財団調査隊   作:茶漬四郎

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こちらは1番最初に投稿した「子供の時間」に加筆、修正を加えたものです。
pixivでも少し早めに投稿してます。


さくらみこは出られない
さくらみこは出られない


 

 さくらみこと白上フブキの二人が上司である加山係長に呼び出されたのは、新年度を迎えて間もない昼下がりだった。みこはちょうど18.6歳を迎えたばかりであり、財団V市支部に在籍して6年以上が経過している。その為キャリアアップの観点からしても、上位職からは何かと目をつけられやすいのだった。

 加山と言う人物は流行り病対策の為、顔半分を隠すほどの大きなマスクをつけ、唯一見える眼からは温厚そうな人柄がうかがえる。しかしその実、積極性、主体性、共にない自責の念が欠けた管理職になれない中年だということが、ここ数週間で判明した。

現在の彼の仕事は、上層部の意見を右から左に伝える事、そして新人の育成に徹することである。

「人が足りなくてね。みんな辞めちゃったから。」ボソリと冗談交じりに加山は言うが、フブキは決して笑えなかった。係長から伝えられたのは、二人のために一つ事件の情報を集めてこないかと言う提案だった。

与えられた課題は「V市女児行方不明事件」であった。これはみことフブキにとって他人事ではない出来事だったので、内心使命感に燃えたのは内緒である。

加山は一通り要望を伝え、安全第一であることを念押しし、少しでも家族、財団の助けになるように、そして自身の勉学のために最善を尽くしてほしいと短く訓示を行って彼女らを送り出した。

 そこからが前途多難の始まりであったことはこの時の二人には容易に想像できた。数少ない有益な情報を多方面から集め、彼女は深夜に完成間近に閉鎖されたH公園へと来ていた。

近所に住む大学生から昼夜問わず女児の声がするという証言を得たのである。また、そこの大家からはその件で近場の地価が下がったという本当かウソかわからない話も得る事ができた。

探している女児がここにいるとは限らないが、得る物がある可能性があればそこに踏み込んでいかない理由はないのだ。

二人は公園へ突入することを決意する。

周囲は木々が生い茂り、街灯が寂しく点滅しているだけである。フブキは今まで集めた情報をスマホに移し何度も見直す。それは今日一日の成果であり、段取りの悪さが一目見てよくわかる内容だった。

まだみこには共有しきれていないが、それは後でもいいだろう。

「そもそも朝一から悪い予感はしてたんですよね。」とフブキがスマホをしまってみこに話しかける。

「フブさんも朝の占い観たの?」

「違いますよ。」と彼女は笑って答える。

「朝一に係長から最近本読んでる?って聞かれたんです。」

上司からそのような話題をかけられたら、後々面倒なことが待っているのだ。

「フブさんなんて答えたのさ」

「答えるわけないじゃないですか。」

彼女はさも当たり前のように返すとその速さにみこは吹き出してしまった。

「きらってんにぇ」

「みこさん何か読みました?昇格試験の時結構言われてましたけど。」

「ホームレス中学生」

「…いつの時代の小学生ですか。」

筆記試験の結果が悪すぎたので、小学生からやり直して来いという上司の言葉に従ったのだそうだ。

今回の仕事は自身にとって成長する機会なのだとみこは自分に言い聞かせた。

「行くよ!フブさん!!」とみこの珍しく気合の入った声に、彼女は少し驚いて「おう!」と答えた。そして二人とその後ろにチョコチョコ歩く2頭身の35Pは鉄製の重厚はフェンスの前に立った。

隙間を見つけ、そこをこじり開け、何とか園内へと侵入する。そのフェンスはみこ一人では動かすことのできないほど重みがあった。

三人で協力して何とか押しのけるとフェンスはグワングワンと音を立て、まるでみこ達を出さまいと、いたずらに笑っているように思えた。

 数時間後、公園を出て来れたのはみこただ一人だけだった。

両ひざの擦り傷は転んだのか深く、痛々しい。まだ夜更けには時間があったが、支部はすぐに彼女を保護した。しかしその対応に少し違和感を覚える。

鼻をすすりながら、彼女はスマホケースに挟んであった一枚の名刺を取り出した。

そこには「後方支援所」と書かれた組織名があり、助けを求めるようにその住所までおぼつか無い足取りで向かっていった。

 

 財団とは遠からずも関わりのあるこの組織は、団内で混乱を避けるように「調査局」とあだ名されている。その事務所は栄えている都市の中心部に拠点を構えているが、騒音とは縁のない裏道にあった。

局員たちからは「マンダリン」と呼ばれ、令和では珍しい保守的で堅固な造りとなっている。名刺の持ち主である同校の伊東はここに所属しているのだ。心細さを紛らわせるように事前に連絡を入れる。

電話に出てくれたのは旧友であるアリスだった。こんな時間にもかかわらず対応してくれたことに驚いたが、知った顔が二つもあることにこの上ない安心感が生まれた。

重たい扉を開けるとその先にいたのは心配そうに眉を細めるアリスと、もう一人、ガタイのいい中性的な顔立ちをした男性だった。伊東ではない。

アイツは眼鏡をかけた、ムッツリしたオタク顔なのだ。早々簡単に人相は変わらないはずである。それはエリートの常識なのだ。

「みこち!」

みこを見るなりアリスは駆け寄る。

「心配してたの。大丈夫?」

その言葉に久しぶりに温かみを感じた。余裕が出てきたのか、グズグズと鼻をすすりながらも小さな声で「伊東のやろーは?」と大きな態度で尋ねた。

その言葉に「嗚呼、やっぱりみこちだな。」と内心安心したアリスは「今、出払っててね。アイツ夜通し調べものしてる。すぐ帰ってくるよ。」と告げる。

涙と鼻水をぬぐうように、グリグリとアリスの胸に顔をうずめた。

「…堅い…」

「何か言った?」

「いや…もっと仲良くなれそうだなって」

その様子を見ていた中性的な男性は、紺色の制服に三つ星のワッペンをつけている。

下級幹部の証である。名を志村と言い、その歩調はゆっくりながらも堂々としていた。

「みこさん、何があったか話してくれる?」

彼の顔には見覚えがある。

痛む両膝を気遣いながらソファに腰かけ、みこは先ほどまで自分が体験したことを話し始めた。

結論から述べると、「フブさんと35Pがあの公園で姿を消しました。」と言う内容だった。

35Pの消失については、彼女は現場を目撃していないので詳細を語る事ができない。しかし白上フブキに関しては、消えた直前まで一緒にいたのだという。

H公園の内部は緑が多く、設備が充実しているように見えた。当初二人はなぜここが封鎖されていたのか分からなかったという。

「ただ、変な感じはしたかな。」

誰もいないはずなのに、人の目線を感じたという。

「どういう風に?」とアリス。

「んーとね」みこの瞳にはエメラルド色の輝きが戻ってきた。

「不気味」

「それじゃあただの感想文じゃないか。」志村が突っ込んだ。

「人の形っぽい形をした木とかがありましてね。」それは明かりが乏しく良く見る事ができなかった。

調査を始めてしばらく経った頃、女の子の笑い声が風と共に聞こえてきた。その時、「あ!」とフブキは声を上げた。

みこが振り返ったとき、相棒である白狐の姿は既にそこにはいなかった。階段を下りようとしてバランスを崩したのだろうか。しかし周囲には身を隠せる場所は無い。

「フブちゃんの気配が消えたってこと?」

みこは「うん」と答えてカップ麺をズルズルとすすっていた。塩味が体に染み込んでいくのが分かる。そしておにぎりを二つ、机の上から鷲掴みモグモグと頬張る。

その様子を見た志村は食い意地の良さに思わず笑ってしまった。

「で、みこちはどうやって戻ってこれたの。」

ヴッと喉を詰まらせ、目がチラチラと左右に動いたのを調査局の二人は見逃さなかった。

「…覚えてません。急に一人になって、怖くなって気が付いたら外にいました…」

「…逃げちゃった?」

明言してはいけないことだが、確認しておかなければならない事項だった。責任を感じ、憔悴しきっているのは他でもない当事者なのだから。

やはり曇天の様にみこの表情が暗くなる。米をかむ口の動きが鈍くなり、急な渇きに喉を通らなくなったのだろう。ゴクリとまだ熱を持ったスープで流し込む。

思わず喉を火傷した。

反論もなく、ただ黙っているのは余程八方塞がりな状況なのだろう。彼女の事をよく知るアリスはパニックにならないのが不思議なくらいだと感じた。

相棒二人を失い、恐怖に身を支配されていたのだから。

濡れたトイプードルのように小さくなったみこは、心底後悔しているように見えた。

「みこちゃん。」と志村が優しく声をかける。

「公園の写真とか撮ってない?」

その言葉にみこは小さくうなづき、一枚だけスマホに収めた写真を二人に見せた。それは茶色のとぐろを巻いたような滑り台が一つくっきりと映っている。

「え、なにこれ。」とアリス。

「何ってウン…巻貝のオブジェ。」

「お前!相棒の命なんだと思ってるんだ!!」

「ヴッ」

「こんなん撮るために命かけたんか!」

「だってえ…」とそれから彼女は如何にフブキと二人で興奮しながらその遊具をカメラに収めたのかを語りだした。

 




ライブがんばれー!みこち!
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