

それから清水に連絡し、囮の目処が立ったことを伝えた。

 

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