「だから! あの屋敷には幽霊がちゃんといるって言ってるじゃないですか!」
教会でそう声を荒げるのはユウカだ。
なぜユウカがこんな声を荒げることになったのか、それには特に深くもない事情が関係している。
「そうはいいましてもねぇ。我々としてはあの屋敷にはゴーストは憑いていないとすでに証明してしまっているのですよ。不動産屋からも聞きませんでした? 3回も調査しましたがその全てで幽霊の気配などなかった、と」
これである。教会にゴーストの除霊を頼みに来たはいいが、担当者とやらが、かたくなに「あの屋敷にゴーストはいない」と主張するのである。
「それは貴方方が見つけられなかっただけの話でしょう! 我々は屋敷を調査して件の幽霊をちゃんと発見して会話までしているのですよ!」
「それって、あなたの妄想だったりしませんか?」
「こっ、このっ……言うに事欠いて!」
「ともかく、あの屋敷にはゴーストはいない。いないものは除霊できない、が私たちの結論です。分かったらさっさとお帰りください」
「ちょ、ちょっとまだ話は……」
ユウカはまだ話そうとしたが、教会の僧兵らしきものに追い立てられ俺たちは強制的に教会を後にされた。
「うーん、貴族社会もそうみたいですが、教会も教会で腐ってますね。まさか、門前払いを喰らうとは思ってもみませんでした」
追い立てられてそう感想を述べるアコ。
「うーん、教会が頼みの綱だったんだけどね。どうしよっか?」
「あの先生。風の刃のデニスを頼るというのはどうでしょうか? あの人ならひょっとしたら苦しめずに亡霊を浄化する方法を知ってるかもしれません」
俺の言葉にアリスがそう言うが――、
「それは私も考えたんだけどね。風の刃とはまだ一度一緒に依頼をした程度の仲でしかないよね。それで友達みたいに頼み事するのはどうかなって思う。まぁ、それ以前に風の刃と連絡を取る方法がないんだけどね」
「友達みたいに頼むんじゃなくて、依頼として出す形だったらいいんじゃないかなー? 風の刃の連絡先もあのおっちゃんなら知ってるかもしれないし」
「うーん、おっちゃんが教えてくれるかなー?」
ホシノはそう言うがそこらへんのコンプラってこの世界どうなってんだろ? いや、コンプラなんて言葉すらないような時代だ、案外あっさり教えてくれるかもしれない。
「まぁ、ダメもとで聞いてみようか」
「ちょっと待ってくれないか」
俺たちが協会に行こうと決めた時、後方から声がかかる。
振り向くとそこにいたのは法服を来たクレリックと思しき若い男だ。さっき問答してた奴と違って服に装飾があまりないので、平クレリックだろうか。
「何か御用ですか? エセ神官様?」
神官であると見て取ると、アコが思いっきり皮肉を込めて返答する。気持ちは分かるがその人さっきの人じゃないんだからさぁ。
「手厳しいな。だが、そう言われるのも仕方ないだろうな。さっきのこちらの対応ではな」
「キミ、あの時遠くから見てた神官だね。他はみんな知らんぷりだったのに、キミだけこっちを見つめてたから印象に残ってたよ」
そうなの? 俺気付かなかったんだけどカヨコがそう言うならそうなんだろうな。
「そうだ。さきほどの貴族屋敷のゴーストに関して話があるんだ。どこかで話せないか?」
「ふーん。さっきの人よりは話が出来そうだね。どうする先生?」
「話を伺いましょう。例の屋敷でいいですか?」
「うっ……。大丈夫なのか?」
俺が自宅を指定すると及び腰になる平クレリック。まぁ、自分で言っててもこの誘い方はどうかと思うしな。でも、この世界喫茶店とかそういう洒落た店ないからなー。
自宅かそれに類するような場所じゃないと落ち着いて話せないし。
「少なくとも昼間掃除中にゴーストが出たことはないので大丈夫だと思います」
「わ、わかった。案内してくれ」
とりあえず納得は得られたようなので、幽霊屋敷までその平クレリックを案内する。1階の談話室に通し、そこで落ち着いて話をすることにする。
周りには生徒たちも座ってて、7対1で図らずも圧迫面接みたいなことになってるが、仕方ないと割り切ってもらおう。お茶も出したいのだが、まだ住んでないので茶葉もなにもないんだよな。
「さて、まずは自己紹介と行こうか。俺はジョナサン。しがない侍祭さ」
「私はみんなからは「先生」と呼ばれていますので、ただ先生とだけ呼んでいただければいいですよ。で、お話というのは?」
「あぁ、この屋敷の除霊だがな、実は俺はそれに参加したことがあるんだ」
「興味深い話ですね」
「参加したのは最初にこの館で犠牲者が出た時だ。不動産屋からの依頼で他のクレリックたちと共にこの屋敷でゴーストを迎え撃とうとした。だが、聞き及んでる通り一晩夜を明かしたがゴーストはついぞでなかった」
ジョナサンはそこで言葉を区切ると、周囲をチラと一瞥した後言葉を続ける。
「だが、俺はちょっと他人より霊感が強くてな。その時も常にこの屋敷にゴーストの気配を感じ取っていたんだよ。今もだな。まぁ、その時も同行してた司祭様に言ったんだが――」
「いると分かっているのに調伏できないのは、教会の面子にかかわる、とでも言われましたか?」
俺がそう続けてやると、ジョナサンは驚いたような表情を浮かべる。
「その通りだ。俺にもゴーストはいなかったことにしろと口止めをされたよ」
「というか、屋敷の捜索とかはしなかったんですか? 私たちは屋根裏で例の幽霊を発見したんですが、綿密に屋敷を調査すればわかるようなものでしたよ?」
アコからジョナサンにツッコミが入るが、ジョナサンはその回答は予想してたのか軽く肩をすくめただけだった。
「不動産屋からの要望でな。屋敷をあまり荒らしてくれるなと言われてな。その範囲がどこまでかも曖昧だったため、調査じゃなくて待ち構えることにしたんだよ。
おそらくその後に来たっていう冒険者たちも同じことを言われたんだろうな。冒険者だったらその手の調査はプロだろうからな。調査を解禁されてたら多分普通に見つけれてたと思うぜ」
なるほど、教会も教会だが、不動産屋も不動産屋ということか。冒険者の方もゴーストの気配を察知できていたとしても、同じように「いたのに調伏できなかった」となると自分たちの信用問題に発展しかねないから、最初からいなかったことにしていたということか。
「なるほど、教会、冒険者、それぞれの面子のためにこの屋敷にはゴーストはいない、そういうことになってしまっていたと」
「そういうことだ。身内の恥をさらすようでアレだがな」
「でも、ジョナサンさん。なんで、貴方は私たちにその話をしに来たのかな? 別に放っておいても貴方に損はないよね?」
ミカが疑問を感じたのかジョナサンにそう問いかける。
「ま、ぶっちゃけいい加減この件に関しては誰かに打ち明けたかったってのが大きいな。最初の調査からはもう時間もたってるし、あんたらはゴーストと和解できたみたいだし、こうまでなってしまった事態を話しておくべきだと思ったんだ。
ま、一種の懺悔だな。話すのが教会以外の相手ってのが皮肉だが」
なるほど、とりあえずこれで不明だった点も解決できた。あ、そうだジョナサンが侍祭っていうなら、除霊を頼んでみようかな。
「分かりました。そこで提案なのですが、ジョナサンさんは教会の侍祭なのですよね? でしたら、屋敷の幽霊を祓うのを手伝ってほしいのですが……」
「あーまぁ、そう来るとは思ってたけどな。でも、悪いが俺では力にはなれんのだ」
「というと?」
「苦痛なくゴーストを祓う、レストは俺では使えない秘蹟だ。俺もこの幽霊屋敷のことは心残りだから協力してやりたいのはやまやまなんだが。無い袖は振れないんだ。すまんな」
うーん、そう都合よくはいかないか。となるとやっぱり最終手段、ギルドに依頼を出すということになるか。
ただ、これもなぁ。自分たちで解決する手段がないと広めるようなものなので、出来れば取りたくない手段ではある。
「ただ、そうだな。この街の教会は協力はしてくれないだろうが、他所の街ならどうかは分からんかもな。俺から言えるのはそれぐらいだ」
他所の街まで言ってそこの教会に頼む、か。移動が面倒だがそれが一番穏当な解決策かもな。
「ご助言ありがとうございます。こちらの方でも色々考えてみます」
そこでジョナサンとの話は終わり、ジョナサンは家を後にする。さて、選択肢が増えたことは増えたがこっからどうするかだ。