それから何事もなく、冒険者協会に到達した俺たち。
初討伐ってなると、同輩の冒険者を助けたり、身の丈に合わない強力な敵が現れてそれを華麗に倒すとかの展開がありがちなのだが、
我々はそんなことなど一つもなく、普通に依頼をこなし、普通に協会へと帰還した。
「どうも、討伐から帰ってきたシャーレ一行です」
依頼を受注した時と同じいかついおっちゃんのカウンターに向かい、討伐の終了を告げる。
「お、ちゃんと帰ってきたな。それはいいことだ。依頼を失敗してようが、ちゃんと生きて帰ってくる、それが冒険者にとって一番大事なことだぞ」
なんかいきなり含蓄のあることを言われたが、まぁ真理だろう。死ななきゃ安いって奴だ。ちょっと違うか。
「大丈夫ですよ。ちゃんと依頼も両方こなしてきましたから」
そう言って俺はゴブリンの耳と薬草を入れた袋をそれぞれカウンターに置いた。
「なんか、ずいぶんと入ってるな……。おい、一応聞くが、これ本当に討伐してきたのか? いや、実力を疑ってるとかそういう意味じゃない。どこかで討伐証明部位を買い集めたりしてないよな? って意味だ」
ゴブリンの耳が入った袋をおっちゃんに見せると、何やら真剣な顔で俺たちの方に視線を向ける。なんだ、数が多すぎて疑われてるのか?
「失礼ね! ちゃんと討伐してきたわよ! 耳を削ぐのまで自分たちでやったんだから」
おっちゃんの物言いにアルが反論する。
「いや、失礼。あまりに数が多かったものでついな。もう一つ聞くが、これは本当にゴブリンだけだったか? ゴブリンシャーマンやら、ホブゴブリンはいなかったか?」
おっちゃんが真剣な眼のまま、俺たちに再び尋ねる。ここまで来ると何を懸念しているのか俺にもなんとなく想像はついた。
「はい! いたのはゴブリンだけでした! ホブゴブリンはひょっとしたらいたのかも知れませんが、シャーマンみたいなゴブリンはいませんでした!」
今度はアリスがおっちゃんの質問に答える。それを聞いて初めておっちゃんの顔に安堵の表情が浮かぶ。
「そうか、ホブもシャーマンもいなかったか。とすると俺の考えすぎか。いや、とはいえこの数はちょっと危険だな。念のためどういう状況でこれだけ大量のゴブリンを倒したか教えてくれるか?」
「分かりました、それでは――」
おっちゃんの質問に俺が答え詳細な状況を語る。とは言っても、語る内容はアリスがずんずか進んでゴブリンの軍団に囲まれたって話ぐらいしかできないが。
「お前さんたち強かったんだな……。それだけのゴブリンに囲まれれば熟練者でもピンチに陥るものなんだが。実はマジックキャスターでもいるのか? いや、答えなくてもいい。自分たちの秘儀は秘匿するものだしな」
「しかし、私たちはこれが初めての討伐なので分からないのですが、これだけの数のゴブリンは異常なのでしょうか?」
「それに関しちゃ何ともいえん。常識的な数でないのは確かだが、聞いた状況を鑑みるに「ありえなくはない」と言った数だ。ゴブリンシャーマンとかが交じってたら一発だったんだが、そうでもないようだしな」
「スタンピード……でしょうか?」
俺が知ってる知識の中で適用できそうな現象を述べる。実際こういう小説とかでも頻繁に出てくる現象だ。
「なんだ、知ってたのか。まぁ、その可能性がなくもない、と言ったレベルだな現状では。とりあえず、上位冒険者に調査依頼を出しておくが、この手の調査依頼は嫌がる奴が多いんだよなぁ……」
まぁ、さもありなん。調査依頼は「ある」ことを発見すればその時点で依頼を終えれるが、「ない」ことを証明するのは困難なうえ、「ない」と判断出来る状態になるまで依頼が続いてしまうからだ。
「ま、何にせよ。お前たちは生きて依頼を達成して帰ってきた。その時点で冒険者としては合格だ。この調子で今後も頑張れよ! ほら、今回の報酬だ」
そういって、現代でもお店とかでよく見るお金をいれるトレイに大銀貨が5枚置かれた状態でこちらに差し出される。
「命の値段安いなー……」
思わず小声でそう愚痴ってしまう俺。だって、大銀貨5枚って日本円に換算したら5000円だぜ? 5人で分配したら一人1000円だぜ?
あれだけ大量にゴブリン狩って、指先が緑色になるまで薬草集めて貰えるのが1000円って安日給ってレベルじゃない。
「初心冒険者の報酬なんてそんなもんだよ。これでも色を付けてるんだぜ?」
俺の小声が聞こえていたのか、おっちゃんから驚愕の言葉が投げかけられる。
「色付けてこれとか……。早くランク上げないとだめね」
アルもしみじみとそういうが同感である。
「取りあえず、1枚ずつみんなで分けようか……。貰ったのは完全に自分のお金にしていいからね。一応PTでお金使うようなときがあったら私のお金からだすからこれは完全にお小遣いだと思っていいよ」
「お小遣いですか。とはいえこの金額はあまりにも……」
一応みんなには硬貨にどれぐらいの価値があるのかは事前に教えてるので、大銀貨の価値がどれくらいかは皆知っている。
「うん、早く稼げるようにならないとね」
「とりあえず、先生。今晩の宿を探そう? 流石に野宿は危険すぎるし」
そうか、そういうことも考えないといけないのか。シロコにそういわれて俺も初めて思い当たった。ていうか、今貰った金で泊まれるのかね?
現代の基準で考えると、宿泊なんて安くても金貨1枚ぐらいしそうなものだが。
「宿を探してるんなら、協会と提携してる宿があるぜ。冒険者ランクによっては補助を受けられるところだ。寝具と食事の質はお察しだが、金を節約したいならお勧めだぜ」
シロコの言葉に反応して、おっちゃんがそう提案してくれる。ランクによって補助か、それはありがたい。Fランクなら優遇してくれるってことか。
「じゃあ、せっかくなんで紹介してもらっていいですか?」
「あいよ。この木札を見せれば協会所属の冒険者って分かるぜ。ちなみに、場所はここのすぐ隣だ」
なんと、提携どころがずぶずぶじゃないか、その宿。まぁ、近いのは便利でありがたいが。
「ありがとうございます。それじゃ行こうかみんな」
受付のおっちゃんに礼を言うと、皆で隣の宿屋を訪ねる。まだ、寝る時間には遠いが早めに部屋を確保しておいて悪いことはないだろう。
「すいませーん。協会で紹介を受けたものですが」
宿のカウンターでそういうと、奥から恰幅の良い女性が現れる。
「あいよ、協会からの紹介だね。ランクはF、男一人に女4人だね。なら、男は一人部屋で銀貨2枚。女は四人部屋で銀貨6枚になるよ」
「いえ、五人部屋でお願いします。いくらになります?」
「ちょ、アコ……」
「おやおや、そういう関係かい? でも、ここは連れ込み宿じゃないからそういうのはご法度だよ。5人部屋だとちょっと高くて大銀貨1枚になるがいいかい?」
「それでお願いします。先生、支払いをお願いします」
「お、おう……」
アコから何故かあふれ出るプレッシャーを感じながら、カウンターで会計をすます。
「夕飯は宿代についてるから無料だけど、朝飯は代金をいただくよ。あとは大銅貨1枚で、湯を用意できるから欲しかったらカウンターまで取りに来な。それじゃこれが鍵だ」
湯ってなんだ? 風呂でもあるのか? と思ったが、この安い値段ではそういうのではなく、おそらく清拭に使う湯のことだろう。
なにはともあれ鍵を受け取り、部屋を目指す俺たち。
部屋にたどりつくと、最後に入ったアコが後ろ手で鍵を閉める。そういうことやられるとちょっと怖いんだけど、アコ?