「こちらが、ご紹介させていただく物件となります」
不動産屋から少し歩いた所、元貴族邸宅というのは伊達ではなく高級住宅地っぽいところにその館は存在していた。
アクセス的には普段一番行くであろう場所、冒険者協会の建物からは少し距離があるが、まぁ許容範囲と言える距離だろう。
「へー、見た目はすごい立派だね」
「まぁ、見た目はいいですよ? 見た目は。でも、問題は中身です。内装という意味でなくね」
ハレの感想と、アコの疑念の思いが飛ぶ。まぁ、不動産屋の様子からして確実に事故物件だからな。中身が一番問題となるところだろう。
「先生。まさにお姫様が暮らすにはふさわしい建物と思わない? やっぱり私ここがいい!」
ミカはもうここ以外眼中にないようで仕切りに居住を勧めてくる。
お姫様って表現が出る辺り、ここの先生はあの選択肢で「私の大切なお姫様になにしてるの!」を選んだんだろうなぁ。
俺は日和って「私の生徒」って方を選んじゃったよ。
でも聞いてほしい。先生である以上特定の生徒を依怙贔屓するわけにはいかない。だから俺は特定の生徒に肩入れしない選択肢を選んだんだ。
と言い訳をしてみる。
「確かに、これぐらい豪華だとウチの社長も気に入りそうだよね。出来れば一緒に見て回りたかったけど……」
「うーん、おじさん的には豪華すぎてちょっと気後れしちゃうなぁー。もうちょっとこじんまりしたのが私の好みかな」
「まさにプリンセスが暮らすお城みたいですね!」
「でも、この豪華さであの家賃……。やっぱりこれって事故物件なんじゃ……」
上から順に、カヨコ、ホシノ、アリス、ハレの感想である。
まぁ、ホシノは否定気味な意見ではあるが、全員そこまで悪印象はなさそうではある。
事故物件であることを除けば。
「ささ、中にどうぞ」
不動産屋に勧められるまま、屋敷の中に入る俺たち。ちなみに庭は結構ぼうぼうで、庭師に依頼しないとダメなぐらいにひどいありさまである。
こりゃ素人には無理だなと一見して分かるレベルである。だが、この広い庭は何かに使えそうではある。射撃場でも作ってみようかな?
って、俺もすでに借りること前提に頭の中がセットされてるな。まぁ、ミカの猛プッシュもあるし、最終的にはここになるんだろうけどな。
「ごほっごほっ。いやー、さすがに埃っぽさが半端ないね。こりゃ確かに掃除必要だわ」
「これは掃除をするときには全員総出でかかった方がいいですね。この広さは7人では終わりません」
アコのセリフによって交代要員含め全員出動が決定した。
その間キヴォトスへの定時連絡は途絶えることになるが、まぁ、丸一日もあれば終わるだろう。それぐらいは許容してもらおう。
「間取りは見ていただいたように、2階建てに地下1階が存在しております。風呂・食堂・調理場・談話室など、家の機能に必要は施設は1階に。各人の個室に関しては2階にあります。
また、元貴族邸宅ということで、書庫や書斎なども備えております。書庫は空ですけどね」
書斎とかは別にいらんなぁ。というか、この世界に来てまで書類仕事したくない。
「地下の方は食糧庫となっており、大量の食料を保管できるようになっております」
食糧庫も使うかなぁ? まぁ、ここで料理するとなると使うかも知れんが、基本的に外食になりそうな我ら。
フウカとか引けたら調理役として役立ってもらうか? と一瞬考えたが、そういう生徒の使い方はちょっとないなと自分でも思う。
そもそも、給食部としての活動がフウカにはあるわけで、切羽詰まってるわけでもないのに俺たちの為だけに食事を作ってもらうわけにもいかない。
第一フウカがいなくなったら給食部の食事を作るのはあのジュリである。俺たちのわがままで、ゲヘナに無駄に惨劇を起すわけにはいかない。
「ふむ……。一応一通り見て回りましたが、一見して事故物件には見えませんね。一体どのあたりが事故物件なんです? 前の所有者が一家心中でも起こしました?」
一通り中を見回った後アコが不動産屋を問い詰める。確かに、俺も見た感じ事故物件さは感じなかったな。
「じ、事故物件だなんて……そ、そんなわけないじゃないですか、ハハハ……」
「あ、そういうのいいです。この豪華さに釣り合わない月のお家賃を考えればこれが事故物件であることは容易に想像できます。で、どうなんです? 入居した人が次々と不審死でも遂げられました?」
「だ、大丈夫です! 教会のクレリックにも見てもらいましたが、この屋敷にはゴーストの気配はない、と3回ほど太鼓判を押されています!」
ダメじゃねーか。もうその時点で事故物件確定だよ。
「つまり最低でも3回は事故物件になるような何かがあったと。いい加減教えてくれません? どうせ、私たちこの家に住むことになるんですから。ミカさんがあの調子なので」
アコがそういうのでミカの方に視線をやるが、なんかテンション高く「あはは、うふふ」とか言いながらくるくる回転してる。なんだその回転はと突っ込みたくなるが特に意味などないんだろうな、と思う。
でも地味にアコが「聖園ミカ」とフルネーム呼びじゃなく、「ミカさん」と個人名で呼んでるのは進歩だと思う。俺が以前言った呪い対策を実行してるんだろう。
「トリニティなど呪われてしまえ!」みたいな心持ちじゃなくて本当によかったよ。
「…………。この邸宅に入居して一番長く持った人で1週間でした。ほとんどの人はその間に不審死を遂げられています。
我々としても事故物件を事故物件のままにしたくなく、教会のクレリックに見てもらったり、ランクの高い冒険者に調査を依頼したりしたのですが、どれも空振りなのです」
「空振りとは?」
「クレリックや冒険者が屋敷内で待ち構えても何も起きないのですよ。何か起きるのは入居者が入った時だけです。そして、その入居者はことごとく……」
「ふむ。もっと詳細に聞いていいでしょうか? まず不審死とおっしゃってますがどのように不審なのでしょうか?」
俺が聞きとりをするつもりだったが、アコが自主的に聞き取りをしてるようで俺は楽出来るな。まぁ、アコでも聞き取りに不備があるかもしれないので話に耳を傾けるのは忘れないが。
「これがもしゴーストの仕業である場合、生気を吸い付くされたミイラのような死体になるはずなのです。ですが死体はどれも刃物でずたずたに切り裂かれた状態で発見されるのです」
「ふむ、実体があるなら私たちの現有装備でなんとかなるかも知れませんね。幽霊が相手となると対策が面倒です」
面倒、で済むのか。ていうか、幽霊に銃弾なんて聞くとは思えんのだが。やっぱり、シスターフッドが供してると言われる銀の弾丸でも使うのだろうか。
そういえばシスターフッドのメンバーは誰も引けてないな。まぁ、アズサ経由でもってきてもらうことになるのだろうが。
ミカに任せると、そこらへんこじれてややこしいことになりそうだしな。
「もし、貴方方がこの事故物件を除霊していただけるなら、御家賃は半分で構いません。頭金も不要です。是非ともこの事故物件を除霊してください」
とうとう除霊って言っちゃったよこの人。もう完全に幽霊案件じゃん!
「よし、言質取りましたよ。先生、そういうことですので私たちでこの物件を除霊いたしましょう」
「上手くいくのかなぁ……?」
若干不安に感じるが、ミカはもうこの物件以外眼中にないし、家賃が半分って聞いた辺りでみんなの目が光ったりで、もうこの物件を借りることは確定のようだ。
その後入居の手続きを済ませると、その足で協会にUターン。おっちゃんにクランハウスとして登録してもらった。
どうも、この事故物件は有名なようで、ここに入るとなるとおっちゃんにすげー心配されたが、本当に大丈夫なんだろうなみんな?