財団調査隊   作:茶漬四郎

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忘却クラブ

 風の精霊のごとく姿を消したさくらみこは単独で大宮喜菊次郎を探すと息づいて、マンダリンを飛び出した。35Pも一緒に行ったので心配はないが、アリスは老婆心ながら彼女を追っていった。事務所に残されたのはフブキと伊東、そして別室に移された円香の3人だった。

「私もついていきたかった。」フブキが隣部屋に彼女を案内したときに小声で聞こえた言葉である。

「無理だよね?」とフブキが伊東に同意を求めるように確認すると、彼は期待通りの返答をした。

「それよりみこち、珍しいね。」

「え、何が?」半ば気が緩んだのか、彼女は思わず言葉を崩した。

伊東はイスにもたれかかるとフーと息を吐く。

「あんなにやる気出しちゃってさ。」

「伊東と違って未練タラタラだったのに。誕生会の事気にしてたのに…ねえ。」

伊東は「うるせえ」と返してフブキと二人で都市伝説の線で話を進めていくことにした。その背景にはせっかく後輩が作り上げた資料を存分に使いたいという、先輩心があったのだ。

消えた配信者の動画をもとに実験を行う。

しかし結果はただ上と下の階を行ったり来たりするだけだった。

「見方を変えるか。」と伊東。

自分の引き出しの中でスヤスヤ寝息を立てているすこん部を指で遊んでいたフブキは「え?」と声を上げた。

「もし年ノ瀬がこの動画のやり方を参考にして調査をしていたなら、俺たちみたいに何も結果を残せなかったはずだ。」

「うんうん。」

「適当なエレベーターで試して収穫が無ければ、次は他の条件を探したんじゃないか。」

「他の条件?」

「都市伝説にはよくあるだろう?時間とか方角とか、あとは特定の場所とか。」

「白上が調べた限りでは、方角の話は聞かなかったですね。調べやすい場所の特定から始めてみますか。」

その言葉に伊東は手をたたいた。

「いい線ですな。フブキ調査員。動画見直して背景からヒントを探してみますか!」

その反応にフブキは小さくうなづいた。

しかし当の動画には住所が分かる様な物はなく、場所の特定には至らない。

ふと伊東の表情を横目で見ると勝ち誇ったように笑っていた。

「あ!そうか」フブキは何かを思い出したように声を上げる。

「ゲッサーですね!今から申請します!」

「正解!やってみよう。」

ゲッサーに応援を申請すると、しばらくして回答が来た。その回答をもとに自分たちでグーグルマップを確かめ、ストリートビューで照らし合わせる。

するとV市内であることが判明した。

 式神を一度に分散して多くの情報を集めることは、さくらみこには推奨されていない。頭の容量がオーバーするからである。しかし今の彼女は少し違った。余計なことを考えると感情がまだ爆発しそうになるので、頭のブレーカーをあえて落としたのだ。それならば、ぎりぎり耐えられる。

そして大宮菊次郎を見つける事ができた。だが、隣に上司である志村がいることを見落としていた。大きく声をかけてしまったので後の祭りである。

ほぼ無断で午前休をとっていたので、怒られるのではないかと身構える。35Pは隠れる。

志村の鋭い視線からは逃れられず、声をかけた事を後悔するのもつかの間、彼の両拳で頭をガッチリ捕まれた。武人のように突き出た拳がグリグリとこめかみにドリルのように食い込んでくる。

「おはよう、みこちゃん。」行動とは裏腹に、声が明るいので怖い。

濁点の着いた叫び声を放ちつつ、反省の言葉を述べたが、むなしくもその声は軽い雲のように空へと舞っては消えて行った。何とか今までの経緯を説明して解放されると隠れていた35Pがひょっこり顔を出し、プラカードを見せてきた。

そこには「今回、イデッ!って言わなかったね。」と一言。

本気でぶん殴ってやろうかと思った。痛いのが続くと声が出なくなるんだよ。

「お前ら。年ノ瀬直美を追っているのか。」

「ハイ…二日前から連絡がつかないようです。」とみこが答えると志村は少し驚いた様子を見せた。

「大宮君、君が彼女のストーカーをしていたというのはホントかな?」

「してません!」青年は大きく否定する。

「落し物を拾った事から話すようになったんです!」

「落し物?」と志村。

「スマホです。名前が書いてあったので。それからみんなで一緒のコミュニティに入ろうって話をしていたんですよ!」

そのコミュニティとは忘却クラブの事だという。

このクラブは忘れたいことがある者、忘れられたい者たちが集うセラピーのようなものだという。基本的にはネット上でのやり取りが主であり、選ばれた人はこの近くのマンションに招待されるのだ。大宮も忘れたい人間関係があり、今回選ばれたというのだ。

「忘れたいけど、忘れられない…いろいろと試したんですが、時間ばっかりが過ぎちゃって。ならいっそ、忘れられようかと思いましてね。今でも情緒が無茶苦茶になるんです。」

話を聞いていたみこが声を上げる。

「情緒がなんだ!こっちは女、ね、寝取られたんだぞ!!」

「あれは寝取りではないでしょ。」

いつの間にか追いついたアリスがあきれながら言う。

「それで?気分は晴れた?」

突然会話に入ってきた人形のような容姿をしている女性に緊張しながらも大宮は答えた。

「いえ…なんか違うなって思って。自分と向き合っていくのが一番かなって思って。帰ってきたんです。」

志村は黙ってうなづいている。この青年は内観する時期なのかもしれない。

行方不明者たちの共通点である忘却クラブの実態が少しわかってきたような気がした。

「セラピーを受けるには条件があって、忘れられたい人、忘れたいことがある人が受けられるんです。入会条件も同じです。」

「じゃあ今のみこじゃん。」

一同がみこの方に顔を向ける。

「凛ちゃんとの思い出、消したいです。行ってきます。」

その顔は凛々しい。

突然の挙手にアリスは驚き、即座に表情が険しくなったが、志村は対照的だった。

「いいぞ。潜入捜査か。午前サボった分も働けー。無断欠勤は帳消しにしてやる。」

大宮は口を丸にし、拍手を送った。

「行き方にやり方があるので、教えますね。」

「にぇ?やり方?めんどくせえな。なんか秘密クラブみたい。」

「エレベーターのボタン、押し方に順番があるんです。」

そのやり方はみこがさっき見たフブキのまとめた資料、「異世界行きのエレベーター」と全く同じだった。

 

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