やあ皆様。お呼びになられましたか?
わたくし、わたくしですわ。
おや、このわたくしをお覚えでない?
わたくしこそ、『トリニティ総合学園のトンチキ』
問題ごとがあればとりあえずアイツを疑え!喧嘩があればとりあえず首を突っ込み政略は手榴弾で粉砕し短気でなによりも紅茶を愛する金髪縦ロールにクソデカお排泄物BIGリボンがトレードマーク。
そんなわたくしは現在牢屋に元相棒幽閉されちゃってたーいへん!☆
んで、どうすんですのこれ。
まあまあ、落ち着いてくださいまし。まだ慌てるような時間じゃりませんわ。一旦状況を整理するが吉、記憶を辿っていきますわよ。
えっと……まずは登校して……襲われて……雑兵を薙ぎ倒して……ツルギお嬢様に見つかって……クソ兵器が暴発して……
あ、思い出しましたわ。多分あの時、他にも持っていた爆発物に誘爆してそのまま意識を失ったんですのね。
ちょっとお持ちくださいまし。つまりつまりはもしかして……装備は……アレですわね。牢屋の端にまとめてあるの。
こんな時は慌てず騒がず落ち着いて……物色物色…… 全部木っ端微塵じゃねぇかクソ!
取り乱しましたわ。いや、いやいやいや。わたくしの全てを結集して整備してなお弾づまりを起こすカス武器たちが……こう聞いたら要りませんわねこの産廃。元々は拾い物ですし。それでも愛着はあるんですのよね……
もはや鉄屑と化した元相棒達を見てため息を吐いていると、何やら入り口の方からコツコツ、とコンクリートを歩く音が近づいてきました。
振り返りもせず何か一つでもと無事な装備を探していると、その足音はわたくしの独房の前で止まり、カンカンと鉄製の格子戸*1を叩く音が響きましたわ。なんなんですの。わたくしはいまお勤め中でしてよ。
「そう怖い顔をするな。顔を見に来ただけだ」
「顔が怖いのはお互い様でしょう。自分のことを棚に上げるんじゃねーですわ」
見れば、そこに突っ立っていたのは視界が暗転する直前まで添い遂げた*2ツルギお嬢様でした。
粘着手榴弾の誤動作によって灰だらけかつ髪の毛チリチリになったわたくしとは大違い、傷ひとつない姿でそこに立っておられました。あいも変わらず無駄に耐久力だけは高い。これはわたくしでは相手にならないわけですわ。
「で、こんなシケた場所までなにしに来やがったんですの?
「全く、刺々しい言葉を使うやつだなお前は。それがお前らしいといえばお前らしいが、もう少し自重したらどうだ。今回もそのせいで恨みを買ったんだろう」
「これがわたくし、と分かっているのであれば止める必要などないでしょう。服芸もできない、後ろ盾もない、頼れる相手もいないとなれば『やられたらやり返す』を徹底して自衛するしかありませんのよ。少なくとも、トリカス蔓延るこの学園ではね」
「やはり、
「もちろん、というより、それが直接的な原因でしょう。分かっていてわざわざ突いてくるとはいい性格をしていらっしゃいますわね」
ツルギお嬢様の言う、『例の一件』。もとい、エデン条約前後でのトリニティ総合学園中を揺るがすこととなった大事件。
瞼を閉じればありありと思い浮かぶ胃の捻れるような毎日。
パテル派の代表、聖園ミカ。その付き人であった“私”にとっては、この学園に強い嫌悪感を覚えるには十二分の出来事でありました。
***
いつものように身支度を済ませ、ティーパーティーの朝の話し合いに出席するためいつものバルコニーへと足を運ぶ。まだ一般の生徒たちは登校がまばらな時間、まだ温まり切らない澄んだ空気が首筋を通り抜けて思わず身震いをしてしまった。誰にも見られていないことを確認し、立ち振る舞いを学校の代表として表に出ても恥のないものへとシフトする。
この頃、定例の会議とは別で話し合いの場が設けられることが多くなった。生徒会長を三人で交代しながら回すと言うトリニティの伝統上、互いの意見交換は欠かすことができないが、現在百合園セイア様の代理としてホストを務めるナギサ様はもう少し休むべきなのではないだろうか。
無論、ここが踏ん張りどころだと言われればそれまで。現在動けるティーパーティーがミカ様とナギサ様しかおらず、政治的なことをうまく動かせるのが彼女しかいないのも間違いない。だがしかし、わざわざ『シャーレ』まで相手取ることはないだろう。と、思う。生徒第一で物事を考え博愛を注ぐ先生はきっとナギサ様を許すだろうが、それでも彼女の心には消えない傷が残るだろうという確信めいた憶測が私にはあった。
二度扉を軽く叩き、返事が返ってきたのを確認して中へ。そのままスカートを摘んでカーテンシー、もはやルーティンワークと化した朝の儀式だ。
「……ああ。ミカさんの付き人の……いらっしゃられましたか」
「ナギサ様、ご機嫌いかがですか?——その様子だと、また何か問題が起こったようですが」
「……ええ。起こりました」
「何やらミカ様の姿が今朝からお見えではないですが、またどこかでやんちゃしているのでしょうか……」
「……実は、それにも関わること、でして」
憔悴、狼狽。あるいは『擦り切れたボロ雑巾のよう』といえば伝わりやすいでだろうか。今のナギサ様を言い表すに相応しい言葉と言えば失礼極まりないが、ひとまずセイア様の不在について聞こうとした時の様子に酷似していた、とだけいえばその態度が言い表せるであろう。
「……以前あなたには『トリニティの裏切り者』についてお話したことがありましたね」
「その時のお話では、補修授業部の中にそれがいるとの見立てでしたが」
「裏切り者は……」
「……?」
「トリニティの裏切り者は、ミカさんでした」
声量にしていえば、きっとこの場で一番小さく、か細い声であっただろう。しかし、その衝撃的かつ絶望的なニュースは確かに私の鼓膜を打った。
「……は?」
空いた口が塞がらない、とは正にこのこと。十分、一時間、あるいは数秒。私は無様に口を開けたままその場で突っ立っていたことだろう。
己の中で、何かが大きな音を立てて崩れ落ちていくような感覚に陥る。『ミカ様が裏切り者』だと?冗談じゃない。
「ついに気が狂いましたか。ふざけるのも大概に——」
「私だって!」
「私だって、何がどうなっているのか、わからないんですよ……」
おそらく、ナギサ様以上にミカ様を理解している人間はこの学園にいないだろう。ましてやその彼女が裏で何やら大きな悪事を働いていたのだ。彼女の受けた心の傷は計り知れない。だが、そんな状態ですらこの人は表面を取り繕い、私に事実を伝えにきてくださったのだ。私とて、それがわからない私ではない。たとえ教材を隠されようと、ありもしない噂を流されようと、ピッタリと閉じて動こうとしなかった口が、今は奥の方でギリギリと鳴っていた。
それからのことは記憶にもやがかかったようで、どうにも思い出すことができない。ただ、実質的に代表を失ったパテル派の行く末や事実の確認のためミカ様が幽閉される牢へと向かったことだけは覚えている。そこでどんな会話をしたか全く記憶にないあたり、相当衝撃的なことだったのだろう。
このトリニティ内部の不祥事によって、エデン条約の調印式は少しばかり延期になった。むしろ、行方をくらましていたティーパーティーのうちの一人が姿を現したことが想定外だったのであって、ひょっとすればナギサ様一人で調印を行う未来もあったかもしれないのだ。『信用』と言うなかなかに大きなものをすり減らしはしたが、不安定な状態よりもきちんと答弁を交わした上での結論を、と言うのが現在ゲヘナとの取り決めだ。
***
回想終わり。そのあとなんやかんやいろいろあって今のコテコテお嬢様キャラに落ち着き、無事『トンチキ』の二つ名を冠するに至りましてよ。
ティーパーティーと喧嘩して自警団や正実とも因縁ができた理由もこの後の『やられたらやり返す』を徹底した一週間に凝縮されていますわ。だってしゃーないじゃねーですの。今までフラストレーション溜まってたんですから。
「んで、改めて何の用ですの?冷やかしならノーセンキューですわ」
「そうだな。そろそろ本題に入るとしよう」
「さっさとしてくださいまし」
「お前を正義実現委員会にスカウトしたい」
「あ?」
どうやらこの学園のトンチキはわたくしだけではなかったようですわね。事情を全部把握した上で……というかあの大規模戦闘の直後でこれは流石に委員長としていかがなものかと思いますわよ。ツルギお嬢様。
「キチンとした理由はある。まあ聞け」
「納得するものじゃなければまた爆破しますわよ」
「まず、我々正義実現委員会は現在重要な時期だ。緊張も高まっているし、装備もできる限り温存しておきたい」
「ええ。心得ておりますわ」
「だが、お前が大暴れしたおかげで人的にも資金的にもなかなか大きな被害を受けることになった」
「関わってきたそっちが悪いですわ。ざまーみろ」
「よって、問題児を拘束する名目と、被害の補填のためお前をとりこみたいというわけだ」
「あ?」
一見理に中なっているように見えてとんでもない馬鹿な主張が飛び出してきましたわね。おいお前らの委員長だろどうにかしろ正義実現委員会。
まあいいでしょう。確かにこの状況、面倒な芽は摘んでおきたいという気持ちは理解できますが、しかしどうしてスカウトという形を取ったのでしょう。勧誘は一年の時に散々断ったはずですが。
「射撃能力、指揮能力、状況把握能力、共にお前は高水準だ。弱みを握っている以上、交渉の余地があると踏んだ」
「握られるような弱みはございませんが」
「そうか。なら調印式が終わるまで日の下に出ず生きるといい」
「ちょっと待てや」
今の今になってようやっと理解できましたわ。要するにこいつ、『ことが終わるまで幽閉する、それが嫌なら協力しろ』って言ってきているわけですわね?わたくしのお嬢様力は光合成と紅茶と暴力で賄われていますわ。この全てが立たれるとせいぜい保って三日ほどそれ以降は干からびて死にますわ。実質的にいえば死の宣告、命を掌の上で転がすとはまこと卑怯なり。絶対に許しませんわよ剣先ツルギ。
「……チッ。受けるしかないみたいですわね」
「やっと自分のおかれた状況を理解したようで何よりだ。正義実現委員会にようこそ」
「罪の意識とかそういうのはありませんわ。わたくしはただ光合成をしたいだけ」
「理由はどうあれ、というやつだ」
はっきり言ってこの上ない屈辱というか不合理というかあそこに加入するのは気まずいんですけれど、紅茶のためならエンヤコラですわ。
はーあ。正義実現委員会に連行されてわたくしたーいへん……