財団調査隊   作:茶漬四郎

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サングラスは勲章

 エージェント・キースの最期は、誰が見ても絶望的な死に様だということがわかる終わり方だった。

伊東の予感は的中し、観覧車のカーゴに入室したグループが消失したという。キースが先陣を切って中には行って見ると上と下に黒いシミが発生していた。思わず足を半歩踏み込んでとどまる。そうでもしないとポータルに体の一部が触れてしまうからだ。

みこは伊東の予感が的中したことに不満そうだった。

そんなやり取りをしていた矢先、ほんの一瞬の油断をついて悲劇が起こる。

天井のシミから黒い頭がニュッと現れたのだ。

キースが気付いた時、その場にいた全員が、奴の淀んだ瞳がゼラチンのように潤っているのが見えた。その表情は笑っているようにも見える。獲物は最後まであきらめずその場から離れようとしたが、奴の腕はがっしりとキースの腰をつかんだ。

瞬時に焦げるような臭いが広まり、キースの腹から喉を裂けるように爆発するような悲鳴が広まる。打ち上げられた魚のようにバタバタと上半身を動かすたびに、彼の体は背中に向かってクの字に曲げられていく。焼かれるような感触に神経が収縮を起こしたのだろうか、痙攣にも似たような動きに思わずみこは顔を背けた。

苦痛は長く続かなかったようで、背骨が完全に腐食し、爪楊枝のようにポッキリと折れたかと思うと、腰を失った下半身はダラリと地面に倒れて行った。その場には、持ち主を失ったトンボの目のような大きなサングラスが、乾いた音を立てて落ちた。

 ほどなくして清水が駆け寄ってくる。キースの最期を知らせると、情報交換をするように「若松がやられた。」と二人に伝える。その顔は絶望に満ちていた。

暗いハンテッドハウスを探索中にポケット・ディメンションに飲み込まれたのだ。

清水の顔からダラダラを汗が滝のように流れる。

「今までだって同じだった。でもこんなにも早く状況が変わるなんて。」

スーツの内側からムワッと熱く湿った空気が流れ出る。彼は乾いたつばを飲み込み、財団からの追加指示をめまいがしながら配下の二人に伝えることにした。

「囮の手配が済んだ。あと少しで終わるはずだ。」

袖で拭っても汗は止まらない。

思わずみこは拾ったキースのサングラスを清水の前に差し出した。彼はそれを手に取るとしばらく眺めてから自分にかけた。あまり似合っていないのはサイズが少し大きいからだけではなさそうだ。

「絶妙に似合ってねーな。」とつぶやいたみこの脇腹に躊躇なく伊東は拳を突き出す。

グラサンを装着した清水は落ち着きを取り戻したようである。

「今から音響施設の整ったところへ行って奴をおびき出してくれ。」彼は指示の続きを伝えた。

「音響施設?」と伊東。

「どこでもいい。映画館とかアクアリウムでもいい。残った仲間がそこに向かっている。協力してくれ。」

「わがった。」とみこ。35Pも覚悟を決めたようだ。

「伊東君、どうする?」

ふられた伊東は考えながら次の場所を考える。

「今日みたいな観光日和ならインフラ設備なんて人が集まるかも。車のない若者も多いし、音響設備の備わっているから条件にあうんじゃ?」

中でも観光地特有の地下鉄なら思い出作りのために人の利用が多い。さらに乗り続けていれば市最大のターミナル駅につながる。

話を聞き終えると清水は「ありがとう。」と礼を言った。

「そっちにも応援を送る。二人は先に向かってくれ。もうすぐ、もうすぐ終わるんだ。」

「囮を使って、ですか。」

「そうだ。」と清水は強く答える。

「囮って何?」とみこ。

「クリアランスレベル0には教えられないな。」と誰かが口にしたことを清水は返す。

「なんだよオメエ!お前までも言うのか!何様なんだよオメエ!」

みこはサングラス渡したじゃん、とブツクサ文句を垂れた。

 少年重罪人の牧野と再び対面したフブキはこれから彼の身の起こることを予想し、怒りや不快感を一切感じなかった。

それを見た牧野は何故か勝ち誇ったような顔をしている。いつまでも何かに守られているという不動の勝利を噛みしめているような気がした。

「ありがとう。」と彼はフブキに言った。

思ってもいなかった言葉に彼女は「へ」と気の抜けたような返事をする。

「思ったより早くチャンスをくれて。弁護士はなんだかんだ言って行動が遅かったんだ。」

海に浮くクラゲのようにフラフラと首を動かす彼の無責任のような態度に、フブキは言葉のトーンを殺して口を開いた。

「自分の環境が嫌だっていうのはわかる。でもだからって他人の人生を奪った人に、白上は同情しません。」

目隠しをされた牧野をコンテナに連れて行く役割は志村が買って出た。相変わらず口数が減らない。

人種や性別に罪の重さが平等に科せられるなら、年齢も関係ないのではないか、と若い班長は考える。少なくともこの少年は、どこまで少年として扱ってよいのだろうか。

新調された特殊コンテナはひんやりと冷たく、既に中には武装した警備員がいた。

牧野を連れてきた志村と他の職員は、彼を床に座らせ、太ももにそれぞれ床に設置されている器具をがっちりと装着した。太い鉄がズボンの布に食い込んでいる。

内部のカメラとマイクの感度は良く、観測所にいる職員も一緒になって確認する。その中には拘束された宮田もおり、特別にいることを許可された。

目隠しを取った牧野は異様な環境に少し困惑している様子だった。見下ろす側にいた人間が、見下ろされている事実を目の当たりにし、顔が引きつっている。志村の隣にいる赤十字のワッペンを身につけた職員がいる事も、その感情を増強させた。

しゃがんだ志村は拘束されている少年の足から靴をはぎ取り、踝までズボンをめくる。

「お前らが同意した社会貢献だからな。」と言ってナイフを取り出し、両足の腱を切りつけた。

チクリとする痛みと、バチンと収縮する筋肉に驚き、牧野は思いっきり声をあげた。

救護班が止血作業を行うもこれでは歩くことはできない。

トランシーバーから竹ノ内の声がする。

「エージェントを派遣した施設にさっきの音をリアルタイムで届けた。あと10分から15分が勝負だ。」

 

 

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