異世界捜査部シャーレ   作:幽塊和尚

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25.天使の翼

「分かった、私の負けだよ。じゃあ、今晩はこの部屋で寝るとして、冒険者登録に行こうか。みんな付いてきて」

 

 床寝論議は俺の負けで終わったところで、ユウカとアズサの二人を冒険者登録に行く。

そして冒険者協会に入ったところで、あたりが急にざわつきだす。

 生徒たちはみんな美人さんだからなー、注目されるのも仕方ないなー。

……ってそんなわけないよな、原因は分かってる。

注目されてるのは俺でもなくユウカでもなく、アズサだ。

 うーん、アルの角は差別自体はされたが普通に受け入れられたが、やはり天使の翼は受け入れられないのか?

もうちょっと、例えばハスミみたいにカラスっぽい羽だったらまだマシだったのかもしれないが、アズサの羽は純白のいかにも天使! って感じの羽だしなぁ。

 アズサ自身注目を感じてるのは自覚してるみたいだが、どこ吹く風でずんずか歩き出す様子は頼もしいと言っていいのか。

ていうか、アズサって女版相良宗介みたいな所あるしなぁ。ちょっかいかけられたら過剰に反応しかねないのが。

何事も起きませんように、と祈りながらいかついおっちゃんの所に並ぶ。

 

「なんだ、また女増えてるな兄ちゃん。一体どこで引っかけてきたんだ?」

 

 そんななか、いかついおっちゃんは今までと変わらない態度で接してくれていた。おっちゃん! 信じていたぞ!

 

「すいません、この二人の冒険者登録をしていただきたいのですが」

 

「これは驚いた、ヒューマンの嬢ちゃんはともかく、天使様が冒険者登録をなさるとは。うちの協会にもなにかご利益がありそうだな」

 

 うーん、何か有翼人的な特殊な種族とかそういうのがあったらよかったが、天使、天使ときたか。しかし逆に考えるとおっちゃんの反応的に天使自体は存在している種族ということではある。

滅多に人前に現れなさそうな反応だが。

ていうか、このおっちゃん。アルのディーマンは華麗にスルーしたのに天使はスルーしないのか。よっぽどこっちはレアらしい。

 

「天使などではない。私も同じくヒューマンでいい」

 

「おっと、これはぶしつけでしたな。さて、用紙に必要事項を記入してくんな。先生が書けるからそっちに任せてもいいぜ」

 

「すいません、先生お願いします。読めない……」

 

「先生、私もお願いする」

 

「はいはい、任されたよ」

 

 とっていも書くのは最低限だ。クラスなんてまたしても二人ともアーチャーになってしまうし。

 

「また、アーチャーなのか……。先生さんよ、少しは前衛増やした方がいいぜ? 今はいいかもだが強敵との相手となるとバランスのいい編成が必須だぜ?」

 

「あはは……ご忠告感謝します」

 

 前衛っていうなら、ユウカがタンクだから前衛に当たるんだけどね。とはいえ、アーチャーで前衛? となってしまうので明言は避けるが。

 

「よし、それじゃこの二人も晴れて冒険者だ。シャーレに同じく登録しておくぜ」

 

「ありがとうございます。それでは明日からまた行動を開始します」

 

「おう、目いっぱいきばれよ!」

 

 取りあえず、二人の登録が済んだので宿に帰ろうとしたのだが、今度は絡んでくる冒険者はいなかった。

いなかったのだが、もっと問題のある事態になった。

アズサが歩く道がまるでモーセの十戒のように人混みが左右に割れ、皆が皆してアズサのことを拝みだしたのだ。

 

「先生、これはさすがに……」

 

 アズサもこの事態には困ったようで困惑の表情を俺に向けてくる。

 

「みなさん、拝むのはやめてもらっていいでしょうか。アズサはそういうことを望みませんので、普通に接してください。普通に」

 

 俺がそういうが、拝むことに夢中な冒険者たちは拝みポーズを止める気配はない。さらにたちの悪いことに――、

 

「て、天使様! お、俺冒険で右腕に怪我をしてしまいまして。治療してはいただけないでしょうか!?」

 

「お前ずるいぞ! 天使様! 俺の祈りを聞き届けてください!」

 

「天使様!」「天使様!」「天使様!」

 

 あちこちから天使様コールが止まらない。

まずいこの流れはなんとしても止めないと。

 

ダァン!

 

 突如辺りに響く発砲音。見るとアズサが上に向けて銃を発射していた。

急に響き渡った轟音にあたりがシンと静まり返る。

 

「天使は天使でも私は戦闘天使だ。癒しの力も主に祈りを届ける力もない。私に何かを通したいなら力でもって来るがいい」

 

 そういいながら、アズサは自らのアサルトライフルを構え、手近にいた冒険者の足元に一発発砲する。

 

「ヒッ!?」

 

 アズサの本気を感じ取ったのか蜘蛛の巣を散らすように散っていく冒険者たち。それを見てようやく、アズサもライフルを下げる。

 

「ごめん、アズサ。こうならないように私がなんとかすべきだったのに」

 

「先生が謝る必要はない。どちらにせよこれは私自身で解決しなければいけないことだった。それにしても――」

 

 アズサはそこでふっと言葉を区切ると自重気味に言葉を続ける。

 

「私が天使、か。天使などからはもっとも縁遠い存在だろうに」

 

「アズサは優しい子だよ。私が保証するよ」

 

「ありがとう、先生」

 

「ふーーーーーん」

 

 アズサとそんなやりとりをしていると横からアルが不満げに言葉を漏らす。

 

「な、なに?」

 

「べっつにぃ? 私は角のせいでディーマンなんて蔑まれてたのに、トリニティのお方は天使なんてあがめられてよい御身分ですねぇって思っただけよ」

 

「別に好きでこのナリをしてるわけじゃない。それは貴女もそうだろう」

 

「そんなの分かってるわよ。分かってても言いたいことぐらいはあるのよ。あー、トリニティ嫌いになりそう」

 

「ほら、アルも拗ねないの。さ、みんなでご飯にでも行こうよ。まぁ、夕食はあの宿だからちょっと期待はできないけど、朝は奮発するよ。それ食べて元気だそう」

 

「やった。当然先生のおごりよね!」

 

「勿論だよアル。好きなの頼んでいいからね」

 

「異世界ご飯……。初めての経験です! 先生! ドラゴンステーキとかもあるのでしょうか!」

 

「いや、流石に高級店に行ったとしてもドラゴンステーキはないと思うよ……」

 

 このアリスの偏った知識はどこから来るのだろうか? ゲームでこんなのあるのはあまり聞いたことないしどう考えても小説由来としか考えられないのだが。

ちなみに、宿での夕食は極めて普通だった、と記しておこう。おいしくもなくまずくもなく、極めて普通としか品評しようのないそんな味だった。

 

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