財団調査隊   作:茶漬四郎

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みこと小さなバレリーナ

 この数時間の間に、みこは「V市女児行方不明事件」に関して如何に自分の所属している本部が情報を収集していなかったのかを失望と共に理解した。それは単に調査の優先順位が低かったからか、それとも単に彼らの怠惰によるものなのか、今の彼女は予想するしかなかったのである。

当初の通りみことフブキだけだったら、果たしてここまでたどり着けただろうか。相棒たちへの心配の方が投げやりな上司への怒りよりも勝ってくる。やる気が沸々とわいてきた彼女に対して伊東はあくまで冷静に諭すように声をかける。

「残念だがまだ三咲ちゃんとH公園の関連性は不透明なままだぞ。」

不思議そうに首をかしげて彼を見つめる。

「あくまで彼女の父親がやっていた事業がH公園と関連があって、しかもその内容が法令違反をバスバスやっていたってだけだからな。」

「あ、そっか」と彼女は気づいたように声を出した。

「ただ仕事でのいざこざがあって口封じに巻き込まれたって可能性もあるけどな。」

それは最悪なパターンであった。そうではならないように、とみこは心の底から願う。

まずは消えた相棒たちの行方を探すことの方が現状優先するべきだと、彼は優しく伝えた。しかしその口調は少し厳しさを感じられるものだったのを、みこにも理解ができた。

空気を換えようと伊東は「三咲ちゃんってどんな子?」とみこに聞いてみた。

「天真爛漫な子」

「みこちと同じか。」

「よくバレリーナごっこしてたよ。習い事で唯一興味があるんだって。」

 二人は入手した情報を志村達に伝えるためにケータイをスピーカーモードにした。近くにみこがいるとわかるとアリスは「やっほー!みこち!」と元気な声を響かせて来る。

「にゃっはろお」と答える彼女の横で「俺もいるけど…」と言う伊東の言葉はスルーされた。一通りこちらの話を終えると、アリスは管理人を帰すために席を外したが、最後まで彼はアリスの中でいないものとされたことに少し凹んでいるのがみこにとって笑いの種となった。

そんな孤独な伊東の心境は「こっちは公園関係で面白い物を見つけたぞ。」と仕切りなおした志村のおかげで緩和された。

カシャカシャと音を立てて何かを持ち出す。それは公園の設計図らしきものだった。

「これ、透かしがあってな。」

「すかし?」とみこ。

「光にかざすとな、設備と設備が重なっている部分が幾つもあるんだ。」

「訂正忘れとかですかね。」と伊東。

「どうかな、これ見る限りだと結構充実した設備があったんだな。しかし、あの敷地に全部まとめられたのかね。」

それは素人の志村が見てもわかるほどの出来であるらしい。

「綺麗に全部納めると丁度こんな感じになるってことか。しかしあれだねえ、ずいぶん無理難題に挑戦したようだね。ココの社長さん。」

「みこちどうだった?」と伊東は公園についてみこに尋ねたが、その問いに彼女はポカンと栗のような口をしただけだった。

「暗くてよく覚えていません」としばらく考えてから声を鼻から出した。

「鼻詰まってんのか?」

「ちげーよ!そんなんだからアリスにスルーされんだよ!!」

「あんまり強い言葉を使うなよ、泣くぞ。」眼鏡越しのその目は本気だった。

会話を無視してみこはズイッと前かがみになり志村へ自分の考えを伝える。

「家族みんな公園に隠れているってことありませんかね?そんなに設備が揃っているならきっと雨風も防げるだろうし、電気だって困らないと思います!」

「いい考えだな。」と志村は一言。しかしその意見には嫌疑的だった。

彼は細かい要素には触れずにただ一言だけ返す。

「これは勘で申し訳ないのだが、この件は三咲ちゃんも含めてハッピーエンドでは終わらないと思うんだ。」

志村の勘は良くあたる。その事を伊東はよくわかっていた。そして彼自身も、この結末には希望を持てずにいる。

ようやくアリスが戻ってきた。その手には書類を抱えている。彼女は安全報告書なる物を見つけたと言い、その所見にあたる箇所が興味深いと全員に報告した。

「これ全部に目を通したのか。」

あまりの書類の多さとそれを読み終える彼女の有能さに志村は舌を巻く。何故だかみこまでも巻舌になってまねる始末だ。

「ざっと読んでみたけど、社長さんも頭を悩ませていたみたいね。余程カツカツだった見たい。」

その内容は安全事項やその日の作業内容など、主観を交えて記されていた。日付が新しくなるにつれ、クライアントである市への不満が散見される。市からは市民の憩いの場、そして新たな居住者へのアピールとして活用したかったようであり、その分期待も要望も大きいものだったという。

設計図を見ていた志村はその苦悩を容易に想像できた。行政相手に強く出ていけなかったのだろうか。その無理が何かを引き寄せたのではなかろうか。

無理難題を無事に解決すれば、業界内でも名が通り、自身の地位も確立するかもしれないという考えがあったのかもしれない。そして新年度を迎え、奥さんのがんばりを見た彼は、自分も限界に挑戦しようと躍起なっていた、と考えると夫婦として理想的な切磋琢磨する関係のように映った。

 一時、所見が明るい内容になる時期があった。

みこは「にぇ」と思わず間に挟まる。

丁度新しい業者がヘルプに入ったというのだ。「タダ」でやってくれるという魔性の言葉に、「すべての要望が丸く収まった」という成果への信頼がつづられている。しかしそれも一時的な内容ですぐに次の所見では、事故多発への嘆きと怒りが続いた。作業従事者の死亡が確認されてからは、社会人として、そして経営者としての殻を失ったかのように罵詈雑言が書かれている。

その内容に「これは異常ですよ。」とアリス。

残念ながら、業者の詳細については書かれていなかった。その部分は全て不自然に修正されているように見える。

アリスの報告が終わると、みこは一人娘の三咲について書かれていなかったことに納得がいかない態度をとった。しかしすぐに「会社の所見だからしょうがないか」と静かに納得した。

その表情はやはり寂しそうに伊東には見えた。

「では自分たちはこれからH公園へ向かってみようと思います。」

伊東の発言に志村は難色を示したようである。明らかに危険がある事、そして何があるか不明であるからだ。しかし同時にこのままでは何も進展がないのも事実であり、消えたフブキと35Pの安否も早急に対応しなければならない。

危険を避けては助けられるものも助けられないのだ。

「自分が必ず連れて帰りますので、現地調査の続行を承認して下さい。」伊東がつづけた言葉は懇願に近いものだと上司である彼には聞き取れた。

みこも覚悟ができているようであり、電話越しではフニャフニャとしている空気が伝わってきたが、真剣な様子であるのは不思議と分かる。

「みこも今回は逃げださないです。三咲ちゃんと、フブさんと35Pを見つけ出します。一緒に連れて行ってください。」

「みこちゃんに言われちゃあしょうがないな。いいよ。」

「あ、ありがとございます!」

「あれ?志村さん、俺は?」

志村は「お前は…」と言って一度言葉を区切った。

「みんなを連れて帰ってこい。肉壁になるようにな。」

「みんなに何かあったらころさんにアンタのいろんな噂、話しちゃうから。」とアリスがそう言うと電話が切れた。

静かになった街道に、二人の姿だけが影を映す。しんみりした空気の中、伊東が口を開いた。

「俺のうわさなんてみんなもう知ってるだろ…。それより俺の扱いひどくない?」

「ま、信頼されているってことで」

「お、みこちも信頼してくれているのか。やっぱ35Pになっていてよかった。」

「こんな時だけ35Pを名乗るな!」

そう答えた後、ハハッとみこは声を出して笑る。

「まあ、そうじゃなくてもみこの上司よりは信用してるかな。」

「信頼のベクトルが低すぎてわかんねーよ。」

 

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