「エレインさん、魔法封じとかの魔法ってありませんか?」
厳重に縛られたダークエルフを目の前にして、俺はエレインさんにそう尋ねる。
それがあれば猿轡を解いても大丈夫だと思っての発言だったのだが――、
「静寂《サイレンス》ぐらいしかないわね。でも、それ使うと周り全部静寂になっちゃうから尋問が出来なくなるし……」
「そうそう便利な魔法はないということね」
「しかし、この部屋にいたゴブリンたちはなぜ襲い掛かって来なかったのでしょうか? ゴブリンキングもほぼ棒立ちでしたし……」
「ユウカ、疑問は分かるけど、取りあえずこの部屋を出ようよ。この光景のまま話したくない」
「あ、そ、そうですね。確かに私もここには長居したくないです」
ユウカがこのままこの部屋で話しそうだったので、話を切り上げさせて部屋を出る。
「捕虜の運搬はアリスにお任せください!」
ダークエルフの方は、アリスがウキウキで片手で持ち上げ運搬する。
「「「「「!!?」」」」」
その様子に、持ち上げられたダークエルフ含め風の刃が目を白黒させる。
そりゃ、こんなちっちゃい子が大人一人を片手で持ち上げるとか目を疑いたくなる光景だわな。
デニスさんなんか「やはり勇者……」とか小声で言っちゃってるし。違うぞー、自称勇者だぞー。
そんなこともありながら、遺跡の中で比較的死体や損傷の少ない箇所に来ると、ようやっと腰を落ち着ける俺たち。
「さて、一応目的のゴブリンキングは倒したわけだが、これで終わるわけにもいかなくなったな」
「ですね。どうやら、ここのゴブリンが妙に文化的な生活を営んでたこともこのダークエルフと関係してそうですし」
ちら、とダークエルフの方を見るが、完全に縛られている上に猿轡なので、表面上はおとなしくしているようだ。
というより、なぜか生徒たちの方をチラチラみてる感じがする。なんだ? そこでアリスを見るならわかるが生徒みんなに視線をやるってどういうアレだ?
「あの、ところで気になってることがあるんだけど……」
「どうしたの、シロコ?」
「私たちの前に調査に来ていたCランクパーティーたちはどうなっているの? ここに来るまでも見かけなかったし、この遺跡のどこかに捕まってないかな?」
「「あ」」
俺とスミスさんで声を発し顔を見合わせる。そうだよ忘れてたよ! 別にCランクパーティーの救出は依頼には含まれていないが、探せるなら探しておきたいところだ。
「もう死んでんじゃねーの? 冷たい言い方だが、冒険者ってのは自己責任だからな。身の丈の合わない依頼に突っ込んで死んでもソイツらの責任だ。……まぁ今回はちょっと様相が違うが」
フレディさんは達観した様子でそういうが、その一言で終わらせるわけにはいかない。俺の精神衛生上の為にも彼らを探しておきたい。
「でも、もし生きてたらここで見捨ててしまうわけにはいきません。そのダークエルフは風の刃のみなさんに任せていいでしょうか? 我々で遺跡を探索し他の冒険者たちの痕跡を探します」
「あーもう、分かったよ。俺が付いて行ってやるよ。あんたらシーフいないからトラップなんかあったら対処できないだろ? 俺が付いて行ってやるからさっさと探すぞ」
「すいません、フレディさん。ありがとうございます」
確かに、遺跡探索に必須の罠・鍵解除が出来る人員がこっちにはいないな。まぁ、罠発見・解除ぐらいならアズサが出来るかもしれないが、開錠に関しては出来るかどうかが不透明だ。
ここはおとなしくフレディさんの好意に甘えることにしよう。
そして、フレディさんの力を借りて遺跡を探索した。結果、宝とかは見つからなかったが、地下に牢獄があるのを発見した。そこにはゴブリンたちに捕まって収監させられている冒険者たちが。
そして、彼らは何故か全員全裸のままで檻の中に入っていた。その中には女性もいた、が、それが目に入ると即座に「先生は見ちゃダメ!」と目を隠されてしまった。
べ、別にやましいことなんて考えてないんだからね! ていうか、フレディさんの目は隠さなくていいのか、と問うと。
「フレディさんは鍵開けがあるし……」とはぐらかされてしまった。
俺の目が開けられたのは、冒険者たちが装備を取り返し、装着が全て終わってからだった。
「助けてくれてありがとう。あんたは風の刃のフレディだよな? 風の刃が俺らを助けに来てくれたってことでいいんだよな?」
そして、Cランクパーティーたちの代表っぽい人が、フレディさんの方へ礼を述べる。
俺らは無視ですかそうですか、とちょっと思わないでもないが、ペルージャの最精鋭である風の刃とペーペーのDランクパーティーでは知名度が違って当然だろう。
「まぁ、間違っちゃいないが、こっちのシャーレもゴブリンを退治するのにだいぶ貢献したうえ、お前らを救出しようって提案したのもこいつらだ。ちゃんと礼を言っとけよ」
ちょっとひがんでると、フレディさんがこっちにも花を持たせてくれた。フレディさん! あなたなんだかんだ言っていい人ですよね! 小人族という存在から語られるようなイメージと大違いだ。
「シャーレとは聞かないパーティー名だが、キミらが俺らを助けてくれたんだな、ありがとう。何名か間に合わなかった奴もいるが……、いやこんなことは言うべきじゃないな。とにかくありがとう」
そういって握手を求めてきたCランクパーティーの人。まぁ、ここは受けるべきだろう。
「いえ、助けられてよかったです」
そういって相手の手を握り返す。
「ところで、何故捕まっていたのかわかりますか? こう言ってはなんですが、モンスターに負けたら普通その場で殺されますよね?」
「それに関しては俺たちも分からない。ゴブリンに負けた場合男は殺され、女は孕み袋にされる。それが普通だ。だが、男も女も殺されなかったうえ女も孕み袋として使われることはなかった。
まずいが食事も出ていたし、一日毎に一人ずつ牢から連れていかれたぐらいで、積極的に殺されるようなことはなかった。ただ、その連れていかれたやつは……」
そう聞くと、ゴブリンキングと戦った部屋の手術台のようなものが思い起こされた。あそこに横たわっていたのは人間だった。
その連れて行かれた冒険者というのは彼のことではないだろうか。
「その連れていかれた人ですが、キングの元で解剖されていたご遺体がありました。ひょっとしたら連れて行った先で何かやっていたのかも……」
「!? そ、それはどこにあるんだ! 一番最後に連れていかれたのはウチのメンバーなんだ! 頼む、確認させてくれ!」
「分かりました、こちらへ」
そういって、キングの部屋まで案内する。そこには変わらず手術台のような場所に開頭された遺体が横たわっていた。
「あぁ! ニック! なんて姿に……」
やはりというか、その遺体は彼のパーティーメンバーだったようだ。手術台にすがりつきすすり泣く彼。そういえば名前知らない。
「我々が駆けつけた時はすでにその姿でした……」
「いや、気を使ってくれなくていい。自分が無事だったんだ、これ以上を望むのは望みすぎだ。だが、ありがとう」
そういってこちらに礼を述べるCランクパーティーの人。
さて、キングも倒した、Cランクパーティーの人たちも救出した。となるとこれ以上出来ることはないだろう。
取りあえず風の刃のいるところに戻ろうか。