「はぁ、異世界、ですか……」
「まだ予測でしかないけどね。でも、ほぼ確定だと思う。特にその狼なんか見たら」
あの後、ユウカと安全圏まで逃げ切るのにだいぶ苦労させられた。
あの場所からすぐに離れたはずだが、散発的な狼の襲撃が続き、今ようやっと一息ついたところである。
あ、ちなみに狼はユウカのサブマシンガンであっという間に倒してくれた。ユウカまじあいしてる。
「確かに角の生えた狼など見たことも聞いたこともありませんが……。それにしたって異世界は行き過ぎだと思います、ラノベの読みすぎでは? 先生」
「いや、俺もまだ予想の段階でしかないからそうと決まったわけじゃないんだけどさ……。とりあえずシャーレになんとかして帰還したいんだけど……、
ってそうだ、今シャーレの方はどうなってるか知って――、って変な顔してどうした?」
「いえ、先生が自分のことを”俺”とおっしゃったので、ちょっとびっくりしてしまって」
(って、やべえええええ! そういえば、先生の一人称は”私”だったよ! ヤバイ不審がられてる! 俺が先生じゃないってバレたら全てが終わる!)
「ごめん、ちょっと動揺してて口調がおかしくなってた。変だったよね?」
そう努めて冷静に返すが、実際のところ俺の心臓はばっくばくだった。これでごまかされてくれ! 頼む!!
「いえ、ちょっとびっくりしただけなので。でも、”俺”という先生もワイルドでいいと思いますよ」
「ユウカマジ天使、愛してる」
「愛っ……! い、いきなり何を言い出すのですか先生!」
しまった、ユウカの反応が天使過ぎて思わず頭の中の考えがそのまま口に出てしまった。
だって、ちょっとどころじゃない違和感を俺に感じているはずなのに、その変化を「ワイルドでいいと思いますよ」の一言で済ませるなんてユウカはいい子だなぁ。
「ま、まぁ、それはともかく。シャーレの方はどうなってたか分かる?」
「と、ともかくって……、こほん。いえ、私の方にとくに情報は入ってきてはいませんでした。とはいえ、先生がシャーレから失踪したとなると、しばらくも経たないうちに騒ぎになるとは思うのですが」
「だよね……。あとごめんユウカ先に謝っておく」
「先生?」
「私だけが異世界転移したならまだしも、それにユウカを巻き込んでしまった。ごめん、ユウカももうキヴォトスには帰れないかもしれない。私のわがままでユウカを巻き込んでしまった」
「先生……」
「そして、今の状況でこういうことを言ってもユウカに選択肢なんてないと分かってる。その上で頼む。ユウカ、私と一緒に来てほしい。私を助けてくれないか?」
「はぁ、何を言い出すのかと思えば……」
俺の懺悔と選択肢のない要求に、ユウカはいたずらをした子供に対するようなしょうがないといった表情をし、言葉続けた。
「そういうのは言いっこなしですよ先生。第一、先生が私を呼ばなければ先生は死んでいたでしょう。そっちの方がわた――んんっ! キヴォトスにとって損失です。それに私は嬉しいんですよ」
「え?」
嬉しいとな? 俺はユウカがうれしいと思うようなことした覚えはないのだが。
「今際のきわになって、先生が頼ってくれたのが私だった。そのことが私にとってなにより嬉しいんですよ」
「ユウカ、ありがとう……」
その後にすぐゴメン、と続けそうになったが、この状況でユウカに謝るのはユウカに対して不誠実だろうと思い言葉を飲み込んだ。
「では、気を取り直して行きましょうか。とりあえず人里を見つけなければ始まりません。大丈夫です、先生のことは私がなんとしても守り抜いて見せます」
『あのー、いい雰囲気でしたので言いづらかったのですが、一ついいでしょうか?』
「アロナ?」
ユウカと一緒に歩き出そうというタイミングでアロナが申し訳なさそうに発言する。
『とりあえずですね、今まで役に立たなかったその醜態を挽回すべく色々頑張ってみた結果! なんと、先生のスマホに新たなアプリを追加することに成功したのです!
……すいません嘘です。何か得体のしれない何者かからメッセージが届き、その通りにしたらそうなっただけなのです。役に立たないOSでごめんなさい!!』
「アロナェ……。ていうか、その得体のしれない何者かってなにさ。ていうかメッセージが届くってことは電波が届いてるの?」
『いえ、そういうわけではないのです。相変わらず電磁波の類は観測できませんし、肝心のメッセージも送信者の欄が文字化けしており、差出人は不明です。
出所不明のアプリをインストールするのは不安もあったのですが、私自身ウイルスチェックやバックドアの有無など、思いつく限りのチェックをしたので不審に思いながらもインストールするに至ったのです』
「どこからか送られてきた出所不明のアプリ。怪しさ満点だね」
「それってひょっとして、先生をこの世界に転移させた存在が送ってきたとかそういうのじゃないんでしょうか?」
アロナと会話をしてると――というかアロナの声はユウカには聞こえないはずなので、実際は俺の独り言に反応しているのだが――横からユウカが疑問を投げかけてくる。
「その可能性が一番高いよね。神様、とでも言うんだろうか。そういうのって転移する前に会ったりするもんじゃないのかなぁ……。私会わなかったんだけど」
「で、そのアプリというのはなんなのでしょう? 先生、確認してみては?」
「おっと、そうだった。スマホにインストールしたんだっけ」
そういえば、このスマホも普通に使ってるが充電とかその他の問題は大丈夫なんだろうか?
一応さっき見た時から電池は減ってないようには見えるが。
「『弾薬補給』、『クレジット変換』、『生徒募集』、『生徒送還』……なんだこれ?」
生徒募集を除いて、どれこもこれもブルアカになかったコマンドである。生徒募集はブルアカにあるから分かる。青輝石を使って生徒を募集する。ぶっちゃけていうとガチャだ。
弾薬補給も字面自体は分かる。ゲーム中では補給の概念などなくみんな常に残弾MAXで弾切れも発生しないが、現実となった今は違うということだろう。
というか、逆にこういうアプリが存在するということは、今目の前にいるユウカも弾切れの不安があるということだ。
「アプリから弾薬が補給できるのですか? それはありがたいです。危険域、とまでは言いませんが、それなりに残弾が心もとなくなっていましたので。しかしこれ、どこの管轄で、何の予算で運営されるのでしょうか?」
「ユウカ……。異世界に来てまでそんなこと気にしなくても」
「す、すいません。会計としてどうしても気になってしまって。取りあえずアプリを起動してみてはどうでしょうか?」
「うん、起動っと」
『早瀬ユウカの弾薬を補給しますか? YES/NO』
「YESっと」
『エラー。補給に必要なクレジットが足りません』
うん、なんとなくそんな気はしてた。だって、そうじゃなかったらクレジット変換なんてアプリいらないよねって。
「クレジットが必要、となるとこのクレジット変換のアプリで何かをクレジットに変換しなければならないということでしょうね」
「うん、だろうね。何かお金になりそうなのないかな? 私は食料と水があるけどこれは手を付けるわけにはいかないし……」
「だとしたらアレはどうでしょうか?」
アレといいつつユウカが指さしたのは先ほど何体も倒した狼の死骸である。今もすぐそばに1体横たわっている。
「まぁ、異世界ファンタジーの世界なら魔物素材でお金を手に入れるのは定番っちゃ定番だけど」
とりあえず、まずはクレジット変換のアプリを起動することにする。
『変換する対象をカメラに収めてください』
起動するといきなりカメラ画面になり、文章でガイダンスが流れ出す。
「えーと、この狼をカメラに収めて……」
カシャ
『グレイウルフを1500クレジットに変換いたします。よろしいですか? YES/NO』
こいつグレイウルフって名前なのか。ていうか、角生えてるのにウルフでいいのか? まぁ、とりあえずYESっと。
「うおっ!」
YESを押した瞬間、カメラに収めていたグレイウルフの死体が掻き消える。それと同時にチャリーンという場違いな音とともに、クレジットが入金される。
「不思議なアプリですね。それでクレジットが入ったのですよね?」
「あぁ。じゃあもう一回弾薬補給を」
『早瀬ユウカの弾薬を補給しますか? YES/NO』
YESを押すと今度はレジスターが奏でるあのガチャガチャチーンという音と共に、ユウカに弾薬が補給された。……されたんだよな?
『弾薬代1359クレジットを頂きました。毎度ありがとうございました』
「なんか、エライ中途半端な値段だな……」
「なるほど、サブマシンガンの弾の値段は一発9クレジットということですね」
「今ので即計算したの? 流石ユウカだね」
「ふふん、計算は得意ですので」
そういってドヤ顔を浮かべるユウカ。あー、マジユウカ可愛い。これだけで異世界転移したかいはあるってもんだ。
「しかし、この狼一体で1500クレジット。そして、弾丸一発が9クレジットとなると収支自体はかなりの黒字ですが、今後のことを考えると安心とまではいきませんね」
「ここに来るまでに捨ててきたグレイウルフの死体も回収する?」
「いえ、やめておきましょう。またグレイウルフと遭遇しても厄介ですし、目の前のクレジットに釣られて迷ったりでもしたら本末転倒です。
それに、カメラに収めたものを変換するというアプリの性質上、別に変換対象はモンスターでなくてもいいはずです。他の有用な植物や鉱物などでも変換が出来るかも知れません。
それに関しては色々と試していきましょう」
「そうだね。じゃあ、他のアプリも検証していこうか」
そう言って俺は、『生徒募集』と『生徒送還』のアプリに目を向けた。