極東管区第22次沼津沖迎撃戦   作:シコウ

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没作保管庫

 旧静岡県沼津市、伊豆半島の付け根に位置するかつての高速道路上、ダースをダース、グロス単位で105mmの砲列を敷くのはかつての国連軍(U.N.E.D.F)制式採用の軽戦車、大菱重工でも大量にライセンス生産された戦車は山を背に海を睨む。

 

 青空と水平線の先では遠雷が鳴り、戦車の砲身には海鳥が羽を休めていた。

 

 「来た。」

 

 指揮用装輪装甲車の上に立ち、懐中時計片手に双眼鏡を覗くのは、電子の神こと『RTDシステム 倉来 怜』。大菱バイオミメティクス・テクニカ製第7世代義体に日本陸軍の戦闘服、白で『UN』と書かれたヘルメットを被る彼女は待っていた。

 

 カチリ、と時計の表示が『到達予想時刻』に変わった瞬間、戦車の砲身や砲塔で羽を休めていた鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

 水平線から現れたのは、日本海軍の無人フリゲート2隻、ちくま型のちくま142(AFM-1000142)とね144(AFM-1006144)。雷鳴に聞こえたのは速射砲の発砲音だった。

 後部砲塔がリズミカルに海面を叩きつける灰色の2隻は、まるで何かから逃げるかのように最大速力で海面を走る。

 

 その後方の海面が突如盛り上がり、2条の光線がフリゲートを貫く。

 電磁装甲と対レーザーコーティングは電光を放ち数秒間耐えるものの、限界を迎えた船体が抉れるように溶解、2隻は爆沈した。

 

 GAAAAA——

 

 海面を割ってフリゲートの残骸をヒレで叩き壊したのは、巨大な鯨のような生物だった。

 

 人類を地球上から追い出し、人類に替わって地球の生態系の頂点に君臨した王者。体長千メートルを優に超える、鯨のような流線型の滑らかな身体にそれぞれ二対の目が埋まる三本の首、そして四枚の胸鰭と二枚の背鰭をあらわにしたのは侵略生物の王、超大型種『リーブラ・リヴァイアサン・コハブメレフ』。

 その瞳は怒りに染り赤く、島ほどの巨体を40knで泳がせていた。

 

 地球上では考えらない巨大生物、その巨体を維持するためのエネルギー源と地球への飛来手段、その答えは尾から噴き出される炎にあった。自力での恒星間航行を可能にし、莫大なエネルギーを生み出す生体核融合炉がコハブメレフを支えていた。

 フリゲートを撃沈したレーザー光線もまた本来、宇宙空間を泳ぐコハブメレフが障害物や餌を切り分けるために、感覚器官から照射する道具に過ぎなかった。

 

 「——3、2、1、今!」

 

 RTDシステムは無線機に怒鳴ると、ハッチから車内へ滑り込む。ハッチのロックが掛かった瞬間、

 

 ——ドッ

 

 泳ぐ島のような巨体をさらに大きな火柱とキノコ雲が包んだ。コハブメレフをフリゲートが誘導した先で、仕掛けられた核機雷が炸裂、戦術級核兵器の炎が王の身を焼いた。

 

 「撃てー!」

 

 押し寄せる衝撃波と津波の飛沫に揺れる車内で彼女は隷下の戦車隊に命令を下す。さらに追い討ちをかけるように105mm砲弾の雨が黒い爆煙の雲に殺到、鉄の豪雨が降りそそぐ。

 核の超高温で表皮を焼却してから砲爆撃を加え、駆除する戦術は幾度となくくり返された対大型種用の戦術だった。

 

 「やめ。どうだ、死んだか?」

 

 しかし、薄まった煙の中で輝くのは六対十二の瞳と白い雷光。核爆発と戦車砲弾は、大気圏突入に耐える外皮と宇宙放射線をねじ曲げる生体電磁装甲に防がれ、コハブメレフの怒りの火に油を注ぐだけに終わった。

 

 「チッ、やはり核爆発でも電磁シールドは健在か。」

 

 コハブメレフは、自身を傷つけた小癪な『害虫』を陸上に認めた。生体核融合炉からのエネルギーが三本のうち一番太い首の陽電子生成器官に送られ、顎が上下左右四つに開かれ凶悪な牙があらわになる。そして口腔内保護用の磁場が牙に形成され、

 

 ——ギラリ

 

 レーザーよりも強力な、本来小惑星破壊用の陽電子ビームが放射線を撒き散らしながら進路上の大気を消滅させ、着弾。対レーザーコーティングの施された戦車たちは、展開していた高架と背後の山肌ごと蒸発、巨大な火球が大隊を一撃で消した。

 

 「星渡る化物め。3本首の幼体でもこの火力。」

 

 恐るべきことにこのコハブメレフは、まだ幼かった。成長するほど捕食と作業用の首が増えるメガコハメレフは、観測されたものでは最大7本の首を持つものもいた。

 

 「だが、想定内!やまと005(CCG-900005)しなの003(CCG-902003)、前進!」

 

 岬の陰から波を裂き出た2隻の無人戦艦…日本海軍のやまと型火力投射護衛艦の17番艦と、同じく11番艦は大型種、超大型種を専門に狩る艦。

 かつて、人類同士が争っていた時代に、3桁単位のミサイルを凌ぎつつ同艦種との砲戦を想定していた戦艦は、4桁単位の中、小型種を叩き落としつつ大型、超大型を殲滅する切り札になっていた。

 

 「目標、脳!ブチ抜けー!」

 

 吠えるRTDシステムに応え、2隻の前部砲塔4基12門が電磁火薬複合砲(レールガン)特有の青白いプラズマ砲煙を煌めかせた。

 

 陸の戦車隊を蹂躙するのに夢中なコハブメレフ、そのがら空きな胴体に480mm徹甲砲弾が突き刺さる。

 実は、コハブメレフの脳は首の先に存在しない。強力な宇宙放射線やデブリから頭脳を守るため、鯨でいえば潮を吹く場所、噴気孔の位置にあった。

 装薬と、砲身寿命を縮める高電圧で蹴り出された巨弾は、表皮の生体電磁装甲と皮下組織、炭素繊維と重金属で構成される複合装甲じみた頭蓋骨を砕き、巨体を操る脳を掻き回した。

 

 GAAAAA——!?

 

 それでも首の一つがレーザーを『やまと』に放つ。フリゲートを沈めた熱線は『やまと』の速射砲群をいくつか吹き飛ばし装甲を削った。

 

 「ぐっっ想定内!死に晒せバケモン!」

 

 RTDシステムの絶叫、戦艦と神経リンクで感覚を共有する

 

 顎の陽電子生成器官を淡く光らせ、ビームの溜めに入っていた首がちぎれ飛ぶ。至近距離から叩きつけられる戦艦主砲弾の嵐は皮膚を破り、筋繊維を引き裂き

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