財団調査隊   作:茶漬四郎

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さくらみこの決断

 みこはアリスと一緒に夜の観光地を歩いていた。今の行き先はミセス・カーモディが勤めている占い館である。彼女は歩きながらアリスに今日一日で集めた情報をシェアし、死神のサイクルについて自慢げに話す。その様子はまるで子供が年上に聞きかじった知識を披露するようであった。

「なるほどねー。っていうか話を聞きに行くなら自分のOJTと行きなさいよ。」

「みこだってこう見えて人は見てるんだお」

アリスの顔を覗き込むようにぐっと体を曲げて答える。その瞳は何故か小さくなっており、彼女の本気を強調しているようだった。

「ちゃんと考えているんだお!」

アリスはわかった。これはみこなりの甘えた態度なのだ。

「で?何かわかったの?」

「やっぱりあの占いのおばちゃんが言ってた夢の順番どおりに巻き込まれた人たちが死んでいくってのが鍵だと思うんだよね。」

エリートの勘がそうささやくのだと言う。

「その辺里さんも順番に入っているかもしれないってことね。」

夜風はぬるく、磯の香りが漂ってくる。

「どうあがいても、行きつく先は同じってことね。」

どんなに抗おうとも運命は変わらないということだろう。

「フブさんなんてワクワクしちゃっててさ。なんかレポート書いてる。でも資料英語だからすっごい苦戦してる」

言葉にならない悲鳴を上げる白狐の様子が頭に浮かんだ。

「辺里さんは?どう?どんな人?」

みこは少し考えた。

「奥さんが言うには事故があった日から少し変わったみたいだって。今まで一緒に参加していた家族行事にも参加しなくなったし、習慣も変わっちゃったって」

「具体的には?」

「酒癖が悪くなったり、後は子供の名前を間違てたんだって」

アリスはフム、と考えてシンプルな答えを提示した。

「不倫?」

「あ!」と声を出すみこ。彼女の中で何かが繋がったようだ。

「不倫相手が奥さんのストーカーしてるってこと?」

むずむずとする感情にみこは引くような顔をする。もしそうなら母子が危ない。

「他には?」とアリス。

「浮気野郎、今まで使っていた3階の書斎使わなくなったんだって」

それから「もし」と強調して一息おく。

「不倫だったらその証拠を肌身離さず持ってるってこと?」

デジタルが発達したこの社会ではそれも考えうることである。

しかし彼女はまだ何か考えている様子で不思議そうに続けた。

「奥さんが言うにはガレージの建築は旦那さんがやってたって言ってたけど、当の本人は記憶がないような感じがしたんだって。」

「どういうこと?」

「…フブさんから聞いた話だけど…センサーの設置に関して他人事だったんだって」

「当事者に記憶障害が発生してるってことかしらね。」

みこの証言を聞いたアリスはピクリと眉を動かした。段々とノッて来たらしい。それを見抜いた彼女はオズオズと提案してきた。

「一緒に調べない?」

アリスは「んー」と考える。一個人が組織の枠を超えて協力するというのは規律に反する。だが、そんなことを考えているようでは、ビジネスチャンスは永遠につかめないのだ。

 ミセス・カーモディのいる占い館は、商店街の中央にあるジュエリー店の二階に位置している。一階は既に営業時間が過ぎていたが、店内をまっすぐ通り抜けて階段を上ることが出来、その先に暖かい照明がまだついていた。

会計にいる女性からは閉店時間だと言われたが、身分証を取り出して無理を言って目的の人物に会わせてもらえる様に頼み込んだ。

待合スペースにある柔らかいソファーは座る人たちをリラックスされる。

しばらくして二人は彼女のいる占いスペースに案内された。そこは敷居で四隅を囲まれており、個室の代わりとなっているようだ。丁度カップルが一組入れるだけの空間が占い師と対になるように設けられている。

座っていたカーモディは片付けを辞めて彼女らを座らせる。みこは閉店が過ぎてやってきたことを謝り、事故の生還者が見た夢について再度尋ねた。

始めて彼女と会った時、興奮気味に何かを訴えている印象を受けたみこだったが、今やその熱意もないように見えた。

彼女はタロットカードをシャッフルしながら、少し興味がなさそうに声を上げる。

「もうそのサイクルは終わりました。」

「え、どういうことですか」

「最後の一人はすでに亡くなっていました。ニュースにもならない、運よく新聞の端っこに掲載されていたのです。」

みこはアリスと顔を見合わせる。

「じゃあ、もう終わり?」

「ええ、そうですわ。」

「見逃した人がいるとか…」

「ありえません。死神は既にその役目を終えたのです。」

淡々と話すカーモディはシャッシャッとカードを切り、みこの前に並べ始めた。

「何かの縁ですから、簡単に見させてもらいました。」

それから「ほう」と少し考え込んだ。

「今岐路に立っていますね。ピンクの方。」

「ピンクってみこですか?」

「はい。」

おかしいな、とみこ。名前言ったはずなんだけど。

「岐路、ですか?」と細かく突っ込まずに話を続ける。

「大きく悩んでいるのでしょう?」

カーモディはマジマジとカードを見る。カードの並びから状況に合う解説を読み解こうとしているのだ。

「残念ながら、その悩みはもう少し続くでしょう。ただし良いこともあります。」

いいこと、と聞いてみこは顔を上げた。

「チャンスは広がっています。もしかしたら目の前にあるのかもしれません。ただ、自分から動くことです。お皿を持っているだけでは、甘いお菓子は降ってこないのです。ほどこしが欲しければ自分から動くのです。」

結局は自分で動けという結果にみこは肩を落とした。

そんなことはわかっている。だからどんな些細なことも食らいついているんじゃないか。

しかし占い師の伝えた、目の前にチャンスがあるかもしれないという言葉に、彼女は心当たりがあった。

 帰り道、みこは「ごめんね」とアリスに謝った。その声は消えそうなほど小さく、まるでプードルの鳴き声のようだ。

アリスはそれに対して「気にしないで。」と優しく答える。

「試さなければ、合ってるかなんてわからないじゃない。」

「そうだけどさー」

「私たちが追ってるものって常識から外れたものなの。いろんな角度から物事見なきゃ。だからみこちの行動は間違ってないのよ。」

それから空を見上げて「それに筋はあってたんじゃない?」と付け加えた。

可能性が一つ消えただけなのだ。

歩いていた二人だが、みこがその足を止めた。

「アリス…こんな時に言うのもなんだけど、みこのお願い聞いてくれますか」

「なんだい。聞くだけ聞いてやる。」

アリスは意地悪をするように言い放ったが、みこには効いていないように見える。つまり真面目な話だということだ。

「みこ達の推薦書、書いてくれませんか」

キョトンとするアリス。下を向いていたみこは、アリスの表情を見ずに頭を下げた。両手を膝の前に置き、お辞儀をしているようである。

「達って、みこちとフブキングの?」

「お願いします。みこ試したいんです」

それは後方支援所、別名「調査局、マンダリン」へ入局希望を出していることだった。

「ウチ、厳しいよ?」

「が、がんばりましゅ」

「射撃もするし、体も鍛えるよ?」

「くらいついていきます」

「推薦書もらったからって受かるわけじゃないよ?」

「面接対策ちゃんとします」

「フブキングには言った?」

「明日言います」

「フブキングを雇うメリットは?」

「お味噌汁みたいな子が付いてきます。」

「みこちを雇うメリットは?」

「35Pと一緒に困っている人たちを助けられます。」

一通り意地悪をしたアリスは満足そうに息を吐いた。

「学科試験も足切りあるからね」

ヴッと野太い声を出すも、みこは顔を上げて「勉強します」と答えた。

その表情がおかしくてアリスはクスクス笑うと、何かが吹っ切れたような気分になった。

「伊東も参加させるけど、いい?」

「へ?」

「合同調査よ」

締め付けられていた心臓が途端に軽くなる。

途端にみこは「いいよ。あいつも役に立つし」と子犬のように「ヘッヘ」と鳴くようにつぶやいた。

彼女の中ではすでにヒエラルキーが出来上がっていたようだ。

アリスは明日の朝一に上長の許可を得るために、何が必要なのかを考えだす。一通りの言い分を作り出した彼女は、改めてみこに向き直る。

「みこち、じゃあまた明日。この件は一緒に調べるよ。」

アリスの言葉にみこは雲が晴れて太陽が現れたように表情が緩んだ。

「うん!ありがとう!また明日!」

なんとなくだが、その光景は彼女たちが同じ学び舎で過ごした日々を思い起こさせた。

 

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