「さて、これで当座の宿は確保できましたね」
「ていうか、アコ。同室にするとかどういうつもり? 流石に先生である私が生徒たちと同室というのは……」
部屋に入るなり鍵を閉めたアコに取りあえず文句を言っておく。いや、同室にした意図自体は分かるのだが、それで感情が納得するかというと別である。
「前も言いましたが先生は本当に危機感が足りてませんね。一人部屋にいて襲撃でもされたらどうするつもりですか? それでもなくても先生は弱いんですから、おとなしく私たちに守られてください」
「ていうか、アコは私と一緒で嫌じゃないの?」
「嫌な人との同室を自分から希望するわけないじゃないですか、何を言ってるんですか」
そういいながら顔でも赤らめてたら完璧なのだが、相手はあのアコなのでそう簡単に感情を見せてくれるわけもなく普通の顔だった。
まぁ、アコも先生を邪険にはしてるけど、本当は素直になれないだけなのはゲームで知ってるからいいんだけどね。
「み、みんなは?」
一縷の希望を託して皆に尋ねるが――、
「別に私は構わないわよ?」
「ん……。先生とのめくるめくアバンチュール、楽しみ」
「先生と同室で何か問題があるのでしょうか? アリスに教えてください」
ダメだ! 聞く前から分かってた結末ではあるけど、これで完全に逃げ場が消失した。
ていうか、シロコがすげー不穏なこと言ってるんだが。この宿はそういうのダメっておかみさん言ってたでしょ!
「はぁ……、みんながいいならそれでいいけどさ。じゃ、これからのことを話そうか。と言っても地道に冒険者ランク上げていこうね、ぐらいしか私が示せる方針はないけど」
「そうよねー。面倒だけど地道に実績を積み重ねていくしかないわよねー。ところで、ガチャに関してはどうするの?
と言っても、宿代も食事代もあるし今日と同じ稼ぎ3日分はないとガチャも出来ないしね。しかも、分配せず全部つぎ込んでそれだし」
俺の方針に対して、アルからガチャの話が飛ぶ。ガチャか、ぶっちゃけどうするか悩みどころだ。
「今日のゴブリン退治で分かったけど、戦力的には足りてるどころか完全にオーバーキルだから、そういう意味ではガチャの必要は薄いかな」
「いえ、先生。戦力的にはそうかも知れませんが、ガチャは出来るだけ引いてもらわないと困ります。今のところ交代要員がユウカさんしかいない状況はマズいです。
先生が優先なのは勿論なのですが、私たちにもキヴォトスにおける生活があります。交代要員を何名か用意してローテーションを回すぐらいのことをしないと、やっていけません」
「そうか、その点を失念してたよ……。アコ、教えてくれてありがとう」
そうだよな。生徒たちにもキヴォトスでの生活があるもんな。何かあったときにすぐ送還出来る体制を作っておかないとマズい、か。
「とはいえ、今の貯金が金貨115枚。でしたっけ? 今後これが目減りすることを考えると、不用意に手を付けられない額でもあります。そこで提案なのですが……」
そこで、アコはチラとシロコの方に目配せをする。シロコもそれに対応して一つうなずくと、背嚢を降ろしてなにかごそごそしだす。
「はい、先生。これ」
そう言って、シロコが背嚢から取り出したのは。
「砂糖だね、これは……」
そこには日本語で上白糖と書かれたビニールに包まれた砂糖が1kgあった。
「ええ、伝え聞く内容から察して、どうもここは中世ぐらいの時代とお見受けしたので。砂糖などが高く売れるのではないかと、補給物資の中に混ぜてもってきたのです」
「なるほど、確かにこれは売れるかもね。問題はどこで売るかだけど……」
「アリス知ってます。こういうのは商人ギルドに持ち込んでそこで大騒ぎになって注目される奴です」
アリスがそういうが、そういうシチュエーションはゲームというより小説でよくある奴じゃなかろうか? それとも最近のゲームでも異世界転生が流行ってたりすんのか?
「うん、そうなるよね……。となると小出しの方がいいかな?」
「小出しでもこんな上質な砂糖では一発で目を付けられますよ。目を付けられること自体はもう必要経費と割り切って、一気に出して金額を受け取った方がマシですよ」
俺の提案に対してアコがばっさりである。まぁ、確かに正論っちゃ正論だけどね。
「確かにそれもそうか。じゃ、行ってくるよ。アコ護衛お願い。みんな暇だろうけど留守番しててね」
「わかりました。警護はお任せください」
この面子のなかでアコが一番見た目大人びてて自分の護衛として申し分ないと思ったからアコを選択したのだが、アコの顔は心なしか嬉しそうである。
……嬉しそうだよな? 俺の見間違いじゃないよな? そうだと言ってくれ。
あとはまぁ、街中での護衛するなら他のメンツは過剰火力であるというのもあるのだが。
「アコだけずるい……。先生、次は私を連れて行って」
「アリス知ってます! これは護衛にかこつけたデートですね!」
「そんな色気のあるお出かけかしら……」
三者三様の反応だが、それを受けたアコはどこ吹く風である。
「さ、先生。行きましょう」
そういって、やおら俺と腕を組みだすアコ。
「ア、アコ!?」
「こういう時ですし、少しぐらいの役得があってもバチは当たらないですよね、先生?」
ていうか、当たってる当たってる! 服からはみ出てる横乳がーーー!
その後、商人ギルドを探して、砂糖を売り切ったわけだがその間の様子は割愛させてもらおう。よこちち、よこちち。
一応、上白糖1kgが大金貨10枚に化けた、とは言っておこう。よこちち。
日本円に換算して百万円だぞ。ひゃくまんえん。
もうキヴォトスから砂糖輸入して売るだけで生活できるんじゃないかなぁ……。
いや、ここで生活するのが目的じゃないからそれはしないんだが。とりあえずこれで当座の資金の心配はなくなったと言っていいだろう。