おっちゃんに誘導されるがまま、協会の奥の方へと歩みを進める俺たち。
そして、少し奥まった場所にある部屋に通される俺たち。
ひょっとしたら協会長の部屋とかに直接通されるかとかも思ったが通されたのはごく普通の応接室と言った感じだった。
中には誰もおらず、先導したおっちゃんがソファに腰掛けるとこっちにも対面のソファを勧めてくる。
全員が座れるほどソファは広くなかったので俺がまず座ると、シロコとヒナが即座に左右を占拠して座った。
他のメンツは立ったままだ。
「狭くて悪いな。ちょっと表ではしにくい話でな」
「私たちがなにかやらかしたとかそういう話でしょうか?」
まぁ、一番気になったのはこれだ。とは言っても、俺たちも最近はクエストをこなしてきただけで特になにかした記憶はないのだが。
「そういう話じゃない。いや、ある意味そういう話なのか? まぁ、前置きは無しだ。お前らが最初に受けたゴブリン退治の依頼があるだろ? あれに関してだ」
「ゴブリン退治……。スタンピードがどうかとか言った話ですか?」
「そう、それだ。お前さんらがちょっとした異常を感じてくれたため、こちらでも調査の為に冒険者を派遣したんだが、ほとんどが未帰還のままなんだよ。
帰ってきたのは「問題なし」と判断して早々に調査を切り上げてきた連中ばっかりだ」
「それは……」
「派遣した冒険者は全員Cランク以上の一人前と言っていいレベルの冒険者たちだ。普通のゴブリン程度に遅れをとるような連中じゃあない」
「何をおっしゃりたいかは何となく分かりますが、それは我々には荷が勝ちすぎでは? 最近Dに上がったばかりの新人冒険者ですよ?」
流石に、ゴブリン増殖の異常を突き止めてこいとか言われてもこちらとしても困る。
というか、こっちは殲滅力は強いがそういった冒険者的な調査能力というのはないのだ。
やれることといったら、スタンピードになりそうなゴブリン集団をサーチ&デストロイするだけだ。
「お前らがDで終わるタマかよ。アーチャーばっかり増やしておきながら、毎回傷一つなく帰ってくるくせに。前衛もいないのにそこまでの芸当が出来る新人なんぞいるものか」
「む……」
まぁ、それはそうだな。普通はタンクやアタッカーにあたる前衛がいてこそ後衛は輝くものだ。
後衛しかいない(と見られてる)パーティーなのに傷一つないってことはそもそもからして敵の接近を全く許してないってことだ。
それだけの殲滅力があるってことは向こうには既にバレているだろう。
「まぁ、それはそれとしてだ。現在うちに所属してる最高ランクであるBランクパーティーにも調査依頼を頼もうかと思ってるんだ。ちょっとそれに随行して一緒に調査をやってくれないかって話だ」
「Bランクパーティー、ですか」
「おう、うちの精鋭だ。ちなみに、依頼の方は断ってくれても構わない。それで査定を下げたり、ランクアップに制限を加えたりなどというペナルティを課すこともしないと約束する。ただ、俺としては出来れば受けてほしい案件だ。どうだ?」
「……ちょっとみんなと相談していいでしょうか?」
「おう、いいぜ。俺は席を外した方がいいか?」
「いえ、そのままで構いません。で、みんなはどう思う?」
「ん……。本当にゴブリン程度なら私たちなら問題なく殲滅できる。でも、今はそういうのじゃないって話だよね?」
「まぁ、今私たちが相手してるのオークとかそういうモンスターだものね。ゴブリンぐらい今更って感じだけど。ところでゴブリンにもいろいろ種類がいるのよね? そちらが想定しているゴブリンはどのぐらいなのかしら?」
「ゴブリンロードぐらいなら可愛いもんで、ゴブリンキングすらいるのではないかというのがこちらの想定だ。とはいえ、戦闘に関してはBランクパーティーにまかせっきりで全く問題はない。
どちらかと言えばお前らについて行ってもらうのは経験を積ませることと、実際にゴブリンの集団に遭遇した近辺への道案内をしてもらうのが目的だ」
アルの質問におっちゃんがそう答える。が、そういわれてもロードとキングの違いなんてこっちは分からんのだが。
「質問です! ゴブリンロードとゴブリンキングは具体的にどれくらいのランクなのでしょうか!」
「それぞれどれだけの部下のゴブリンを従えているか、が基準になってる。ロードの方は普通のゴブリンから、ホブゴブリン、ゴブリンシャーマン、ゴブリンアーチャーなどの下位ゴブリンを従えている。推奨討伐ランクはDだ。
キングの方は複数のロードを従え、ゴブリンジェネラル、ゴブリンナイト、ゴブリンスナイパー、ゴブリンウィザードなどの上位ゴブリンを従えている。巣の規模にもよるが推奨討伐ランクはBだ。
ロードもキングも純粋な戦闘力という点ではそれほどではないが、多くの部下を従えているため厄介だ」
アリスの質問におっちゃんがよどみなく答える。まるで準備していたかのようにスムーズな物言いだった。
「キングの推奨討伐ランクがBであるなら、最初からBランクパーティーを調査に派遣していてれば済むことだったのでは?
ランクの低い冒険者を派遣して未帰還だらけになったのはそちらの手落ちと見られてもしょうがない事態だと思いますが」
「耳が痛いことだな。言い訳になるが調査依頼を出した時点ではそのBランクパーティーは遠征中でこの街にいなかったんだ。
ついでに言うなら、今回出した依頼はゴブリン増殖の調査であって、ゴブリン集落の殲滅じゃあない。調査して帰ってくるだけなら、Cランクパーティーでも充分に達成できると踏んでのことだ。
結果は見ての通りだがな」
今度はユウカが協会を糾弾する。おっちゃんも本当に耳が痛いらしく、苦々し気な表情を浮かべながら思いを吐露する。
「質問する。そのゴブリンの増殖の調査だけど。実際にゴブリンキングがいることを突き止めたなら、別に私たちで殲滅しても構わないのだろう?」
アズサー! その物言いはフラグだー! でも、ぶっちゃけこの面子でかかれば多分ゴブリン集団殲滅出来るよね。俺としては正直Bランク冒険者たちの手練手管とやらを見てみたいのだが。
「ハハッ! それが出来るなら是非やってくれ。報酬は弾むぞ?」
「よし、言質は取った。先生、私たちでゴブリンを殲滅してこのおじさんの鼻を明かしてやろう」
「アズサ、好戦的なのはいいけど、私たちの役割はあくまでBランクパーティーの補助だからね。私としてはBランクパーティーの手練手管とやらを拝見したいから、出来ればサーチ&デストロイは最後の手段にしたいんだけど」
「でも、先生。そのBランクパーティーの人たちをバカにするつもりではないのだけど。一般的な冒険者のやり方に参考になるところがあるのかしら?
私たちはちょっと特殊なパーティーじゃない。そういう意味でも参考に出来るところはないと思うのだけれど……」
「ヒナ、それは偏った物の見方だよ。確かに、みんなが本気出せば殲滅力という点ではBランクといえど敵う点はないだろう。
でも、それ以外の調査能力、偵察能力、野営能力、その他色々の冒険者に必要な能力はそのBランクパーティーの方が確実に上だ。
そういう意味でも参考に出来る点は一杯あるはずだよ」
「それは……確かにそうね。ごめんなさい先生、私が軽率だったわ」
「分かってくれればいいんだよ」
「戦闘能力でBランクより上って何の迷いもなく断言するお前らすげーよ。で、この依頼だがどうする? と言ってもここまできたら聞くまでもないって感じだが」
おっちゃんが挑戦的な笑みを浮かべてこちらを窺う。まぁ、ここまで来たら答えは一つだよな。
「受けます、その依頼」
そういうことになった。