財団調査隊   作:茶漬四郎

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エピローグ SCP-266-JP

 お昼にしては遅すぎる。そして夕飯にしては早すぎる時間に、日原とみこ、そして35Pは顔を合わせて幾度目かのカレーを食べていた。傍から見れば、親戚同士の食事風景である。

日原は皿をほぼ空にして、スプーンを置き、神妙な顔持ちになった。

紙ナプキンで口元を拭き、ゆっくりと口を開く。

「財団はミセス・カーモディの件について、志村班の誰一人として関与していないと断定したぞ。」

もっとも、関与していたとしても正当性を見つけるまでである。余程の自己中でなければ。

「おーう。やったねえ。」と気の抜ける声を出すみこ。

しかし、それだといったい誰がやったのか疑問が残る。

財団と調査局の別班がミセス宅を調べると、この集落と同様に食い散らかされた資料が発見された。このことから、彼女は部外者でありながらもこのアノマリーについて熟知していたと思われる。

気になるのは残された断片から人柱について複数言及されていたことだ。これは今回のキーワードではないかと日原は考える。

「つまりあの占い師は何かを呼ぶためか、治めるために生贄を探していたのかもしれないぞ。」

そう考えると、ミセス殺害の理由はもっと具体的なストーリーがあると思われた。

生贄か、あるいはその親族が彼女と何らかの争いになったのかもしれない。

「大きな何かに抗ったからこうなったのかもしれないな。そこに触れたからみんな忘れられた。」それではまるで呪いである。

「なんかゲームのバットエンドみたいですね。」カレーが少し辛かったのか、みこは犬の様に舌を出した。

「土着信仰?みたいなやつですかね。」

「もっちー難しい言葉知ってんな。」

「…馬鹿にしてます?」

まだ、不可解な点がある。

何故みこには記憶がないのかと言うことである。

日原は、伊東からみんなで撮った写真の話をしていた。

みこはこの集落の出身ではない。にもかかわらず、記憶の空白があり、マンダリンにて目を覚ましたのは何故か。

志村の言ったことを思い出し、恐ろしい考えが頭をよぎる。

親しい人か、班員でなければ志村のバックアップガンがどこに納められているのかわからない。

皿の端に寄せてある福神漬けを見て、すいちゃんはこれも食べないのかな、などと気を紛らわせようとした。

「あんま深く考えるなよ。」

そんな彼女を見て日原は言った。

「誰も知らない、過ぎ去った事さ。」

それから気分を変えようと、新しい話題を持ち出す。

「そういう時は欲望のままに妄想しろ。もっちーお前のタイプはなんだ。俺はティックでヤラレ眼の人妻だ。」

何を言っているんだ、と思い、想像したら気持ちが悪くなってきた。

「知りたくなかったよ…ピクミンになって食われた方がましだよ…。」とは言いつつも頭の中は妄想が膨らむ。

金髪、女の子、かわいい、はっちゃける、はあちゃま…。

今度チューしないとな。みこ、はあちゃまの事考えると服がはじけ飛んでしまうよ。

カレーの最後の一口を食べた日原は、一枚のメモ用紙を取り出した。それを見る目は複雑そうである。

「俺はな、このアノマリーの中心にお前がいたんじゃないかと踏んでるんだ。」

「やめて下さいよ。そこまでみこエリートじゃないんで…。」

調子のいい奴め、と日原は小さく笑う。

彼は手に持ったメモ用紙をみこに見せた。そこには日原の筆跡で殴り書いたような文章が書かれていた。

それを目にしたみこは、まるで悪事が母親にバレた時のように息が詰まり、体が硬直する。

「書いた覚えは?」と何とか口を動かせたみこ。

日原は「ない。」と答える。今日の朝は財団で迎えたそうだ。

そこには一文、「作戦は失敗した。あとはさくらみこに託す。健闘を祈る。」と書かれていた。

 

 後の追加調査によると教会と住宅の塀に描かれた絵の塗料は未知の性質であることが判明した。有機的であり、何かの体液であることは間違いない。

そして教会の絵には、猫のような二頭身の生物らしき存在を引き連れた長髪の女性が汽車のような物体に乗っているのが確認された。他の乗客たちは明らかに笑顔なのに対し、彼らだけ、その表情が分からないように描かれていた。

 

 みこは夜になったマンデリンに1人残っていた。ツンツンと35Pの頬をつついてその暖かさと毛の柔らかさに心が少し軽くなった。

数日が経っても、自分だけが何も覚えていないのが不安なのである。

何か大切な思い出だったような気がするし、一心不乱に動いていたような気もする。

ゲーミングチェアとは違うがお尻に優しい椅子に身を委ね、机に座っている35pを見つめた。

「忘れないでね…!」

その一言が耳元で囁かれたような気がしてハッと顔を上げる。

視線の先にはフブキに付き添われた伊東が白い顔をして立っていた。

「泡盛飲んじまったよ。」

そう呟いて彼はトイレに駆け込んだ。しばらくして戻ってきた時にはすっきりとしていたのが、何をしていたのか想像するに容易い。

内臓が激しく躍動しているのを抑え、ドカッとみことフブキの近くに腰を下ろした。

「大丈夫か?みこち。」

「今のオメーよりは多少マシだよ。」

「伊東ロックでグイグイ行くから。」

伊東は「カッカッカ」と笑う。そしてなぜみこがまだ残っているのか尋ねた。

「みこ、ずっとモヤモヤしてるんだよね。」

「お前でもモヤモヤするんだな。」

「失礼な!」

それから酒臭い息を流してお構いなしに口を開く。

「時間こそが心の傷の妙薬って知ってる?」

「時が全てを解決するってこと?」

フブキも興味深そうに話を聞いてくる。

「そうだな。ただ時間が過ぎればいいってもんじゃない。そんなんだったらニートはみんな人生を逆転できるんだもんな。ガムシャラに動いて、根性見せて、全力尽くせばいつの間にか傷は癒えてる。」

そう言って彼は2人を視界に映した。

「だから2人はよくやったよ。みんなも言ってる。そしてこれからもだ。」

過ぎたことは大事にしまっておきなさい、ということだった。

「明日からまたお仕事ですもんね!しかも新しい月です!」

フブキの無邪気な声に伊東はつられて言葉を返した。

「そうだな。また明日、かな。」

それは懐かしい言葉のように、みこには感じられた。

「よっしゃ!みこちゃんも頑張らねば!」パチン、と頬を叩き、35Pと共に帰宅するためにドアへと向かう。

振り返ったその表情は少し元気になったようだ。

「…また明日!」

 




おまけ
実はこの話、去年既にできていたものを三回くらい描き直してます。
8月の終わりに出来上がったんですが、急遽最後の下りを追加しました。きっと何かの縁だったんでしょうね。

今回はバッドエンドを選択してしまったその後のルートになります。しかし、ご主人様方のことですから、どんな状況でもきっとグッドエンドに辿り着けた事だと思います。その証拠に、最後のポストの内容、覚えているでしょう?


グッドエンド:「また…いつか!」
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