「それより先生! 街に戻る前にアレしましょうアレ!」
街に戻ろうとした俺たちをそう呼び止めたのはアリスだ。
アリスが言い出すのはアレ以外には無いわけで。
「魔法の書チャレンジだね。支援魔法と光魔法の書をゲット出来てるからどうぞチャレンジしてみてよ」
「ありがとうございます! 今度こそなんとしても魔法を習得して見せます!」
「魔法の書、ですか? 先生、それは一体どのような」
俺がガチャ結果から魔法の書を取り出してアリスに渡してるとアコが横から疑問を投げかけてきた。
「うん、それはね……」
俺は手に入れた経緯やら、ロイから聞いた魔法の書の情報やらをアコに伝える。その横でアリスが魔法の書にチャレンジしているようだが、あまり状況は芳しくなさそうである。
「取りあえず一言よろしいでしょうか。先生は馬鹿ですか? 馬鹿なんですね?」
「いや、これは現地人に聞いて得た確かな情報で……」
「そっちじゃありません。説明を聞く前、何も知らない状態で不用意に魔法の書とやらを読もうとしたことです。その魔法の書とやらがなんの効果をもたらすのか分からないのになんで不用意に読むのですか。
読んだ結果、身体になんらかの異常でも発現したらどうするつもりなのですか? しかも自分でまず試すならまだしも、アリスさんに最初に読ませるだなんて。何度も言いますが先生には危機感が足りてません。
アリスさんが不調をきたしたらどう責任を取るおつもりだったのですか? 普段「生徒のしたことに責任を取るのが大人の役割だよ」とか言ってるくせにその生徒に責任を負わせてどういうおつもりですか。
聞いてますか先生!?」
「はい、すいませんでした……。ダメな大人でごめんなさい」
アコから矢継ぎ早に飛ぶ説教に俺は思わず素で対応してしまう。立派な大人としてふるまうという目標が……。
「おおおおおおお! 読める! 読めます!! これで魔法がアリスの手に!!」
俺がアコに怒られてる間、アリスの方に進展があったようでアリスが大声を上げる。え? ていうか、魔法の書読めたの? さっきは苦戦してたっぽいのに。
「パンパカパーン! アリスは魔法を覚えました!! ライト!!」
アリスが自分でファンファーレを奏でながら、手のひらから光球を生み出す。なるほど、どうやら覚えたのは光魔法の方らしい。
ていうか、アンドロイドでも魔法覚えれるのか……。なら今度はキヴォトス人ではどうだと試してみたいところだが、アコもアルも興味なさげだしなぁ。
「見てください先生! アリスが魔法を使えました!! しかも、光魔法! 勇者と言えばやはり光属性が定番です! これでアリスもまた一歩勇者に近づきました!!」
「うん、おめでとうアリス」
ぶっちゃけ魔法なんて使わずにその光の剣使った方が威力も速度もあるだろ、とは言わない。それに今覚えれてる魔法は、どうも魔法の光源を作り出す魔法のようだからアリスの武器と競合することはないだろう。
「うらやましい……。先生、私にはないの?」
アリスに祝辞を述べると意外なところから声がかかる。意外! それはシロコ!
「シロコも魔法を覚えたいの? 支援魔法の書はアリスも読めなかったみたいだからこれは余ってるよ。読んでみる?」
「ん……。私も魔法使いたい」
これはキヴォトス人でも魔法を覚えれるかの試金石になるな、という考えは先生らしくないので奥の方にしまっておく。
「…………。読めないや。魔法を覚えられると思ったのに、残念」
「残念だったね、シロコ。でも、同じ名前の魔法の書でも読む人との相性で読めたり読めなかったりがあるらしいから、また手に入ったらあきらめずにチャレンジするといいよ。どうしても、アリスが優先になっちゃうけど」
「ん……。期待して待ってる」
シロコが無表情のまま顔をキラキラと輝かせる。シロコも割とこういうファンタジーなこと好きなんだな、一つ生徒のことをよく知れたわ。
「じゃあ、余った支援魔法の書はどうしようか? 一応聞くけど、アルとアコは興味ある?」
「私は別に興味ないわね。闇魔法の書とかだったら読んでみたいけど。アウトローっぽいし!!」
「そんな原理もわからない得体のしれない謎の本など私はごめんです。先生がお使いになればよろしいのでは?」
やはりというか、双方ともに興味はないようだ。まぁ、その興味のなさのベクトルは各人で違うが。
「じゃあ、私が読んでみるね。…………。お、今回も読める。覚えた魔法はこれだね。ストレングス」
覚えたばかりの魔法を取りあえず手近なアルにかける。回復魔法の時といいアルだけを実験台にしてるようでちょっと気が引ける。
「? なんの魔法なの? 特に変わったことは起きてないようだけど……」
「どうも、筋力を増す魔法らしいんだけど……」
「それ銃撃つのに関係ないわよね?」
「だよね。これは死に魔法かな?」
現地人だったら武器の威力を増すことが出来るんだろうが、銃を撃つ際に筋力が増えたところでなんの意味もない。
いや反動を抑えられるようにはなるかも知れないが、現時点で既にみんな反動をものともしてないのでやはり意味がない。
ゴリ……ミカにかけたらひょっとしたら有用かもというぐらいか。
支援魔法自体を鍛えたら他の魔法も覚える可能性があるのだろうが、どうも現地人用に最適化されてそうで銃を撃つ我らには意味のない魔法ばかり覚えそうな感じがする。
それだったら回復魔法の方を鍛えた方がまだ有用そう。
「あ、そうだ。忘れてました」
一通り魔法の書の回し読みが終わったところで、アコが何かに気付いたかのように言うと、荷物の中をごそごそ漁り始める。
「はい、先生。先生がシャーレに忘れていった銃です。正直気休めのような物ですが、一応自衛手段は持っていてくださいということでリン行政官から渡すように言われました」
そういってアコが俺に拳銃と弾丸を渡してくる。そういや先生の机の上を書いたイラストで拳銃があったっけ。確か銃種はベレッタM9。でも、確か――、
「私はこういうのは使わないことにしてるんだけどね……。でも、今はそうも言ってられないか。なによりアコやリンちゃんに怒られそうだ」
そう、先生は設定イラストで拳銃を支給されている描写はあれど、持ち歩いてる描写はないのである。なので、この反応がおそらく正解だと思われるが――、
「それは知っていますが、私たちが護衛するにしても異世界では何が起こるかわかりません。なにより、キヴォトスでは先生のその知名度からして襲われることは少ないですが、こちらは先生を知ってる人そのものがいません。
襲われて奴隷落ちも普通にあり得る世界です。なので肌身離さず持っててください」
よしよし、アコの反応をみるだに、どうやらこの反応で正解だったようだ。生徒の理想の先生を演じるのもなかなか大変だ。
「うん、分かったよアコ。とりあえず練習から始めないとかなぁ……」
「先生大丈夫。弾薬は一杯持ってきてるから。先生の側で弾薬が補給できるのは知ってるけど、それ以外の手段もあった方がいいでしょ?」
「ありがとうシロコ。なら折を見て練習することにするよ」
「ん……。レクチャーは任せて」
そんなやりとりをしながら、今度こそ俺たち5人は連れ立って街の中に戻る。さて、取りあえず情報収集が先決だが、どうなるやら。