『異世界転移! 最近流行りのラノベでよくある展開ですね、先生!』
(キヴォトスでも流行りなんだ……)
アロナがノリノリなので、水を刺すのもあれかと思い心の中でそう思うだけにする。
(ただ、問題は――、)
そう問題だ。
(これが、異世界転移か、異世界転生なのかどっちか分からんってことなんだよな……)
その二つに大した違いはないだろ、と思うかもしれない。だが、今回においてこの二つには明確な違いがあるのだ。
(異世界転生だったらセーフだ。なぜなら、大人のカードを持ち、シッテムの箱を起動できて、アロナとこうして違和感なく会話していることから、俺が”先生”に転生したってことだからだ)
逆のパターン、異世界転移ではどうか。
(こっちは最悪だな。俺が俺のまま異世界に来たということは、俺は”先生”ではないってことだからだ。アロナとは一応問題なく会話できているが、いつボロが出るか分からない。
とりあえず先生に転生したなんていう希望的観測は抱かずに、転移したって前提で行動することにしよう)
「じゃあ、流行りのラノベだとこのあとどういう展開になると思う? アロナ」
『そうですね! よくあるパターンでは、森の中でモンスターや野盗に襲われた貴人や商人に遭遇し、それを華麗に助けることでお礼をいただける展開ですね!!』
「うん、それ無理」
だって、俺戦闘力皆無だもんよ。先生に出来るのはキヴォトスの生徒たちを指揮することぐらいで――、
「……そうだ、確かこの大人のカードって、生徒たちを召喚することが出来るんだよな……。確かストーリー中でそんな展開があったはず」
だが、ここで今大人のカードを使うことはためらわれた。
何故なら、ブルアカのストーリー中では大人のカードは「生と時間を削る」との設定があるからだ。
この文言に関してもいろんな考察が出てはいたが、字面そのまま捕えると自らの寿命を犠牲にして生徒を召喚できる、との解釈が出来るのだ。
一応、ソシャゲ的解釈として「生(活費)と(プレイ)時間を削る」とかいう解釈も無くはなかったが、前者の場合シャレにならないので使うことはためらわれた。
「まぁ、これは最後の手段ということで……」
いよいよ切羽詰まったら使うかもしれないが、今は死蔵しておくしかない。
とりあえずいつでも取り出せる場所に大人のカードをしまうと俺は立ち上がり当てもなく歩き出した。
『お! 移動するんですか、先生! いざ大冒険へと出発しましょう!』
「大冒険はしたくないなぁ……」
アロナは相変わらずノリノリだが、俺の方はどんどんとダウナーな気持ちになっていく。
色々と先行きが不透明なゆえだが、どうも生来こういうことにワクワクするような童心というのを持ち合わせていないというのもある。
とりあえず、手持ちの食料が尽きる前に人里にたどり着けるといいのだが――、
ガサッ
不意に左手の方で草が揺れる音がする。
「ん?」
気になってそちらの方を向くと、茂みから出てきた狼とばったりと目が合った。
「…………。お、おおおおおお狼ィ!?」
思わず驚いて大声をだしてしまった俺は悪くないと思う。狼に会ったのも確かに驚いたのだが、それ以上に驚いたのがその狼についているものである。
角である。角と言ってもユニコーンばりにでかくて長い角ではない。似たような物であてはめるなら、日本昔話にでるような鬼の角のようなサイズといえばいいだろうか。
そんな角が狼の額からにょっきりと生えているのである。
って、そんな冷静に観察している場合じゃ――、
「アオオオオオオオン!!」
狼は俺を認めると、大きな声で遠吠えを始める。確か狼の遠吠えって仲間に知らせるためじゃなかったっけ?
ってやばい! 仲間を呼ばれてる! 一体でもピンチなのに、多数に取り囲まれたら死ぬ! 死ぬ!
人里を探してうんぬんとか言ってる場合じゃない、何もしなければここでゲームオーバーだ。
『先生! ピンチです! まごうことなきピンチです! 私の力で先生をお守りすることは出来ますが、攻撃は出来ません』
「知ってるよ畜生! くそっ、使うしかないのか!」
俺はそういうや否や、大人のカードを取り出し、天高く掲げた。
「頼む! 誰でもいいから来てくれ!!」
使うと寿命が縮まるとか、そんな考えは今の俺にはなかった。とにかく今の事態をどうにか解決することで頭が一杯だった。
そして果たして大人のカードは役割を果たしたのか、聞きなれた銃声と共に一人の少女が俺の目の前に降臨した。
パラララララ
サブマシンガンの銃声とマズルフラッシュが大森林に響き渡る。
ツーサイドアップにした菫色の髪に黒いブレザー、そして後頭部に燦然と輝くヘイロー。
「ユ、ユウカ……」
「先生! ご無事ですか!?」
二丁のサブマシンガンを構え、目の前に迫っていた危機である狼を一蹴した彼女の名は早瀬ユウカ。
ミレニアムサイエンススクール、セミナー所属の生徒である。
「た、助かったよユウカ。ありがとう」
せっかく大人のカードを使ったのに来たのが一人だけなのかよ、とか色々思うことはあったはずなのだが、目の前の脅威から逃れることが出来た安心感でそんな感情は吹き飛んだ。
「いえ、礼にはおよびません。しかし、ここはどこなんですか? この狼もなんかツノが生えてて変ですし。ミレニアムの郊外に似たような場所はありますが、それにしては妙です」
ミレニアムにあるんだこういう場所。流石ミレニアムの生徒なだけあってそこらへんは詳しいんだな。
「信じられないことが一杯だろうけど、とりあえず俺の話を聞いてくれないかな。っと、その前に移動だな。さっきの狼が仲間を呼んだっぽいから早くここから離れないと」
「はぁ、分かりました」
どこか、釈然としない様子のユウカをひきつれ、俺はその場を後にする。