財団調査隊   作:茶漬四郎

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アリス・レリフェンベルク:キャンディデイト

 人のいない集落が途端に騒がしくなった。

財団は部隊を追加投入し、多くの特殊車両が学校へと向かっていく。道中倒れていた人たちも財団の人員だったようで、彼らのケア及び聞き取りを行う為、グラウンドに駐車された車両から様々な設備を活用して迅速に長期戦へ臨む態勢を取っている。

温かい食事も用意されており、それを求めて並ぶ職員たちはまるで配給を待っているかのようだ。

現場に到着した日原は現場責任者から話を聞き、その内容が調査局にとって芳しくないことを知る。

みこはそんな上司の気苦労をよそに、モシャモシャと水気の多いカレーをほおばりながら財団職員に連行される志村達を眺めていた。

「差し入れ何にしようかなあ。」とつぶやくと、隣に日原がカレー片手にやってきた。

ラードは臓器に沁みわたり、力がみなぎっていくのが分かる。

「もっちーよ。」

聞き慣れないあだ名にみこは思わず振り返る。

「もっちーってみこの事?」

日原は当然だろ、と言わんばかりに「さくらもちじゃゴロが悪いだろ。」と返した。

「みこちでイイんですけど…。」

「オリジナリティが欲しい。」

「若作りしないでください。」

その言葉に日原はショックを受けたが、すぐに何事もなかったように建て直した。

「まずいことになったぞ。」

「隠してたエロ本見つかっちゃいましたか?」

「え、どれ。じゃないや。死体が見つかった。」

眉間に一発銃弾を食らった女性の亡骸が発見されたという。

アノマリー関係であれば問答無用で組織は人員を守ろうとするが、無関係な民間人が関係しているとなると話が変わってくる。

みこに下された使命は、何が起こったのか、志村班の人員から聞き取りを行うことだった。

「依怙贔屓をするつもりはさらさらないが、アイツらが関わってたら何としてでも守るから。」

「にぇ?いいんですか。」

「動機が利己的じゃなければな。それに仕事はグレーゾーンなんだ。融通きかなきゃ人も集まらんよ。」

 

 命に従い準備を進めるみこはまず、「インテリぶった伊達メガネ」を装着した。35Pからは『なんかエロい」とコメントをもらったので、呆れながら「こりゃ!」と叫んだ。

志村班の面々は既に何回も聞き取りをされたらしく、会話自体はスムーズに進行すると思われたが、仕事を終えた財団職員たちが「アイツら噛みついてくる勢いだった。」と話し合っているのを聴いて心配になってしまった。

アリス・レリフェンベルクは麦畑を連想させるような金髪に、サファイアのように青く輝く瞳を持った西洋人形のような先輩である。背丈も平均より10センチほど高く、おまけに格闘も強い。それでいて国内成績上位5パーセントの4年制大学を卒業している。

機嫌が悪いのか、据わった眼がまるでガラスの破片の様にみこを切りつける。しかし、その様子も許してしまうほど、外観的な魅力が彼女にはあった。

体に悪い煙のにおいがする。

ハイライトだ。

「あ、みこち」とくわえたばこでモゴモゴと口を動かす。

「ごめん、もう一本吸わせて。」

「ヤニが切れちまったってやつ?いいねえ…言って見たい。」

みこの眼差しを尻目にアリスはライターをつけ、燃え始めた煙草の端からゆっくりと息を吸った。耳をすませばジジジ、と紙が焼ける音がする。

「みこちゃんも一本頂戴。」

フーではなく、ポッと息を吐いたアリスは「いいけど、ギャンブルには勝てないわよ。」と忠告をして、自分が吸い始めた一本を彼女に手渡した。

みこの手元にはくるりとフィルターが向けられた煙草が一本煙を炊いている。口をつけた部分には赤いインクのようなものが付いており、それが口紅だと理解した。映画のマネをして指二本で口元に運ぶ。

ぷっくりとした唇の跡はマリリン・モンローを思い出させた。理由は不明だ。

少し吸ってみる。肺は一気に煙でいっぱいになり、必然的に咳き込んだ。ほんの少し触れただけなのに、もう匂いが体に染みついている。

「うふふ。」と悪戯に笑うアリスは煙草を戻そうと手を伸ばしたが、みこは意地を張ってもう一呼吸行うも、さっきより大きく咳き込んでしまった。

「ところでみこちはなんでそっち側にいるの。」

「現場にいなかったからじゃない?」

アリスは間髪入れずに反論した。

「変じゃない。それ。みんないてみこちだけいないなんて。」

「それはそう!でも最近エリートじゃないかもって思い始めてるからなあ。」

「……」

「そんなことないよって言ってくれてもいいんだよ?」

その後二人は形式的なやり取りを交えつつ、雑談をした。お互い話すことにより、少しずつ状況を整理していく。まず分かったことは、アリスはこの集落について何も知らないということだ。いつ出来て、何があり、誰と会っていたのかが一切わからない。

まるで夢でも見ていたようだったと彼女は言う。アリスには断片的な記憶が残っており、彼女とフブキが寝ていたその教会が何かしらのヒントになる気がする、と答えた。

彼女はその様を「アラモの砦」と表現した。

「最後の防衛ラインってことかしらね。」

煙草の火がほのかに燃えた。灰が長くならないように、アリスはこまめに煙を吸う。

「確か、志村さんと一八が別行動してたわね。」

ハア、と大きなため息をつく。

「お腹空いたわ。昨日の夜以降何も食べてないもん。」

「あで、カレー食べてないの。」

「まだ準備中だったの!」イラついているのか自然と口調が激しくなる。

「昨日も食べたし…まあ好きだからいいけど。」

「え?どこで?」

「どこって…」アリスは自分で言って困惑する。今から口にすることが辻褄が合わないことだと分かっているからである。

「大通りの食堂よ。みんなで行ったの。」

みこのアホ毛がピコリと反応する。

「誰が何を頼んだか覚えてる?」

アリスは意図を理解してうなづいたが、すぐに目を点にした。

「私はカレーでしょ。フブちゃんが唐揚げ定食。志村さんがラーメンとチャーハン。伊東がとんかつ定食…。」

「ん。どうしたの。」

「色々とおかしいのよ。誰が作ったんだろう。」

そこが問題だとみこは答える。

「人がいなかったわけだし、そこまで自動でできるわけじゃないでしょ。」

クイ、と伊達メガネを右手で上げる。

「みんな記憶をなくしちゃったんじゃないの?」

思わずアリスの煙草から灰がこぼれ落ちた。

彼女は、そうなると気になることが二つある、と言った。

一つは先ほどみこの言った消えた人物の存在である。一人二人ならともかく、今回は食堂のオペレーションやその他の客も含めて集団であることは間違いない。そしてもう一つは、アリスがまだ二つ、食卓に定食が並べられていたことを思い出したことだ。

「にぇ。」とみこは声を上げる。それがなにか、と言わんばかりである。

「生姜焼き定食が二つあったのよ。」

みこが一時期、嫌と言うほど自炊していたものだ。つい最近その話を誰かにした気がする。

「ねえ、みこち。みこちも一緒にいなかった?」

 

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