財団調査隊   作:茶漬四郎

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白上フブキ

 お昼も近くなってくると集落について続々と情報が集まってくる。やはりここ一帯には人っ子一人おらず、住民に関する資料や記録が存在しない。しかしおかしなことに、つい最近まで水道光熱費の支払いは行われていた形跡があった。それどころか民家からは、昨日までの新聞、配達伝票が発見されている。一夜にして集団失踪が発生したような、そんな不可解な都市伝説にも似た出来事が起こったのではないか、と財団から説明を受ける。

さらには、郷土史も確認できなかった。記録が記されていたであろう資料集は残念なことに、噛み千切られたように紛失していた。何者かが行ったのだろうか。

この事実は日原とみこを困惑させた。誰かが何かの痕跡を消したように思えたからだ。電子媒体のデータもごっそりなくなっている。

現場の調査に赴いた調査員からの報告には、校内を探索中に蛾の幼虫の死骸を数匹発見したという。因果関係は不明である。

「まるでメアリー・セレスト号ですね。」と満腹になり、ニコニコしているフブキがみこに話した。

「フブさんアンタ何笑てんねん。アンタよーぎ者やで!?」

「容疑って…みこさん他の人と比べて怖くないんですもん。」あっけらかんと答えるフブキの回答は、みこに圧が無いとでも言いたいのだろうか。

この子ギツメめ!

癪に障ったみこはわざとトーンを一つ落として眉間にしわを寄せた。

「こちらとさっきヤニ吸ってきたところなんやで。」

「なんで煙草吸ったら高圧的になれると思ったんだよ。」

それもそうだ、と二人して吹き出した。

フブキは今までのやり取りから自分たちの状況をなんとなく察しているようだった。

「推理しましょう、みこさん。この白上と共に。」

「ノリノリだね。」

公民館の一室で額を撃たれて絶命していたのは、ミセス・カーモディと言う源氏名を持つ女性の占い師である。大の字であおむけに倒れており、不意打ちを食らったわけではなさそうだった。

凶器は9ミリ口径の銃弾であり、調査局員が使用している弾丸である。つまり全員に容疑がかかっており、フブキもその中の一人のはずだが何故かワクワクしている。

彼女はそのことを尋ねられると「だってやってませんもん。」と答えた。

「記憶にないし、あ!でもカーモディさんは覚えています。イカれた女でした。」

「どんな感じ?」

「生贄がー!とか。あのガリガリで彫の深い顔でしょ?踊り狂って怖いのなんの。」

身振り手振りで大げさに再現して見せる。

フブキの話によれば、被害者は毎年この集落へ足を運びなかなかの常連なのだったという。

観光地でもないこの場所に、避暑地とはいい難いこの土地に来るには相当な理由があるはずである。また、誰もいないのに毎年来るのも考えられないので、集落にはもともと人がいた可能性が高いはずだと二人は考えた。

そしてみこは、改めてフブキにどこにいたのかを尋ねた。

彼女は少し考えた後で答える。

「白上は…壁画見てました。」

「壁画ってあの塀にあったストリ-トアート?赤い奴だよね。」

「そうそう。」とフブキは答える。朝、みこが目にしたものと同じようだ。

「白上の見解によると、あれに描かれたものは汽車です。」

「へ?汽車?」

「ええ」とフブキは答える。

「ほんわかにですけど、覚えています。」

ただ誰がそう言った経緯で描いたのかはわからない。アリスと共にいた教会にはより詳細な内容が描かれた絵画があり、そこには汽車らしい物体に人らしいものが大量に集まっている様子が表現されていたという。

「それを見たからでしょうね。あれを汽車だと思ったのは。」

みこはフムふむと頷く。

「全然わかんね。紙に書いたのは残っていなくて、絵になったものは残ってるの。変なの。」

とまるで子供のように口に出す。

その様子を見てフブキは「そうですよね」と答えた。

しばし沈黙が流れるとフブキが口を開く。

「話を戻してミセス・カーモディの話をしましょうよ。」

みこは座りにくいイスに深く座りなおして腕を組んだ。

「一番危ないのは伊東の奴なんだよなあ。」

「どうしてです?」

「アイツの拳銃、1マガジン分撃たれてたんだよ。」

散らばった空薬莢の数が、マガジンに装填されていた弾薬の数と一致すれば、イカレタ女に向けて発砲したのは伊東じゃないということになる。しかしその薬莢が全て発見されていないのが現状だ。

みこは無意識に伊達メガネの縁をくいっと上げた。

「発射残渣の結果によるとですね。」

「ウワッみこさんすげえ。四字熟語使いこなせて頭良さそう。」

嬉しくなったみこは「えへへ」と赤ちゃんのように声を出したが、それが褒め言葉ではないとわかると目を半開きにしてフブキを睨んだ。

コホン、と咳払いをして話の流れを自分の方へと持って行こうとする。

「フブさん以外の3人から反応が出ました。」その声は丸みを帯びていた。

フブキはトントンと人差し指でこめかみをつつく。その様子は傍観者と言ったようで、余裕そのものを感じた。

「フブさん余裕だね。」

「信用してますもん。みんなの事。仮に身内の誰かの仕業だとしても理由があるはずです。」

フン、と胸を張る。まるでいいことを言ったと言わんばかりである。そして思い出したようにみこの眼をまっすぐに見つめた。

「確か発射残渣ってもう正式な捜査機関では採用されていない捜査方法じゃありませんでしたっけ。」

「にぇ。そうなの。」

「ええ、あれは硝煙反応ですから。花火やクラッカーなんかでも反応しちゃうんです。火薬全般に言えますね。」

フブキは続ける。

「つまりあの捜査結果は特定の物質が体の一部についていた証明にしかならないんです。」銃を撃ち、人を殺した、という結論へは持っていけないんですよ。」

「ホオー。なーほーねー。」

「本当に分かってんのか?」

「………うん。4人のうちの誰かが、あるいは他の人物がミセスをヤッタって線もまだあるってことだよね。」

そして財団の持ち物検査では、アリスとフブキの携行していた銃からは一発も撃たれていないことが判明している。しかし、みこの言った通り銃の所有者でない第三者が引き金を引いたということも考えられる。そうなると志村班の全員はまだ容疑者のままなのだ。

「え?白上も?」とフブキは自分の顔を指さした。

みこは「うん」と答えると彼女は降参したように肩をすくめる。

「そっかー。硝煙反応って入念に洗うと粗方落ちちゃうし…そっかー」

目のハイライトが消えた。

「白上、まだ容疑者ですね。」

「容疑者、白上フブキ。」

「コノヤロー余裕ぶっこきやがって。昔そんな映画ありましたね。」

チクショーと悔しそうな鳴き声が響いた。

 

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