夜とは変わって陽の高いうちのH公園はのどかで躊躇なく入ることができた。
重厚なフェンスを見て志村はみこにどうやって1人で抜け出せたのか尋ねた。どの入り口にも設置されている鉄のフェンスはとても非力は彼女1人では動かせるとは思えなかったのである。
風の精霊でもあるまいし。
みこは少し考えて「火事場の馬鹿力」と答えた。
広場への道中、2人は公園の異常性を目の当たりにする。
例えば入り口から見た公共トイレは入り口の方を見た時、遊具になっていた。見る角度によって設備が変化する。これがスペース削減のカラクリだった。
原理は一切わからないが、考えるよりも見たものをそのまま受け入れる方が楽だと感じた。
みこが肩を掴まれた現場まで行くとそこには確かに人がいた。
志村は右手を腰に構えてその人物に近づく。その人物は木と一体化していた。
頭部が欠損しているのではなく、木のコブに吸われるような形で一つになっていた。ちょうど木から人間が生えてきたようにである。
目はぎょろぎょろと動きまるで意識があるみたいだ。
表情を変えない志村とは真逆にみこは口を丸の字に開けて動かなくなっている。バランスを崩して階段から足を踏み外してしまった。間一髪体勢を整えたがその拍子にリュックの中身を地面にばら撒けてしまう。
A子らしき人物に会ったのはそのすぐ後だった。
みこは危険を考えずに少女に駆け寄ると「A子ちゃんだよね」と強く声をあげて確認をとった。
「心配したよ?何ともない?早く一緒に帰ろう。」
しかし当の少女はみこの言葉を理解していないように無機物な反応で「チャッピー」と返した。
「ここならずっと遊べるよ!」
その次の言葉は「ずっと」という単語を壊れたラジオのようにただただ繰り返すだけだった。
肌着は失踪時のままである。真っ正面で対峙しているみこと距離をとっていた志村は。A子が一度も息継ぎをしていないことを目視する。
それから「一旦引こう」と放心状態のみこに告げた。彼女は可愛がっていた少女が違うものに変わってしまったような感覚がした。少し目を離したら少女はもうすでに消えていた。
遠くから笑い声がする。
地面に落ちた私物を片付けると、ひょっこり二足歩行の白い猫が姿を現した。雪玉を二つ重ねたような等身、大福にレーズンを二つ振りかけたような表情のそれは式神の35Pだった。
みこの喉から声にならない空気が放たれる。彼女は何も考えずにぎゅっとその猫を強く抱きしめた。