みことフブキの志村班への編入の件は円滑に進んでいる。人事や幹部へのアピールが功を奏したのであろう。これはアリスの大きな手柄だ。
休憩時間になり、志村と伊東は「マンダリン」のバルコニーにてタバコを吹かしていた。
「インシデントの件聞きました?」
最初の灰が落ちないうちに伊東が口を開く。志村は「聞いた。聞いた。」と力なく答えた。頭の中は別件でいっぱいなのであろう。シフトチェンジするのにラグが発生した。
その様子を見つつ、伊東は自分も感情を殺して続ける。
「あの子はもう助かりませんね。自分からみこちに伝えます。」
後輩の言葉にウン、とうなづく。
「あの子にとってはこれでよかったのかもね。」
思いもよらない返答に伊東は煙を吸い切らずに聞き返した。
「え、何でです?」
「時間を気にせず、ずっと遊んでいられるじゃないか。」
ため息の代わりに鼻から大きく煙を出す。
時が進むことに抵抗しようとした結果、心の弱さにつけ込まれたのだ。志村はそう考えた。
伊東はそれに「そうでしょうか。」と意を唱えた。
「ストレージルームで見つけた自撮り棒、あれみこちのでした。」
公園で私物をばら撒いたことを思い出す。いくつかはまだ見つかっていない。
「A子ちゃん、進学したらスマホを買ってもらえる予定だったみたいです。みこフブコンビとゲームするつもりだったんでしょう。離れていても繋がっていられるように。」
そういえば、みこが見せてきたA子の写真はフブキとのスリーショットだった。あの2人なら写真の送り合いを約束したのは容易に想像できる。
立場が変わっても、関係が変わらないように優しく話したのではないか。それが容易でないことは人間誰でも理解できるが、優しい2人なら何十年も関係を形を変えて続けていけたのかもしれない。
残念だが、件の子は選択を間違えた。
窓からちらりと室内を覗くと、事務所は35Pとすこん部に埋め尽くされていた。怠そうに助けを求めるみこの声が聞こえてくる。子供が好きで、子供に好かれる2人だ。その人間性は昔からわかっている。
「怖くても進むべきだったんだろうなあ。」
そう呟くと、志村は吸い終えていないタバコの火を消して室内へと入っていった。
配布された資料によると発見された焼酎は銘柄、製造元ともに不明であり、人の成分が含まれていることが判明した。該当人物は複数いると予想され、内容の詳細は目下調査中である。また、施工に関して特定工務店の関与が認められた。調査局は今後の非常事態に備え、本部との連携が取れるように方針が定められた。
次も考え中